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《葬送のフリーレン》皇帝酒は最上の名酒である(皇帝酒読解)

皇帝酒は最上の名酒である(はじめに)

「皇帝酒」(第8巻69話)は、仮に私が『フリーレン』の一話完結エピソードお気に入りランキングを作ったとすると一位か二位か、というくらい好きなエピソードです。(もう一つは「エルフの願望」(第3巻24話)です)

その理由は「過去の私が理解していた「皇帝酒」と今の私が理解している「皇帝酒」とでは全く別の物語になっている」という個人的体験にあります。

ですから、「皇帝酒」の魅力を説明するのに最初からビフォア・アフターのアフターだけを示して「こんなに素晴らしいお話です」というのはあまり上手い方法とは言えません。仮に「皇帝酒」を読んだことのない人に、今の私が理解している「皇帝酒」をどれだけ上手に説明したところで、「私がなぜこんなに皇帝酒が好きなのか」は伝わらないと思います。

そういったわけで、私は私の個人的な体験を「葬送のフリーレンを読み解く物語」として書いています。

ですが、そういう自分語りは「ノット・フォー・ミー」という方もいらっしゃるでしょうし、既に別の記事で書いています。

読解のポイント(故郷)

ですから、ここでは私の個人的な事情や主観的な感情は抜きにして、私が客観的に冷静に読解のポイントだと考えていることをお伝えします。それは「故郷」です。

黄金郷編前のエピソードは、そのほとんどが「故郷」をテーマにしています。(特に第8巻68話「北部高原」以降です。が、たとえば第7巻62話「旅立ちの理由」でヴィアベルは「北の果て(故郷)を守るためならなんだってやる」と言っていましたね)

フリーレン達は、故郷と様々な関わり方をする人々と出会います。故郷を捨てた人、捨てられない人。故郷を失くした人、見つけた人。故郷を守る人…。フリーレン達はそういった人々との出会いを通して、人にとって過去、記憶、他愛のない日常が持つ意味を考える旅をしています。そして、デンケンの故郷に辿り着くと、そこで待っていたものは…

こういう黄金郷編のプロローグになっているわけです。

少しわかりにくいと思いますが、「故郷」がテーマになっていることは「皇帝酒」も同じです。

ミリアルデにとって故郷って何だったの?

そういう視点で読んでみると、さらに楽しめるでしょう。

皆さんの「皇帝酒」を見つけてください。おそらくは、最初に読んだときとはちがう「皇帝酒」が見つかると思います。そして、『葬送のフリーレン』をもっと好きになると思います。もちろん、ミリアルデのことも。

ここからは原作マンガを読んでいることを前提に書きます。

原作のマンガはまだ読んだことがないという方には原作マンガを、既に読んだことのある方にはある一つの視点からの再読をお勧めしています。その訳をこちらの記事で説明していますのでお読みください。

読解・皇帝酒

色々な解釈があると思いますが、ここでは私の解釈を語ります。可能な限り理由を添えますので、「なるほど」と納得したり「それはちがうだろう」と反発したりして楽しんでいただけると幸いです。

アプローチ

今回の読解では、最初にミリアルデについて考えます。

逆に、最初にファスについて考えて、ファスと対比しながらミリアルデについて推測するというアプローチも可能です。ですが、ミリアルデから考えた方がわかりやすいと思うので、今回はそうします。

実際に読み込んでいる時はそれほど理路整然としているわけではなく、その両方を並行して行ったり来たりしながら考えています。

テーマの推測

黄金郷編前のエピソードの多くは故郷がテーマになっていて、様々な人たちが登場します。故郷を捨てた人、捨てられない人。故郷を失くした人、見つけた人。故郷を守る人…。黄金郷編のテーマも故郷です。この点は容易に見て取れるでしょう。(第9巻81話)

では、「皇帝酒」はどうでしょう。

少しわかりにくいですが、ミリアルデは「私、この里に来る前に…」と語っていることから、故郷を離れて「エルフの里」で暮らしていたことがわかります。(ここが玉座のバザルトに滅ぼされたエルフの里であることはフリーレンの年齢・服装から想像は付くと思いますが、『前奏2』の記述で確定しています)

ですから、「皇帝酒」のテーマもやはり「故郷」なのだと推測できますね。

知りたいのはミリアルデが故郷を離れた理由です。理由とまではいかなくとも、故郷から離れたことをミリアルデがどう感じているのか。特に、故郷を離れた当時、どう考えていたのかを知りたいです。望んで離れたのか、仕方なく離れたのかです。

