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高市早苗首相・骨太の方針2026わかりやすく解説!僕らは生活と資産をどう守るか?

2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」、通称「骨太の方針2026」。もう読みましたか?

経済財政運営と改革の基本方針2026 について


この方針は構想としては近年まれに見る出来栄えでありながら、資金繰りの部分だけが見事に空欄という、極めて危うい設計になっています。

そしてその危うさは、そのまま一般家庭の生活と資産を直撃します。だからこそ、僕らはこの文書を「政治の話」ではなく「家計防衛の設計図」として読み解く必要があるのです。

まずは、そもそもこの「骨太の方針」が何なのかを押さえておきましょう。正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針」。毎年夏に閣議決定され、翌年度の予算編成の方向性を示す文書です。

法律ではないので、これ自体で何かが強制されるわけではありません。しかし各省庁はこれを見ながら概算要求を作りますから、実質的には「来年、政府がどこに金を落とすか」を先読みする地図として機能します。


高市早苗首相・骨太の方針2026の評価できる点

先に良いところから見ていきます。批判ばかりでは公平を欠きますし、実際、この文書には日本の政府文書としては珍しいほど骨のある記述が含まれているからです。

全体を貫く思想は明快で、これまでの「未来への投資不足の流れを断ち切る」という一点に集約されます。文書自身、主要先進国では官民連携の大規模な産業政策が主流になっていることを指して「経済財政運営の在り方そのものに関するコペルニクス的転回」と表現しています。

要するに「市場に任せておけば何とかなるという時代は終わった。世界中が国家主導の産業政策に回帰している。日本も乗り遅れるな」という時代認識です。

この認識自体は、少なくとも事実として正しいでしょう。米国のインフレ抑制法にせよ、EUの各種戦略産業支援にせよ、先進国はとっくに露骨な産業政策に舵を切っています。日本だけが「自由競争が一番」と唱えていたところで、相手が国家予算で殴りかかってくる勝負に勝てるはずがありません。診断は現実的です。

①オンチェーン金融とSBIR改革こそ最大の評価点

この方針で最も評価すべきは、「金を配る」政策から「制度を変える」政策へ重心を移した点です。

とりわけオンチェーン金融の明記とSBIR制度の抜本強化は、日本の政府文書としては画期的と言っていい内容になっています。

なぜこれが重要なのか。日本の産業政策が長年失敗してきた最大の理由は、補助金依存にあったからです。補助金というのは、もらった瞬間がゴールになります。企業は補助金を獲得するための書類作成に人材を割き、獲得した後は「成果報告書」という名の作文に精を出す。市場での評価とは無関係に金が流れるので、競争力のない製品でも生き延びてしまう。結果として、税金を投じたのに何も残らないという光景を、この国は何十年も繰り返してきました。

ところがSBIR制度の抜本強化は、この構図を根本から変える可能性を持っています。文書には「政府調達におけるスタートアップ比率3%目標の早期達成のための改善計画の策定や、政府がアンカーテナンシー型で本格調達することを促進するためSBIR制度を抜本強化する」と明記されています。

「アンカーテナンシー」とは、政府が民間企業の製品やサービスを安定的な大口顧客として長期契約で購入・利用することを約束することで、売上計上を可能とし、民間投資を呼び込み、産業を育成する手法です。

平たく言えば、政府が補助金の出し手ではなく「お客さん」になるということです。

これは決定的な違いを生みます。補助金は書類の出来で決まりますが、調達は製品の出来で決まる。そして政府という安定した売上が立てば、その実績を見て民間の投資家が資金を入れてくる。売上があるということは、その企業は補助金が切れても生き延びられるということです。

この構図の成功例として世界中が知っているのが、米国のSpaceXです。あの企業はNASAという巨大な顧客からの長期調達契約があったからこそ、ロケットの打ち上げコストを桁違いに下げるという無謀な挑戦を続けられました。補助金をもらっていたのではなく、商品を売っていたのです。日本がこの構図を模倣しようとしているのは、率直に言って正しい判断です。

もっとも、政府調達におけるスタートアップ比率3%という目標水準自体は、米国SBIRの規模感からするとまだ控えめではあります。ただ、これまで実質ゼロに近かった水準からの出発と考えれば、方向としては評価に値するでしょう。

