思いがけなくトレインビュー。/車窓から廃吊り橋を見つける。
前回はこちら↓
「そこって外からぜーんぶ見えてない? 平気そう?」
ひらいちゃんが言った。たしかに、柵もそこまで高くないし、ガラスでできている。こういうのは大抵、外からは見えにくい材質になっているはず、とは思うけれど。近くに建物は多くないので、個人的にはそこまで気にならない。
ひらいちゃん
「さーさちゃん背高いし、気をつけたほうがいいよー」
ささづかまとめ
「でももうちょっとで快速あがのっていう電車が通ると思うんです、それだけ見たくて」
ひらいちゃん
「へー、電車見えるんだ」
たかやまさん
「どっちから来るの?」
ささづかまとめ
「向こうからこっちに向かってきます。新潟方面ですね」
旅館は咲花の集落のほぼ東端に位置していて、露天風呂の柵からは磐越西線のトンネルの坑口が見えている。やがて風の音にまぎれて、山々に反響しながらジョイント音が聞こえ始めた。まるで列車が阿賀野川を渡ってくるように錯覚する。警笛が聞こえ、線路が振動して鳴り始めると間もなくトンネルから列車が顔を出した。GV-E400系の3両編成が惰行で通り過ぎていく。
たかやまさん
「電車見るの、なんか楽しい」
ささづかまとめ
「いいですよねえ」
ひらいちゃん
「こんなに近く走ってるんだね」
振り返ると、ひらいちゃんがわたしの後ろに立っていた。やっぱり気になっていたらしい。
たかやまさん
「さーさちゃんは壁?」
ひらいちゃん
「隠してくれー。はずい」
ささづかまとめ
「やっぱり電車、見たいですよね!」
ひらいちゃん
「ねー。見たいよねー」
わたしたちは冷めた身体を露天風呂でもう一度温めて、お風呂から上がった。次の電車まで1時間くらいあるのでゆっくりと支度をして、休憩スペースでぼんやりする。たかやまさんが飲み物を求めて自販機を眺めているが、なにも買わずに戻ってくる。自販機にはお酒と高級なミネラルウォーターしか売っていなかったらしい。もっとも、ウォーターサーバーのおいしいお水が飲み放題なので問題はない。
休憩していると、おばさまのグループがやってきて、若干怪訝そうな顔でわたしたちを一瞥してお風呂に入っていった。わたしたちとこの旅館の雰囲気が合っていないのは理解できる。
列車の時間を見計らい1階に降りると、宿のスタッフのお兄さんがさわやかにあいさつしてくれた。わたしの持つ新潟県民のイメージに合致する、真面目そうだがほのかに人間味がにじむ、そんな雰囲気の人だった。お世話になりました、とわたしたちもあいさつをして出る。設備面は正直微妙なところもあるけれど、きっと宿泊してもそれなりに快適に過ごせる旅館なのだろう。
駅に向かって歩く。たかやまさんが「自販機あった!」と叫び駆けていって、衝動的に缶のスプライトを買う。取り出し口の扉を開けようとするとクモの巣が張っていて、たかやまさんが「ごめんよお」と言って笑いながらそれを払いのける。この人は見た目に反して野生児なのだ。
たかやまさん
「手、クモの巣だらけ。ほら見てらいち」
ひらいちゃん
「うわー、はーさまワイルドだー!」
そう言いながらひらいちゃんはわたしの両肩をつかんで背中に隠れた。やっぱりわたしは壁らしい。ひらいちゃんが笑って、その震えがわたしの身体に伝わってくる。なんだかとっても楽しい。2人でも、3人でも、旅行は楽しい。

その後は異世界につながっていそうな道を異世界側から覗いてみたり(覗くだけで歩きはしない)、どこかの施設で日帰り利用を断られたグループに「温泉入れるところ知りませんか?」と聞かれてわたしたちの行った旅館を教えたり、駅前にある石碑を眺めたり、駅舎にある展望デッキで風に吹かれたりした。今日は本当にいい風が吹いている。冷たくもなくぬるくもない、やわらかくてさわやかな。この風を浴びるために旅行に来たのかもしれない、と思わせてくれるような風だった。
列車の時間が近づいて、展望デッキでカメラを片手にじっと待つ。GV-E400系が姿を現した。本当はSLばんえつ物語を眺められるようにと整備されたデッキらしいのだが、新しい気動車が徐々に近づいてくるのを眺めるだけでも十分楽しい。
やってきた普通列車は津川行き。途中駅で終点になってしまうのに4両もつないでいるせいか、車内はものすごく空いている。ふかふかしたシートで座り心地もいい。三川(みかわ)の手前で阿賀野川を渡って左岸から右岸へ。

