海の見えない観覧車に乗りたい。
はじめに。
前回の記事↑は有料記事なのですが、全文0円で読んでいただけますのでぜひご覧ください。また、それにもかかわらずご購入いただいたみなさん、ありがとうございました!
たかやまさん
「ほら、買ってくれる人いた。よかったねさーさちゃん」
ささづかまとめ
「はい…。ほんとに記事を買ってくださる人っているんですね。ちょっとびっくりしました」
たかやまさん
「これで私たちに『焼き鳥でも食べなさい』ってお金を差し出してくれるお金持ちが世の中に存在することが証明された。あと、有料記事にするとスキがいつもの半分以下になることもわかった」
ささづかまとめ
「減っちゃいましたね」
たかやまさん
「お金と愛情の両方を同時に手にすることはできないという示唆。さすがnote、学びが多い」
ささづかまとめ
「……、皮肉ですか?」
たかやまさん
「私、皮肉とか嫌味とか嘘とか建前とかお世辞とか、そういうのこれまでの人生で一回も言ったことない。全部ほんとのことしか言わない残酷な女だよ」
ささづかまとめ
「それはたしかに、ある意味怖いですね」
そんな感じでたかやまさんは喜びつつ、でもちょっと驚いていました。ノリで500円投げ銭できる人ってすごいと思います。せっかくいただいた応援は自信に変えて、これからもブログを書いていきたいと思います。
前回のわたしたち。
2025年7月のとある暑い日、「お昼、冷麺食べに行きたいな」とつぶやいたたかやまさんと蒲田へ。ビビンバや冷麺を食べながら、普段めったに飲まないビールを飲んで上機嫌になったたかやまさんは、わたしを「観覧車乗りに行こう!」と東急プラザの屋上にひっぱっていくのでした。
Weekday∞Weekday

たかやまさんが券売機でチケットを買おうとすると、
「ゴンドラの中、かなり暑いですけど大丈夫ですか?」
と係員のお姉さまが声をかけてくれました。大丈夫です。たかやまさんとわたしがハモって答えて思わず3人で笑いながら、チケットを買いました。チケットをテントの下でぼーっとしているもう一人の係員のお姉さんに渡すと、いってらっしゃーい、とだるそうに返ってきます。こんな暑い平日の昼に2人そろってわざわざ屋上観覧車に乗るなんて物好きですねー、と言っているように聞こえたのは、わたしの性格がねじ曲がっているせいだと思います。
観覧車に乗りこむための階段の脇には
ゴンドラ内の温度 38℃
1周 約3分30秒
と貼り紙がされていて、罰ゲームか拷問のような趣きがあり、乗るなと言われているかのようです(言っているのかもしれません)。緑色のゴンドラに乗りこむと、係員のお姉さまが扉を閉めてくれました。
たかやまさん
「さーさちゃんとふたりで観覧車乗るのすっごく久々? 初めてかも」
ささづかまとめ
「そうですか? いつか乗ったような気もしますけど…」
たかやまさん
「意外と観覧車って乗ってない。あ、でもさーさちゃんとネモフィラ見に行ったときいっしょに乗ったか」
ささづかまとめ
「けっこう昔ですけど、乗りましたね。高校生のころ」
たかやまさん
「あとは…かみね公園行ったとき何回か乗った。乗れるのなくて」
ささづかまとめ
「あ、今年の春に思いっきり乗ってましたね」
花粉症に苦しみながら、閑散とした遊園地で遊んだ記憶がよみがえってきます。動物園も行きました。
たかやまさん
「かみね公園行ったのは去年の春」
ささづかまとめ
「あれ?」
たかやまさん
「うん。でも私も観覧車乗ったこと忘れてたから。おあいこだから大丈夫。今日が初めての観覧車デートってことにしよ?」
自分の記憶力に不安を覚えながら(じゃあ今年の春はなにをしていたんでしょう)、とりあえずそれを保留して外の景色を眺めることにします。所要時間はたった3分30秒なのです。
たかやまさん
「あの建物がなければ都心が見えるのに」
北側にあるガラス張りの建物を指差すたかやまさん。

