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⑪ 北海道の「ひっそり駅」巡り〜沼ノ端、銀山(2025年1月)

夜明け前の函館。凍った道を踏みしめながら駅に向かう。
「〽まだ眠っている町を抜け出して駈け出すスニーカー…」
脳裏に浮かぶ歌は、中島みゆきさんの「おだやかな時代」。未明の旅立ちって、いいわぁ。さぁ、函館本線の秘境駅、比羅夫に向かおう。

沼ノ端、銀山、比羅夫と魅力的な駅を巡ります

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雪原の中で輝く小さな駅

函館駅のホームは、ゆるやかに弧を描いている。内側から見る長編成の列車は、編成全体の側面を見せてくれ、旅情をいっそうかきたててくれる。かつて旧型客車の夜行列車、寝台特急「北斗星」でこの駅から旅立った。そして、私が最も多く利用したのが、これから乗車する特急「北斗」だ。車両は変わっても、あの雰囲気は今も変わらない。

出発を待つ特急北斗

06時02分に函館を出発した列車は次第に高度を上げてゆく。街明かりが遠ざかっていく一方で、東の空はほのかに明けはじめていた。眠ろうかとも思っていたが、車窓にくぎ付けになっていた。

今、まさにブルーアワー。列車が通過する上りホームには、小さな明かりが灯り、雪原の中で青白く輝いていた。雪国の一日の始まりを感じさせる光景だ。函館本線は、今もこの地に暮らす人々の生活を支えている鉄道である。旅客営業が廃止されてしまえば、こうした風景も、もう見られなくなってしまうのだろうか……。

駒ケ岳のシルエット

駒ヶ岳のシルエットが車窓に浮かぶ。函館本線は何度も利用した路線であるが、このように駒ヶ岳を見るのは初めてである。函館山が北海道のイントロだとすれば、駒ヶ岳はAメロだと思う。

噴火湾から朝日が昇る

噴火湾から朝日が昇ってきた。雪原がオレンジ色に染まる。海の向こうに、ひときわ輝く霊峰が姿を現した。羊蹄山だと思われる。この場所から拝むのは、これが初めてだ。荘厳な夜明けの光景に、言葉も出ない。

噴火湾越しに見る羊蹄山

沼の端にある駅だから沼ノ端

南千歳に09時19分着。特急を降り、すぐに石勝線の特急に乗り換える。特急券は車内で買おうと思っていたが、検札が来なかった。そのまま下車した追分で支払うつもりだったが、いつの間にか無人駅になってしまっていた。特急停車駅にもかかわらず無人駅とは……。

追分駅に停車中の普通列車

ここから室蘭本線の09時53分発の苫小牧行きに乗る。昨年、岩見沢から苫小牧行きに乗ったが、途中の追分で下車したため、今回はその続きとなる区間を旅することになった。そして、10時20分、沼ノ端で下車する。

室蘭本線はかつての貨物列車の大動脈
複線化されているが、現在の運転本数は数往復

沼ノ端は駅名が示すように、ウトナイ沼の湿地帯の端に位置する。室蘭本線と千歳線が分岐するジャンクションでもある。地図上で見ると、広大な勇払原野の中に駅だけがぽつんと存在している。

苫小牧方面は千歳線とは別線

荒涼とした雰囲気を想像していたが、実際には周囲に住宅地もあり、駅舎も近代的で、大都市近郊の駅のようだった。ネットで調べればすぐにわかることだが、私はなるべく事前に調べずに旅をする。現地で発見する楽しみを失いたくないからだ。

奥が現在の駅舎、手前が昔の駅舎

無人駅だが、列車を待つ乗客は多く、学生風の若い人も目立った。何でもない風景だが、活気があるのは良いことだ。昼食を確保したかったが、付近にコンビニはなく、少し遠くの大型店舗まで行くには遠すぎる。諦めて札幌方面の普通列車に乗った。満員で、座ることはできなかった。

旧駅舎は保守基地になっていた

札幌では窓口に行き、先ほどの特急料金を支払う。
「210円です」
「自由席は廃止されたんじゃ?」
「あ、そうですね。740円いただきます」
JR北海道は儲かっていないのだから、しっかり徴収してほしいが、ひと区間だけでも、こんなに払わないといけないのが……。

