蒲田に行って平壌を味わおうとしたら盛岡だった。
はじめに。
すご。すごすぎますって。
なにがすごいのかって? あなたがすごいんです! このページを開く前にこの記事が500円するって書いてあったのに、このページを平然と開いたあなたが。これが1000円以上だとネタっぽいし、300円だと普通じゃないですか。100円だとそもそも読む価値ない記事なんじゃ? って感じですし。
500円。500円はそこそこ有益じゃないと許されない空気がありますよね。でも、そんな情報が「ささづかまとめ」なんていうゆるゆるイミフな名前のアカウントから提供されるわけがありません。絶対お金を払う価値なんてないに決まっています。それなのにあなたはこの記事のサムネイルをクリックなりタップなりしたわけです。中途半端なところで読めなくなるかもしれないのに。その勇気をここに称えます。あなたはすごい。
というわけでこの記事は最後まで普通に読めます。じゃあどうして有料記事にしたのかというと、この後の文章中にきっかけがあって、たかやまさんの発案です。有料記事だとどれくらいスキが減るんだろうね、となぜかわくわくしているっぽいたかやまさんです。個人的にはお金払わなくても、読まなくても、スキは押し合えばいいのではと思うんですが、みんないろんな感じかた、考えかたをしているんでしょうね。
今を書きたいという気持ち。
しかしここのところ、過去の旅行のエピソードばっかりずっと書いていて(未来の旅行のエピソードはそもそも書けないですけど…)、今の話が書きたいという欲求が抑えられなくなってきました。みなさんのnoteを読んでいるとだいたい今のことが書いてあるので、とにかくうらやましく思います。そんな中わたしは
「わたしたちの乗った電車は廃車になった」
「この駅舎は建て替えられた」
「このとき渡った歩道橋は今はもうない」
とか書いていて、しんどいのです。すでになくなってしまったものを描写するのは思ったよりも心にくるというか、カロリーが必要なんだと感じました。過去を振り返るのも楽しいですが、せっかく今を生きていて、今もちゃんと楽しいので、今のことを今レポートする回があってもいいのかなと思います。
そういうわけで、ひらいちゃんと磐越西線の話を一旦お休みして、最近のお出かけの中からピックアップしていくつか書いてみようと思います。まずひとつめは蒲田に行った日のことです。都内の大学を受験するために泊まって以来、蒲田には行ったことがありません。みなさんは蒲田の街に思い出はありますか?
人物紹介
たかやまさん
金髪の見目麗しい女の子。大食い。夏はTシャツばっかり着ている。好きなジブリキャラクターは坊ネズミ。
ささづかまとめ
背が高い鉄道好きの女。たかやまさんの幼なじみ。乗ってみたいジブリ映画に出てくる乗りものはネコバス。
冷麺を食べに蒲田に行く。
2025年7月のある朝、たかやまさんが歯を磨きながら「おひう、えいめんはべいいきはいあ」とつぶやきました。お昼ごはんにと、わりと丁寧に仕込んだ焼く前のフレンチトーストが冷蔵庫に眠っているのをどうするべきか「フレンチトースト 浸す時間」で検索しながら、京王線、山手線、京浜東北線と乗り継いで蒲田へ。どうやら丸一日浸潤させる作りかたもあるみたいで大丈夫でした。夜に焼いて食べましょう。
13時前の蒲田の街は混んでいました。笹塚にいると人はそこそこ多いとは言えどこか雰囲気の似た人たちが集まっていますが、蒲田は老若男女バラバラで、正義も生きる上での当面の目標もベイクドモチョチョの呼びかたも全部ちがいそうな感じでした。西口に出て池上線の高架沿いの道を歩くと、高架下の飲み屋さんではみんな平気でお酒を飲んでいます。悠々自適な感じのおじさまも、会社員っぽい男の人も、大学生くらいの女の子たちもみんな飲んで楽しそうにしているのです。蒲田という街はいったいどうなってるんでしょうか。

ささづかまとめ
「今日って平日ですよね」
たかやまさん
「うん。でもわたしたちも休みだし」
ささづかまとめ
「お酒は飲まないじゃないですか」
たかやまさん
「ちーちゃんは休みの日、朝から飲んでるよ」
ああ、いちがやさん。お元気ですか。最近リアルで会っていないので心配です。

見慣れない光景に気圧されながら、バーボンロードという商店街を歩きます。すごい名前ですね。バーボンロードに入ってすぐ、目的の冷麺屋さんはありました。平壌冷麺(へいじょうれいめん)。たかやまさんが前々から来てみたいと思っていたお店だそうです。