ささづかまとめ
「日本工学院の校舎ですね」
たかやまさん
「日本工学院? じゃああんまり悪く言わないでおこうかな」
どうしてだろうと考えましたが、たかやまさんはアニメファンなのでした。たぶんそういうことだと思います。
ささづかまとめ
「こっちは意外なくらい線路が見えますね」

たかやまさん
「線路分かれてる」
ささづかまとめ
「右が池上線で左が多摩川線ですね」
たかやまさん
「電車、来なさそう」
ささづかまとめ
「わたしたちの持ち時間が短すぎますよね」
3分30秒はあっという間に過ぎて、ゴンドラの扉を開けてくれた係員のお姉さまにお礼を言って外に出ます。屋上には駅前広場から選挙演説の声が何重にも反響しながら聞こえていて、ほわんほわんしているので内容はわかりませんが、力のこもった演説であることだけが伝わってきます。
たかやまさん
「さーさちゃん、あそこでオレンジジュース飲もう。今がオレンジジュース飲むベスコンだよ」
試験会場はきっとすごくいい香りがする。
かまたえんの片隅に生搾りオレンジジュースの自販機がありました。わたしは飲んだことありません。

ささづかまとめ
「自販機のオレンジジュースってすごく値段がした気が」
たかやまさん
「これは350円だから。笹塚のと違うから」
そう言ってたかやまさんが小銭入れみたいに小さいショルダーバッグからお金を出してさっさと購入ボタンを押してしまいます。
「さあ、おじさん。素早く、でも丁寧に搾ってね」
たかやまさんが自販機の透明なアクリル部分から内側を覗きこんで言いました。え? どういうこと?
たかやまさん
「あ、そのオレンジもっと搾れるよ! ちゃんと握りしめて。もったいないよおじさん! がんばって!」
ささづかまとめ
「もう、なに言ってるんですか」
一瞬何事かと思いましたが、すぐに冗談だと気がつきました。
たかやまさん
「……、さすがに騙されないか。さーさちゃんも大人の女になったわね」
なぜかキメ顔で言うたかやまさん。たかやまさんの斜め後ろの喫煙所にいる本物のおじさまがこっちをすごく見ています。
たかやまさん
「プロのオレンジ搾り師がこの中で握力使ってぎゅぎゅぎゅってやってるの、健気でいい」
ささづかまとめ
「タモリの自動改札機じゃないんですから」
たかやまさん
「なにそれ。私たちの世代それ知ってる? 設定大丈夫?」
設定って。
ささづかまとめ
「ヨルタモリでやってるのをこの目で見ましたから、大丈夫です」
たかやまさん
「おー。さーさちゃんの話の引き出し、ときどきすごい。ヨルタモリ、さーさちゃんの家で一回だけ観た気がする。ヒャダイン出てた回」
ささづかまとめ
「あの番組のトークとかセッションとかは興味なかったですけどね。鉄道のミニコーナーが観たくて。始点・終点とか」
たかやまさん
「そういえばさーさちゃんの実家行ったとき、ブラタモリだけ大量に録り溜めてあったのちょっと怖かった」
ささづかまとめ
「いつかの夏休み、一気見しましたよね」
わたしはタモリみたいなバランスのとれた鉄道ファンになりたいのです。
たかやまさん
「うん。タモリが少しずつ老いていく映像、覚えてる」
海の見えない観覧車に乗りたい。
ふたりで甘酸っぱいオレンジジュースをじゅうじゅう吸いながら、ベンチに座ってぼんやりします。そのうち、エレベーターホールから高校生の女の子たちが何人もやってきてイスとテーブルを占有して駄弁りはじめました。もう学校が終わる時間なのかと腕時計を見ましたが、まだ14時過ぎです。

