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黒パグ文芸部② noteAIを使ったらすごいお題をもらったので小説を書いてみた件 #AIとやってみた #連載小説 #SF 第一章

こんにちは黒パグです🐾
前回投稿したプロローグが思いのほか好評でびっくりしました!!
みなさん読んでいただき本当にありがとうございます😭
続きを書いてみました。4700字ありますのでお時間のある時にお読みください!


漆黒の生命体が重力を無視して旋回する物理学的考察
——辺境伯令嬢ミストレルの航海録——001

 第一章 帝都アルガンディア

 リーン星系——その版図は銀河の七つの腕にまたがり、数えきれないほどの惑星が帝国の旗のもとに束ねられている。その中心に位置するのが、帝都アルガンディアだ。
星全体が、人工物に覆われている。かつてそこに緑があったかどうか、今となっては誰も覚えていない。
大気圏の外縁から地表の最下層まで、あらゆる空間が人の手によって造られ、積み重ねられ、更新され続けてきた。
軌道上には無数のステーションが連なり、大気圏内には幾重にも重なった都市層が息をしている。
夜になっても暗くならない星——光だけは、どの時代も途切れたことがない。
この星でもっとも権威ある場所といえば帝城周辺をおいて他になく、城壁に囲まれた中枢区画の外縁を高台の貴族街が静かに取り囲んでいる。
白い石造りの邸宅が緩やかな丘の斜面に並び、帝城の尖塔を見上げる形で建ち連なるその光景は、帝国の秩序そのものを体現しているようだった。

 彼女はその権威の中心部に程近い場所で生を受け、帝都の学院を最優秀で卒業し、誰もが羨む輝かしい未来を歩むはずだった。彼女の名は、ミストレル・フォン・グライフェンベルク。リーン星系内で知らぬ者はいないとまで言われる辺境伯令嬢であり、帝国星系軍総司令官の一人娘だ。そんな彼女に言い寄る男は、そうはいない。
いたとしても、何故か言い寄った男が翌日には最前線へ志願しているなど——彼女は、男運がなかったのだ。

 グライフェンベルク邸は、帝都でも指折りの大邸宅である。
帝城を見上げる高台のもっとも眺めの良い区画に建てられた白亜の館は、正門から玄関までだけでも大の大人が百歩は歩く。左右に広がる庭には手入れの行き届いた植栽が並び、人工の空の下でありながら、ここだけは季節の移ろいを思い出させる緑が保たれていた。この星で「庭」を持てる邸宅がどれほどの希少価値を持つか——貴族街の住人なら誰でも知っている。館の内部は外観の格式をそのまま内側に持ち込んだような造りをしており、高い天井、磨き上げられた石畳の廊下、壁に掛かるグライフェンベルク家歴代当主の肖像ーーいずれも威圧感という点では申し分ない。朝、その廊下をヒールが軽やかに打つ音が響く時間帯がある。

 食堂は館の東翼にあった。朝の光——正確には、アルガンディアの人工照明が「朝」の色温度に切り替わった光が高い窓から長く差し込んでおり、磨き上げられた石床を斜めに横切る光の帯の中を朝食の湯気がゆっくりと昇っていた。本物の食材の香りだ。フードカートリッジでも合成品でもない、正真正銘の料理が艶やかな白磁の器に盛られて並んでいる。焼きたてのパンの匂いが微かに甘く漂い、その奥に肉の焼ける香ばしさが重なっている。テーブルは十人は座れる大きさだが、使われているのはいつも片端の三席だけだった。白磁の食器が照明を受けて柔らかく光り、銀のカトラリーが並ぶその片隅だけが、この広すぎる食堂の中で唯一温度を持っているように見えた。ただし今朝は、少し様子が違った。父の席に、ホログラムがない。辺境伯家の当主は帝都にはなかなか来られない。グライフェンベルク家の領地は遠く、父リコリスは常にその地で政務に縛られており、食事を共にする時間といえば専ら時刻を合わせてホログラム越しに顔を見せるのが常だった。それが今朝はーー本物だった。しかも。

