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番外編:幼馴染の憂鬱、ときどきオッサン憑依03

怪奇同好会へようこそ ~変人先輩と巻き込まれ俺の、受難な日々~番外編
BLラブコメ×オカルト / 不定期更新 
※ 今回は真白の幼馴染視点の、ハッピーエンドだけどヒトコワ要素強め、少しビターなお話です。
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第3章 オカンのようなオトン

「そこまでよ!」

 バァァン!! と凄まじい音がして、蔵の扉が開け放たれた。

 逆光の中に立っていたのは、ゴスロリ服の小柄な少女だった。

「この戯(たわ)け者が……!」

 名探偵さながらにビシッと指を突きつける彼女の背後から、白い着物の男が抜刀せんばかりの勢いで雪崩れ込んでくる。

「悠斗! 今助けるぞ! この不届き者を……」
「邪魔」

 少女は無表情で、白い男の額にペタリとお札のようなものを貼った。
 ピタリ。
 男は石像のように静止した。

「え? な、何?」

 事態が飲み込めず狼狽える俺の前で、拘束された悠斗がガタリと揺れた。


「うぅ……」

 小さく呻いたかと思うと、彼はカッと目を見開き、聞いたことのないドスの効いた声で吼えた。

「何やっとんのや! このボケナスがあああ!!!」
「は? え? ボケナス……?」

 目の前にいるのは可憐な美少年のはずだ。だが、その顔は歴戦のオッサンのごとく歪んでいる。

 悠斗(?)は、縛られた縄を引きちぎらんばかりの勢いで俺に詰め寄った。

「お前、人様の大事なお子様になにしとるんや! 馬鹿タレが! 押し入れに入れるだけじゃ済まんぞ!」

「ヒッ!」

 俺は反射的に縮み上がった。「押し入れ」という単語は、俺のトラウマスイッチだ。

「な、何、なんで……」
「なんでやない! 性根叩き直したる!」

 ゴスロリの少女――詩音(しおん)が、いつの間にか悠斗の後ろに回り、ロープを解いている。自由になった悠斗(?)は、見事なガニ股で踏み込み、右手を振り上げた。

 パンッ!

 蔵に乾いた音が響いた。頬が熱い。

「謝れ!」
「……」
「この子に謝れ! 冗談でもやってええことと悪いことがあるやろ!」

 この言い回し。口元の歪み方。右眉の角度。
 
 そして、この容赦のない張り手。

「お前……なんで……」
「なんでやない! 謝れ!」
「なんで親父のこと知ってんだよ! 怒ると関西弁になるって……」
「うるさい! ワイがお前の親父やからや!」
「……は?」

「そんな、馬鹿なこと……」

 呆然とする俺の横で、詩音が淡々と言った。

「その人、あんたのこと探してたから連れてきたの。正確には、こいつがね」

 詩音が指差したのは、入り口でお札を貼られて白目を剥いているイケメン幽霊だ。

「……親父?」

 詩音が手元のメモ帳を読み上げる。

「えー、本人確認情報。右ケツにホクロあり。左肘にやかんの火傷跡。おねしょが治ったのは小5。蒙古斑が取れたのは小2。年長の時、まいちゃんに振られて3日泣いてた……と」

