《葬送のフリーレン》魔族の起源について聖典は何を語っているのか、いないのか/魔法研究認可と魔族進化論
ネタバレには配慮していません。
『葬送のフリーレン』の原作マンガはまだ読んだことがないという方には原作マンガを、既に読んだことのある方にはある一つの視点からの再読をお勧めしています。その訳をこちらの記事で説明していますのでお読みください。
はじめに
聖典の成り立ちに関連して、「聖典に魔族の起源に関する記述がないとすれば奇妙ですね。でも、その奇妙なことが起こっていはしないか?」ということを考えています。
これだけ読むと「何を言っているんだこいつは?」という内容かもしれません。最近の記事を読んでいただけるとありがたいです。
また、私として定見があるわけではありません。コメント歓迎です。
魔族の起源と聖典
聖典は「神話の時代の物語」と「女神の戒律」をまとめたものです。(第12巻116話)

魔族は神話の時代から存在しています。(第9巻83話、第10巻93話)


ですから、聖典には魔族の起源に関する「神話の時代の物語」があるはずでしょう。
魔族は神話の時代から存在する人類の敵です。なぜこのような恐ろしい化け物が存在するのか、なぜ私たちはこのような化け物と戦わなければならないのか。魔族の起源は多くの人々が関心を持つ重要なテーマです。
聖典に魔族の起源に関する記述がないとしたら奇妙です。
フリーレンが語った魔族の起源
魔族の起源に関しては、フリーレンがフランメによる進化論「魔族の祖先は魔物である」をフェルン達に紹介しています。(第2巻14話)
※これと似たような進化論はソリテール(と魔王)も語っていますが、ここでは扱いません。(第10巻88話)

これはフランメが構築した理論ですから、聖典の「神話の時代の物語」とは異なります。
そもそも、このような進化論は聖典の「神話の時代の物語」としてふさわしいとは思えません。なぜなら、「自然選択の結果です」といった身も蓋もない話では、人々の「なぜこのような恐ろしい化け物が存在するのか?」、「なぜ私達はこのような化け物と戦わなければならないのか?」といった「なぜ?」に応えられないからです。「神話の時代の物語」には創造論が相応しいでしょう。
そして、これは想像ですが、おそらくフリーレンはフェルン達に説明したこのフランメによる魔族の進化論をヒンメル達にも説明していたと思うのです。そういう描写はありませんが、回想シーンで描かれた「村長の娘」のエピソードの流れを見れば自然な想像でしょう。

魔族の進化論は聖典と矛盾したのか?いや、そもそも…
仮に魔族の起源に関する「神話の時代の物語」が聖典にあるとすれば、それは進化論ではなく創造論です。
ですから、フリーレンの説明した進化論は聖典の否定です。
当時(統一王朝期)、フランメがこの進化論を公言していたかどうかはわかりません。
ただ、フランメの魔法に関する研究・教育は帝国の魔王軍との戦いに大きく貢献していました。フランメは魔族を「根絶やしにしたいほど」憎んでいました。ですから、秘していたとも思えません。魔族に関する知見は積極的に共有したでしょう。(第3巻21話、第6巻53話)


だとすると、フランメは統一王朝の中心部で魔法の研究・教育をしながら、聖典を否定する学説を唱えていたことになりますよね。
まず、ここに違和感があります。
また、聖典を否定する進化論を聞いたハイターとフェルンの反応はどのようなものだったのでしょうか。(ヒンメル、アイゼン、シュタルクには聖典の知識がほとんどないので、何とも思わなかったでしょうが)

ハイターのことですから「そうかもしれませんね」と穏やかに受け入れたと思いますが、通常の僧侶であればこれはあまり面白い話ではありません。フェルンとしては「私の知っている話とはちがうけど…」くらいの違和感は持ったでしょう。
そういったことを考えていると、そもそも論として、聖典には魔族の起源に関する「神話の時代の物語」はあったのか?という疑問も感じるのです。
そもそも矛盾さえしなかったのではないか。魔族の起源に関する「神話の時代の物語」は聖典から抹消されていたのではないか?と。
統一王朝で起こった魔法観と魔族観の変容

統一王朝期には、フランメの働きかけにより、それまで「魔族の技術」であるとして禁忌とされてきた魔法の研究に認可が下ります。

つまり、当時は魔法観の変容と当時に魔族観の変容も生じていたわけです。
これは必然的に宗教改革につながります。聖典に魔族の起源が記されているためです。皇帝が魔法の研究を認めたのですから、教会もそれに対応する必要があり、魔族の位置づけを変更する必要があります。
ここはどちらが先でどちらが後なのかはよくわかりませんが、たとえば…
まず、魔族と戦うためには魔法技術を利用する必要があるという政治的・軍事的判断があり、
そのために教会の教義「魔法は魔族の技術」を変更するという宗教的な対応が必要になる。
そこで、聖典から不都合な記述を削除させる。
魔法の研究を認可する。
こういう流れかもしれませんね。
ここには、リアリスティック(現実主義的)な合理性を感じます。ただ、合理性だけで突き進むのではない、形式をおろそかにせず手順をしっかりと踏むしたたかさも感じます。
ゼーリエによる皇帝の性格分析を覚えていますか?(第15巻144話)

これは統一王朝期から現在まで続く帝国の性格そのものです。
そして、もう一つ。
「魔法は魔族の技術」という魔法観を否定するには、フランメによる魔族の進化論がうってつけです。魔族というものは自然選択により魔物から発生した存在で、決して特別な存在ではない。神話や魔法とは何の関係もない。こういうわけですから、非常に都合の良い学説です。
魔法の研究を認めさせたいフランメ、魔法を軍事利用したい帝国、この両者の利益が合致して、「魔族の祖先は魔物」という進化論が公認され、聖典に記されていた魔族の起源に関する創造論は削除された。こういう想像はどうでしょう。
まとめ
結論をまとめておきます。
それまでは「魔族の技術」とされていた魔法ですが、統一王朝期に研究の認可が下ります。つまり、当時、魔法観の変化があったのですが、それだけではなくて、魔族観の変化もありました。
この魔族観の変化の背景にはフランメが唱えていた「魔族の祖先は魔物」という進化論があります。魔族は魔物から自然選択によって発生した存在で、神話とも魔法とも関係ないというのがフランメの学説ですから。
ですから、魔法を軍事利用したい帝国と、魔法研究の認可を得たいフランメの利益が合致します。
帝国はフランメの進化論を公認して、聖典を変更し、魔法研究の認可が下ります。 聖典には「神話の時代の物語」として魔族の起源に関する創造論が記されていましたが、削除されました。
さて。
ちょっと意地悪な見方をしてみます。
フランメは、帝国が聖典から魔族の起源に関する創造論を削除するための理論武装として、進化論をでっち上げて提供したのではないか?
「知恵を貸した」わけですが、このくらいのことはフランメならやりそうな気がします。
おわりに
思考の流れをほぼそのまま作文しているのでわかりにくくなってしまいましたが、久しぶりにぞくぞくする考察でした。終盤、ゼーリエによる皇帝の性格分析で帝国の行動が理解できてしまう所はびっくりしました。フランメの進化論と魔法研究認可が結び付いたのもおもしろいです。
また、フランメの進化論にこういった社会的な背景があるのですから、おそらくソリテール(魔王)の進化論も純粋に学問的な学説ということではなくて、何か背景がありそうですね。まだ材料がなさそうですが、いずれ考えてみたいと思います。
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