わたしたちが入店すると接客のおばさまが微妙に面倒くさそうな顔をしましたが、すぐ表情を切り替えて淡々と接客してくれました。注文するメニューは決めてから来ていますが、たかやまさんが飲み物のところを指さして、
たかやまさん
「お酒、飲まないの?」
ささづかまとめ
「飲まないです」
たかやまさん
「じゃあ私が飲むか」
ささづかまとめ
「え」
そんなやりとりののち、たかやまさんは大盛の冷麺とビビンバのセットに生ビールをつけて、わたしを驚かせました。わたしは普通の量の冷麺とビビンバのセットにしました。
ささづかまとめ
「いつも飲まないのに、どうしたんですか」
たかやまさん
「さっきね、あそこの角の焼き鳥屋さんのテラス席でヒコロヒーがすごくおいしそうに飲んでたんだもん」
ささづかまとめ
「たしかに似てましたけどね」
たかやまさん
「蒲田で飲むビールは特別おいしいのかもしれない」
店内にはわたしたち以外にお客さんが3組いて、見るとどのテーブルにも食事が配膳されていません。つまり、13時すぎという少し遅れたタイミングで立て続けにお客さんが来てしまったのでしょう。店員のおばさまが一瞬見せた表情の理由がわかった気がしました。
ひるおびを見ながらぼーっとしていると、来店順に少しずつ食事が行き渡っていき、わたしたちのテーブルにもカクテキとビビンバ、たかやまさんには生ビールも運ばれてきました。

手を合わせて、いただきます。たかやまさんがぐいぐいビールを飲み、3分の1くらい飲んだところでジョッキを置きました。
たかやまさん
「中野に本社がある味がする。神宮の黄色い売り子の味。ううっ」
たかやまさんはつらそうな顔をしています。ノリで注文するのはやっぱりよくないみたいです。
ささづかまとめ
「それいつかも言ってましたよね」
たかやまさん
「うん。まさに今さーさちゃんが書いてるやつ。らいちといっしょに行った会津に行ったとき。津川駅で下りて橋渡ってるときに私がキリンうんちく100連発を披露したあれ」
ささづかまとめ
「そのときでしたっけ」
たかやまさん
「うん」
そのときだったらしいので書きました。
書いてるうちに思い出しましたが、100連発はさすがにうそでした。

お店の片隅のテレビが垂れ流すひるおびでは、新燃岳が噴火して鹿児島空港に降灰があり飛行機が欠航しているとか、バリ島でフェリーが沈没したとか、そういうニュースが流れていました。そんな中もごもごとビビンバを咀嚼し、甘いカクテキをかじるわたし。世界は広く、人間は些細な存在なのだなどと、ありきたりなことを考えます。

