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黒パグのAIショートショート⑤

こんにちは黒パグです。
ショートショートってサクッと読める分その短い文章の中に全てを詰め込むことになります。
星新一先生の偉大さが改めて身に染みます。

で、

いつものように書斎で悩んでいたところ息子がやってきて…

以下リアル会話

息子
ねえお父さん?僕ねえこないだ借りた本、友達に貸したいんだけどいいかな?

黒パグ
うん?何の本?

息子
星新一のショートショート。

黒パグ
…うん、かまわないけどどうして?

息子
友達がチャットGPTで国語の点数伸ばすにはどうする?って聞いたら

黒パグ
聞いたら?

息子
短めの文章から始めようって言われたらしい。それで「短めの転生モノ恋愛短文小説」を僕が読んでるって知って読みたくなったって。

黒パグ
……うん?何?なんて言った?

息子
「短めの転生モノの恋愛短文小説」
(スマホのラインスクショを見せる)

黒パグ
GPTぇ………

ーーーー以下本文ーーーー


有効


 男の仕事は、画面を見ることだった。
 毎朝九時、席に着く。コーヒーを一口飲む。紙コップの、あの薄い苦味を舌の上で確かめてから、端末を開く。するとその日のキューが並んでいる。

 ファイルが、ある日は三十件。ある日は四十件。多い日は六十件を超えることもあった。

 一件ずつ開く。名前、年齢、学歴、職歴。それからスコア。AIが算出した数値が、画面の右上に大きく表示されている。八十七点、七十二点、九十一点。数値の下に三行ほどのサマリーがある。
男はそれを目で追い、承認のボタンを押す。
 それが、仕事だった。
 不満はなかった。退屈でもなかった。一件ごとに人の経歴が違う。同じ作業の繰り返しに見えて、実際にはすべてが違うファイルだった。少なくとも男はそう思っていた。ファイルの向こうに人がいる。その人の人生が、数行のサマリーに圧縮されている。男はそのサマリーを読む。読んで、判断する。それが男の仕事だった。


 会社がAIスクリーニングシステムを導入したのは三年前のことだ。人事部長は全体会議の場でこう言った。

「人間の判断にはバイアスがかかる。無意識のうちに、学歴や年齢に引っ張られる。機械の方が公平だ。ただし——最終確認は人間が行う。それがこの会社のポリシーだ」

 拍手が起きた。男も手を叩いた。

 AIは参考情報だ。最終判断は自分がする。

 男はその自負を持って、毎朝キューを開いた。スコアは見る。だがスコアだけでは押さない。サマリーを読む。経歴の文脈を自分の頭で組み立てる。スコアが高くても経歴に違和感があれば差し戻す。スコアが低くても事情が読み取れれば通す。そういう判断を、自分はしている。男はそう信じていた。

 導入初年度は、実際にそうだった。男は一日十五件しか処理しなかった。一件ごとにサマリーとスコアを照合し、疑問があればメモを取り、上長に確認を上げた。処理は遅かったが、差し戻し率は高かった。上長は「丁寧だ」と評価した。

 二年目、処理件数が増えた。月間のノルマが設定された。男はペースを上げた。サマリーを読む時間が少し短くなった。だが読んではいた。

 三年目に入ると、ノルマはさらに上がった。男はキューの数だけを見て、一日の配分を決めるようになった。午前に二十件、午後に二十件。それが男のリズムだった。

 朝、席に着く。紙コップに口をつける。端末を開く。キューが並んでいる。
 一件目。名前を読む。年齢を確認する。学歴に目を通す。職歴の欄を上から下まで追う。空白期間がないか。転職回数が多すぎないか。資格の欄に目を移す。スコアを確認する。八十四点。サマリーを読む。三行目まで読んで、特に引っかかる点がない。

承認。

 二件目。名前。年齢。今度は新卒だった。職歴はない。学歴とスコアとサマリー。七十七点。

承認。

 三件目。名前。年齢。五十代。転職歴が四回。スコアは六十八点。サマリーに「直近の離職から二年の空白あり」と書いてある。男は職歴の欄に戻った。確かに空白がある。理由の記載はない。男はサマリーをもう一度読んだ。AIはこの空白を減点要因として処理している。男もそう判断した。

