地続きにある、よねの怒り 『山田轟法律事務所』
NHK朝ドラ『虎に翼』スピンオフ『山田轟法律事務所』。
想像した以上、期待した以上に、ずしっと来た。
通常のドラマのスピンオフ作品はアンコールに応えて登場人物がカーテンコールのように集まって寸劇、って感じ? でも夜の時間帯に移って山田よね主人公で紡がれるストーリーは『虎に翼』のB面。寅子のストーリーA面に、よねのB面があってこそ、戦前戦後の歴史が見える。
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。 2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
衆議院HPより
初めてこの条文を見たとき、寅子は涙を流した。だがよねは、「政府もGHQも、しょうもないほど世間知らずでお気楽だ」と、吐き捨てた。その条文が載った新聞を、破り捨てたりもした。なにを綺麗事を言っているんだと。事実よねの目の前では、女性が、子供が、朝鮮人が、黒人が、部落出身者が、言われなき差別を受け、迫害を受けているじゃないか。そもそも戦勝国のアメリカが、「この街を焼け野原にした」アメリカが、敗戦国・日本を丸ごと下に見ているじゃないか。
そんなよねが、「今は綺麗事、絵空事だとしても、どうせ進むならこっちがいい」と思い直すことができたのは、相棒・轟(戸塚純貴)との再会も大きいのではないか。『山田轟法律事務所』というタイトルでありながら、轟の登場シーンはラスト10分ほどである。本作の唯一の不満点はそこだ。だが轟のえずき芸は、往年の加藤茶を彷彿とさせる完成度だった。戦後闇市ハードボイルドな世界観を、本編の『虎に翼』に引き戻してくれた。
日本国憲法のおよぶ範囲でないけど、黒人兵が登場し、帰国すれば自分もまた虐げられる立場にあると言及したのが、頷きポイントのひとつだった。アメリカで黒人が市民権を獲得するのは、さらに下って1960年代だ。
──本作では、「戦争直後の差別問題」という難しいテーマを描かれましたが、どうしてこのテーマに挑もうと思ったのでしょうか?
最初に考えたのは、寅子の目線では描けなかった問題にスポットを当てる物語にしよう、ということでした。例えば、戦後の闇市で、生活のために体を売らざるを得ない女性たちと、幼い娘のいる寅子は接点がなかった。目をむけないようにしていたとも言えると思います。主人公が見ていないものをドラマで描くことはできません。だから今回は、そのような理由で取りこぼした問題にも触れたかった。「すべて国民は、法の下に平等である」と定めた日本国憲法第14条を掲げる作品として、できるだけ多くの「すべての国民」の姿を描きたかったんです。
──描くにあたって難しかった部分はどこでしたか?
例えば、「パンパン」と呼ばれ、進駐軍を相手に体を売っていた女性たち。彼女たちについて調べると、エンタメに登場する彼女たちが「力強く世の中を生きたかっこいい女性」といったポジティブな表現をされていることが多いと感じました。私はこの問題をそういうふうに軽くするような描き方には手を貸したくないという気持ちがあって、しっかりリサーチをすること、問題に対して誠実に描写をすることを強く意識しましたね。
部落差別についても同様に、「すべての国民」を描くためにはどうしても避けては通れないテーマでした。攻めた内容と言われるかもしれませんが、そう思われてしまうことにこそ問題があると思っています。とはいえ、これらのテーマを扱うことにノーと言わず、一緒に表現の仕方しかたを考えてくれた制作チームの皆さんには心から感謝しています。
──そんなよねが、壁に「憲法14条」を書くシーンは感動的でした。
いろいろな地獄を見てきたよねは、寅子のように14条をすんなりと受け入れることはできないんじゃないか──そういう話は、制作チームの中でも、よねのキャラクターを深めていく中でずっと出ていたんです。だからこそ今回のスピンオフでは、よねが14条を受け入れて、轟と一緒に、法で守られるべき「すべての国民」からあぶれそうになっている人を救うまでの物語にしたんです。
部落差別、在日コリアン(本編で寅子に日本国憲法が掲載された新聞記事で焼き鳥を包んで渡した女性も在日コリアン)、そして身体を売って生活するしかないパンパンたち。
特に私の「よね的怒り」のポイントであるところの、RAA(特殊慰安施設)の関係者をキャラクター化した水谷(演・大谷亮介さん)がパンパンたちの犠牲あっての繁栄だということを抜け抜けと言っている場面。
夏(秋元才加さん、よねと火花の散るような口論に迫力があった)もまた、身体を売って生き延びてきた。自分が搾取されずに商売をしようとした途端に、その利権を脅かされると思った側に消されてしまう。
よねの「クソな社会」への怒りは、現代にも地続きだ。
高市早苗が、彼女が世界最高の権力者であると思っているトランプ大統領に媚び媚びする姿は、日本の男社会が有形無形の圧力で女性が生きて勝ち残るために身に付けた処世術だ。
クソな男尊女卑社会を肯定して生きてきた高市政権では後に続く女性は高市に媚び諂わないと後に続けない。それどころか、競争相手になる同性は容赦なく突き落とす……そんな輪廻が見える。
私も、心に「正しく怒る、よねさん」を抱いていこう。
