【Log.1-03】因習村の生贄に選ばれたのだが 〜相手が変人先輩(男)な件〜
😈〈 怪奇同好会へようこそ 〉😈
~変人先輩と巻き込まれ俺の、受難な日々~
BLラブコメ×オカルト / 6話完結
「殺せ」と囁く怨霊VS「愛で証明しろ」と迫る先輩。憑依された俺の運命は、先輩の首にかかった俺の手にかかっている!?
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第3章:愛の首絞め
「……ガッ、あ……ッ!?」
理科準備室の床に、鈍い音が響いた。
突き飛ばされたのは真白先輩だ。
俺――いや、俺の体を使っている「誰か」は、先輩の上に馬乗りになり、その細い首を両手で締め上げていた。
意識は、水の中にいるようにぼんやりとしていた。
自分の体なのに、指一本動かせない。まるで映画館のスクリーンで、自分の悪行を見せられているようだ。
(やめろ……! 離れろ……!)
心の中で叫んでも、声にならない。
視界の端で、先輩が苦痛に顔を歪めるのが見える。
抵抗しなかった先輩の手が俺の腕を掴んだ。だが俺の腕は鋼鉄のように硬直して動かない。火事場の馬鹿力なんて生易しいものじゃない。人間の限界を超えた力だ。
「……ぐ、ぅ……悠斗……っ」
先輩が掠れた声で俺の名前を呼ぶ。
その瞬間、俺の目の奥が熱くなった。
俺の感情じゃない。
この体を乗っ取っている「彼女」の感情だ。
悲しい。
悔しい。
愛おしい。
相反する激しい感情が、涙となって俺の目から溢れ出した。
ボロボロとこぼれ落ちる涙が、先輩の頬を濡らす。
すると、首を絞めていた俺の手から、ふっと力が抜けた。
「……?」
先輩が怪訝な顔をする。
俺の手は首から離れると、そのまま先輩の顎のラインをなぞり、喉元へと滑り落ちた。 殺すための動作じゃない。
まるで、愛しい人の感触を確かめるような――
『……デキナイ……約束シタノニ……ナゼ?』
その声は、憎悪というより、深い絶望に満ちていた。
首を絞める俺の手が震えている。殺したいのに殺せない。あるいは、殺したくないのに殺さなければならない――そんな葛藤が、指先から伝わってくる。
「……どうした。俺を、殺すんじゃなかったのか?」
先輩が掠れた声で問いかける。
すると、俺の中の「彼女」が激昂した。
『ナゼ……お前はこの男を殺そうとしない! ナゼ抵抗しない!』
「……必要ないからだ」
『嘘ダ! お前は死ぬのが怖くないのか!』
「怖いさ。だが」
先輩は、首にかかった俺の手に、自分の手をそっと重ねた。
「それよりも、こいつが……悠斗が傷つくほうが嫌だ」
空気が凍りついた。
俺の中の感情が、ぐちゃぐちゃに掻き乱される。驚き、嫉妬、そして羨望。
『……ナゼ……』
『自分ヨリモ、この男ガ大切ダト言ウノカ』
「ああ、そうだ」
先輩は即答した。迷いのない、真っ直ぐな瞳だった。
「俺はこいつを守ると決めた。……約束したからな。こいつと添い遂げると」
その言葉を聞いた瞬間、俺の視界が赤く染まった。
ドオン! と準備室の窓ガラスがガタガタと揺れる。
『嘘ダ……嘘ダッ!!』
『男ハ、自分……保身…………! 私ハ捨てらレタ! 偽リノ……! ナノニ何故……、この男ノタメニ死ねるなどと言ウ!?』
彼女の絶叫が脳内に響く。
うまく聞き取れなかったが、それは怨念というより、裏切りへのトラウマだった。信じていたのに捨てられた。愛なんて幻だ。そんな悲痛な叫びと共に、俺の指に殺意に満ちた力が込められようとした――その時。
「そこまでよ!」