たかやまさん
「ここの観覧車、海近いのに、海見えなかった」
ささづかまとめ
「海側に区役所の建物があるからですかね?」
たかやまさん
「でも、海見えないほうがいい」
ささづかまとめ
「そうですか?」
たかやまさん
「だって片面全部海とかだと、海だなーってなるだけだから。海が圧倒的で、のっぺりしてて、つまんない」
ささづかまとめ
「そもそもあんまり海好きじゃないですよね」
たかやまさん
「うん。海見てるとなんか、はいはいわかりましたよーって気持ちになる。男の子が(唐突な下ネタにつき自主規制)ときみたいな気持ち。わかりやすいのに、どこかちょっと怖い。それが海」
ささづかまとめ
「わたしも海にはそこまで惹かれないですね」
たかやまさん
「海の見えない観覧車に乗りたいな。よし、今から乗りに行こうぜ!」
そう言ってたかやまさんはずずずっとオレンジジュースを吸いこむと、むせそうになりました。格好、つかなかったです。
たかやまさん
「パルプ、やっばい」
ささづかまとめ
「わかります」
たかやまさん
「さらしぼと同じやつ。下手すると鼻に行く」
ささづかまとめ
「わかりますわかります」
たかやまさんがふう、と一息つきました。
ささづかまとめ
「観覧車のはしごって、やったことありそうでないですね」
たかやまさん
「うん。さーさちゃんの知ってる海の見えない観覧車に連れて行って。今度乗るのは大きい観覧車がいいな」
ささづかまとめ
「東京ドームシティの観覧車なら海、見えなさそうですよね」
たかやまさん
「あんな瘴気で満ちた場所に私を連れていくの?」
たかやまさんがむっとします。そうでした、熱狂的スワローズファンでした。
ささづかまとめ
「ここから簡単に行けて、大きい観覧車で海が見えなさそうなところ…あと1か所くらいしか思いつかないんですけど」
たかやまさん
「じゃあそこに行こう。さーさちゃん、エスコートして」
たかやまさんは立ち上がってわたしを見下ろします。この甘えているようにも挑発しているようにも見える微妙な表情が、わたしにだけ向けられているのはなんだかもったいなく思えました。
ユーフォニアムかついで登ったり、靴ずれしながら登ったりとか、ど根性すぎてわたしには絶対無理だと思いました。
エレベーターで2階に下りて、東急線の蒲田駅の改札口に入ります。
たかやまさん
「どっちに乗るの?」
ささづかまとめ
「えっと、左側に来てる多摩川線に乗るのが最短距離ですね」
たかやまさん
「その言いかた…」
たかやまさんがため息まじりに言って、わたしを見つめます。
たかやまさん
「ほんとはあっちに乗りたいんだ?」
たかやまさんが右側のホームを指さしています。池上線。たしかに乗ったことはありません。無意識に乗りたがってしまったのかもしれません。多摩川線は過去に乗っています。
ささづかまとめ
「そこまで読まないでいいんですよ、ほんとに」
たかやまさんの顔がわりとまじめなので笑ってしまいます。たかやまさんは他人の感情の機微に敏感です。気づいていながらあえて関わらないときがほとんどのようですが、わたしにはぐいぐい来ます。
たかやまさん
「乗りたいなら乗ればいい」
ささづかまとめ
「でも、だいぶ遠回りですよ?」
たかやまさん
「観覧車、ちょっと夕方くらいが景色きれいだし。ゆっくりでいい」
それもそうだと思い、池上線に乗ることにしました。

1番線に入線してきたのは旧3000系復刻塗装の1000系。1950年代の塗装を再現しているそうです。戦後すぐの時代の車両を再現する感じがどこか東急という鉄道会社のイメージに合っている気がします。車内は木目調で統一されていて、明るい雰囲気です。
たかやまさん
「どこか寄りたいところはない? せっかく来たし」
職人の手作りという、木でできた吊り革の輪っかを握ったたかやまさんが言いました。車内はそこそこ混んでいます。
ささづかまとめ
「いつか御嶽山(おんたけさん)駅で降りて、新幹線ウォッチしてみたいなって思ってましたけど…」
御嶽山駅は東海道新幹線の切り通しの上にまたがっていて、ホーム上から新幹線を眺められるのです。
たかやまさん
「じゃあ降りてみよう」
これではどちらがエスコートしているのか、という感じですが、急ぐ用事でもないのでより道するのもいいかもしれません。蒲田から5つ目の御嶽山で下車して、改札口に向かうお客さんたちと逆向きにホームを歩きます。

たかやまさん
「バリアー張ってるね」
ささづかまとめ
「人だけじゃなくて物が落ちても大ごとになりそうですもんね」
数分待っていると新幹線と並走している品鶴線の線路を相鉄12000系が気持ちのいいスピードで通過していきました。100km/hくらいは出しているでしょうか。

