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反・精神論 ― 私が「工数」と呼んでいた人たちへ_⑤私が立ち止まった日

ある朝、体を起こそうとした。
だが、動かない。
意識ははっきりあるのに、体だけが言うことを聞かなかった。
台所で水を飲むのと同じくらい自然に、涙があふれてきた。
少し、個人的な話を書く。



ここまで、私は構造の話を、できるだけ冷静に書いてきた。
工数。覚悟。沈黙。黒字。
どれも、外から眺めれば、整理された経営論に
見えるかもしれない。

だが、これらは、私にとって、机の上で考えた理屈ではない。

私自身が、設計のない経営の中で、
一度、立ち止まらざるを得なくなった。
その経験の中から、絞り出すように出てきた言葉だ。
今回は、その話を書く。少し、個人的な話になる。

ある時期、私は、出口の見えない場所にいた。

判断の基準が、なかった。
何をもって正解とするのか、誰も決めていない。
だから、どんな判断をしても、
後から「それは違う」と言われる可能性があった。
正解のない試験を、毎日受けているようなものだった。

数字も、見えなかった。
何がうまくいっていて、何がうまくいっていないのか。
手元の情報では、判断できなかった。
霧の中を歩いているのに、地図もコンパスもない。
それでも、前に進むことだけは求められた。

そして、責任だけが、曖昧なまま、降ってきた。
誰が決めたことなのか、はっきりしないまま、
結果の責任だけが、こちらに回ってくる。
うまくいかなければ、
「覚悟が足りない」「頑張りが足りない」で、片づけられた。

  • 判断基準がない。

  • 数字が見えない。

  • 責任だけが曖昧に降ってくる。

  • もっと頑張れと言われ続ける。

この四つが揃った場所に、人は、長くは立っていられない。

私は、自分は強いほうだと思っていた。
修羅場をくぐってきたつもりだった。
だから、自分が立ち止まることになるとは、思っていなかった。

だが、人は、気合では支えきれないものに、ある日、追いつかれる。

それは、ある朝、突然やってきた。
いや、突然というより、必然だったのかもしれない。
いつもより早く目が覚めた。
体を起こそうとした。

だが、まったく動かない。
意識は、はっきりとある。
なのに、体だけが、言うことを聞かなかった。

しばらくして、私は、それでも無理やり体を起こした。
そして、いつもどおり、台所で水を飲んだ。
ただ、それと同じだけ、涙があふれてきた。
理由はわからなかった。
悲しいわけでも、つらいと意識しているわけでもない。
ただ、水を飲むのと同じくらい自然に、涙が流れていた。
頭が認めるより先に、体のほうが、もう限界だと知っていた。

人が壊れるとき、最初に音を上げるのは、
心ではなく、体なのかもしれない。
心は「まだ大丈夫」と言い張る。
その心の声を、体が、静かに裏切る。

詳しい経緯は、ここには書かない。
ただ、はっきり言えることが一つだけある。
あのとき、私を追い詰めたのは、
特定の誰かの悪意ではなかった、ということだ。

もちろん、つらい言葉はあった。
理不尽だと感じる場面もあった。

だが、後から冷静に振り返ると、
本当の原因は、人ではなかった。
設計のなさだった。

判断基準を作らなかったこと。
数字を見えるようにしなかったこと。
責任の所在を曖昧にしたまま走らせたこと。
それらが積み重なって、いちばん負荷のかかる
場所にいた人間を、静かに削っていった。

たまたま、その場所にいたのが、私だった。

だから、私は、人を恨むことに、
あまり意味を感じていない。
恨んでも、同じ構造はまた、別の誰かを削る。
次に削られるのは、
いちばん真面目で、いちばん責任感の強い人だ。

設計のない経営は、いつも、そういう人から壊していく。

立ち止まった時間は、つらかった。
だが、その時間が、私に一つのことを教えた。

人が壊れる前に、構造で変えられることが、確かにある。

判断基準を作る。
数字を見えるようにする。
責任の所在を、はっきりさせる。

それだけで、同じ場所にいる人の負荷は、
まるで違ってくる。あのとき、もしこの三つのうち一つでも
整っていたら、私は、あんなふうには
立ち止まらなかったかもしれない。

私が「反・精神論」を掲げているのは、思想ではない。
あのとき自分が欲しかったものを、
今、同じ場所にいる誰かに渡したいからだ。

気合では、人は守れない。守れるのは、設計だ。

この連載は、ここが原点だ。
だから、ここまで読んでくださった方に、
まず、これだけは伝えておきたかった。

次からは、また少し顔を上げて、
では具体的にどう設計するのか、という話に戻っていく。
最初は、「人を大切にする」という言葉を、
構造として捉え直すところから。

第4話 https://note.com/human_crab7218/n/nbefd783e4f7b
第6話 https://note.com/human_crab7218/n/n0a9f57d63ac1

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【今日の問い】
あなたの職場で、判断基準・数字・責任の所在のうち、
いちばん曖昧なまま放置されているのは、どれでしょうか。

#ビジネス #経営論 #マネジメント論 #メンタルヘルス
#創作大賞2026 #ビジネス部門  


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