もう一つのオンチェーン金融も、単なる暗号資産推進とは全く別物です。文書の脚注では「ブロックチェーン上で、トークン化預金、ステーブルコイン等による資金決済が、商流・物流等のデータ管理ともプログラムによって連動・一体化される金融」と定義され、想定される活用場面として製造業の受発注データ管理、貿易実務における書類管理、証券決済が挙げられています。

これは投機の話ではなく、事務処理の効率化の話です。

日本の貿易実務や商流管理には、いまだに紙とハンコとFAXが生息しています。この非効率を技術で潰すという発想が政府文書に載ったこと自体、そこそこの前進と言えます。

さらに「AIやドローンなどの新たな技術の社会実装」「医療等データの一次利用及び二次利用の一体的制度設計」「ローカルルールの見直し」といった記述も並び、自動運転については「自動運転の特性に対応した関連法令の見直しなどに取り組む」と明記されています。

日本の技術が敗北してきた原因の相当部分は、技術力ではなく規制でした。そこに手を突っ込むと明言したのは、評価されるべきです。

制度を変えるという意味では、基金の「予算措置は原則3年以内」ルールの不適用を含めた抜本見直しも同じ系譜にあります。3年で成果を出せと言われる研究開発に、本当に価値のあるものが含まれるはずがありません。ここを外したのは実務的に大きい変更です。

以上の理由から、この方針の最大の功績は補助金型から調達型・制度改革型への転換にあります。金額の大小ではなく、金の流し方の設計を変えたこと。ここは素直に評価すべきポイントです。

②人社系の縮小とSTEM強化を明記した覚悟

次に評価すべきは、大学教育について「人社系のダウンサイジング」という表現を政府文書にそのまま書き込んだことです。

原文はこうです。「文理分断の傾向が強い大都市圏の大学を始めとする成長分野の重視や人社系のダウンサイジング及び理数分野併修を通じた質の向上」。

政府文書というのは、通常あらゆる方面に配慮した玉虫色の表現で埋め尽くされるものです。そこに「ダウンサイジング」という、誰がどう読んでも「減らす」としか解釈できない語を置いたのは、相当に肚が据わっていると言えます。

なぜここまで踏み込んだのか。理由は残酷なまでに明快で、若者がいなくなるからです。文書の脚注には「18歳人口は令和8年の約111万人から2040年に約74万人へと約3割の減少が見込まれている」と書かれ、同じ脚注に「令和7年度の大学数は812校」と併記されています。

3割縮む市場に、812の事業者がぶら下がっている。この状態を放置すればどうなるかは、経営を知らない人でも想像がつきます。全員が少しずつ痩せ細り、共倒れになるだけです。文書はさらに「大学の経営体力がある段階での撤退を進めつつ」とまで書いており、これは実質的に「体力が尽きる前に自主的に畳め」という通告に他なりません。

そのうえで、資源をどこに集中するかも明示されています。「理工・デジタル人材育成を含む大学・大学院等の機能強化のため、成長分野への学部再編、17の戦略分野の高度人材育成や実需に応じたリ・スキリング、高専の新設・機能強化」。加えて「高等学校教育改革促進基金」による支援、教職調整額を2030年度までに10%へ引き上げるといった教員待遇の改善も並びます。

つまり「人が減るなら、一人当たりの生産性を上げるしかない。そのためには稼げる分野に教育資源を寄せる」という、極めて合理的な人材戦略です。

痛みを伴う構造改革を明文化した点は評価に値します。玉虫色の作文で誤魔化さなかったこと。それ自体が、この文書の誠実さを示す数少ない証拠なのです。

③消費減税の記述が薄いのはバラマキに流れなかった証左

まとめ図を見て気づくのは、消費減税がどこにも書かれていないことです。そして本文を精査しても、独立した政策としては一切扱われていません。

唯一の言及は第3章の税制部分にある一文だけです。「『給付付き税額控除』とそのつなぎ(飲食料品の消費税率等)については、今後予定されている社会保障国民会議の中間とりまとめを踏まえ、本年8月上旬までを目途に、その方針を決定する」。

