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同じ『乾燥』でも塗る薬が違う―CKD患者の保湿剤を薬剤師が考え直す

「HONOさん、この方、最近すごくかゆがっているんです。踵がパキパキになってきてるんですけど、何か塗ったほうがいいですかね?」

ある日の午後、病棟の廊下で
看護師さんに呼び止められた。

80代の患者さん。
脳梗塞のあと、回復期リハ病棟に入って数週間が過ぎようとしている方。


同じ"乾燥"なのに、見え方が違った日

病室に向かって踵を見せてもらうと、
踵がパキパキに割れている。

下腿の前面は、魚の鱗のように皮膚がパリッとめくれている。
その一方で、上肢は粉を吹くように白く乾いている。

── 同じ"乾燥"なのに、見え方が違う。

違和感を抱えたままステーションに戻りカルテを開く。
最初に目に飛び込んできたのは、eGFRの推移。

半年前 28、3か月前 25、今 22。
徐々に下がっている…。

既往を確認すると、糖尿病性腎症のCKD G4。

実は、カルテを見るまでは、話だけ聞いて
「ヘパリン類似物質を提案しようかな」と思ってた。

踵が割れていて、乾燥していて。
とりあえずヘパリンがいいんじゃないかなって。

でも、下腿の魚鱗と、上肢の粉吹きと、eGFRの数字を並べたとき、
私は手が止まった。

── もしかしたら、これは"ただの乾燥"じゃないかもしれない。


皮膚は、腎臓からの声でもある

前回の記事では、ステロイドを長く使ってきた方の薄い皮膚について。

そして、その前は眠剤で動けない患者さんの皮膚について。

こうしてみると、私は皮膚のことばかり書いている気がする(笑)。
どちらも、薬と皮膚の交差点にいる薬剤師の話。

そして、この記事では褥瘡予防で薬剤師が見ている薬を6項目に整理してみました。—でも、6項目の中に保湿剤はありません。

でも、回復期リハ病棟で実際によく出会う場面なので、書いておきたい。

皮膚は、腎臓からの声でもある。

腎機能の数値を見るとき、
私は皮膚も一緒に見たいと思っている。

踵の割れ方、下腿の鱗、上肢の粉吹き。
これは、腎臓からの声なんじゃないかー。


CKDで皮膚が乾く、3つの機序

CKDの患者さんの皮膚が、
なぜ"ただの乾燥"とは違うのか。

現場で意識しているのは、次の3つ。

① 皮脂と汗が、減っていく

CKDが進むと、尿毒素や自律神経の影響で汗腺の機能が落ちる。
皮脂膜が薄くなって、皮膚から水分が逃げやすくなる。
「経表皮水分蒸散量(TEWL)が増える」と表現されるけど、現場感覚で言えば、「乾燥しやすい皮膚」ということ。

② 角層の保湿因子(NMF)が、減っていく

皮膚の角層には、水分を抱え込むためのNMF(天然保湿因子)がある。
アミノ酸、尿素、乳酸など。
CKDでは、このNMFの分布が変わると言われていて、バリア機能が落ちるから外的刺激を拾いやすくなるんだそう。

③ Ca・Pi・iPTH のバランスが、乱れていく

腎機能が落ちると、Ca(カルシウム)と Pi(リン)の調節が崩れ、iPTH(副甲状腺ホルモン)が上がる。これが進むと、皮膚の石灰化や、強いかゆみ(尿毒症性掻痒症)が出てくることもある。

── 3つの機序が進むスピードで、皮膚の見え方が変わってくる。

だから、CKDの患者さんの保湿剤を考えるとき、
「乾燥しているからヘパリン類似物質」だけでは、
足りないことがあるんだ。


危ない、ではなく、使い分ける

ここからが、今日いちばん書きたい話。

CKDの患者さんの皮膚を見るとき、
私は「危ないではなく、使い分ける」という視点を大事にしている。

「CKDの患者さんへの尿素配合剤は、経皮吸収が心配だから避けたほうがいい」── そう書かれた記事を、何度か読んだことがある。

理屈としては、そうかもしれない。
でも、実際に患者さんの状態をみたとき、
私はもう少しだけ考えてみたい。

私の頭の中にある使い分けは、こんな感じ。

これをもとに、私は医師と相談をします。

角化には尿素

踵がパキパキになって、下腿が魚鱗状で、指で触ると粉が落ちる。── そういう皮膚を見たとき、私は尿素製剤の提案を考える。

尿素製剤は、ヘパリン類似物質と違って角質溶解作用がある。硬
くなった角質を、内側から柔らかくしてくれる。
CKDの患者さんに多い「角化・乾皮症」には、こちらの方が合うことが多いんじゃないかな。