例えばデンケンは前者です。多少は後ろ髪を引かれる思いもありましたが、基本的には帝都での仕事に邁進して充実していたため、家族や故郷を顧みることはありませんでした。いわゆる仕事人間です。皇帝の右腕なのですから、気持ちはわかります。

けれどもある時…というのがデンケンにとっての黄金郷編のはじまりです。

最も重要な台詞

ミリアルデについて考える時、最も重要な材料は当然ですがこの台詞です。

ここは直感的にわかると思いますが、理由を付けるなら、他の台詞と比べて明らかにこの台詞の持っているドラマが突出しているから、でしょう。

他の台詞は普段使い可能な日常会話の例文のようですが、この台詞は演劇の中の台詞のようです。日常会話でこんな台詞を聞いたらギョッとしてしまいます。(次いでドラマを感じるのは「意味なんて、何もないわ」ですが、これは抽象的過ぎて手掛かりにするのは難しそうです)

「人生をかけて探したものが、なんの価値もないゴミだったときのことを想像できる?」というミリアルデの台詞は、おそらく最初に読んだときは(故郷という視点がなければ)、ミリアルデの人生をかけた探究の失敗について語っているものだと理解するでしょう。(私はそうでした)

ですが、そうではなくて、この台詞と故郷を結び付けて、「失敗について」ではなくて「故郷について」語っている台詞だと捉えます。

なぜなら、最も重要な台詞はエピソードのテーマと深い関係があるはずだからです。(『フリーレン』の作者はこういうところは外しません)

人生をかけて探したものがゴミだったときのこと

では、ミリアルデと故郷がどのような関係にあれば、こういう台詞が出て来るのでしょう?

ヒントになるのは、ミリアルデがとても優秀な魔法使いであることです。(フリーレンはミリアルデの結界を解除するのに3か月を要しています)

ということは、ミリアルデは故郷の人々からも優れた魔法使いだとみなされていて、当然、大きな期待を負っていたでしょう。

さらに、台詞を分析すれば、ミリアルデは「(その)ときのことを想像できる?」と言っています。ミリアルデがフリーレンに想像して欲しいのは、そして同時に想像などできないだろうと諦めているのは、「(その)ときのこと」です。

ですから、「そのとき」ミリアルデに何かが起こったわけです。

まとめれば、ミリアルデは故郷の大きな期待を背負っていたけれども失敗してしまった。そのときミリアルデと故郷の間に何かが起こった。ということですね。

そうすると、ミリアルデは「故郷から捨てられた人」だろうと思い付きます。

「(ミリアルデが)人生をかけて探したものがなんの価値もないゴミだった」ときに、ミリアルデは故郷から捨てられてしまった。

その出来事が「遠い昔の」「私の話」です。

ミリアルデの方から故郷を捨てたとも考えられるのですが、このタイプは既に登場しています。デンケンやゲナウです。ですので、ここは「故郷から捨てられた人」と捉えるておくと、エピソードの個性が立って、良さそうです。

ファスと故郷

次にファスです。このときに念頭に置いておきたいのは、ファスは皇帝酒に魅せられて皇帝酒の探索に人生をかけているわけですが、これはつまりファスはミリアルデの掌の上の存在だということです。

では、見てみます。

ファスの皇帝酒探しも町の人から期待されていて、皆はその結果を楽しみにしていました。

しかし、ファスが人生をかけて探した皇帝酒は最低の安酒(なんの価値もないゴミ)でした。

ここまではミリアルデの「遠い昔の私の話」と同じです。つまり、まだファスはミリアルデの掌の上です。ちがうのはここからです。

ファスが見つけた皇帝酒は「ゴミ」でした。ファスの人生は失敗です。

けれども、町の人はファスを嗤ったりすることなく、ファスは町の人々と一緒に楽しく皇帝酒を飲むことができました。

さて、ファスはミリアルデの掌から上手く逃れることができたのでしょうか?