この一文、語順が全てを語っています。主役は「給付付き税額控除」であり、飲食料品の消費税率は括弧書きの中に押し込められた「つなぎ」、つまり本命が動き出すまでの暫定措置という位置づけです。恒久的な消費減税を約束する文章ではありません。しかも決定を8月上旬に先送りしており、骨太本体では判断そのものを回避しています。

政治的にどう評価するかは立場次第でしょう。減税を期待していた層から見れば「公約の後退」「裏切り」と映るでしょうし、実際そう受け取る人もSNS民などにはいるでしょう。

しかし財政という観点から見れば、話は変わります。消費税率の恒久的な引き下げは、その瞬間から毎年数兆円規模の税収が永久に消える構造変化です。一方で、この方針は同時に大規模な投資枠の創設を掲げています。入りを恒久的に減らしながら出を増やすという組み合わせは、財政運営として最も危険なパターンであり、市場から真っ先に叩かれる構図です。

そこに手を出さず、給付付き税額控除という「必要な人にだけ届ける」制度への移行を本命に据えたのは、少なくとも構造としては筋が通っています。ばら撒きの誘惑に完全には屈しなかった、という控えめな評価は可能でしょう。

もっとも、これを「見識」と呼ぶか「先送り」と呼ぶかは、今後次第です。そこで結局大きな減税に踏み切るなら、この評価は撤回することになります。

④移民政策は表に出さず、本文で相当に踏み込んでいる

まとめ図をご覧になった方は、「外国人政策」が治安・安全のセクションに小さく置かれているだけだと気づかれたはずです。ここから「移民政策には触れなかった」と読むのは、しかし早計です。

本文には第2章3節(4)として独立した項目があり、内容は極めて具体的なのです。

並べてみましょう。「一部の外国人による違法行為やルールからの逸脱など問題のある行為に毅然と対応し、国民の不安や不公平感への対処に向けた取組を一層進める」。在留許可手数料の見直しと電子渡航認証制度(JESTA)を2028年度中に導入し、その手数料収入を財源に出入国在留管理庁の体制を抜本強化。「不法滞在者ゼロプラン」の強力推進。育成就労制度の円滑な施行と不法就労対策の体制整備。

さらに踏み込んだ記述もあります。「外国人の受入れの基本的な在り方について有識者会議での議論を開始し、2026年度中に、基本方針を取りまとめる」。そして「安全保障等の観点から、外国人の土地取得等のルールの骨格を2026年夏に取りまとめる」とともに、重要土地等調査法の執行体制強化、地下水の適正な保全・利用を確保する仕組みの法制化検討まで書かれています。

これは「書かなかった」のではありません。図では目立たせず、本文で管理強化を淡々と進めるという構成です。図と本文の温度差こそが、この論点の政治的な扱いにくさを雄弁に物語っています。

受入れ拡大論と規制強化論の双方が強く存在する以上、一枚絵の見出しにどちらを載せても炎上する。ならば図では「治安」の枠に収めて刺激を避け、実務は本文で進める、というわけです。

表向きは見えにくくしているけど、高市早苗はやるつもり。ということです。

なお、受入れそのものを止める記述はありません。日本語及び我が国の制度・ルール等の教育強化、「日本語・生活学習プログラム(仮称)」の創設に向けた取組も同時に書かれており、方向性としては「入口の管理は締めるが、受け入れる人には社会統合を求める」というものです。単純な入国制限論とは別物である点は、正確に押さえておくべきでしょう。


高市早苗首相・骨太の方針2026の危険な点

問題は、その材料をどこから調達するのかが書かれていないことです。

⚠財源が空欄という致命傷

この方針の最大の欠陥は、財源の記述が驚くほど曖昧である点に尽きます。

まず、財政運営の目標そのものが変更されています。従来のプライマリーバランス(PB)黒字化から、国・地方の総債務残高対GDP比の安定的低下へ。文書は明確に、PBについては単年度の黒字化時期を機械的に追うのではなく、景気変動や危機管理投資・成長投資の必要性に応じて一時的な悪化も許容し得るとしています。

PB目標は「毎年の歳出を税収の範囲に収める」という発想です。対して債務残高対GDP比は分数ですから、分母のGDPが伸びれば借金が増えても比率は下がる。つまり「成長で借金を薄める」路線への転換宣言です。

