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コラム85 子どもに全身麻酔って大丈夫なんですか!? その2

前回子どもの全身麻酔の大変さを解説しました。
なんか怖いことをたくさん書いたので、逆にいやになっちゃったかもしれません。
今日はそれを踏まえて、小児外科医が全身麻酔での手術でどんな風に関わっているのかを、成人との違いを考えながら書いていきましょう。


4. .子どもの手術の搬入

成人の患者さんが手術室に向かうとき、主治医がべっとりと付き添っている病院は少ないかもしれません。
(ちなみに広島大学病院では、あらゆる手術において入室時に主治医が同席して手術同意書などのチェックを同時に行う決まりになっていますから、現在では小児も成人も全症例主治医が付き添って手術室に入室しています。医療安全のためですね。)

しかし、昔から小児外科では患児に付き添って主治医が手術室に行くのは当たり前であり、僕は医者になった瞬間から「絶対に付き添え」という教育を受けてきました。
基本的に手術場のお部屋はクリーンルームであり、保護者の付き添いはできません。
手術室に入室する入口のところで、保護者の方には子供に「行ってらっしゃい」をしてもらって、そこから先はお預かりすることになるわけです。

純粋に小学生くらいまでのお子さんは恐怖で泣き出したり、暴れたりすることもありますので手がかかる…という物理的な理由もあるのですが、手術室に入室する場所で、保護者からお子さんを責任もってお預かりするというのは小児外科医の責務ですから、その入室に主治医として立ち会うのは当たり前であると僕は習ってきましたし、実際にそう思います。

5. 子どもの麻酔の導入

小さな子どもの麻酔は大人と導入方法(最初の麻酔のやり方)が違います。
一番特徴的なのは、「最初からガスで麻酔する」ということです。
子どもをベッドに寝かせ、口にマスクをあてて、ガス(吸入麻酔薬)が入った換気をすることでやや時間をかけて眠らせます。その後で点滴を確保して様々な薬剤を投与していきます。
これをslow induction(緩徐導入)と呼びます。
大人はそんなことはしません。
先に点滴をとってある子や、少し体格やメンタルが大人になって、麻酔の直前に点滴をとらせてくれる子では、点滴からまず眠らせるお薬を投与し、その後でガスの麻酔が始まります。
なぜか。
最初にガスの麻酔をする方法は、slow induction(緩徐導入)と呼ぶだけあって、ちょっと興奮しちゃって暴れちゃうことがあるんですね。
子どもが暴れてもみんなで抑えることができますが、大人で暴れられちゃって、抑えきれなくてベッドから転落…なんてことになったら大問題ですからね。

そんな理由で、子どもの麻酔ではslow induction(緩徐導入)が行われる。

でも、何もしなかったら泣きますよね。子ども。
周りにヘンな大人がいっぱいいて、マスクを口に当てられるとか恐怖でしかないですもん。

しかし、小児外科医も麻酔科医も子どもを泣かせたいわけではありません。
特に最近はやりの腹腔鏡手術では、事前に子どもが泣きまくって胃に空気が入ったりしていると、途端に手術が難しくなってしまいます。
泣かせない工夫が大事なのです。

①pre medication(プレメディ・前投薬)


前もって眠らせる

じゃあ泣かせないようにあらかじめ薬を盛って…いや言い方が悪いですね。
不安を和らげるために、眠らせておけばいい。
ということで、入室前数十分前に前もって入眠させるお薬を飲ませることがあります。
pre medication(プレメディ・前投薬)といいます。
麻酔科医の好みによって、使う人と使わない人がいます。

そして、きれいに効いてくれる子もいれば、逆に興奮しちゃう…なんてこともあったりします。人それぞれですね。
このpre medication(プレメディ・前投薬)をするかどうかは施設によっても決まりがあります。
僕はよく使う施設も、全然使わない施設も両方勤務したことがありますが、どっちがいいかは悩ましいな…と思います。

②保護者が一緒に入る


手術室に同室

最近では保護者が一緒に手術室に入るという方法も使われます。
文章の最初のあたりに「基本的に手術場のお部屋はクリーンルームであり、保護者の付き添いはできません。」とか書いておいてなんだよと思うかもしれませんが、付き添ってもらう保護者の方には、ガウンや帽子、マスクをしてもらい、清潔に気を付けてもらって入室していただきます。

こういった取り組みは論文にもなっています(田中ら. 手術を受ける子どもの不安に対する保護者同伴入室の効果. 日小外学誌57(6) 946-951)。

子どもが保護者と手をつなぎ、安心した状態で口元にマスクを当てて入眠していく…。
とても理想的ではあるのですが、世の中そうそううまくいくことばかりではありません。
保護者も初めての手術室で知らない人に囲まれると緊張しますし、我が子の手術で緊張している。その緊張が伝わって子どもも緊張しちゃう…なんてこともあります。
また、子どものどうしても最後は暴れることが多いですから、落ちてしまわないようにみんなで抑えつける。それを見てしまった保護者の方から「やっぱり見なければよかった…」なんてショックを受けたセリフを聞くことが複数回あったので、僕はあまり最後の意識を失う直前まで保護者にいていただく…というのは推奨していません。

③あやす

泣かせないように子どもをあやす。
とても原始的なのですが…結局コレですね。
意外と大変で技術を要するけど、圧倒的に効果があるのです。

もちろん、年齢によってあやし方は全然違います。
赤ちゃんは抱っこの仕方と声掛けによって。
3才以上は声掛け、注意の惹き方によって、かなりの割合で泣かせないようにすることができます。
5才以上になれば、うまく会話できれば、むしろ楽しみながら導入することもできます。

唯一、2歳前後で全くダメな子はダメですけど。

小児を専門にする小児外科医の腕の見せ所といったところでしょうか。

6. 手術中に気を付けること

このように、どうしても子どもの手術・全身麻酔となると、成人と比べて手がかかります。
子どもが意識がある時(入室時、退室時)にそれは顕著なのです。

更に、前回

で書いたように、子どもが寝た直後、起きる直前は麻酔科にとっては特に正念場。
術中も、体格の大きな成人と比べ、小児では少しの出血が大きな影響を及ぼしがち。
まさに子どもの麻酔は緊張の連続です。

そんな子どもの麻酔で一番大事なことは
「みんなが同じ向きを向いていること」だと僕は思っています。

今患者さん(子ども)が何をされていて、どういうリスクがあるのか。
手術場にいる人全員が認識をしていないといけません。
何か起きたときに、素早くみんなが反応して手助けをしないといけないので。

そのためには、「小児外科医は手術するのが役目だから、麻酔をするのは麻酔科にお任せ」なんて言ってちゃダメです。
自分が麻酔科みたいにできる必要はないけど、麻酔科が今何のために何をしているのかを理解していないといけない。
そしてその逆に、手術中には自分がどういう手技をしていて、今どんな危険があるのかを積極的に麻酔科とコミュニケーションする必要がある。
(今は麻酔科との連携のことだけを書いていますが、これは術場の看護師さんたちを含めた全てのスタッフに言えることです)

お互いの仕事を理解し、リスペクトすること。

それが子どもの全身麻酔での手術にはとても大切なことだし、安全性を高めてくれると思っています。


<参考>
田中ら. 手術を受ける子どもの不安に対する保護者同伴入室の効果. 日小外学誌57(6) 946-951


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