ささづかまとめ
「あの電車に乗って行きましたよね、開業したての羽沢横浜国大駅」
たかやまさん
「クリスマスイブに『横浜に遊びに行きましょう!』ってさーさちゃんが言い出して、ついていったらなにもない、名前に横浜ってついてるだけの駅だった。しかもちーちゃんもいっしょだった事件ね」
ささづかまとめ
「あのときはたしか、二俣川の餃子の王将でごはん食べて帰りましたよね。字面だけだと、クリスマスイブの夜に新宿から電車に乗って横浜に行って中華を食べたっていう、すごくちゃんとした日なんですよ」
たかやまさん
「油淋鶏もラーメンも天津炒飯もおいしかった。でもあのときからちーちゃんが私たちを疑うようになった」
ささづかまとめ
「ああ…」
たしかに、あれ以来わたしが「横浜」を初めとした広汎な地名(あとは「都心」とか「東北」とか)を言うと、いちがやさんから具体的にどこかを確認されるようになりました。反省。
カメラを構えているとやがて東海道新幹線の上り線に新幹線がやってきました。

たかやまさん
「これってのぞみ? ひかり? それともこだま?」
ささづかまとめ
「それわかる人いないと思いますけど…いやいるか、いるかもしれませんね」
世界は広いです。新幹線のダイヤを全て暗記している人もいるかもしれません。いや、きっといるでしょう。
たかやまさん
「新幹線とか特急ってなんでおでこに行き先書いてないんだろ」
ささづかまとめ
「いろいろ理由はあると思いますけど、まるっと言うと特急列車は一定以上に賢い人が乗るものだからだと思います」
たかやまさん
「それ、中途半端に語ると炎上しそう」
ささづかまとめ
「ですね。あ、さっきのはひかり650号だったみたいです」
JR東海の列車走行位置のページ、簡潔で見やすくて好きです。
ささづかまとめ
「そういえば、わたしたちこれの前身のひかりに乗ったことあるんですよ? 高校生のときに京都行って帰りに乗ったの、このスジなんですよ!」
たかやまさん
「大吉山に登ってさーさちゃんの体力がゼロになって途中で帰ったときね。暑かったからしかたないけど」
そういえばそういう旅行でした。なんだかわたし、やらかしまくってる気がします。気がするんじゃなくて、本当にやらかしてるんですが。
ささづかまとめ
「その当時はたしか、ひかり520号って言って。名古屋の次が小田原っていう爽快さは今も変わらないみたいですね」
スマホから顔を上げるとたかやまさんがにこにこしている。
たかやまさん
「さーさちゃんも相当だと思う」
だからそうやってにこやかに言われるのが一番傷つくんですって。
ひかり650号を眺めていたら池上線を1本逃してしまったので、引き続き新幹線を鑑賞します。ひかり650号のおよそ6分後にのぞみ20号が、その1分後にのぞみ75号がそれぞれ通過していきました。

たかやまさん
「なんで新幹線って背中が汚れてるの?」
ささづかまとめ
「あれはパンタグラフと架線が擦れて、摩耗した金属の粉がくっついてるんです」
たかやまさん
「顔にはかからないの?」
ささづかまとめ
「洗車したとき落ちるんだと思います。屋根はいろいろ機械がくっついてるので洗わないんですよ」
たかやまさん
「ハクチョウみたいだね」
ささづかまとめ
「ハクチョウ? 鳥ですか?」
たかやまさん
「うん。首だけ茶色い滑稽な鳥」
ささづかまとめ
「鳥には厳しいですね」
その直後にやってきた五反田行きに乗りました。雪が谷大塚で検測車とすれ違って興奮し、第二京浜をくぐったところにある桐ヶ谷駅の跡地を眺め興奮し、終点の五反田駅の改札口を出ます。駅ビルの4階にある改札口に再び興奮しつつ、スターバックスコーヒーでアールグレイのフラペチーノを飲んでクールダウン。ふう、これで池上線は乗りつくしました。
今度はわたしの池上線完乗に付き合ってくれたたかやまさんの希望に応えるため、再びわたしたちは池上線に乗りこんだのでした。
続きはこちら↓
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