「ちょ、ちょっ! 個人情報! プライバシー!!!」
「おねしょ……小5……(メモメモ)」
「書くな! プライバシー違反んんん!!!」

 その時、悠斗の顔をした親父が、フワッと俺を抱きしめた。

「……わかっとる。俺のせいだ」

 さっきまでとは違う、静かで震える声だった。

「お前、怖がりなのに夜一人にさせた。お前のことを、よく見てやれなかった」

「……」


「お前にまともな誕生日プレゼントも買ってやれなかったのに、唯一お下がりのグローブをやったら、ずっと俺とキャッチボールをしたがってたよな」

 華奢な悠斗の腕から、ゴツゴツとした親父の体温が伝わってくる気がした。

 無骨な手つきで後頭部を撫でられる感触。ふわりと漂う、線香とメンソール……そして独特の加齢臭。

「なのに俺は……一度も応えてやらなかった」
「親父?」
「死んでわかったんや。俺は過去ばっかり見て、一番大事なものは目の前にあったのになあ!」

 悠斗の顔の親父は、ポロポロと涙を流している。

 生きている時は、こんな風に抱きしめられたことなんてなかったのに。

「親父……」

 でも、覚えてる。

 わしゃわしゃと頭をなでつけ、一瞬だけギュッと抱きしめる、ぶっきらぼうで下手くそな優しさ。

「クソ!なんだよ。……今更なんなんだよ!」

 俺は泣いていた。


「すまない。翔、本当にすまない」
「クソバカ親父! 勝手に死にやがって……俺を置いて……俺は本当に一人ぼっちになっちまったじゃないか!」

 俺はその懐かしい胸に縋り付いた。

 バカで、不器用で、全然人の話を聞かない。
 それでも、たった一人の肉親だった。

「馬鹿野郎……」

「翔、すまない」

「……ぅ」

 俺は子供のように泣いた。
 親父が死んで初めて。

 親父は小さく、すまん、すまん、を繰り返し、俺の髪を撫で付ける。
 大きくて、温かくて、頭をすっぽり包むようなその手。
 あの時のままの静かなリズムで。


 やがて親父は俺の顔を覗き込み、言い含めるように言った。

「……聞いてくれ。翔。お母さんがお前を探してる」

 俺は弾かれたように顔を上げた。

「俺たちを捨てたあんな女……!」


「違う! 聞いてくれ。嘘だったんや。……俺が、お前に嘘をついていたんだ」


 悠斗に乗り移った親父が語った真実は、あまりに情けないものだった。

 体の弱い母さんと、治療費も払えない貧乏な父。資産家の実家に結婚を反対され、追い詰められた末の逃走。

「愚かだった。若気の至りだったんだ。母さんはお前を産んで……でも、どうしようもなかった。俺は、彼女の父からの手切金を握って逃げた」

 親父の声が、一瞬震えて止まった。そこから先は、自分を律するように、慣れない標準語が混じる。

「捨てたのは、俺の方だったんだ。自分の不甲斐なさを受け入れられなくて、お前に『捨てられた』なんて嘘をついて、現実逃避してしまった……」

「……」

「頼む。彼女は今もお前のことを愛してる」

 親父は真っ直ぐに俺の目を見て言った。
 生きている時、そんな事は一度もしなかった。

「お前に会いたくて必死なんや。会ってやってくれ。こんな情けない俺についてきてくれた、たった一人のかけがえのない大切な人、そしてお前は、彼女と俺のかけがえのないたった一人の大事な息子」

「でも……今更」

「翔、頼む。俺がしてやれなかったことを、お母さんならしてやれる。お前、本当はやりたいことがあったんだろう? 大学だって、俺のせいで諦めて。母さんなら叶えてやれる。チャンスをやってくれ」