なんとなくそんな気がしますが、実は違います。ファスはまだミリアルデの掌の上にいます。

なぜなら、ミリアルデがわざわざ町の人たち皆で飲めるだけの大量の皇帝酒を、わざわざ「酒を保存するための強力な結界」を使って良好な保存状態で封印してくれていたからこそ、ファスは町の人々と一緒に楽しく皇帝酒を飲むことができたのですから。

どうでしょうか。「皇帝酒」のエピソードの全体像がかなりすっきりと理解できたと思います。もちろん、別の解釈もあると思います。ぜひいろいろ考えてみてください。

とんでもない暇つぶし

では、最後に、ミリアルデの「とんでもない暇つぶし」の目的は何だったか、です。

ミリアルデが望んでいたのは、失敗した自分でも温かく迎え入れてくれる故郷です。

ですから、ミリアルデは自分が手に入れることのできなかった故郷の姿を夢想しながら「とんでもない暇つぶし」を計画したのでしょう。

「皇帝酒」の結末はミリアルデが求めていた故郷の姿です。ファスはミリアルデの夢想を現実にしたことになります。

ミリアルデは皇帝酒を封印した後はエルフの里に移りますが(そこでは魔法使いとしての実力を隠して暮らしています)、ご存じのとおり、玉座のバザルトの襲撃があって、そこも追われてしまいます。ミリアルデは故郷を求めているのになかなか故郷を得ることができない「故郷を探している人」でもあるのですね。

そして現在、ミリアルデはどうやら帝都にいるらしいのですが、果たして帝都は彼女の故郷になったのでしょうか?

マハトの故郷・ヴァイゼ

アニメ第2期が黄金郷編を扱うのかは不透明な状況ですが、せっかくなので、黄金郷編と故郷について触れます。

言うまでもなく、黄金郷編は「デンケンと故郷」を描いた物語です。

ただ、ここでは故郷という視点でマハトについて見てみます。

黄金郷編ではマハトの過去(記憶)が描写の多くを占めています。その多くはグリュック(悪友)と出会ってから別れるまでの思い出でした。デンケンとの師弟関係もありました。ヴァイゼの人々との交流など、ストーリーに特に重要な役割があるわけではない他愛のない日常もありました。

ですから、私が思うに、ヴァイゼはマハトの故郷になっていました。マハトの記憶を読み取ったエーデルが鼻から血を流す描写があります。これはマハトの記憶の「重み」を象徴していると思います。(第9巻85話)

そして、マハトはその過去をどうしたかといえば、「掛けがえのないもの」だと考えているのに「全てをぶち壊」してしまいます。(第10巻92話)

黄金郷編のプロローグでは故郷と関わる様々な人々が登場します。

けれども、「故郷を自ら滅ぼしてしまった人」はマハトだけです。マハトは自分の行為の意味をもう少しで掴めそうなところまで来ていたのに、結局は理解することができないまま命を落とします。(第10巻93話)

ですから、ここに人と魔族のちがい、人にあって魔族にはない感情、マハトが探していた感情が姿を見せていると思います。

フリーレンとクラフトが会っていた同族・ミリアルデ

丁度良い機会なので触れておきます。

フリーレンは400年前に、クラフトは300年前に同族と会っています。(第2巻13話、第3巻24話)

これは私の推測ですが…

フリーレンが400年前に会った同族 → ミリアルデ

だから、フリーレンはエルフの里では知らなかったミリアルデの実力を「皇帝酒」では知っていて、ミリアルデの強力な結界を見ても驚かなかった。

つまり、400年前に二人は奇跡の再会を果たしていたわけですね。

クラフトが300年前に会った同族 → ミリアルデ

だから、ミリアルデはクラフトの影響を受けて信仰を回復し、聖杖法院に行った。

ミリアルデがエルフの里を脱出して聖杖法院に行く経緯は色々あるのですか、エルフの里を逃げ出した後は身を隠すのに最適な修道院(人里離れた場所にあり知らない人が見つけるのは難しい。第12巻112話)に住み着いて、そこでクラフトに出会って影響を受けたのだと想像しています。

なぜフリーレンは碑文を自ら確認したか(再会の伏線)

ミリアルデの碑文を最初に読むのはフェルンです。フリーレンは後ろに控えています。

フェルンは古エルフ語の碑文を読んで「皇帝酒が最上の名酒であることを讃える碑文です」「ミリアルデ…この碑文を書いた人物でしょうか…」とフリーレン達に伝えます。

フェルンの報告内容はフリーレンがエルフの里でミリアルデから聞いていた情報と一致しています。

ですから、フリーレンとしてはこの時点で「ミリアルデだ」とほとんど確定できたはずです。

にもかかわらず、フリーレンは自ら碑文を確認しました。

なぜここでフリーレンは改めて自分で碑文を読もうと考えたのでしょうか?

フェルンの古エルフ語能力を信頼していないから?