承認。

 十件を終えるのに一時間半ほどかかった。三十件を終える頃には昼を過ぎている。午後にもう十件ほど処理して、一日が終わる。

 デスクにはペンが一本刺さっていた。入社時に配られたボールペンだ。メモ用だが、メモを取ることはほとんどなかった。スコアとサマリーが十分に情報をまとめてくれていたからだ。男がペンを使うのは、せいぜい出退勤の記録用紙にサインするときくらいだった。

 男はペンに触れもせず、毎日キューを消化した。丁寧な仕事だと、思っていた。

 あるとき、部下が一人ついた。若い女で、覚えが早かった。男はシステムの使い方を一から教えた。画面の見方。スコアの読み方。サマリーの確認手順。差し戻しの基準。一通り教え終えたあと、男はこう付け加えた。

「スコアだけ見るな。サマリーを必ず読め。数字には出ない部分がある」

 女は頷いて、メモを取った。ペンを持っていた。
 三か月で女は独り立ちした。半年後にはレビュー速度が男を超えた。一日に九十件を処理する。
 男は報告を見て、優秀だと思った。自分がよく教えたのだと、思った。

 朝、席に着く。コーヒーはまだ熱い。端末を開く。
 一件目。スコアを見る。サマリーを読む。承認。
 二件目。スコア。サマリー。承認。
 三件目。承認。
 特に問題のない一日だった。

 ある夜のことだ。
 残業をしていた男は、ふと手を止めた。理由はない。ただ、手が止まった。
 今日のキューを思い返した。三十七件。承認が三十五件。差し戻しが二件。
 差し戻した二件を思い出そうとした。
 一件は思い出せた。スコアは高かったが、職歴に二年の空白があった。気になったので差し戻した。まっとうな判断だ。
 もう一件が、出てこない。
 差し戻した。そのこと自体は覚えている。ファイルを開いて、何かが引っかかって、差し戻しのボタンを押した。だが何が引っかかったのかが、どうしても出てこない。
 男はログを開いた。差し戻し理由の欄に、自分が入力した文字列が残っていた。

「スコアとの乖離を確認のこと」

 男はその文字を読んだ。
 スコアとの乖離。何と何の乖離だったのか。スコアは何点だったか。サマリーには何が書いてあったか。何も思い出せなかった。

 男はしばらく画面を見ていた。それから、ログを閉じた。
 窓の外は暗い。フロアには男しかいなかった。空調の音だけが鳴っていた。デスクの紙コップにコーヒーが少し残っていた。一口飲んだ。冷めていた。

 翌日も、男はキューを処理した。その翌日も。
 几帳面に。丁寧に。スコアを見て、サマリーを読んで、承認を押す。
 あの夜のことは、気にならなくなった。一件の差し戻し理由を思い出せなかっただけのことだ。三十七件のうちの一件。全体から見れば、誤差にもならない。

 男は自分にそう言い聞かせたわけではなかった。自然に、そう思った。日が経てば思い出せないことが増えるのは当たり前だ。それは老化かもしれないし、単純に処理件数が多すぎるだけかもしれない。どちらにしても、業務に支障はない。実際、上長から注意を受けたことは一度もなかった。

 男はキューを開き続けた。毎朝九時。コーヒーを一口。端末を開く。並んでいるファイルを処理する。それだけを、繰り返した。

 季節が変わった。
 ある月曜日の朝、システムの更新通知が届いた。いくつかの機能追加があり、その中の一つにこう書かれていた。

「レビュアーの処理精度レポートを追加しました」

 男は特に気に留めなかった。ほかの更新通知と同じように目を通して、閉じた。
 翌週、ふと思い出してレポートを開いた。
 自分の名前が一番上にあった。

 処理件数。承認率。差し戻し率。そして——平均処理時間。
 一件あたり、7.3秒。
 男は数字を見た。
 7.3秒。
 ファイルを開いて、スコアを確認して、サマリーを読んで、判断して、承認のボタンを押す。その全工程を、7.3秒で。
 何かの間違いだろうと思った。集計期間の設定か、計測の対象範囲か、どこかにずれがあるはずだ。
 男は試しに、今開いているファイルを読んでみた。名前。年齢。学歴。職歴。スコア。サマリー。一つずつ、意識して目を通した。それから時計を見た。
 二十三秒かかった。
 もう一件開いた。同じように読んだ。
 十九秒。
 もう一件。少し手早く。
 十五秒。
 もう一件。さらに急いで。
 十二秒。
 7.3秒には、ならなかった。
 意識して読めば十二秒かかる作業を、普段は7.3秒で片付けている。差の四秒余りで、男は何を省いているのか。サマリーか。職歴か。名前か。あるいは、その全部か。

