『KU FANBOOK Vol.6』EYES ON 人間・環境学研究科 柴田悠 教授
研究者を紹介する「EYES ON」コーナーでは、「幸せ」をキーワードに若い世代に届く政策を探る人間・環境学研究科の柴田悠 教授にスポットを当てています。
誌面には載っていない話題をご紹介します。
京都大学同窓会報誌『KU FANBOOK Vol.6』:誌面はこちらをご覧ください。
https://www.kikin.kyoto-u.ac.jp/files/common/KU%20FANBOOK%2006/?pNo=8
京都大学時代
高校時代、敬愛する生物の先生が、本人は卒業生ではないのになぜか“京大推し”。東京都の進学校なので関東の大学に進学する学生が多いのですが、京都大学には自由の学風と魅力的な研究がたくさんあるぞ、とアピールするんです。この先生が推すならきっとおもしろいはずだと思って、京都大学をめざし始めました。
大学でのサークル活動は大切なものだと、しみじみ思います。私が参加していたのは京大短歌会ですが、60年以上の歴史があり、かつては歌人で細胞生物学者の永田和宏さん、そして私が参加していた当時には、永田さんの長女で同じく歌人かつ生化学者の永田紅さんも所属されていました。このサークルには、私など足元にも及ばないほど深く哲学や心理学などを勉強している仲間もいて、とにかく議論が深かった。また、やはり総合人間学部でも、深く考えている友人たちとの出会いがありました。総合人間学部には理系入試で入ったのですが、そういったさまざまな人たちとの出会いによって、しだいに文系分野に傾倒していきました。
不利を軽減する支援について
子ども期の不利には、貧困、虐待、いじめ、不登校だけでなく、進学機会が乏しいなどの地域差、女性を抑圧する価値観や親のリテラシーなどさまざまな要因があり、それらが養育行動に影響を与え、その後の不利につながってしまいます。
不利を改善するためにも、なるべく早いうちに支援をしたほうがいいとさまざまな研究分野で示されています。究極的には、妊娠期から産後2年まで継続的に家庭訪問をすることで虐待を半減させることができると、アメリカでの実証研究で明らかになっています。
ただ、幼少期に支援を受けられなかったとしても、その後のサポートによって不利を軽減したり予防したりすることもできます。
私が博士課程のときに発見した「職業訓練が充実すると自殺率が下がる」という政策効果もその一つです。これは、職業訓練を受けることによって、専属の支援者がついたり、一緒に職業訓練を受ける仲間もできたりして、さらには再就職もしやすくなり、結果的に孤立や貧困から脱しやすくなって自殺リスクが減少する、と解釈できます。大人になってからの支援にも有効性があるということです。
現実問題としては、政策には予算が必要であるから早いうちに支援したほうが効率的だ、ということになります。他方で、幼少期にしっかりした成育環境であっても、将来に、自然災害や景気変動、社会情勢などによって、偶発的に不利が生じることは当然あります。つまり、子どもと成人の両方に対して支援が必要だ、ということです。
働き方改革について
日本は一人あたりのGDPなどを見ても生産性が低い現実があります。その背景として、男性の長時間労働に頼り過ぎてきたことがあります。家庭は専業主婦に任せて男性が長時間働くという前提は、昭和の時代には高度経済成長をもたらし、多くの人々に受け入れられてきました。しかし、高学歴化によって少子化と人手不足が進んだ現代では、男性だけで経済を支えるのは無理になりましたし、女性も高学歴化してキャリア志向になり、専業主婦を望む女性は少数派になりました。
DXなどによって働き方を効率化し、長時間労働を前提としない働き方を広げ、女性も育児中・介護中の人も働きやすいようにしないと、人手不足も乗り越えられないし、生産性も上がらない。そして、男性が長時間労働を強いられるままでは、女性は結婚すると家事育児を一人で担うことになるので、キャリア志向化した女性たちは結婚をますます諦めるようになり、少子化がさらに進みます。そしてそもそも、今の若者は、たとえ男性であっても、「プライベートと仕事を両立できる会社」を選ぶ人が大多数になっているため、長時間労働を強いる会社は、若手を集められず、人手不足解消や新陳代謝もできず、持続可能性が下がっていってしまうでしょう。
このように働き方改革はいろいろなところにつながっているのだという問題提起を、国会やメディア等で発信しています。
研究環境としての京都大学の魅力
京都大学の魅力の一つは、「学生が優秀である」ことだと考えています。私の授業は、理解できて当たり前を前提に、統計的な話を中心に、グラフや表を使いながら議論を展開していますが、学生はしっかり応えてくれます。ゼミ生ともなれば、学生というよりは対等な研究者です。
また、とりわけ若い学生が同世代の人々にインタビュー調査をしている場合など、私にはとてもそのような調査はできません。40代の男性が若い人にインタビューをしても、なかなか本音を話してはくれないでしょうから。同世代だからこそリアルなことを聴くことができます。学生が調査したことによって、私自身が気づきをもらえることも多々あって、日々勉強や刺激になっています。