そしていよいよ冷麺が供されました。壁に冷麺のおいしい食べかたが貼られていて、それによると
1.麺をお箸でスープにまんべんなく絡めてから、食べてください
2.残りのスープはスプーンを使わずにどんぶりを持って飲み干してください
ささづかまとめ
「つまり、混ぜろってことなんですか?」
たかやまさん
「さーさちゃん盛岡でも同じこと言って、結局混ぜてたよ」
ささづかまとめ
「でもここは平壌なんですよね?」
たかやまさん
「お店の名前はね。これは盛岡冷麺だと思うけど」
ささづかまとめ
「そうなんですか? なんだかわからなくなってきました…」
たかやまさん
「さーさちゃん」
わたしの正面に座ったたかやまさんがまっすぐにわたしを見つめています。
たかやまさん
「黙って、混ぜて、すすれ」
ささづかまとめ
「はい。いただきます」
まじめな顔で返事をしたわたしが可笑しかったのか、たかやまさんはくくくっと笑いながら、ずびずびと大量の麺を口に運んでいきます。わたしも麺をスープにくぐらせてすすります。麺に絡む出汁の効いた冷たいスープが舌にも身体にも心地いいです。麺はくにゃくにゃしていながら、歯で圧力をかけると、すんと噛み切れます。チャーシューは少し硬いですが、噛みしめると甘みとうまみがじんわりとしみ出てきます。
「お酢多めに入れるとおいしい。入れたほうがいい」
たかやまさんがそう言うので、わたしもお酢をまわしかけます。混ぜて食べてみるとさわやかで、すっきりとした味になって食がすすみました。
食べ終わってお店を出て、バーボンロードを駅に向かって戻ります。
たかやまさん
「ぴょんぴょん舎ってすごくおいしかったんだね」
たかやまさんが遠い目をして言いました。否定はしません。
ささづかまとめ
「……、ここもおいしかったですよ?」
たかやまさん
「そうだけど、なんかもの足りなかった。ああ、私は焼肉が食べたかったのかなあ! でもランチメニューにお肉系なかったしどうしようもなかったね」
そういえばわたしたちが盛岡のぴょんぴょん舎に行ったときは、焼肉と冷麺のセットを食べたのです。
ささづかまとめ
「結局はその差かもしれませんね」
たかやまさん
「あーいいなあ、焼き鳥。食べたいな。お金あり余ってるおじさまみたいな人がおごってくれないかな」
焼き鳥屋さんの前を通りかかって、たかやまさんがつぶやきました。道路際の席に座っているヒコロヒーみたいなお姉さんはまだお友だちと歓談中でした。
ささづかまとめ
「いっしょに食べるとかじゃなくて、ただごちそうしてくれるだけなんですね?」
たかやまさん
「うん。いっしょに食べたがる人なら普通にいる。そうじゃなくて、店先でメニューとか看板見てたら近づいてきて、1万円渡してきて「これでお食べなさい」って言って去っていく人。そういう人もきっと世界のどこかにいると思うんだよね。なんの見返りも求めずに、他人に焼き鳥ごちそうしたいだけのおじさまがさ。旅行系のnoteの有料記事買う人みたいな」
ささづかまとめ
「そこでnote出てくるんですね。自分のお金で食べたらいいじゃないですか」
たかやまさん
「でもそれだとつまんないし。家で私が串打ちして焼いていろんな味で食べたほうが楽しいってなっちゃうから。ほりにしとかレモスコとかいっぱいかけて食べたい」
ささづかまとめ
「たしかにそれお店じゃできませんね」
たかやまさん
「うん。でも冷麺は家で食べるとなんかちがう。家でお肉焼くのはそれはそれのよさがあるけど、冷麺にはそれがない。お店のほうが純粋に全てにおいて勝ってる。つまり冷麺ってハンバーガーなんじゃん…」
たかやまさんはまだお腹が空いているのかもしれません。
蒲田駅の西口に戻ってくると、ロータリーで選挙カーが演説の準備を始めているところでした。今日は参議院選挙の公示日。大きな駅の駅前が騒がしくなる時期がやってきました。
たかやまさん
「ああやって『ヒゲの隊長』みたいなキャッチコピーつけちゃうと、ある日うわーむずむずする、ヒゲ剃りたい! ってなっても剃りにくそう」
ささづかまとめ
「どんな状況でも剃らない覚悟なんでしょうね」
たかやまさん
「サンタナは暑いからって言って自分で剃ってた。素直で好き」
ささづかまとめ
「スワローズの」
たかやまさん
「うん。私は予定の変更できないのって嫌。冷麺食べに来ても焼き鳥食べたいなって思ったら焼き鳥食べればいいと思う。そういう人のほうが好き」
ささづかまとめ
「えーっと、つまりほんとは焼き鳥が食べたかったんですか?」
たかやまさん
「それは例え。食べたかったけど。今度家でシークケバブみたいの作って食べようよ。インドカレーのお店の、ばかみたいに赤いやつ」
ささづかまとめ
「ありますよね、赤いの」
たかやまさん
「あ、そうだ。観覧車乗りに行こう! 観覧車!」
ささづかまとめ
「ええ? なんか勢いがすごいですね」
たかやまさんは脈略なく話すことが多いのですが、それにしても。
たかやまさん
「せっかくここまで出てきたんだし、遊んで帰ろ!」
その「遊び」が観覧車に乗ることなのがいかにもたかやまさん、という感じがしました。たかやまさんがわたしの手をつかんで、東急プラザのエレベーターの前までひっぱっていきます。
「あたし今あっつい あっついな!」
エレベーターで屋上まで上がってきて、屋上に飛び出したたかやまさんが節をつけて言います。最近そのフレーズをよく口ずさんでいるので、お気に入りの曲みたいです。暗いところから明るいところへ飛び出したたかやまさんが、一瞬白飛びして見えました。
ささづかまとめ
「うわ、ほんとに暑いですねー」
たかやまさん
「あっつい!」
日差しと照り返しがすごいです。
たかやまさん
「ね。ほらあれ乗ろ。ちっちゃい観覧車」

たかやまさんが3歩ほど跳ねて指さした先に、今では珍しくなった屋上観覧車。
たかやまさん
「そういえば、さっきはビール半分飲んでくれてありがとね」
たかやまさんがワンピースの裾を翻して、振り返って言いました。そうでした、たかやまさんは普段は基本的に口にしないビールを飲んでいるのです。だからこんな感じなんだ、と納得しながら、日差しの下で微笑むたかやまさんに駆け寄ります。
ささづかまとめ
「わたしが残りを飲んでよかったです。全部飲んでたらもっと酔ってますよね?」
たかやまさん
「うん!」
元気に返事をしたたかやまさんの笑顔が日差しにきらきらしていて、困ってしまいます。この困り具合をごまかすのに、観覧車に乗るのはちょうどよさそうでした。
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