見出し画像

反・精神論 ― 私が「工数」と呼んでいた人たちへ_③現場が黙るのは性格ではない

アイデアを「いいね」と流し、「忙しいから後で」と
先延ばしにしたのは、誰だったか。私だ。
現場が黙るのは、社員の問題ではない。
声を止める構造の側にいた人間の、反省として書きます。


朝礼のあと、若手が一人、何か言いかけて、やめた。
口を開きかけ、上司の横顔をちらりと見て、
そのまま自分の持ち場へ戻っていく。
その背中を、私は何度も見てきた。

「うちの社員は、自分で考えない」

経営者や管理職から、この言葉を何度聞いただろう。
言われるたびに、私は心の中で、少しだけ立ち止まる。
本当に、考えていないのだろうか、と。

人は、生まれつき考えない生き物ではない。
子どもを見ればわかる。

放っておいても、なぜ空は青いのか、
なぜ雨は降るのか、考えて、聞いて、また考える。
考えることは、人間の自然な状態だ。

だとすれば、「考えない大人」は、
どこかで考えることをやめたのだ。
やめさせた何かが、あったのだ。

私は、現場が黙る会社には、
必ず理由があると思っている。
そして、その理由は、たいてい構造の中にある。

たとえば、こういうことが起きる。
ある若手が、業務改善のアイデアを思いつく。
勇気を出して、上司に言ってみる。
上司は「ああ、いいね」と言う。

だが、それきりだ。何も変わらない。
次の月も、その次の月も、現場は同じやり方を続けている。

若手は学習する。「言っても、変わらないんだ」と。

もう一度、別のアイデアを言ってみる。
今度は「忙しいから後で」と言われる。
後で、は永遠に来ない。若手はまた学習する。

「言うだけ無駄なんだ」と。

その若手は、半年後の会議で、
私が意見を求めても「特にありません」とだけ言うようになっていた。
表情も変えずに。私は当時、それを
「最近の若手は淡白だ」と受け取っていた。

今ならわかる。淡白だったのではない。
私たちが、彼の口を二度、閉じさせたのだ。

これを、外から見ると、どう見えるか。
「あの若手は、自分で考えない」と見える。
だが、本当は逆だ。彼は考えた。
考えて、言った。言っても届かないという経験を、
何度も積み重ねた結果、考えても無駄だと学習しただけだ。

心理学では、これを学習性無力感と呼ぶ。
何をしても状況が変わらないという経験を繰り返すと、
人は、変えようとすること自体をやめてしまう。
檻に入れられた動物が、
扉が開いても出ようとしなくなるのと同じだ。

声が上がらなくなる仕組み(学習性無力感)

現場の沈黙は、性格ではない。
多くの場合、構造が生み出した結果だ。

声を上げても届かない構造。提案が消えていく構造。
考えても評価されない構造。
そういう構造の中で長く過ごせば、
どんなに考える力のある人でも、考えることをやめる。
やめることが、その環境では合理的だからだ。

ここで、私が自分に厳しく問わなければならないことがある。

かつて、誰かのアイデアを「ああ、いいね」
と流したのは、誰だったか。
「忙しいから後で」と言って、「後で」を
永遠に先延ばしにしたのは、誰だったか。

私だ。

人を工数として見ていた頃、私は、現場の声を
聞いているつもりで、聞いていなかった。
表に乗る数字は見ていたが、表に乗らない声は、
聞き流していた。

私は、現場を黙らせる構造の、一部だった。

だから、「うちの社員は考えない」という
言葉を聞くと、私は立ち止まる。それは、
社員の問題ではないかもしれない。
声が止まるまでの経路を、
もう一度たどってみる必要があるかもしれない。

誰が、いつ、どの声を、どう流したのか。
それを設計の問題として見ると、打つ手が見えてくる。
提案が消えない仕組み。検討された結果が
本人に返る仕組み。

小さくても何かが変わる。経験を積める仕組み。
沈黙は、こういう設計で、少しずつほどける。
現場を責める前に、声が止まった構造を見る。

これは、きれいごとではない。
かつて声を止める側にいた人間の、反省でもある。

また、かつての私なら、こう反論しただろう。
「俺には関係ない話だ」
「経験のないお前に何がわかる」

今の私はこう反論する。

これは誰もがやることであり、別に否定はしていない。
ただ立ち止まって反省し、その人間に謝れるかだ。

次は、少し角度を変えて、数字の話をしたい。
「うちは黒字だから大丈夫」
――その安心が、どれだけ危ういか、という話だ。

第2話 https://note.com/human_crab7218/n/n4e3b6b8cbd19
第4話 https://note.com/human_crab7218/n/nbefd783e4f7b

――――――――――
【今日の問い】
最近、提案や意見を言わなくなった人はいませんか。その人が最後に声を上げたとき、会社はどう応えたでしょうか。

#ビジネス #フレームワーク #経営論 #マネジメント論 #教育
#人材育成 #創作大賞2026 #ビジネス部門

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集