⑰ 都市をつなぐ路線、それでも生き残れないのか~池北線(1986年8月)
移動している話だけでは面白くない……と思われる方もいらっしゃるかもしれない。
しかし、この時代のごく普通のローカル線の姿を淡々と記しておくことは、あの時代を生きた鉄道ファンとしての義務のような気がする。
というわけで今回は、どちらかというと地味で退屈なローカル線、池北線を紹介したい。
池北線はその後、第三セクターの北海道ちほく高原鉄道・ふるさと銀河線として2006年まで生き残り、以前にも記事にしたことがある。
都市間を結ぶ路線ではあったが、当時からすでに廃線候補のひとつに挙げられていた。

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都市近郊のローカル線
夜行急行「大雪」は北見に5時23分に到着した。この駅で地北線に乗り換える。
池北線は、石北本線の北見から石狩山地を越えて、根室本線の池田から帯広を結ぶ路線だ。
両端に大きな都市を持ちながらも、廃止指定を受けている。
インターシティの鉄道として、どうしてやっていけないのだろうか……。

6時00分発の930Dは、帯広発の一番列車で、キハ40の帯広行きを先頭に、キハ22の置戸止まりを連結した3両編成だ。
車内は閑散としている。私は終点まで行くので、先頭の帯広行きに乗る。
新車のキハ40なのに、車内にはほこりがたまっていた。窓枠には虫の死骸も……。
北見を出ると、列車は置戸まで北見盆地を走る。
デパートもある大都市近郊のため、2〜4キロおきにこまめに停車する。
こんなに駅間が短いのは、北海道では珍しい。
さすが新車のキハ40。音は静かで、乗り心地も良い。朝日がまぶしいが、窓を閉めてちょうどいい暖かさで、眠気を誘う。
今日もいい天気だ。

50分も盆地を走り、置戸には6時50分到着。ここで後ろ2両切り離す。この車両が、置戸発の通学列車になる。6時58分、1両になった930Dは出発した。
苦しい北見山地越えて十勝平野へ
1両になった途端、ローカル線ムードが増加し、いよいよ北見山地の峠越えが始まる。駅距離間距離もいきなり16kmと北海道スケールになり、その16kmを27分もかけて登る。停止寸前の速度で、しかし、エンジンはめいっぱい吹かして苦しそうに登る。
北見山地の大森林の中を走るだけ。車窓は深名線と似ている。素晴らしいのだが、眠い。とにかく眠い。いつまで走っても、森の中。速度はノロイ。朝日はあったかい。眠るのには十分だ。
地北線は、この置戸〜陸別間の列車が少ない。北見発は置戸止まり、池田発は陸別止まりが多く、北見山地を越える列車は限られている。
なぜか……この景色を見れば十分わかる。こんな急な坂を、客も乗せずに登るなど、ばかげたことをするわけがない。坂を上る列車は16kmを27分、下りはわずか10分。同じ区間で、速度が3倍近くも違うのだ。時刻表を見るでだけで、そこに峠があることがわかる。

峠に苦しむディーゼルカーは、まるで人間のようだ。小利別、川上、分線、そしてやっと陸別。峠を越えた。
ここから帯広盆地へ下っていく。
陸別でキハ22を1両増結し、2両編成となって7時53分に出発する。
次の薫別には8時に到着。駅の近くでは牛が遊んでいる。のどかなところだ。
途中で列車の行き違いもあった筈だが、とにかく眠い。記録もあいまいになってくる。

8時34分、愛冠に到着。下車してみたくなるような駅(駅名)だ。列車はこの先、小さな、「駅」とも呼べないような駅を拾いながら進む。
足寄で大量の乗客が乗り込んできたので、さすが帯広郊外だなあと思っていると、本別でどっと下車してしまった。
足寄は、帯広や池田といった大都市と関係のない、独立した街のように思える。
乗降客数が千人を超えるのは、池田と本別、足寄、置戸、訓子府はそれ以下で、その他の駅は百人、十人、あるいは一桁と、寂しい限りだ。
終点の池田には9時45分に到着。
約4時間40分の旅はここで終わるが、列車はこのまま根室本線に乗り入れ、終点の帯広には10時20分に到着した。
次に乗車する広尾線は、14時14分に帯広を出る。
それまで時間が余りすぎるので、特急で池田まで戻り、ワイン城でも見に行こうと思う。
生まれて初めて飲むワイン
池田に着き、案内窓口でもらった地図やパンフレットを見ていたら、若い男の人に
「噴水をバックに写真を撮ってくれ」と頼まれた。
噴水とは、駅前にあるワイングラス型の噴水で、昼は白ワイン、夜は赤ワインの色の水が出る、有名なものだ。
池田はワインの産地として知られ、ワイン城は観光名所として開放されている。比較的メジャーな観光地だ。

写真を撮ってくれと頼んだのは、福島から来た男性で、きつい東北弁を話す若者だった。
「一緒に行きましょう」と言われ、2人でワイン城を目指すことになった。
駅より釧路側の丘の上に立つ城は、まさしくお城だった。
芝生の上にそびえる建物は、とても工場とは思えない。観光客の多くは、その芝生の上でくつろいでいた。
私たちは、とりあえずワイン城の中に入ってみた。
工場見学をして、城の上に出ると、十勝平野が一望でき、いい眺めだ。
中世風のしゃれた城は、北海道の雄大な自然によくマッチしている。
ここでは、さまざまなワインが販売されており、非売品ではあるが、町民還元ワインは1杯250円で飲むことができる。
東北から来た旅人はワインを注文した。
すると、売店のおばさんが私に
「ぼくはどうするの?」と聞いた。
……「ぼく」ってあんまりだろう。
「同じものを」とワインを注文した。私は未成年だ(この時代、未成年の飲酒にはおおらかだった)。

ワインを飲むのは初めてだった。
まさにほっぺたが落ちるような甘い味がする。
お金があれば、城内のレストラン「十勝」でステーキを食べたいものだ。
ある分量のステーキを45分で食べるとタダになるというメニューもあるそうだが、やめておこう。死んでしまう。
ともかく、お金さえあれば豪華な食事もできるのだが、金がない。一緒にいた東北の旅人も同じらしく、ワインを飲むのにとどめておいた。
それにしても、ワイン城はいいところだった。
町を挙げて観光地にしているだけあって人も多いが、十勝ワインといえば今や名ワイン。その産地へ行けて、本当に良かった。
できれば、ワイン祭やステーキ祭りの時に来れば、さらに楽しめただろう。
次はいよいよ、広尾線と黄金道路を走る国鉄バスに乗り、襟裳岬を目指す。
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