「あらあら? あなた、今日はなんだか元気ないわよ?」

マリアンネが微笑んだ。頬杖をつくその仕草さえ絵画のように整っている。年齢不詳という言葉がこれほど似合う女性もいない。バイオテクノロジーの恩恵を余すところなく享受したその横顔はどの角度から見ても完璧で、朝の斜光の中でなお眩しいほどだ。父はといえば対照的にすっかりやつれた表情で食卓についており、星系軍総司令官の威圧感はどこへやら、椅子に沈み込むような肩の落ち具合が何かを雄弁に物語っていた。マリアンネの微笑みが一段深くなる。何も言わない。何も聞かない。ただ、笑っている。ーーリコリスの背筋が、ほんの少しだけ伸びた。そこへ。

「お母様、お父様、おはようございます」

ミストレルが食堂に入ってきた。ヒールが石床を叩く軽やかな音が二つ三つ響き、朝食の匂いを纏った空気がわずかに動いた。父の厳つい顔が一瞬で崩れた。リコリス・フォン・グライフェンベルクーー帝国星系軍総司令官、その名を聞けば前線の兵士が背筋を伸ばすと言われる男が、娘の顔を見た瞬間に椅子を鳴らして立ち上がり、両腕を広げてハグしようと近づいた。三歩目で、その足が止まった。マリアンネが、ただ微笑んでいた。声もなく、動きもなく、ただにっこりと、静かに。カトラリーを持つ指先はテーブルの上で組まれ、その微笑みは夫を見ているのか、娘を見ているのか、あるいはこの食卓の全体を眺めているのかーー判別がつかなかった。リコリスは踵を返した。何事もなかったかのように自分の席に戻り、ナプキンを広げ、すでに冷め始めたスープの匙を手に取った。

 食事は和やかに進んだ。本物の料理の香りが漂い、食器が触れ合う小さな音だけが静かに響く。マリアンネはいつものように優雅で、ミストレルはいつものように食欲旺盛で、リコリスは娘の様子を目を細めて眺めていた。やつれた顔も、娘が隣にいる間だけは柔らかくなる。デザートが運ばれてきた頃、ミストレルの手からフォークが皿に戻された。小さな金属音が一つ鳴り、それがこの食堂の空気を変えた。ミストレルは居住まいを正し、父に向き直った。「お父様」と呼びかけると、リコリスのスプーンが皿の縁に当たって止まった。

「先日をもって、訓練が終了いたしました。私は、わたくしは是非ーー」

声はまっすぐだった。けれどもその声が僅かに高くなっていることに、ミストレル自身は気づいていなかっただろう。マリアンネはそっと視線を娘の背中に向け、静かに手を膝の上に重ねた。口は開かない。ただ見守っている。もうそんな時期なのね、とマリアンネは思った。かつて自分もこうだった。場所は辺境の砦の粗末なテーブルで、目の前には泥と硝煙の匂いがまだ染みついた若い軍人が一人いたがーーあの時の自分と今のミストレルは、きっと同じ顔をしている。辺境伯グライフェンベルク家は代々女系の家柄で、当主の座は娘へと受け継がれる。マリアンネ自身も、当時まだ若い軍人だったリコリスが辺境の戦線で戦果を上げているという話を聞きつけ、視察と称して出向いて、一目で決めた。本人に選択肢はなかったーーそういったことを思い出しながら、マリアンネは微笑んだままでいた。

「お父様、何故お許しにならないのですか? わたくしはもう、一人前に戦えます!」

リコリスは渋面になった。娘の目を見た。真っ直ぐだった。怯んでいない。言葉に迷いがない。ーーああ、この目だ、とリコリスは思った。この目をどこかで知っている。砦の粗末なテーブル越しに、同じ目で自分を見た女がいた。あの日、逃げられないと悟った。一度、口を閉じた。太い指がテーブルの縁をわずかに叩き、それきり止まった。許したくない理由と、許さなければならない理由が、どちらも本物だった。どちらも捨てられなかった。しばらく、娘の顔を見ていた。そのうちにーー何かが、腹の底で静かに固まった。