「ヒルドイドを使っても、踵の硬さは変わらないんです」
── そう看護師さんから言われる日が、たまにある。
そういうとき、私は主治医に尿素製剤の提案をしている。

バリア低下にはヘパリン類似物質

全体的にカサつくけれど、
局所的な硬さや角化はない。
── そういう皮膚なら、ヘパリン類似物質が向いてると思う。

一般的に"乾燥肌"とイメージされる状態に最も近い。
保湿、血行促進、バリア機能の維持。
皮膚を全体的に整えたいときの、第一選択だと思っている。

亀裂があれば、私は白色ワセリンに引き戻す

ここが、いちばん大事なところ。

皮膚に亀裂・びらん・炎症がある部位は、経皮吸収が増える。
CKDの患者さんの場合、ここでリスクが1段階上がる、と私は考えている。

あくまでも、「危ない」ではなく「意識する」程度のレベル感。
でも、その部位だけは、尿素もヘパリン類似物質も一度引き、ワセリンやアズノールで皮膚を休ませる選択肢を持ちたい。。

治癒したら、また使い分けに戻す。
それだけのことだけど、
この「引き戻す」ことを忘れないようにしたい。


主治医に相談する前にやる、3つのこと

処方そのものは、全体像をみている医師が決定する。
私はこんな風にざっくりとした使い分けを考えていて、これをもって主治医に相談に行くことが多い。

でも、その前にやることが3つある。

① 看護師さんと、皮膚の状態を見に行く

医師のところへ行く前に、
もう一度看護師さんの意見を聞く。
看護師さんの判断はやっぱり欠かせない。

「下腿の皮膚、もう一回一緒に見てもらっていいですか?」
「踵の割れ、これ前回より深くなってないですか?」
── そんな声かけをする。

一緒に状態をみてもらって、自分の意見を伝えて、
看護師さんに「うん、深くなってる」「いや、こんなものだったよ」と返してもらうだけで、私は客観的に物事をみれるようになる。

② 検査値の推移を確認する

次に、検査値を整理。

CKDの患者さんなら、eGFR・Cr・P・Ca・iPTH・Alb。
半年の推移を追っかける。

単独の数字を見て驚くのではなく、
「半年でどう動いてきたか」を見る。

eGFR 28 → 25 → 22 のように、
線として見ていくと、
急なのか、ゆっくりなのかがみえてくる。

Pが上がってきていれば、
Ca・iPTH も一緒に動いていないか確認。
皮膚の石灰化やかゆみの背景に、
二次性副甲状腺機能亢進症が見え隠れすることもあるから。

③ 判断はしない。でも、まとめておく

最後に、
私は「決めない」ということを決めている

「いまの皮膚はこう見えています」
「検査値の半年の動きはこうです」
「保湿剤の候補は、尿素製剤かヘパリン類似物質、亀裂部位にはワセリンと考えています」

── これを、
主治医が判断しやすいようにまとめておく。

判断するのは主治医。
私は、判断材料を揃えるだけ。

でも、この「まとめておく」だけで、
医師との会話が変わる日がある。


答えが出ない日もある

尿素製剤を提案して、踵が少し柔らかくなる。
ヘパリン類似物質を続けて、乾燥が落ち着く。
亀裂部位をワセリンで保護して、皮膚を休める。

── それでも、
CKDの進行がとまるわけではない。

「保湿剤を変えても、CKDの進行によっては皮膚の状態は良くならないことがある」
── これは、私が自分に言い聞かせている言葉。

それでも、使い分けを考えることは、
私が患者さんのためにできる小さなこと。

提案した薬が、思ったほど効かないとき。
看護師さんから「あまり変わらないですね」と言われるとき。
eGFR の数字を見て、何も言葉が出てこないとき。

私は、そんなときどうすればいいか、
本当に悩む。

それでも、看護師さんと一緒に考え続けるという姿勢は保ちたい。
この選択でほんとに良かったのかな?という視点は忘れないでいたい。

答えが出ない日もある。
でも、観察を続けることだけはきっとできる。


今回は、CKDの患者さんの皮膚と、
保湿剤の使い分けの話を書きました。

「危ない」ではなく、「使い分ける」

これは、認定薬剤師としての私の立ち位置です。
『CKDだから避ける』ではなく、
『CKDだからこそ丁寧に使い分けたい』

そう思いながら、今日も病棟で、
患者さんと向き合っています。

検査値の数字も、皮膚の所見も、
どちらも、患者さんからのサインです。
私は、両方を受け取っていたい。

退院して終わりではありません。
皮膚の状態や腎臓の状態を含めて、
生活は続いていく。

だから今日も病棟で、
患者さんにとって最適な保湿をチームのみんなと考えていきたい。
そんな風に思っています。

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