イエリ流学問のすゝめ|人を育てる基礎教育とは #はじめてのマガジン
イエリメソッド(ieri method)
学びの原点は「言葉」と「愛」――石川幸夫の教育哲学
私、石川幸夫の教育観を語るとき、どうしても外すことのできない座右の銘があります。それは「命の尊厳」という言葉です。
幼い子どもたちに関わる者として、目の前にいる一人ひとりの「命」に、最大限の敬意と理解を払うことは、教育以前の根本的な姿勢だと考えてきました。
そもそもひとつの命の誕生は、壮大な奇跡の連続です。
人類の長い歴史の中で、この地球の同じ時代に生まれ、無数の出会いの可能性の中から奇跡的に出会った二人の男女。そして、その二人が人間の持ちうる最高の知恵とも言える「愛」によって結ばれます。その出会いの確率は、まさに天文学的な数字だと言えるでしょう。
やがて、その愛の結晶として一つの命が誕生します。数百万分の一の卵子と、数十兆分の一の精子。その中の、ただ一つが選ばれて新たな生命となります。だからこそ、どの命も「選ばれし命」であり、同じ存在は一つとしてありません。
この事実は、親だけでなく、教育に携わる者、そして子ども自身が知っておくべき大切な視点だと私は考えています。
生命は、約40週という時間を母親の胎内で過ごし、狭い産道を通ってこの世に誕生します。その過程で母と子が味わう苦しみは、単なる痛みではなく、最初の深い「共有体験」であり、最初のスキンシップであるとも言われています。
こうして生まれた子どもは、特別な事情がない限り、ほぼ平等におよそ150億個の脳細胞を持って誕生します。
そして驚くべきことに、人は生まれた瞬間からすでに学習を始めています。生きるために、感じ、覚え、つながろうとする力は本能として備わっているのです。
しかし現実には、数年後、同じ年齢であっても能力の差が生じ始めます。さらに義務教育が始まる満6歳の段階では、その差ははっきりと可視化され、やがてそれは学力差として表面化していきます。
今から約50年前、私が小学生の指導を始めたころ、教育界では「落ちこぼれ」という言葉が大きな問題として取り上げられていました。
私はこの言葉に強い違和感を覚えました。
「本当にこの子たちは“落ちこぼれ”なのだろうか」
「それは“落ちた”のではなく、最初から支えられていなかったのではないか」
こうした疑問が、私の基礎教育の研究の出発点となりました。
調べていくうちに、その兆候は小学高学年ではなく、すでに小学校入学時点に現れていることに気づきました。読み書きができる子と、全くできない子。その差は、決して才能の問題ではなく、幼児期にどのような関わりを受けてきたかの違いであることが次第に明らかになってきたのです。
当時の社会では、「幼児教育」と聞くと「教育ママ」「無理な早期教育」という否定的なイメージが強く、幼児期の教育はどこか色眼鏡で見られる時代でした。しかし私は、問題の本質はそこではないと感じていました。
そこから私は、小学生指導だけでなく、幼児期の学習の本質を探る道へと進みます。
この分野で先駆的な実践をされていた水野茂一先生(日本で初めて幼児通信教育を始められた方)のもとで学ばせていただき、さらに七田眞先生との出会いを通して、幼児教育の理解と実践に深く関わるようになりました。
幼児を指導すればするほど、私は驚かされました。
幼い子どもたちは、小学生高学年や中学生よりもはるかに強い好奇心を持っているのです。それどころか、生まれた直後から、人は「学ぶ姿勢」そのものを持って生まれてくるという事実を、日々の子どもたちの姿から確信するようになりました。
私はここで、はっきりと確信しました。
「学びは制度から始まるのではない。人間そのものから始まっている。」
このことから、幼児教育や早期教育、幼児能力開発などという名称ではなく、教育の本質を捉えた「基礎教育」としました。
そして、その最初の教師こそが「親」であり、「養育者」です。
授乳のときに感じる安心感、抱きしめられたときの温もり、何気ない語りかけの繰り返し。 その中で子どもは「ことば」を覚え、「信頼」を覚え、「生きる力」の土台を築いていきます。
30年前、私は石川教育研究所を設立しました。
併設した教室には「APPLE(アップル)」という名前を付けました。
すべての人は、親から「言葉」と「愛」を授かって育つ――
All People are taught Language and Love by Parents as Education
この理念こそ、私の教育の原点です。「命の尊厳」を土台とし、その命を支えるのがことばと愛であるという信念のもと、私の教育実践は本格的に始まりました。
これまで私は、水野先生、七田先生だけでなく、実に多くの先生方との出会いに恵まれてきました。そして今日まで、延べ6万人を超える先生方の研修に携わらせていただくことができました。
対象は、幼稚園・保育園の先生方、幼児教室の指導者、小中学校の教員、学習塾の講師、さらには大学院で学ばれる社会人の方々にまで広がっていきました。