寅さんも訪れた峠の小さな駅

小樽で列車を乗り換え、山線に向かう。小樽駅はインバウンド客で大混雑しており、2両編成のローカル線も通勤電車のような混雑だった。

峠の隘路を列車は行く

小樽を13時49分に出た列車は、塩谷峠に挑む。急カーブが連続する急勾配区間だ。雪に閉ざされた沿線には人の気配はなく、夏ならば原生林の中を走っているように感じる区間でもある。

函館本線の山線は、車窓こそ秘境のような風景が広がるが、車内は賑やかで、そのギャップには、いつまで経っても馴染めない。

倶知安方面

峠を越えてもさらに登り続け、やがて14時42分。山線の最高地点である銀山駅に到着する。列車はここから倶知安側へ稲穂峠を下っていくことになるが、私は雪に閉ざされたこの駅に降り立った。

小樽方面

私は映画「寅さんシリーズ」が大好きだ。旅で知り合うマドンナにいつもふられて傷心し、また次の旅に出る……自分を重ねているともいえるが、なによりも映画に登場する鉄道がマニアの心をくすぐる。その『望郷編』に登場するのが、この銀山である。

構内踏切付近からホームを見る

蒸気機関車が牽引する貨物列車を、寅さんはタクシーで追いかけ、この駅で追いついたが、列車は無情にも通過してしまうシーンがあった。寅さんはさらに列車を追いかけ、小沢で追いついたのだ。

現在の駅舎

映画が公開されたのは50年以上前で、函館本線山線を行く列車も当時とは大きく異なっている。銀山の駅舎は雄信内のような立派な木造で、小沢も渋い木造駅舎だった。岩内線のディーゼルカーも映っていた。

2025年現在の銀山の駅舎は、小さな待合室があるだけの、まるでバス停のような作りだった。事務室には人の姿があったが、除雪バイトのお兄さんが待機していた。今日のように雪が降っていない日は暇なのでは……。職員ではないため、列車が発着しても姿を現す必要もない。

小樽行きの列車が停車中

両方面から坂を登りきった峠の頂にある駅は、山の斜面に建てられ、谷に面している。駅舎から外に出ると、眼下に雪に閉ざされた集落を俯瞰できた。今は数軒の家しかないが、ルベシベ鉱山が稼働していた頃は賑やかだったに違いない。

動画からキャプション

ホームから集落を見下ろすと、まるで山頂に立っているような気分になる。列車が出発してしまうと、物音ひとつしない。この景色を独り占めしている幸せを感じる。あとで気がついたが、この景色を撮影していなかった。撮影することすら忘れていたのだ。もちろんスマホのことも忘れていた。

ひっそり駅付近を散策する

次の列車まで1時間。周囲を散策しようと思った。しかし、集落に行くには急な階段を降りなければならず、利用者にとっては辛いロケーションだ。滑り落ちないように気をつけながら、集落につながる道に出る。人っ子ひとりいない集落だったが、小さな売店があった。

木村商店

扉を開けて中に入ると、奥から女将さんが出てきてくれた。いわゆる万屋のような小さな売店は、JR北海道から委託されて乗車券も販売している。ここで常備券を購入した。缶コーヒーを買って、店先で飲む。人の気配もなく、時が止まったような場所だったが、女将さんと会話したことで心が温まったような気がした。

頂いた便箋と常備券

急坂を上り、また銀山駅に戻ってきた。2面2線の小さな駅だが、しっかり除雪もされていて、維持コストも相当なものだろう。しかし、私以外に乗客の姿はなく、付近の住宅は数えるほどで、鉄道駅としての役割はとっくに終わっているように感じた。駅ノートには色々な思い出が書かれていて、読んでいてほっこりしたが、それだけで駅を維持するのは難しいと思う。

集落から駅を見る

なお、銀山駅は秘境駅のランキングに入っているが、秘境という表現がここに住む人に失礼な気もした。そこで、あえて「ひっそり駅」と勝手に表現したいと思う……。

駅に行くには階段を登る

日が暮れかけた16時06分、坂を上って2両編成のデクモがやってきた。車内は相変わらず通勤電車のように満員で、この景色とのギャップがすごく、心が追いつかない。列車は峠を下り、倶知安の街に向かった。今日の最終目的地は、倶知安で乗り換えた先の秘境駅、比羅夫である。

旧銀山駅のイメージ Gemini作

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