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⑱ 愛の国から幸福へ、🎵岬めぐりのバスは走る〜広尾線・襟裳岬(1986年8月)

今回は、広尾線(1987年廃線)と、黄金道路を走るバスで襟裳岬を目指す旅である。

黄金道路とは、断崖を切り開き、長い年月をかけて開通した国道のこと。建設費があまりにも膨大だったため、「黄金道路」と名付けられた。

この襟裳岬には、かつて旅人の聖地とも言われた「えりも岬ユースホステル」があった。

広尾から先はバス

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乗ることが目的の鉄道路線

池田のワイン城を見学し、普通列車で帯広に戻ってきた。次に乗車するのは、14時14分発の広尾線825Dである。広尾線は、「愛国から幸福行き」「新生から大樹行き」の縁起切符で知られている。

キハ40を先頭に、キハ22を従えた2両のディーゼルカーは、定員以上の乗客を乗せて出発した。ワイン城で知り合った東北の旅人と一緒に列車に乗り込むが、満席で座ることができない。彼は幸福で下車するそうだ。

「愛国から幸福行き」の縁起切符がブームになってから随分たつが、今なお人気がある。広尾線の廃止が決まっている現在、名残り乗車で訪れている人も多いようだ。

観光客で賑わう愛国では数分停まる。サービス停車しているようだ。行き違いもないのに、こんなに止まるわけがない。

これは2年後、廃線跡を訪れて撮影

続いて愛国、大正、幸福と停車する。幸福では、東北の旅人が下車するそうなので、私は駅名標をバックに写真を撮ってもらう。

しかし、シャッターを押す瞬間、カメラの前を1人が横切ってしまったのでボツ。もう1枚撮ろうとしたら、もうフィルムがなかった。なんと不運!

駅名標をバックに写真を撮っているのは、女の子が多い。女の子に注目されている鉄道、しかも「乗ること」を目的とされている鉄道なんて、日本中でもここひとつだけだろう。

しかし、シーズンこそギャル(昭和の表現だなぁ……)で賑わう広尾線も、オフになるとおそらく閑散としているのだろう。幸福駅は有名なわりにちゃちな駅で、ホームは板張りの小さなものだ。仮乗降場と変わりがない。

この駅は普段の乗降客の延べ数が50人ほどという。畑作、酪農地帯のど真ん中では、家も見当たらない。そこで大量に降りた人たちは、次の列車まで何をして待つのだろう。上り列車は約1時間後だ。

一応無人駅だが、シーズン中は駅員がいるのだろうか。駅付近には小さなお土産があった。幸福ブームのピーク時には年間740万枚も売れた切符も、近々思い出となってしまう。

84kmの風景、広尾線最後の夏

しばらく列車は幸福駅で停車していたが、私は写真の失敗でしょげてしまい、スタンプも押さずに列車に戻ってしまった。ずいぶん下車したにもかかわらず、車内にはまだ立ち客がいた。

大樹駅

客室が混雑しているので、連結部分の運転台脇の助手席に座った。スピードメーターが見られて楽しい。ローカル線といえども、スピードは結構出る。並走しているツーリング中の大型バイクを抜き去る。バイクに乗った人はみな手を振っていた。私も手を振り返す。

薄い雲がかかった空の下、全長84キロの沿線には、大豆や小豆、じゃがいも、ビートの畑、そして牧場が広がり、ようやく開放的な気分になる。

家もまばらなのに客が多いのは、襟裳岬への観光客のせいだろう。廃止したくなるような乗車率でもないな、と思ってしまう。

上更別で上りの828Dとすれ違う。駅員さんはタブレットを受け取り、ポイントと信号機をどっこいしょと手動で切り替える。とてもキビキビしていた。

縁起切符で人気の大樹には15時36分に着き、新生には16時10分に着く。駅に着くたび、助手席の下に置いてあるかごの中から、駅員が自分の駅の書類を見つけて持っていく。

列車は平地をかなりの速度で進むため、開け放たれた窓からかなりの風が入ってくる。私は助手席の乗務員用の扉の窓を開け、立ったまま外を見ていた。少々寒い。

車窓からみた牛の行列

牧場の中を一列になって歩く牛を見たときは、さすがに驚いた。牛は一列に歩くものなのか……。防風林をバックに、牛さんは歩いていた。

新生駅は16時01分。あと一駅5キロを7分で走って列車はようやく終点。広尾に到着した。

岬めぐりのバスは走る

広尾駅は大きな駅舎があり、待合室は若い観光客でいっぱいであった。駅前ロータリーにも、襟裳岬へ向かうバスに乗る人の長い列……。

広尾駅

ところで、襟裳岬を経由して日高本線の様似に抜けるバスだが、日高本線も広尾線も一日に数本しか走らないローカル線だというのに、接続が悪く、岬を見ようと思うと一泊しなくてはならない。

バスに乗って襟裳岬へ

宿を決めずに来てしまったが、どうしよう……。次のバスは16時10分発の様似行きだ。この便だけは接続が良く、終点の様似で日高本線の最終に乗り継げる。しかし、乗り通すと名勝地の襟裳岬を見ることかできない。