そして今年、私は教育の現場に立ち続けて50年という節目を迎えました。
引退を決意し、教室を縮小しながら、一昨年には最後の生徒を送り出しました。
しかし、人生というものは不思議なものです。
静かに幕を引くつもりでいた私のもとに、ある研修依頼が舞い込みました。それは「毎週決まった曜日に、6時間にわたる研修を継続してほしい」という、予想をはるかに超える内容でした。
最初は軽い気持ちでお引き受けしたものでした。
けれども、その依頼者たちの本気、学ぼうとする姿勢、教育に対する情熱に触れる中で、私自身の中に眠っていた思いが、再び目を覚ましていったのです。
こうして私は、もう一度問い直すことになりました。
「本当の教育とは何か」
「子どもたちに本当に必要な学びとは何か」
この問いこそが、後に私自身の実践を体系化していく
石川教育研究所で生まれた指導法
「Ishikawa Education Research Institute」
「イエリメソッド(ieri method)」誕生の出発点となったのです。
イエリメソッドとは、幼小接続を念頭に置き、0歳から9歳までの成長を一つの連続した流れとして捉えた、シングルエイジ型の総合教育体系です。
その根底にあるのは、これまで述べてきた「命の尊厳」、そして、その命を支える根源的な力としての「ことば」と「愛」という信念です。
イエリメソッドでは、とりわけ「ことば」を極めて重要な位置づけで捉えています。思考する力、理解する力、表現する力、他者に伝える力、記憶する力、さらには記録する力――。これらすべての認知機能は、「ことば」を基盤として成立しています。
言葉とは単なるコミュニケーション手段ではなく、「生きる力そのもの」なのです。さらに、子どもたちの人間性を豊かに育てるために、私は三つの柱を設定しました。
それが、「コミュニケーション」「経験」「リスペクト」です。
デジタル社会・情報化社会の中で生きることが避けられない現代の子どもたちにとって、人と人との直接的な関わりは、むしろこれまで以上に重要になっています。画面越しの情報ではなく、実際の経験や体験こそが、人としての感性と幅を広げていきます。
なお私は「あえて尊敬」という言葉ではなく、「リスペクト」という言葉を選びました。それは、対象を教師や偉人だけに限定するのではなく、友人、両親、身近な信頼できる大人へと広く捉えてほしいと考えたからです。
教育とは、人を育てる営みである
イエリメソッドは、この理念と哲学を軸に、「これからの時代に通用する教育指導体系」として設計しました。そこには、脳科学、認知心理学、発達心理学、教育指導法といった学問的知見が実践レベルで融合され、「教育を科学する」体系として構築されています。
イエリメソッドでは、認知心理学者ハワード・ガードナーの多重知性理論を土台としつつ、50年にわたる実践研究から、幼児期専用の独自学習体系を発展させました。
それが、
「言語:もじ」
「数量:かず」
「思考:ちえ」 の三領域指導です。
この三領域は、幼児期の学びを支える背骨として設計され、単なる先取り学習ではなく、「考える力そのもの」を育てる構造になっています。言語領域においては、脳科学と認知心理学に裏付けられた『音読指導』『書写指導』『聴写指導』『素読指導』『フラッシュカード』などの指導法を独自に再構成し、体系化しています。
単なる知識の詰め込みではなく、「言葉で考える力」を鍛えるための言語指導群です。数量領域では、小学生算数指導の理論として研究されてきた「水道方式」を基礎に、幼児期に適合させた独自の数教育体系を開発しました。
それが、50年にわたる検証の中で磨き上げられた 『タイル算数』 です。数を「操作できるもの」として捉え、目に見え、手で動かせる形で数概念を育てます。
そして「知恵」領域は、言語や数といった認知能力に対し、現代社会で重視される非認知能力を育てるための領域です。
そこには、正しい姿勢を育てる『立腰教育』、心を整える『瞑想』、観察力、自己調整力、共感力を育てる日常的活動が体系的に組み込まれています。
さらに、イエリメソッドの大きな特徴の一つが、「短時間学習法」です。
幼児の集中力は、一般に想像されているよりもはるかに短い時間しか持続しません。私は長年の観察と検証の中で、「幼児の集中はどれほど続くのか」という問いに向き合ってきました。その結果、たどり着いた一つの結論があります。
子どもの本質的な集中の単位は、
「約15秒 ±5秒」実に驚くほど短いのです。
しかし、これは「集中力が弱い」という意味ではありません。むしろ、子どもたちはその“短い集中”を、何度も何度も繰り返すことで、学びを深めるように設計されている――私はそう確信するようになりました。
この「15秒の学び」の発見こそが、後にイエリメソッドの指導構造を決定づけていくことになるのです。
石川教育研究所
所長 石川幸夫
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