理屈としては成立します。問題は、成長が想定通りに来なかった場合、分母が伸びないまま分子だけが膨らむということです。

そして新設される『「強く豊かな日本」投資枠』の設計を見ると、背筋が寒くなります

文書はこう書いています。「前年度の予算措置額に関わらず真に効果的な投資支援策を取り込めるよう、要求上限(いわゆるシーリング)を設けず、事項要求も含めて必要な額を適切に要求できるようにし」。

シーリングなしです。日本の予算編成における唯一まともに機能してきた歯止めを、明示的に外しています。

では規模はいくらか。答えは「財政の持続可能性を実現しながら必要十分な規模を確保する」。数字がありません。「必要十分」という言葉ほど、各省庁の裁量を無限に広げる表現もないでしょう。

財源は。脚注にこうあります。「追加的な税外収入を中心として複数年度の財源を確保した場合には、償還財源の裏付けのある『つなぎ国債』を発行可能とすることにより、必要な資金を前倒しで調達可能とする」。

「税外収入」とは、国有財産売却や特別会計剰余金といった、その性質上一過性の収入です。売れる資産は一度売れば終わりです。これを14年計画の恒常的な財源に据えるのは、家計に例えるなら「タンスの奥から出てきたへそくりを、これから14年間の生活費の柱にする」と宣言するようなものです。

さらに問題なのが、同じ脚注の次の一文です。「こうした『つなぎ国債』については債務残高対GDP比やPB等の指標において、経費及び財源の金額を除いて別枠で管理する」。

新しく掲げた財政目標の計算から、新しく発行する国債を除外する

目標指標を債務残高対GDP比に変えた直後に、その分子から一部を外す設計です。企業の会計でこれをやれば、投資家が真っ先に警戒する類の処理、いわゆるオフバランス化です。

文書自身は「市場の信認確保」という言葉を何度も繰り返しています。多角的な分析、透明性の高い説明、外部有識者の知見活用。立派な言葉が並びます。しかし同じ文書の脚注に、信認を毀損しかねない仕組みが埋め込まれている。この自己矛盾は、市場参加者に必ず見つかります。

数字の根拠も確認しておきましょう。370兆円の官民投資、2040年度にGDP1,100兆円という威勢のいい数字は、脚注112が示す内閣府試算に基づきます。その前提はこう書かれています。「経済成長に必要な財政支出が、財源を確保した上で別枠管理する予算のほかに、毎年度実質10兆円、追加的に支出した場合を想定」。

毎年10兆円の追加支出を14年間。単純計算で140兆円です。この財源についての説明は、どこにもありません。

しかも成果は条件付きです。「『成長戦略』の効果が十分に発現した場合には、2040年度には、GDPは1,100兆円に迫る経済成長が実現できる」。「十分に発現した場合には」。これは予測ではなくシナリオ、それも成功シナリオです。62分野すべてが想定通りに実る確率を、産業政策の歴史に照らして冷静に見積もるべきでしょう。

歳出を削る側の記述も、見事に抽象的です。社会保障については「2027年度の社会保障負担率が2025年度と比較して上昇しないよう取り組む」上げないだけで、下げるとは書いていません。70歳以上の窓口負担見直しは方向性こそ示されているものの、工程表の策定は2026年末まで先送りです。

対して、増える側は実に具体的です。防衛費は三文書改定を経て令和9年度予算編成過程で判断、教職調整額は2030年度までに10%へ引き上げ、診療報酬・介護報酬は物価連動、公共事業評価は「費用便益比等に過度に依拠せず」総合評価へ見直し。最後のものは、平たく言えば費用対効果が1を下回る事業でも実施しうるという意味です。

そして、これをふまえた市場・投資家の結論が今起こっている「円安」「金利高」です

⚠円安という、最も静かな増税

なお、この方針は為替にほぼ言及していません高市早苗はもう円安は問題視していないのかもしれません。

「円安」「為替」という語が政策論として登場しないのです。エネルギーや食料の輸入依存、資源価格の話は出てきますが、円の水準そのものは論点から外されています。

まず、円安方向に働きうる要素から。財政拡張が続けば金利上昇と利払い費増加が意識され、日銀が利上げしづらい状況、いわゆる財政従属が警戒されやすくなります。「つなぎ国債」の別枠管理も、財政規律への疑念材料として為替に響く可能性があります。加えて構造的な問題として、成長戦略の成果が出るまでのタイムラグ中は「支出だけが先行する」局面が続きます。金は先に出ていき、成果は後から来る。その間、市場は待ってくれません。