三川を出てトンネルを出ると阿賀野川の川幅たっぷりに水が溜まっている。これは下流方向にダムがあるからだ。阿賀野川の電源開発の徹底ぶりは日本でも有数で、全国の水力発電量のおよそ7%を阿賀野川水系が占めているそうだ。
ささづかまとめ
「電車で駅近ダム巡りとかしてみるのもいいですよね」
たかやまさん
「いつかやった気がするけど。ダムカレー食べた回」
ひらいちゃん
「ダムって水がだーって出てるところに虹がかかってる、ああいうのでしょ? 一回見てみたい」
たかやまさん
「うん。あれも駅近い」
ささづかまとめ
「黒部ダムを駅近と呼びますかあ」
たかやまさん
「トロリーバスは電気バスになっちゃったけど、もう片方はケーブルカーだから駅」
ささづかまとめ
「詳しいですね」
ひらいちゃん
「はーちゃんも電車好きなんだっけ?」
たかやまさん
「ちがう。私は北アルプスのファン。アルペンルート行こうっていつも言ってるのにさーさちゃんが連れていってくれない」
ささづかまとめ
「わたしのせいなんですか? まあまあ、いつか行きましょうね」
たかやまさん
「絶対連れていかないお母さんのセリフ」
ひらいちゃん
「アルペンルートって、雪の壁の中をバスが走ってるやつ?」
たかやまさん
「おおー! らいち正解! そのとおり! ものしりすごい!」
ささづかまとめ
「よく知ってますねー!」
ひらいちゃん
「うわ、ふたりから褒められるなんて自尊心えぐっ」
たかやまさん
「よし。じゃあその状態のまま今すぐTwitterでなんかつぶやこう」
ひらいちゃん
「……こっわ。絶対勘違いツイートしちゃう」
ささづかまとめ
「すごいこと思いつきますね」
たぷたぷしている阿賀野川の縁をなぞるように列車は走る。ふと、車窓の向こうに廃橋の痕跡を見つける。

ささづかまとめ
「あれは…、吊り橋の主塔っぽいですね」
たかやまさん
「うん。あれだけ残ってるの怖い」
ひらいちゃん
「ミステリー?」
たかやまさん
「うん、ミステリー」
ひらいちゃん
「ふたりとも目がキラッキラしてるね」
ささづかまとめ
「旅行は謎解きみたいなものですからね。でも、ほんとなんなんでしょうねあれ…」
たかやまさん
「またあとで調べよう。そろそろ着くっぽい」
後日調べてみると、この橋は昭和橋という名前で、川の向こうの石灰石の採掘場に従業員が向かうための木製の橋だったそうだ。昭和50年代ごろに洪水で流されたとされているが、詳細は不明とのことである。
列車は津川に14時48分に着いた。この列車は津川止まりで、会津若松に行く列車はなんと17時21分までない。2時間半あまりをどう過ごすのか。

この旅行はひらいちゃんの発案だ。わたしとたかやまさんが普段しているようなローカル線の旅行をしてみたい。そういう動機で始まった。ならば本気で体験してもらおう、わたしたちの旅行のスタイルを。というわけで、ここからとなりの鹿瀬(かのせ)駅まで、一駅散歩に出発する。

ささづかまとめ
「さあ、歩きますよー!」
ひらいちゃん
「よし、行こう行こう!」
たかやまさん
「トイレ行って、飲み物買って、それから行こう」
ささづかまとめ
「あ、ですね、そうしましょう」
ひらいちゃん
「こういうところでちゃんとするのははーちゃんなんだ。意外だね」
ささづかまとめ
「それいちがやさんも言ってたんですよ…」
たかやまさん
「さーさちゃん放っておけないから。私がちゃんとしないと」
ひらいちゃん
「なるほどね。まあなんかわかるわー」
ささづかまとめ
「そんな頼りないですか?」
たかやまさん
「ううん、そうじゃない。さーさちゃんは背が高いだけでHP少なくて、しかも自覚してない。放っておいたら死んじゃう。私がリソース管理してあげなきゃってなる」
ひらいちゃん
「はーちゃんは自分の胃袋の管理しかしない人だと思ってたよ」
ささづかまとめ
「あれは管理してるって言うんですか? ひたすら食べてるだけなんじゃ…」
たかやまさん
「ううん、オーバーフロー起こしたことないから。ちゃんと管理してる」
ささづかまとめ
「オーバーフロー?」
ひらいちゃん
「オーバーフロー(物理)ってこと?」
たかやまさん
「うん。食べすぎて吐いちゃったこと、一度もない」
ささづかまとめ
「ああ! そういう意味ですか」
ひらいちゃん
「まあえらいっちゃえらいよね」
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