星に注ぐ仕事/ショートショート
前の話
丘の上に、大きな流氷でつくられた水瓶があります。透明のそこには、天の川から汲んできた水がたっぷりと入っていて、一日中日光に当てられています。
それに取り付けられた蛇口を捻り、朝顔でつくられた如雨露を水で満たします。これで、私のお仕事の準備は完了です。
私の仕事は、星に水を注ぐことです。担当区域は南6ブロックです。
星は一晩中瞬いています。それには、多くのエネルギーが消費されます。しかし、星は自分で栄養を補給することができません。そのため、私たちが星に“へーリオスの水”を注ぎ、彼らの乾きを潤すのです。
へーリオスの水とは天の川の水を太陽に当てたもののことをいいます。おおよそ8時間当てると一番星に注ぐ水に適したものになるといわれています。
星は話せません。意思表示もできません。
瞬きの回数に意味があるのではないかと研究されていますが、これといった成果はないようです。
ただ、これまでの経験から水を注ぐと輝きが保たれることはわかっています。その水が、天の川の水で、さらに日光に当ててあれば、その効果はより高まるということも。
そのため、私たちが毎日水を注いでいます。星磨きの磨き残しがないかをチェックしながら、ひとつひとつ丁寧に。重たい如雨露を持ちながらの仕事ですので、少し大変です。
この頃は特に一苦労です。冬は空気が乾燥していて、夏よりもたくさんの水が必要になります。
そのため、如雨露の水がすぐになくなってしまうのです。水がなくなれば、丘の上まで補充しに行かなければなりません。これに時間がかかるのです。
さて、そろそろ日が昇り始めました。東のブロックでは星磨きたちが仕事を始めた頃合いでしょう。私の担当区域ももうすぐ始まります。
では、今日も頑張りましょう。
私は一人前として扱われるようになって久しく、後輩指導も何人か経験しました。そろそろ星注ぎとしては中堅といったところ。それなりのキャリアといえます。
星に注ぐへーリオスの水は、多くても少なくてもいけません。多ければ星は腐ってしまいますし、少なければ乾ききり、罅が入って崩れ落ちてしまいます。それを見極めるのは至難の業です。
私の先輩方も「突き詰めれば終わりはない」と言います。それもそのはず。その日の空気の乾燥具合や風の強さなどで、必要な水の量は変わってきてしまうからです。
星は丈夫ですから、少し水の量を間違うだけではびくともしません。
しかし、適量の水を注がれた星の翌晩の輝きは目を見張るものがあります。
その輝きを自分が引き出せれば。そう思って、私たちは日々、星に水を注いでいるのです。
とぷとぷとぷ。如雨露からゆっくりと注いだ水が星を満たしていきます。
よしよし、今夜もきらきらしていてね。
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