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【Log.1-06】因習村の生贄に選ばれたのだが 〜相手が変人先輩(男)な件〜

👓〈 怪奇同好会へようこそ 〉👓
~変人先輩と巻き込まれ俺の、受難な日々~
BLコメディ×オカルト / 6話完結


呪いは解けても先輩の執着は解けない!? 新たな、そして騒がしい日常。

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第6章:祭りのあと


 あの嵐のような一夜から、一週間が経った。
 季節はすっかり秋めいて、放課後の空気には少し肌寒い風が混じっている。

「……で、なんで俺がこの報告書を書かされてるんですか」

 怪奇同好会の部室。俺はノートパソコンに向かい、パチパチとキーボードを叩きながら愚痴をこぼした。 画面には『村落における伝承と超常現象に関する実地調査報告書』という、いかめしいタイトルが表示されている。

「君は当事者だろう? 生の体験談に勝る資料はないからな」

 向かいの席で優雅に紅茶を啜っているのは、すっかり顔色の良くなった真白先輩だ。 あの土気色だった肌は健康的な白さに戻り、目の下のクマも綺麗に消えている。悔しいが、やっぱり無駄に顔がいい。

「先輩こそ、神社のほうはいいんですか? あの懐中時計、お父さんに見つかったんじゃ……」

「フッ、心配無用だ。あの時計は正式に『供養品』として、例の祠に納めることになった。親父も『まさかあれが原因だったとは……』と反省していたよ。これでもう、村に災いが起こることはない」

 先輩は満足げに頷いた。

 あの日、俺たちは時計を祠に納め、手を合わせた。それ以来、村の空気――重苦しい湿気のようなものが、すっかり晴れた気がする。 100年の呪いは解け、悲恋は伝説へと変わったのだ。

「それにしても」

 詩音がポテトチップスを齧りながら口を挟んだ。

「結局、なんであの二人だったのかな。100年前のカップル」
「え?」
「ほら、先輩のご先祖様(若旦那)と、殺されちゃった娘さん。なんで、悠斗くんと会長を選んだのかなって」

 詩音はポテトチップスを俺に向けながら、首を傾げた。

「普通、男女のカップルを選ぶでしょ? なんで男同士、しかもこの二人だったの?」

 その言葉に、俺の手が止まる。

 確かにそうだ。多様性がどうとか先輩は言っていたが、霊的に考えれば、男女の霊を慰めるなら男女のほうが波長が合うはずだ。

 俺はジロリと先輩を睨んだ。

「……先輩。まさかとは思いますが」
「ん?」
「最初のくじ引き。……細工、しましたよね?」

 部室に沈黙が流れた。 先輩は紅茶のカップをゆっくりと置き、窓の外の夕日を眺めた。

「……さあな。だが、結果として世界は救われた。愛の力でな」
「誤魔化した! やっぱり不正したんだ! 職権乱用だ!」
「人聞きが悪いな。俺はただ、運命を少し『手繰り寄せた』だけだ」

 先輩は悪びれもせず、ニヤリと笑った。 確信犯だ。この人は、最初から俺と一晩過ごすために、村の因習すら利用したのだ。 なんてバチ当たりで、なんて執念深い男なんだろう。

「最っ低ですね……」
「最高の褒め言葉だ」

***


「よし、今日の活動はここまで!」

 先輩がパンと手を叩き、立ち上がった。

「悠斗、帰るぞ。送ってやる」
「え、いいですよ一人で帰れます」
「ダメだ。まだ病み上がりだろう? 憑依の影響が残っているかもしれない。責任を持って家まで送り届けるのが、パートナーの務めだ」

 先輩は俺の返事も聞かずに俺の鞄を持ち上げた。
 ……パートナー、か。 その響きに、胸の奥が少しだけくすぐったくなる。

「……詩音ちゃん、また明日な」
「……100年の怨念すら浄化するなんて。二人の『波長』、霊的結合レベルが高すぎる。……尊い実験データが取れたわ」
「だから違うって!」

 俺たちは詩音に見送られ、旧校舎を後にした。
 校門を出て、夕焼けに染まる坂道を並んで歩く。
 影法師が二つ、長く伸びている。

「なあ、悠斗」
「なんですか」

 先輩が歩きながら、不意に俺の手の甲に触れた。
 ビクッとして見上げると、先輩は前を向いたまま言った。

「あの夜のこと、覚えているか?」
「……どの部分ですか」
「最後だ。浜辺での」

 カアッと顔が熱くなる。
 覚えているに決まっている。
 あのキスだ。

 俺は慌てて視線を逸らし、早口でまくし立てた。

「あ、あれは! 吊り橋効果っていうか、場の空気に流されたっていうか! ノーカウントですよ!」

「そうか? 俺はカウントしているが」

「はあ!?」

 先輩が立ち止まり、俺の前に立ちはだかった。
 夕日を背負ったその姿は、逆光で表情が見えにくい。
 でも、声は真剣だった。

「呪いは解けたが……俺はお前に呪われたままらしい」
「なっ……」
「責任、取ってくれるんだろうな?」

 先輩が一歩近づく。
 俺は一歩下がる。
 背中が電柱にぶつかった。あ、これ漫画で見るやつだ。

「ちょ、ここ通学路……!」
「誰も見てない」

 先輩の腕が俺の逃げ場を塞ぐ。いわゆる壁ドンだ。至近距離で見つめられ、心臓が早鐘を打つ。
 真白先輩は、ふと真面目な顔になり、低い声で言った。

「……これからは、俺が貴様(きさま)の『盾』になると誓ったんだ。……神前でな」

「え……き、貴様って……」
「覚悟しておけ。俺の護衛は、悪霊よりしつこいぞ」

 先輩はニカリと笑うと、俺の返事も待たずに顔を寄せた。

 俺は観念して、ぎゅっと目を閉じた。


 チュッ。

 額に、柔らかい感触が落ちてきた。

 ……え? 額?

「……今日はここまでにしておいてやる」

 目を開けると、先輩がイタズラっぽく笑っていた。
 完全に遊ばれている。 
 悔しい。

 でも、ホッとしたような、残念なような。

「……先輩のバカ」
「ハハハ、よく言われる」

 先輩は上機嫌で歩き出した。
 俺はため息をつき、その背中を追いかけた。

「待ってくださいよ!」
「置いていくぞー、生贄くん」

 100年の因縁も、村の呪いも、もうここにはない。 あるのは、ちょっと面倒くさい先輩と、それに振り回される俺の、騒がしい日常だけだ。

 でもまあ、こんな日常も……悪くはないかもしれない。

 俺はカバンを握り直し、夕焼けの中を走り出した。
 その手には、もう血のついたナイフも、悲しい懐中時計もない。
 ただ、微かに残る先輩の体温だけが、いつまでも消えずに残っていた。


(完)


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『呪いの手錠で繋がれたので、先輩とトイレまで一緒です』(全6話完結)

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