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反・精神論 ― 私が「工数」と呼んでいた人たちへ_⑦会議で精神論が出たら開く表

私の手帳には、何度も折り直された一枚の紙が挟まっている。 角は丸くなり、印字も薄い。 会議で精神論が飛び交いはじめると、私はそっとそれを開く。 たった六行のその表を、今回まるごと公開する。
この連載の、いちばん使える回にしたい。
手元に置いて、会議で精神論が出たときに、そっと開いてほしい。

私が現場で身につけた習慣がある。
精神論の言葉が出たら、それを、構造の言葉に翻訳する、という習慣だ。

きっかけは、営業時代にさかのぼる。
私は、顧客の設計者に自社の製品を採用してもらう仕事をしていた。
設計の段階で、自社の製品を、図面の中に入れてもらう。
そういう営業だ。

この仕事で求められたのは、
顧客の困りごとを、解決策の言葉に翻訳する力だった。

今でも覚えている場面がある。
ある設計者が、図面の一点を指でとんとんと叩きながら、
「ここが、なんか不安なんだよね」とだけ言った。
なんか、不安。それ以上は、言葉にならない。

多くの営業は、ここで「ご検討ください」と引き下がる。

だが、私は、その「なんか不安」を、翻訳しにかかった。
どういう時に不安を感じますか。
温度が上がった時ですか、振動した時ですか。
やり取りを重ねるうちに、不安の正体が見えてきた。

高温になると、固定していた部分の強度が
落ちるかもしれない、という不安だった。

そこまで翻訳できたら、あとは早い。
「つまり、高温時の固定強度ですね。
それなら、この素材を、この貼り方で使えば解決します」
設計者の顔が、ふっと緩んだ。
採用が決まったのは、その瞬間だった。

私が売ったのは、製品ではなかった。
「なんか不安」を、「高温時の固定強度」という、
解ける形に翻訳したことだった。
曖昧な言葉を、解ける形に変える。

これが、営業として私が叩き込まれた技術だった。

そして、経営の現場に来て、私は気づいた。
「覚悟が足りない」「もっと頑張れ」という精神論も、
まったく同じだ、と。
それらは、曖昧な不満だ。翻訳すれば、解ける形になる。

具体的に、翻訳表を示す。

「もっと頑張れ」と言いたくなったとき。
これは多くの場合、工程の設計不足だ。
翻訳すると、
「この工程の、どこで時間がかかっているのかを特定し、
その段取りを変える」という、具体的な作業になる。
頑張りで時間を縮めるのではなく、工程を変えて時間を縮める。

「自分から動け」と言いたくなったとき。
これは多くの場合、権限の設計不足だ。
翻訳すると、
「この判断は、現場のこの役職の人が、その場で決めてよい」と、
権限の範囲を明文化することになる。
動けないのは主体性がないからではなく、
動いていいかどうかが決まっていないからだ。

「もっと考えろ」と言いたくなったとき。
これは多くの場合、情報の設計不足だ。
翻訳すると、
「判断に必要なこのデータを、考える人の手元に届ける」という、
情報共有の整備になる。
材料がなければ、誰も考えられない。

「想いが大事だ」と言いたくなったとき。
これは多くの場合、数字の設計不足だ。
翻訳すると、
「原価、粗利、予実を、見えるようにする」
という作業になる。
想いだけでは、どこを直せばいいかわからない。

「技術で勝負だ」と言いたくなったとき。
これは多くの場合、市場の設計不足だ。
翻訳すると、
「顧客がどう買うのかを、見えるようにする」ことになる。
良い技術が、伝わる経路の設計だ。

「営業が弱い」と言いたくなったとき。
これは多くの場合、販路の設計不足だ。
翻訳すると、
「価格・仕様・納期・訴求のどこでつまずいているのかを分解する」
ことになる。営業個人の力量の話に、すり替えない。

精神論を『解ける形』に変える翻訳表

この翻訳表の使い方は、簡単だ。
会議で精神論の言葉が出たら、左側の欄を探す。
そして、右側の「設計の言葉」に、その場で置き換えてみる。

「彼の覚悟が足りない」ではなく、
「この工程の段取りに、無理がないか」。

「もっと自分で動け」ではなく、
「この判断を、現場で決めていいことにしているか」。

これだけで、会議の空気が変わる。
人を責める会議から、仕組みを直す会議に変わる。
誰も傷つかず、しかも、問題が前に進む。

精神論を、否定する必要はない。
ただ、翻訳すればいい。

曖昧な不満を、解ける形に。
これは、かつて営業の現場で叩き込まれ、
今、経営の現場で使っている、私のいちばん大切な技術だ。

さて、ここまで七回。
私は、経営は構造で考えられる、構造で解ける、
と書き続けてきた。

だが、最終回では、その自分の主張を、
一度、自分で疑ってみたいと思う。
本当に、すべては構造で解けるのか。
解けないものは、ないのか。

第6話 https://note.com/human_crab7218/n/n0a9f57d63ac1
第8話 https://note.com/human_crab7218/n/n48bd4bce70de

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【今日の問い】
次の会議で精神論の言葉が出たら、
この翻訳表のどの行に当てはまるか、
その場で一つ、置き換えてみませんか。

#創作大賞2026 #ビジネス部門

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