円高方向の要素もあります。潜在成長率が実際に上がれば、実質金利と資本流入を通じて通貨を支えます。対内直接投資の促進策も円買い要因です。「対日直接投資促進プログラム(2026)」に基づく取組強化も明記されています。

金融政策については、日銀の独立性に配慮した従来通りの記述に留まっています。「経済・物価・金融情勢に応じて適切な金融政策運営を行うことにより、賃金と物価の好循環を確認しつつ、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する」。

「期待する」という距離の取り方は例年通りで、利上げにも据え置きにも踏み込んでいません

構造的に最も深刻なのは、円安が続いた場合の自己矛盾です。この方針はエネルギー、食料、重要鉱物の安定確保を戦略の柱に据えています。ところが円安はそのコストを直接押し上げます。輸入コスト上昇、交易条件悪化、実質所得の目減り。この経路は、方針が掲げる「実質賃金で年1%程度の上昇」という目標と正面から衝突します。文書にこの点への対応策は書かれていません。

円安とは、要するに議決を経ない増税です。

誰も法案を通していないのに、スーパーの棚の価格が上がり、給料の実質的な価値が削られていく。しかもその犯人は「政府」という名札を付けていないので、誰にも文句が言えない。これほど政治的コストの低い負担の押し付け方はありません。

なお為替の先行きは金融政策、内外金利差、経常収支、地政学要因が複雑に絡むため、財政方針の一文書から方向を断定することはできません。ただ、リスクとして意識しておくべき水準にあることは間違いないでしょう。


最後に。骨太の方針を受けて、僕らは生活と資産をどう守るべきか

さて、ここからが最も重要な部分です。政策批評をしても家計は1円も改善しません。この文書から個人が抽出すべき実利は何かを考えましょう。

取るべき行動は二つ、国策に沿ったスキルアップと、通貨価値の目減りに備えた投資です。

①17の戦略分野に自分のキャリアを重ねる

まず押さえるべきは、政府が金を落とす場所が異例なほど具体的に公開されているという事実です。これは投資家にとってもキャリア形成者にとっても、無料で配られたカンニングペーパーのようなものです。

17の戦略分野はこうです。AI・半導体、デジタル・サイバーセキュリティ、情報通信、量子、防衛産業、航空・宇宙、海洋、造船、マテリアル(重要鉱物・部素材)、合成生物学・バイオ、創薬・先端医療、資源・エネルギー安全保障・GX、フュージョンエネルギー、防災・国土強靱化、港湾ロジスティクス、フードテック、コンテンツ。

さらに62の主要製品・技術まで脚注で列挙されています。フィジカルAI、量子コンピューティング、ペロブスカイト太陽電池、次世代型地熱、海底ケーブル、空飛ぶクルマ、月面探査・低軌道技術、永久磁石、グリーン鉄、陸上養殖、植物工場、そしてゲーム、アニメ、マンガ、音楽、実写。

ここまで手の内を明かしてくれる政府文書は、そうそうありません。

この一覧に自分の仕事を重ねられるかどうかが、今後10年の職業人生を左右します。

なぜなら、政府が金を流す分野には人材需要が生まれるからです。文書は「17の戦略分野やエッセンシャル分野を始めとする幅広い人材の育成・確保のため、国・地域における取組を推進する」と明記し、産学官連携によるリスキリング機会の拡充、「全世代型リスキリング国民運動」の展開まで謳っています。

しかもエンジニアである必要は必ずしもありません。SBIRのアンカーテナンシー化が進めば、政府調達に対応できる営業や法務の人材が必要になります。規制改革が進めば、新しい制度に対応した実務を回せる人が要ります。地域未来戦略で産業クラスターが形成されれば、地方でその周辺業務が生まれます。「地域未来交付金」の拡充、「戦略産業クラスター計画」による地域ブロック単位の投資も明記されています。

具体例として、防災・国土強靱化を見てみましょう。防災庁の設置、地方機関としての防災局、「令和の国土強靱化対策」の断行が明記されています。これは公共事業の話に留まらず、防災技術の研究開発、防災産業の育成・海外展開まで含みます。土木業界だけの話だと思って読み飛ばすには惜しい領域です。

