アメリカ中間選挙をねらったロシアのデジタル影響工作
アメリカ中間選挙をねらったロシアのデジタル影響工作がGraphikaとRecorded Futureによって明らかにされた。ロシアはアメリカ国内の右派を扇動し、バイデンを攻撃し、民主党を弱める活動を行っていた。ただし、効果は限定的だ。
ロシアがアメリカを中心とするグローバルノース主流派各国の国内にいる反主流派をたきつけていることは拙著『ウクライナ侵攻と情報戦』や、ニューズウィークの記事でも紹介してきており、そのこと自体はことさら新しくはないが、ウクライナ侵攻以後も継続的に脅威であり続け、行われている点と、新しいTTP(Tactics, Techniques, Procedures)が導入されていた。
今回のアメリカの中間選挙はウクライナにとっても大きな意味を持つ。「中間選挙が終わるとアメリカのウクライナ支援は後退する」ことはほぼ確実であり(そもそもすでにその兆候が現れている)、結果如何によっては大幅な後退もあり得るし、最悪各地で武装化した反主流派が暴動を起こす可能性もある。そうなれば、ウクライナ支援どころの騒ぎではなくなる。このへんの事情は下記に書いた。
グローバルノースの多頭の獣 #非国家アクターメモ のまとめ
https://note.com/ichi_twnovel/n/nfc8c42e9323f
アメリカ内戦を予見した衝撃のベストセラー『How Civil Wars Start』
https://note.com/ichi_twnovel/n/n96588acc900a
●前回の大統領選以降の動き
少し前になるが、ロイターは2020年10月1日の記事「Exclusive: Russian operation masqueraded as right-wing news site to target U.S. voters」(https://www.reuters.com/article/usa-election-russia-disinformation-idUSKBN26M5OP)でロシアのデジタル影響工作部隊IRAが作った偽のメディアであるNewsroom for American and European Based Citizens(NAEBC)が2020年のアメリカ大統領選で民主党の評価を下げるための影響工作を行っていたことをレポートした。当初、ツイッターとLinked Inでの活動では効果がなかったが、GabとParlerではある程度の人気を得ることができたようだ。
ロイターから連絡を受けて調査を行ったGraphicaのレポート「Step into My Parler」(2020年10月、https://public-assets.graphika.com/reports/graphika_report_step_into_my_parler.pdf)によれば、ロシアのIRAはGabとParlerでの活動を拡大していた。中心になったのは、右派のNAEBCと、表向き進歩的に見えるPeaceDataというふたつのサイトだ。
NAEBCの半分は6月に作られたばかりでヨーロッパを拠点にしているといいながらもほとんどがアメリカに関する記事、特にトランプ支持を中心にバイデン攻撃のメッセージを発信していた。一方、PeaceDataは反バイデン中心のメッセージを発信していた。しかし、NAEBCのフォロワーはGabで約3,000人、Parlerで14,000人と少ないレベルに留まっていた。
NAEBCとIRAの関与が明らかになったため、フェイスブック、ツイッター、Linked InはNAEBCを排除した。
●アメリカ中間選挙をターゲットに再活性化
2022年10月13日に公開されたRecorded Futureのレポート「Malign Influence During the 2022 US Midterm Elections」(https://go.recordedfuture.com/hubfs/reports/ta-2022-1013.pdf)では、前述のNAEBCが活動を継続しており、米国在住のフリージャーナリストに自分たちの真の意図を伝えずに記事を書かせていたことが暴かれている。1記事当たり50ドルから75ドルらしいので、かなり安いような気がするけど、日本のネット記事だと数百円もざらなのでそうでもないかもしれない。GettrやGabなどのSNSで活動しており、Alex DuncanあるいはSchmitz Cartoonsというアカウントでマンガを投稿していた。また、ロシアのプロパガンダ組織であるスプートニク、News Front、RT、GRUの54777部隊も活動していたことがわかった。
ウクライナ侵攻によって、ロシアのデジタル影響工作活動は制限されるようになったが、アメリカの選挙に対する脅威であることは変わらないとしている。ウクライナ侵攻以降、ロシアのプロパガンダメディアはSNSプラットフォームなどから排除されたものの、メディアを多様化し、活動を続けている。また、ラテンアメリカとヨーロッパをターゲットとしていることもわかった。
同レポートでは中国とイランの活動についても言及しているが、あまり目立った成果をあげていないこともあり、ここでは触れない。
中間選挙まで1週間を切った2022年11月3日にGraphicaが「Same Schmitz, Different Day」(https://graphika.com/posts/same-schmitz-different-day)を公開した。
2020年の米国大統領選の翌日から活動を続けていたPosing as Patriotsネットワークの主要アセットが、2022年1月に活動を休止した。ウクライナ侵攻との関係性を暗示しているが、証拠となるものはない。
2022年8月、9月に再び活動が再開された。過去の活動と異なる点は下記。
・一時期Schmitz Cartoonsのマンガの投稿がなくなったが、10月後半に再び投稿されるようになった。以前はネットのインフルエンサーに拡散されるなど影響力があったが、再開してからは低調だ。
・以前はアメリカの国内問題(人種問題など)に焦点をあてて、バイデンと民主党を攻撃したが、今回はウクライナに焦点を当て、ウクライナはナチであるなどの主張を発信している
・IRAのオーナーであるエフゲニー・プリゴジンとの関係につながるリンクが貼られていた
いささか断片的であるが、つまりはロシアはアメリカ中間選挙をターゲットにデジタル影響工作を行っているという観測が複数からレポートされているということだ。おそらくその全貌はもう少し時間が経たないとわからないだろう。現在までの報告の範囲では大きな効果をあげているわけではなさそうだ。
ロシアがアメリカ中間選挙をターゲットにした理由は、混乱を起こすためというのもあるが、より直接的にはウクライナ支援に積極的な民主党を弱体化し、ウクライナ支援に後向きな共和党を躍進させるためだろう。
他の記事で書いたように、アメリカ下院では共和党が勝つことはほぼ確定しており、上院で共和党でも勝てばアメリカのウクライナ支援は大幅に後退する。仮に上院で民主党が勝ったとしても、後退は免れない。
2022年7月1日に刊行した拙著『ウクライナ侵攻と情報戦』に書いたように、共和党が勝てばアメリカのウクライナ支援は後退し、ロシアにとって有利な状況が生まれやすくなる。他にもロシアに有利な状況が生まれやすくなってきているだが、それはまた別の機会。
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