神経疲労 集中は最良の休憩?〜デフォルトモードネットワークとマインドフルネス〜 Vol.1
脳の疲れ
高次脳機能障害外来に通うメンバーの皆さんは脳に損傷を負った方々です。その皆さんが口を揃えるのは、疲れやすさ。脳損傷の後、以前には感じなかった疲れやすさ、持久力の低下を自覚されるのです。
入院していたために体力が落ちたのではありません。体力の低下は退院後、しばらくすれば元に戻ります。ここで言う疲れやすさはちょっと違うのです。
仕事でも趣味でもなにか一所懸命に取り組んでいる最中にはあまり疲れを感じないのに、作業後に、あとからどっと疲れが出て動けなくなってしまう。体が疲れるのではなく頭が疲れる感じ。これ、脳の疲れなんです。だから我々は体の疲れと区別して「神経疲労」と呼んでいます。
傷ついた脳も健気に頑張っている
以前調べたことがあります。パズルを解いたり音読したり、頭を使う作業をしているときの脳の働きを計測しました。このような作業の際、脳の怪我や病気のない若い方では脳の一部を働かせて作業をこなしていましたが、例えば脳挫傷で脳に傷を負った方の場合、傷の部分は脳の動きがないのですが、その周囲、あるいは傷とは反対側の大脳半球が働いて、怪我のない方に比べて脳の多くの部分が活発に活動していました。一見、怪我をした人のほうが脳の働きが広範かつ活発に見えるような結果に驚いたものです。
おそらく、脳の傷ついて働けなくなった部分がこなしていた仕事をカバーするために、生き残った部分が活動するようになったのでしょう。脳は、傷ついて一部が働かなくなっても残った部分でカバーして、全体としては少しでも機能を維持できるような仕組みになっているのですね。
脳が疲れる理由
とはいえ、同じ作業をこなす場合、損傷のない脳と比べれば脳全体が頑張って働いているわけですから、傷ついた脳には負担は大きいと言えます。例えて言えば、それまで100人でこなしていた作業を、30人欠員が出たので残った70人でカバーしているような状態です。ただでさえ少ない人数で同じ仕事量をこなさなければならないのに、その上、今までやったことのない業務を担当するわけです。これで疲れないわけがありません。
休憩のとり方にもコツがある
神経疲労への対応策は休息です。疲れとは時間の経過とともに作業効率が落ちることですから、休息により脳をリフレッシュして作業効率を元に戻します。
疲れのたまり方
ここで考えておくべきことは、疲れの”たまりかた”です。おなじ一日3時間の仕事をするにしても、3時間ぶっつづけて連続作業をすると、1時間ごと3回にわけて作業するのとでは疲れ方が違うと思ってください。言うまでもなく連続作業のほうが疲れがたまりやすいのですが、その差は思いの外、大きいと考えたほうが良さそうです。
1時間の作業の疲れを1とすると、1時間ごとに中断、休憩してその繰り返しなら、疲れは足し算で1づつ増えていきます。一方、連続作業の場合は作業時間が2倍になれば疲れは2x2=4、作業時間が3倍になれば疲れは3x3=9と指数級数的に増えるとイメージしてください。
先程の例なら、1時間ごとに分けて3時間の作業だと1+1+1=3でその日の疲れはせいぜい3です。一方、3時間連続作業の場合は3の自乗で一日の疲れは3x3=9と実に中断・休憩を挟んだ場合の3倍のイメージです。作業は連続して行わず、休憩を挟んで小分けして取り組むのが疲れを溜め込まないコツと言えるでしょう。
休憩のタイミング
では、その休憩のタイミングは?疲れたら休めばいいかというと、それほど簡単ではありません。なぜか。
最初に書いたように、神経疲労は体の疲れとはちょっと性質が違います。というより、私達はそもそも神経疲労という感覚を持っていませんね。だって脳損傷を負うまで経験したことがないのですから。疲れを疲れとして自覚できない。だから「後からどっと」疲れて動けなくなってしまうのです。疲れ切って動けなくなってから、初めて疲れたことがわかる。作業中は疲れに気づけない。だとしたら、「疲れたら」休む、というわけにはいきません。疲れに気づいたときにはすでに疲れ過ぎ、手遅れです。
「決めておく」原則
ここで、高次脳機能障害への対応の原則の一つを思い出しましょう。「予め決めておく、考えない、判断しない」です。考えなくて済むなら考えないほうが楽、その場で判断しなくても良いように予め決めておく原則です。
疲れの場合は、「疲れたら」と条件を設定してしまうと、疲れたのかどうか、どうなったら疲れたと言えるのか、などなど、考えなければなりません。これは負担が大きいので「考えない」ことにします。
時間で切り上げる
ではどうするのか。単純に所定の時間が過ぎたら作業を止めて休息するのです。これ、簡単です。タイマーなりアラームなりを使えばよいのですから。
未来の自分は赤の他人?