 親父の手が、俺の涙を拭う。

「お前は俺の誇り。お前だけはどうか、後悔するような人生を選ぶな……俺はもう取り返しがつかないが、お前はまだ遅くない……」

 急な展開に俺は戸惑った。

 馬鹿だ。

 こんな馬鹿な親父の息子の俺も、馬鹿だ。

 だけど……。

 一度でもその馬鹿を愛した人が、この世にいると言うのなら、会ってみるのも悪くない。なぜかそう思った。

「……わかった」

 俺は頷いた。
 親父は俺の両手を包み込み、ボロボロと涙を落として言った。

「翔、ありがとう……ありがとうな。俺の……息子」

 手がするりと抜け落ちる。透明な粒子となってそれは遠ざかって行った。  一瞬だけ、親父の顔が見えた。そう思えた。……優しい笑顔で。

「親父……」

 その言葉を最後に、悠斗はガクリと膝から崩れ落ちた。
 ハッとして顔を上げた悠斗は、俺を見るなり眉根を寄せて口元を押さえた。

「うっぷ……きもッ……」
「悠斗?」
「口の中が……線香とメンソールの味がする……オエッ……」
「わかるわ。ガチの加齢臭だったもんね」

 詩音が同情するように背中をさする。


 俺はまだ夢心地のまま、えずく悠斗を眺めていた。だがその姿を見て、自分のしたことの罪がずしりと胸に落ちてきた。

「悠斗……くん」

 俺がおずおずと近づくと、悠斗は涙目で俺を睨みつけた。


「今日のことは、 先輩には黙っていてください」

「え?」

「俺、先輩の悲しむ顔見たくないんで。……その代わり、もう2度と俺たちの前に現れないでください」

 悠斗は吐き捨てるように言った。

 俺を守るためじゃない。真白に「幼馴染に裏切られた」という事実を知らせないための隠蔽だ。

 フッと笑みが漏れる。

 ……完敗だ。こいつらには敵わない。

「わかった……すまない。ありがとう」

 そして真っ直ぐに顔を上げた。もう逃げない。
 だが、その目の端に不穏な気配が映る。

「……で、この人は?」

 俺は入り口で固まっている白い男を指差した。

 詩音が「あ、忘れてた」と言ってお札を剥がす。
 瞬間、男がすごい形相で動き出した。

「このうつけ者がぁぁぁぁ!! 我が愛しの悠斗に何をする!」

 詩音がまたすぐにお札を貼った。

 ピタリ。




エピローグ

 あれから数日後。

 翔さんは、逃げるように東京へと旅立った。翌々日には、母親だという人が迎えに来たそうだ。
 俺(悠斗)は部室で、冷たい紅茶を飲みながらほっと息をついた。

「悠斗、どうした。顔色が悪いぞ」

 部室に入ってきた真白先輩が、心配そうに俺の顔を覗き込む。

「いえ、ただちょっと……加齢臭に取り憑かれた後遺症が」

「何い!? 加齢臭?! ……それは可哀想だったな。ヨシヨシ」

 先輩は大きく頷きながら俺の肩に手を置き、子供をあやすように頭を撫でてきた。その手は大きくて、温かい。

 俺はボソリと呟いた。

「……アンタのせいなんだけどね」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、なんでもないです」

 俺は先輩の手を振りほどき、照れ隠しにそっぽを向いた。翔さんとの約束だ。この秘密は、墓場まで持っていく。

「ところで、レイはどうしたんだ? 部屋の隅で震えてるぞ」

 先輩が指差した先には、体育座りでガタガタ震えているレイの姿があった。

「あ、忘れてた」

 詩音が読んでいたBL漫画から顔を上げ、パチンと指を鳴らした。
 レイの背中に貼られていたお札がハラリと落ちる。

「……! こ、このうつけ者がああああああ!!!」

 レイが弾かれたように立ち上がり、抜刀せんばかりの勢いで叫んだ。

「もう終わったよ」
「え?」
「事件解決。被疑者はもういないわ」
「な、なんと……! 拙者が身動き取れぬ間に……不覚!」

 レイはガックリと膝をついた。

「悠斗……まだ頭痛いから、大きい声出さないでください」
「あ、はい。申し訳ない」

 詩音の一刀両断。シュンとなる最強の幽霊。

「?……何かはわからんが、お前ら相変わらず騒々しいな」

    (((いや、アンタがな!)))

 その瞬間だけ、3人の脳内は一致した。
 事情を知らない真白先輩だけが、不思議そうに肩をすくめていた。

(完)


最後までお読みいただきありがとうございました!(怪奇同好会一同)

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因習村の生贄に選ばれたんだが〜相手が変人先輩(男)な件〜



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