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反・精神論 ― 私が「工数」と呼んでいた人たちへ_②覚悟は燃料 地図にはならない

「覚悟が足りない」。その一言が落ちた瞬間、会議の全員が
黙る。反論すれば、お前は覚悟がないのか、
と返ってくるからだ。だがその言葉は、設計で解ける問題を
気持ちにすり替えてはいないか。

長机の上に、誰かの飲みかけのブラックコーヒーが
冷めていた。会議は、もう一時間数字は伸びず、
誰の口も重い。沈黙が続いたあと、上座のほうから、
その言葉が落ちてきた。

「覚悟が足りない」

その瞬間の空気を、私はよく覚えている。

業績が思わしくない。計画どおりに数字が伸びない。
新しい取り組みが現場に根づかない。
そういうとき、決まって誰かがこう言う。

覚悟が足りない。
主体性がない。
本気が見えない。
当事者意識を持て。

これらの言葉には、奇妙な力がある。
口にした瞬間、その場の空気が「そうだ」という方向に流れる。
誰も反論しない。なぜなら、反論すれば
「お前は覚悟がないのか」という話になるからだ。
覚悟という言葉は、それを疑う者を黙らせる。

だが、私はだんだん、この言葉に違和感を持つようになった。

「覚悟が足りない」と言われた現場は、
その後どうなるのか。覚悟を決めるのか。決めない。
なぜなら、覚悟というのは、決めろと言われて
決まるものではないからだ。

覚悟が足りないと言われた人は、たいてい、
自分が責められたとだけ感じて、口を閉じる。
そして、問題は何も解決しないまま、
次の会議でまた同じ言葉が繰り返される。

ある日、私は気づいた。
「覚悟が足りない」という言葉が出るとき、
本当は、設計で解ける問題を、気持ちの問題に
すり替えているのではないか、と。

言葉による論理の「すり替え」

たとえば、ある工程でいつもミスが起きるとする。
「もっと気をつけろ、気合が足りない」と言う。
だが、本当に気合の問題だろうか。

もしかすると、その工程は、誰がやってもミスが
起きるように手順が組まれているのかもしれない。
確認のタイミングが悪いのかもしれない。
必要な情報が、作業する人の手元に届いていないのかもしれない。

「もっと頑張れ」は、工程の設計不足かもしれない。
どこまで努力すればいいか、見えていないのだから
動けないだけかもしれない

「自分から動け」は、権限の設計不足かもしれない。
誰がどこまで決めていいのか、決まっていないから、
動けないだけかもしれない。

「もっと考えろ」は、情報の設計不足かもしれない。
考えるための材料が、そもそも共有されていないのかもしれない。

私自身、一度やってみたことがある。
ある工程で検査ミスが続いていて、現場の工場長は
「気の緩みだ」と繰り返していた。

私は気合の話をやめて、その工程に半日立った。
すると、見えた。

検査の手元に、確認すべき数値が紙でしか来ておらず、
作業者は別室まで取りに行っていた。

ミスが出るのは集中力の問題ではなく、数値が手元になかったからだ。
紙をデータ化して、作業者のタブレットに
リアルタイムで届くようにした。
それだけで、ミスはほとんど消えた。
覚悟は、一切関係なかった。

精神論というのは、便利な言葉だ。
なぜなら、それを口にしている限り、自分が作った
仕組みを疑わなくて済むからだ。

「あいつの覚悟が足りない」と言えば、
問題はあいつの内面に置かれる。自分の設計は無傷のまま残る。

これは、責める側にとって、とても楽な逃げ道だ。

私は、精神論そのものを否定したいわけではない。
覚悟も、情熱も、想いも、人間にとって大切なものだ。
それを否定したら、仕事はただの作業になってしまう。

私が言いたいのは、こういうことだ。
覚悟や情熱は、燃料にはなる。
だが、判断基準の代わりにはならない。

覚悟を燃料にして走るのはいい。だが、どこに向かって走るのか、
どの道を通るのか、それを決めるのは設計の仕事だ。
燃料と地図を、混同してはいけない。

「覚悟が足りない」と言いたくなったとき、
私は自分にこう問うようにした。

これは本当に、人の気持ちの問題だろうか。
それとも、設計で解けるはずの問題を、
気持ちの問題に見せかけているだけだろうか。

たいていの場合、答えは後者だった。

精神論を否定するのではなく、
精神論を構造の言葉に翻訳する。
その具体的なやり方は、このシリーズの後半で、
一枚の表として見せるつもりだ。

ただ、その前に、もう少し書いておきたいことがある。
なぜ現場は、覚悟が足りないと言われ続けると、
最後には黙ってしまうのか。次は、その話を書く。

第1話 https://note.com/human_crab7218/n/n8872fb458234
第3話 https://note.com/human_crab7218/n/n9ad9bc6a54c4

――――――――――
【今日の問い】
直近の会議で「覚悟」「主体性」「本気」
という言葉が出たとき、その裏に隠れていた
設計の問題は、何だったでしょうか。

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