もちろん、作業を中断する際は、どこまで作業を進めたか、付箋を貼るなりメモをしておくなど、次に再開するときのための準備はしておいてくださいよ。機械的に時間で作業を切る以上、作業が切りのいいところまで進んでいるとは限らないですから。必ずメモして、作業を再開する自分(未来の自分は他人ですよ、だって、現在のことを忘れているから)に指示しておきましょう。
「キリのいいところまで」は禁句に
簡単そうに思えますが、この方法は意外と実行が難しい。人間、どうしても、キリのいいところまで済ませたい!アラームが鳴っても、つい、もう少しで一段落するからと、作業を続けてしまいがち。気がつけば、休息なしで作業を続けていたなんてことになりかねません。休憩を取るコツは、作業内容ではなく、あくまで、時間で切ること、これに尽きます。心して取り組んでくださいね。
時間設定の仕方
ちなみにタイマーは何分くらいに設定するのがいいのか。職場であれば休憩のタイミングは職場のルール次第、職場で許される設定が優先です。もし自分で休憩のタイミングを選べる状況であれば(職場の理解がある場合、自営業、家事、趣味の作業などなど)、人間の集中力なんてフルに使えるのは20分程度、せいぜい30分位でしょうから、そのあたりが目安になるでしょう。注意障害で集中が10分しかもたないような場合は、作業時間は10分未満で設定しましょう(「ポモドーロ方式」の記事参照)。
集中時間を伸ばす練習ではなく、集中できる時間内に作業を止めるようにするのがコツです。
休憩とは?
以上述べた内容は、「連続作業を避け、こまめに休憩を取りましょう。」という言い方にまとめることができますし、また、よく言われることでもあります。それだけに聞き流さないでほしいのは、「休憩」という言葉です。これは2つの状況を示しています。それは中断と休息です。
breakとrest
まず、一定時間で作業を中断すること、中断したら、休息を取ること、です。英語でいうとbreakとrestです。ほら、コーヒーブレイクと言うでしょう?まず中断(ブレーク)、これができるようになることです。そのうえで、休息(レスト)を取ること、の2段階を意識してください。
神経疲労をリフレッシュする休息のとり方
ここまでのお話は、当外来のメンバーの皆さんはもう耳タコのはず。聞き飽きたよね。皆さんおっしゃるのは、では、休息ってなにするの?どうすれば脳のリフレッシュができるのか、それを知りたい。問題はそこです。
頭を使った作業で疲れたのだから、頭を使わずにいるのが休息だと考えるのは自然です。であれば何も考えずにぼんやりするのが最良の休息、脳のリフレッシュのはずです。ところが、必ずしもそうとは言えないことが近年の研究でわかってきました。ぼんやりとしているとき、脳が休んでいるとは限らないようなのです。
以下、Vol.2へ続く
デフォルtモードネットワーク
集中は最良の休憩?〜デフォルトモードネットワークとマインドフルネス〜 Vol.2
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