「……わかった。後ほど、基地の執務室へ来なさい」

その声は低く、短かった。総司令官の声だった。けれど最後の一語だけがーー「来なさい」だけがーー父親の声だった。マリアンネは微笑むだけだった。


ーーーー

 第一航宙軍司令室——帝都アルガンディアの軍事施設の中でも、そこだけは別格の静けさを持っていた。分厚い隔壁の向こうで艦隊管制が絶えず動いていても、この部屋の中には音が届かない。入室には三段階の認証が必要で、窓はなく、照明は天井の間接光だけが落ち着いた白さで室内を満たしている。壁面には帝国の星系版図を示すホログラムが常時展開されており、その青白い光が部屋全体をわずかに染めていた。ミストレルは、長椅子の端に腰を下ろしていた。背筋は伸びている。佩剣の柄が腰に当たる感触を指先で確かめ、白を基調とした軍服の裾に皺がないかを無意識に確認し、それから、確認したことに気づいて手を膝の上に戻した。落ち着け、と自分に言い聞かせる。今日来たのは父に叱られるためではない。父は「わかった」と言った。あの一言は本物だったーーでも、なんだろう。静かな部屋の中で空調の気流だけがかすかに首筋をなで、冷たい。施設の空気はいつも少し乾いていて、唇の端が微妙に張る感じがする。ミストレルは一度だけ深く息を吸い込んだ。軍の施設特有の匂いーー金属と、機械油と、どこか冷えた空気の匂いーーが胸に入ってくる。廊下の向こうでかすかな足音がした。均等な間隔で石床を踏む音は重く、迷いがない。ミストレルの背中が音を聞く前から反応しており、自然と姿勢が正され、膝の上の手がほんの少しだけ固くなった。扉が開く。

 先に入ってきたのは、一人の武官だった。背が高く、肩幅が広い。軍服の上からでも筋肉の質量が伝わってくるような体格で、それでいて足音には無駄がなかった。重い、しかし静かな足音が石床を踏むたびに、ミストレルの視線がその男へと向いた。男の目がほんの一瞬だけこちらで止まり、眉根がわずかに動いた。それだけだった。次の瞬間には何事もなかった顔で定位置へ向かっており、ミストレルはその見事な自制を何となく目で追ってから、追っていたことに気づいて視線を正面に戻した。その後も警護の軍人たちが続々と入室し、無言で配置につくたびに部屋の空気の密度が少しずつ上がっていく。誰も言葉を発しない。足音だけが短く石床に落ちては消え、また別の足音が続く。ミストレルは膝の上で手を重ねたまま、それらの音を数えるともなく数えていた。
 重厚な扉が、また鳴った。
 音が違った。開く前から空気が変わったとミストレルは感じたーー感じた、というより、体が先に知っていた。背筋が自然と伸び、肺が一瞬小さくなる。警護ドローンが先行して入室し、赤い複眼が室内を走査しながら斜め後方の定位置へと静止した。その赤い光が壁に短い影を作るのを視界の端で捉えた瞬間、扉が完全に開いた。リコリス・フォン・グライフェンベルクが入室する。ミストレルは立ち上がり、右手を胸に当てた。

 リコリスは執務机に歩み寄ると、椅子を引く間すら惜しむように腰を下ろした。背もたれに体を預け、卓上に散らばった戦域図のホログラムを一瞥し、指先で二つ三つ脇へ寄せる。何でもない動作だった。総司令官が自分の席に座る、それだけのことだ。ーーだが、ミストレルの前では少しだけ長く、視線が手元に落ちていた。顔を上げるまでの、ほんの一拍。それは娘の軍服姿を正面から見る前に、自分の表情を整える時間だったのかもしれない。
 ミストレルは一歩前に出た。ヒールが石床を打つ音が一つだけ、静かな司令室に落ちた。背筋を伸ばし、顎を引き、右手を胸に当てたままーー声が響いた。
「閣下、ミストレル准尉ただいま着任いたしました」
 リコリスの目が、娘を見た。真っ直ぐだった。朝食の席で見たのと同じ目だ。ただし今、その目の持ち主は娘ではなく一人の軍人としてそこに立っている。白い軍服に皺はなく、佩剣の位置も正確で、敬礼の角度には一分の隙もなかった。完璧だった。完璧すぎて、少しだけ胸が痛かった。
 リコリスは何も言わず、短く頷いた。

第一章 了

ここまでお読みいただきありがとうございました。
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