いや、そうではありませんね。

おそらく、フェルンの報告では不十分だったから、です。不十分だから自分で読んで確認したかった。

つまり、フリーレンはミリアルデの碑文についてフェルンの報告内容(=私達が「皇帝酒」を読んで知っていること)以上のことを知っていて、実際にその情報が碑文として彫られているかを確認したかったのでしょう。

フリーレンは400年前にミリアルデと再会しています。(前述)

その際に、皇帝酒についてさらに何か情報を得ていた。それが実際に碑文として彫られていることを確認して「やっぱり」と確信している。

そう推測します。

もう一つの可能性として考えたのは、フェルンにはわからない、エルフにしかわからない符牒のようなものがあって署名(サイン)としての役割を果たしているということです。その符牒を確認して「やっぱりミリアルデか」と納得した可能性です。

ただ、私としては最初の説を推します。

なぜなら、このフリーレンの不可解な行動が、フリーレンとミリアルデの奇跡の再会を推測させる伏線になっているからです。

つまり、エルフの里の生存者は自分一人だとお互いに考えていたフリーレンとミリアルデの400年前の奇跡の再会を匂わせる伏線を作者は二つ用意しています。

一つが、このフリーレンによる碑文の再確認で、 もう一つが、ミリアルデの強力な結界を見てもフリーレンが驚いていないことです。

「皇帝酒」のアニメ化(EP33)予想

最後に「皇帝酒」のアニメ化(EP33)について予想してみます。

「エルフの里」に関してかなりアニオリが入るのではないでしょうか。

というのは、エルフの暮らしの描写は世界観の補足でストーリーの深刻なネタバレにはならず、扱いやすい素材だからです。「エルフの里」は既に『前奏2』で取り上げられているということもあります。

特にミリアルデがエルフの里で実力を隠していたことについては原作マンガよりもわかりやすい手掛かりを配置する気がします。著作権の関係がありますから『前奏2』のエピソード(フリーレンから魔法の勉強を勧められたミリアルデが「そのうちね」と断る場面で、目をパチパチさせていることから誤魔化していることがうかがえる)をそのまま再現はしないと思いますが。

この『前奏2』の場面、ミリアルデは可愛いですし、後に彼女の実力に気付いた時のフリーレンの感情を想像すると、私は好きです。ミリアルデが登場しているのはほんの少しなので、ミリアルデだけを目当てに購入することはお勧めしませんが、ゼーリエの扱いは大きいのでゼーリエのファンでもあればお勧めできます。

おわりに

アニメで「皇帝酒」が放送されるのはまだ先なのですが、再読すると色々と考えてしまって、頭を整理するために作文してしまいます。アクセス数向上を考えれば放送のタイミングに合わせて公開するのが良いのでしょうけれども、下書きが残っているのも落ち着きません。手直ししたくなって頭がスッキリしないのです。それで、変なタイミングですが記事を公開しています。そうすると、放送後にはあまり書くことがなくて困るのですが。

ミリアルデは、帝国編の今、最も注目のキャラクターだと思います。

なぜなら、彼女は聖杖法院の法院長かつ大魔法使いだからです。(ミリアルデでなければ新規キャラクター登場になりますが、現状では何の匂わせもなく考えにくいと思います)

つまり、皇帝酒のエピソードから見た時の彼女の「これから」(聖杖法院)も、「これまで」(大魔法使い)も、その両方が帝国編に深く関わってきます。

聖杖法院はデンケンの根回し先ですし、ゼーリエ暗殺計画の背景理解にはゼーリエ(神話の時代の大魔法使い)とは何者なのか、つまり、「神話の時代」と「大魔法使い」の説明が必要だからです。

また、帝国編には「現存する三人の大魔法使い」(ゼーリエ、ミーヌス、ミリアルデ)と「最後の大魔法使い」(フリーレン)の全四人の大魔法使いが集結しています。ですから、大魔法使いとは?の説明には絶好の機会です。(ちなみに、フェルンは「未来の大魔法使い」ですね。作中で大魔法使いになるならゼーリエかミーヌスの聖杖の証を承継するのでは?)

メタな話、帝国編各勢力のボスのバックグラウンドの説明がミリアルデが最後らしいということもその理由です。

そのあたりの予想や考察については記事がありますので、マガジンを検索してみてください。(「神話の時代」がギリシア神話を元にしていることや、「大魔法使い」の制度が四人定員制であることなど)

では、このへんで終わります。

※最近気付いた重要なコマ。グリュックは自分が「人」を目指す「獣」であることを自覚していて言語化しています。(第10巻90話)

《葬送のフリーレン》に関する記事は下記のマガジンにまとめています。

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