バァン! とドアが開き、白い粉末の塊が俺の顔面に叩きつけられた。
「ぶほっ!?」
「悪霊退散ッ!!」
詩音だ。
彼女が投げつけたのは食堂の食塩(特大サイズ)だった。
目と鼻に塩が入り、強烈な刺激が走る。
「ぎゃああああッ!?」
その衝撃で、俺の意識が一気に覚醒し、体から黒いモヤが弾け飛んだ。
***
「げほっ、ごほっ……目が、目がぁ……」
「悠斗、大丈夫か!?」
俺は床に転がりながら悶絶していた。真白先輩が駆け寄り、ハンカチで俺の顔を拭ってくれる。
「詩音ちゃん、容赦なさすぎでしょ……」
「ごめん。でも、除霊グッズがこれしかなくて」
詩音は悪びれもせず、空になった塩の袋を振ってみせた。
「……それで、今のあれは一体なんだったんだ」
一息ついた俺たちは、床に座り込んだまま話し始めた。
詩音は真剣な顔で、俺の胸元あたりを指差した。
「悠斗くんの中の霊、殺気立ってはいたけど……本気で殺したいわけじゃなかった気がする。迷ってた」
「ああ、同感だ。『なぜ殺そうとしない』と、俺を試すような口ぶりだった」
「じゃあ、なんでこんなことするんですか。殺したくないなら、なんで」
「それは……」
先輩が言い淀む。すると、詩音がズバリと言い放った。
「試練、なんでしょうね」
「試練?」
「悠斗くんの中にいる彼女、こう言ったのよ。『お前たちの絆が真のものか見極めてやろう』って」
え、と俺は声を上げた。
記憶にない。
「俺、そんなこと言いました?」
「本人が覚えてないのは当然よ。でも、彼女の『心』はそう言ってた」
詩音は淡々と続ける。
「彼女が提示した選択は三つよ。一つ、悠斗くんが会長を殺す。二つ、会長が悠斗くんを殺す。三つ、決められた期間を逃げ切る。……ただし、秘密が漏れたら村中に災いを撒き散らす」
「なっ……最悪のゲームじゃないですか!」
「待て詩音」
真白先輩が鋭い視線を向けた。
「その話、確かに禊の儀式の時、悠斗に取り憑いた『彼女』が言った。だが、お前なぜ知ってる。それに『秘密が漏れたら』と言うが、今お前がペラペラ喋っている時点でアウトじゃないのか?」
確かにそうだ。他言無用の掟。破れば災いが起きるはず。
だが、詩音はポテトチップスをつまみながら平然と言った。
「大丈夫。私、部外者だもん」
「は?」
「儀式の当事者は会長と悠斗くんだけ。私はあの場にいなかったし、契約もしてない。だから私が勝手に推理して喋る分には、ノーカウントなのよ」
なるほど、その手があったか。この子、意外と策士だ。
ってか、どこまで見えてんだ?……怖えよ。
「……どちらも殺したくないなら、どんな手を使ってでも逃げ切ってみせろ。お前たちの愛が、あの男とは違う本物なのか証明してみせろ……彼女はそう言ってるのよ」
詩音の言葉に、重苦しい沈黙が落ちた。
彼女はただ恨んでいるだけじゃない。生前味わった絶望を、俺たちに重ねて試しているんだ。
「……でも、それじゃどうすれば。逃げ切るって言ったって、いつまで?」 「落ち着け悠斗。お前は俺が守る」
先輩が俺の肩を強く抱いた。
「ただ逃げるだけじゃダメだ。彼女の誤解を解き、呪いの根源を断つ必要がある」
「根源?」
「そうだ。会長、あんたこの儀式を取り仕切る神社の息子でしょ? なんか手がかりあるんじゃないの?」
詩音の言葉に、先輩がハッとした顔をした。
「……ある。親父が絶対に開けるなと言っている『蔵』だ。あそこに、儀式が始まる以前の真実が封印されているはずだ」
先輩は立ち上がり、不敵に笑った。
「謎解きの時間だ。行くぞ、俺の実家へ」
(続く)