 レポートの集計期間を確認した。過去三か月。毎日の処理時間が折れ線グラフになっていた。グラフはほぼ水平だった。ばらつきは小さく、七秒台の前半に線が引かれていた。三か月間、ほとんど同じ速度で、男はファイルを処理し続けていた。

 男はしばらく画面を見ていた。何かを考えなければいけない気がしたが、何を考えればいいのかが分からなかった。
 空調の音がしていた。

 その日の夜、男は退社しなかった。
 フロアの照明は半分落ちていた。非常灯の緑色だけが廊下の先で光っている。男は自分のデスクの端末に向かっていた。
 過去三年分の自分の処理ログを開いた。
 差し戻し件数の合計を出した。三年間で、四十一件。

 全体の処理件数は二万件を超えていた。
 差し戻し率を暗算した。0.18パーセントを少し下回る。

 二万人分の経歴を、男は三年かけて承認した。そのうち四十一件だけを、差し戻した。
 次に、差し戻した四十一件がその後どうなったかを追った。システムの再審査結果の列を一行ずつ目で追った。

 四十件は、最初のAIスコアと同じ結論に戻っていた。男が差し戻して、システムが再審査して、結果は変わらなかった。四十回、男はボタンを押した。四十回、システムは男の判断を却下した。

 男の差し戻しによって最終結果が変わったケースは、一件だけだった。
 三年で、二万件で、一件。
 男はその一件を開いた。名前に見覚えはなかった。三年前の案件だった。初期スコアは七十五点。男が差し戻した後、再審査で六十二点に修正されている。差し戻し理由の欄にはこう書いてあった。

「スコアとの乖離を確認のこと」

 同じ文章だった。
 あの夜の差し戻しと、三年前のこの差し戻しが、同じ理由で、同じ文言で、男の指から出力されていた。
 男はファイルを閉じた。
 デスクの紙コップに手を伸ばした。空だった。いつ飲み干したのかは覚えていなかった。

 ペン立てを見た。ボールペンが一本、刺さっていた。キャップは閉じたまま、傾きもせず立っている。男はそれを手に取った。ノックしてみた。芯は出た。紙に一文字書こうとして、インクが出るまでに少しかかった。男はペンを戻した。

 翌朝、男はいつも通り出社した。
 紙コップを手に取った。一口。端末を開いた。
 キューに四十二件が並んでいた。
 一件目。スコア。承認。
 二件目。承認。
 三件目。承認。
 男は四十二件を処理した。今日の平均処理時間は、7.1秒だった。

 月末、人事部長に呼ばれた。

「君のレビュー精度は安定している。システム導入から三年、重大なエラーは一度もない。よくやってくれている」

 男は頭を下げた。何か言おうとした。言葉が喉まで来て、形にならなかった。

「引き続き頼む」

 部長はそう言って、次の会議に向かった。
 エレベーターで一階に降りた。ロビーを通り、自動ドアを抜けた。外の空気は少し冷たかった。
 帰り道、男は歩きながら何かを考えていた。考えていたはずだった。何についてだったか。7.3秒のことだったか。四十一件のことだったか。それとも、あの紙コップのことだったか。
 駅に着く頃には、何を考えていたのかも消えていた。
 改札を抜けた。いつもと同じ速度で、ホームへの階段を降りた。

 その夜、システムのキューにファイルが一件、追加された。
 名前。年齢。在籍年数。レビュー件数。スコア。
 ステータス:処理済み。

お読みいただきありがとうございました。
ご意見ご感想などお待ちしております。


ん、息子なんて言ったっけ。恋愛短文?まあいいっか




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