途中下車すると、今日のバスはもうない。

襟裳岬で、ユースホステルに泊まるしかなさそうだが、その予約もしていない。

バスを待つ男女の若者たちは、ユースホステルに泊まる人たちだろう。数日前、帯広のユースホステルの前で、若者たちがラインダンスで列車を見送るのを見て以来、私は彼らが少し怖くなっていた。

そして、私は大学生の男女のグループが苦手だ。大学でもいったんはサークルに入ったが、ただ遊ぶためだけに集まった人たちには馴染めず、やめようと思っている。バスを待つ男女に、そんな苦手な連中と同じ匂いを感じはじめていた。

どうでもいいやと思い、駅の窓口で「新生から大樹まで」の切符を買い、バスに乗る人の列の後ろに並んだ。

野宿しよう。襟裳岬で寝てやろうじゃん。

16時10分発のバスは、少し遅れて発車した。車体は北海道によくあるツードアで、2人掛けのシートが並ぶ一般的な路線バスだ。2時間以上も走るバスにしては、設備はあまり良くない。国鉄バスなので、周遊券でそのまま乗れるのはありがたいが、混雑していて座ることはできなかった。

曇って暗くなり、気分は重い。黄金道路と呼ばれる岬をめぐる道路は空いていて、バスは快走した。

やがて、右には日高山脈、左には太平洋が見える。海はなんという寒色なんだろう。鉛色というより灰色で、海霧が立ち込め、とても寒い。バスの窓はすべて閉められている。

「わー、怖い」と乗客が叫んだ。

乗客といっても、ほぼ全員が若い男女だ。小グループの人たちは黙って、この荒涼とした厳しい景色を見ている。しかし、バスの後部にいる大きな男女グループは、いちいちキャーキャー騒いでいる。やはり、彼らとは一緒になりたくない。

これも2年後に撮影

怖い……。波は高く、デザラポットを乗り越えた水しぶきが、道路にも容赦なく降りかかる。進むにつれ、景色は異様さを増し、もはや形容詞すらつけられない。沿岸の小屋のような家々も、何か必死に耐えているように見える。

激しい……。海霧と冷たい海風、白い牙をむいた灰色の海。内陸側は山地なので、バスは海沿いを走らざるを得ない。波はテトラポットで消そうとしているが、道路は濡れている。波の高い場所では、バスはコンクリートのシェルターの中を通る。

寂しい……。そんな中を海鳥が飛んでいる。晴れていればきっといい景色なのだろうが、曇った日の夕方に見る景色ではない。恐怖で怯えたような乗客を乗せたバスだったが、突然、笑い声があがった。海鳥が、魚ではなく、マヨネーズの容器をくわえて飛んでいたからだ。

嘘でしょ……。乗客全員が声を上げた。こんなところで泳いでいるやつがいる。窓も開けられないほど寒いのに、海水はどれほど冷たいのだろう。霧も波も立ち込めている。昨日、列車の中で話した短大生が言っていた「北海道の人は冷たい海で泳ぐ」という話の意味が、よく分かった。

地元客が下車し、やっと座れたと思ったら、ユースホステルの前で停まり、大量の下車があった。若い男女が次々とユースホステルに吸い込まれていく。

何も見えない襟裳岬

岬に着いたのは、17時20分を過ぎていた。「すぐに出発するので、スタンプを押しに行くだけにしてくれ」と運転士。バスの遅れを気にしているようだ。ちなみに、定時でも停車時間はわずか3分だ。私はここで下車すると告げた。

日勝峠のバスみたいに、どうして観光停車ができないのだろう。寒いし、風も強い。とりあえず土産物屋の中で温まる。えりも岬がこんなに寒いとは思わなかった。ここで野宿なんて、とんでもない。しかし、今日のバスはもうない。

何も見えない

とりあえず岬へ行ってみようと思い、濃霧の中を歩いて岬の先端にたどり着いた。霧笛がものすごくうるさく、風も強い。しかし、霧で何も見えない。

とんでもないことになってしまった。何のために岬に来たのだろう。これでは、あのままバスに乗って行った方が利口だったと後悔する。

岬に立っていても仕方がないので、バス停に戻る。えりも行きのバスが来た。このバスは様似ではなく、えりも街の中心部へ向かう。野宿するにしても、街の中心部へ行き、バス停のベンチで寝るほうがましだと思い、このバスに乗ることにした。

もとより、今日中に様似には行けないのだ。静内発の特急バスがつき、私を乗せたバスが18時30分に発車すると、急に霧が晴れ上がった。

この時代、静内から国鉄バスが連絡していた
日高本線と並行してバスが走っていた

バスは街の中心に向かった。再びえりも岬ユースホステルが見え、一瞬、ここに泊まればよかったかと思わせた。しかし、このユースホステルのミーティングでは「岬めぐり」という歌をオリジナルの振り付けで踊ることを強要されることで有名だ。……無理だ。

バスは私ひとりを乗せて、25分走り、えりもに着いた。バスの営業所があり、小さな市街地だ。まだ夜の7時だが、することもない。

バスの待合室は、20時20分に終バスが到着したら閉まってしまうそうなので、どうやら今夜の宿は、待合室の外のベンチになりそうだ。

PS.えりも岬ユースホステルの話は機会があれば……

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