国策に逆らって稼ぐより、国策に乗って稼ぐほうが圧倒的に合理性があります

これは思想の問題ではなく、単なる力学の問題です。だからこそ、この17分野と自分のスキルセットや事業アイデアを重ねてみる作業には、極めて高い費用対効果があります

②投資で通貨価値の目減りに備える

そしてもう一つ。「成長で借金を薄める」路線が採用された時点で、資産防衛をインフレ前提に変える必要があります

理由は単純です。この路線が成功しても失敗しても、現金だけを持っている人が最も損をする構造になっているからです。

成功シナリオを考えましょう。名目GDPが1,100兆円に迫り、名目3%超の成長が定着する。この世界では物価も賃金も上がります。名目で成長するということは、同じ100万円の購買力が毎年削られていくということです。企業の売上と利益は名目で膨らみますから、株式は名目成長を反映して上がりやすい。一方、預金金利がそれに追いつく保証はどこにもありません。

失敗シナリオはもっと厳しい。財源の裏付けがないまま支出だけが先行し、成長が想定に届かない。債務残高対GDP比の分母が伸びず、分子だけが膨らむ。財政への懸念から通貨が売られ、輸入物価が上がる。名目の数字は上がっているのに実質賃金がマイナス、という状態です。文書が掲げる「実質賃金で年1%程度の上昇」は、まさにこのシナリオで真っ先に吹き飛ぶ目標です。

成功すれば「生活が楽になるインフレ」、失敗すれば「生活が苦しくなるインフレ」ですどちらに転んでも、現金の価値は削られます

「成長で借金を薄める」路線が明示的に採用された以上、資産ポートフォリオの前提条件を見直す必要があります

ただし断っておきたいのは、この方針が採択されたからといって、実際にインフレが来ると決まったわけではないという点です。物価も為替も、財政方針だけで決まるものではありません。世界経済の需給、原油や穀物の価格、日銀の判断、地政学の展開、そして何より民間の投資と消費が実際に動くかどうか。変数は無数にあります。過去にも「今度こそインフレが来る」と言われながら、来なかった局面は何度もありました。断定する人がいたら、その人はたいてい何かを売ろうとしています。

それでも確実に言えることが一つあります。この方針によって、インフレ側に働く要素が明確に増えたという事実です。

これらは、それぞれ単独でも物価と通貨価値に効きうる材料です。それが同じ一つの文書に同時に並んでいる。確率が100%になったわけではありませんが、天秤の片側に錘が何個も追加されたことは間違いありません。

資産ポートフォリオ判断において重要なのは、未来を当てることではなく、確率分布の偏りに応じて備えを配分することです。

「インフレが来ると断定する」のと「インフレ側の確率が上がったと認識する」のは、まったく別の態度です。

前者は予言であり、後者は設計です。やるべきは思考停止の円投げではありません、合理的なアセットアロケーションです。

その設計の観点から見たとき、円建て現金100%という状態が抱える問題が浮かび上がります。

この配分は「日本円の購買力が今後も維持される」という一つのシナリオに全財産を賭けている状態です。何もしていないつもりでも、実際には極めて集中的なポジションを取っている。インフレ側の確率が上がった局面で、そのポジションだけを維持するのは、天秤の傾きを無視した配分と言えます。

だとすれば、資産の置き場所を分散させておくのは合理的な対応です。

株式は名目の経済成長を取り込む器として機能しますし、この方針が名指しした17分野は、そのまま国内の関連企業を観察するリストになります。金(ゴールド)は財政不安や通貨価値の希薄化が意識される局面で選好されてきた歴史があります。外貨建て資産は、円という一つの通貨に生活のすべてを賭けている状態を緩和します。ビットコインなどの暗号資産についても、文書がオンチェーン金融を政策に位置づけた以上、少なくとも「政府が全否定する領域ではなくなった」という前提で考えることはできます。


以上となります。

政策文書というのは、政府が今後どちらへ体重を移すかを事前に開示してくれる、数少ない資料です。骨太の方針は「今後、個人がどう動くべきか?」を教えてくれます。

まだ、読んでいない人は是非内容を確認し、キャリアプラン・人生設計・アセットアロケーションを検討してみてください。


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