《葬送のフリーレン》わかり合えた二人(ミリアルデとの再会)
ミリアルデのファンによる「皇帝酒」(第8巻69話)の深読みです。そこから、『葬送のフリーレン』の世界に通底する「悲しみ」について触れたいと思います。ネタバレには配慮していません。
『葬送のフリーレン』の原作マンガはまだ読んだことがないという方には原作マンガを、既に読んだことのある方にはある一つの視点からの再読をお勧めしています。その訳をこちらの記事で説明していますのでお読みください。
はじめに(七つの伏線と二人の再会)
フリーレンはエルフの里の生き残りは自分一人だと考えていました。(第3巻21話)

が、実はミリアルデも逃げ延びていて、しかも、二人は400年前に再会していると私は考えています。
なぜなら、そう考えることで次の七つの伏線(謎)がきれいに解決できるからです。(謎解きの詳細は別記事を参照ください。ここではザックリと触れるだけです)
【Q.1】1,000年前の自分より弱かったはずのミリアルデの結界が解除に3か月要するほど強力だと知ったにもかかわらず、フリーレンが驚いていないのはなぜか?(第8巻69話)
→ 既に再会していてミリアルデの実力を知っているから

【Q.2】ミリアルデの碑文を解読したフェルンの報告はエルフの里でミリアルデがフリーレンに説明した内容と一致している。にもかかわらず、フェルンの報告に満足せずフリーレンが自ら碑文を読んだのはなぜか?(第8巻69話)
→ 既に再会していて、エルフの里でミリアルデから聞いた以上の情報を持っているから

【Q.3】フリーレンは400年前に同族と会っている。既出のキャラで可能性があるのはミリアルデまたはミーヌスのみ。フリーレンが会った同族は誰なのか?(第2巻13話)

【Q.4】クラフトが300年前に会った同族は誰なのか?(第3巻24話)

【Q.5】フリーレンは「今までの人生で自分よりも魔力の低い魔法使いに11回負けたことがある」。そのうち一人はエルフ。ゼーリエではない。既出のキャラで可能性があるのはミリアルデまたはミーヌス。フリーレンが負けたエルフは誰なのか?(第4巻37話)

【Q.6】聖杖法院のショートカットのエルフの女性は誰なのか?(第14巻128話)

【Q.7】「現存する三人の大魔法使い」(第14巻133話)はゼーリエ、ミーヌスが確定。ゲナウが知らなかったのだからフリーレンではない(第5巻45話)。残る一人は誰なのか?

→全てミリアルデ(クラフトと聖杖法院に関しては少し後述)
ということで、400年前に二人が奇跡の再会を果たしていることを前提に、二人の関係を考えてみます。
なお、私はミリアルデのことを「故郷に帰りたいのに帰れない、故郷を求めているのに得られない」というキャラクターだと理解しています。そのあたりの読解は下記の記事を参照ください。
では、「考察」っぽいことはこれくらいにして、ここからは二人のことを見て行きます。最初に、「皇帝酒」の回想シーンで描かれているエルフの里での二人です。
※【Q.5】はコメント欄にてラムレーズンさんに教えて頂きました。ありがとうございました。
わかり合えない二人
ミリアルデはフリーレンに「想像できる?」とたずねています。

でも同時に「きっと想像できないだろう、説明してもわからないだろう」と諦めていますね。(なぜなら、フリーレンには故郷があるからです)
「想像できる?」と問われたフリーレンの答えは「全然。それってなんの話?」でした。

ミリアルデが「人生」の話をしているのに、フリーレンは「全然」想像できないし、それが「なんの話」かさえもわからない。二人の間にはそれくらい大きな断絶があります。
フリーレンが「なんの話?」と質問しましたが、ミリアルデは「私の話。遠い昔の」と言うだけで、それ以上の話はしません。すぐに「私」の話から「お酒」の話に話題を変えてしまいます。

(故郷に帰りたいのに帰れない)私の気持ちは、(故郷で暮らしている)フリーレンには想像もできないだろうし、説明してもわからないだろう。そうミリアルデは感じています。
ミリアルデの結界の解除に現在のフリーレンが3か月を要していることと、フリーレンがフランメに「(エルフの里では)私が一番強かった」と言っていることからわかりますが(第3巻21話)、当時のミリアルデは魔力を制限しています。フランメと出会う前のフリーレンには魔力を制限するなどという発想は全くありませんから、ミリアルデの実力には気付いていません。このあたりの描写は『前奏2』も参照ください(フリーレンが魔法の勉強を勧め、ミリアルデがやんわりと断っています)。


つまり、この当時のミリアルデは、同族が集まるエルフの里で暮らしているというのに、優秀な魔法使いとしての自分を殺して仮面を被って生きています。
「いつも何もしないで(お酒を飲んで)ぼーっとしている」のは、現実を忘れたい、何かに耽っていたいという気持ちからだけではなく、昼行燈を装う意味もあったのかもしれません。
客観的には、ミリアルデは自ら心を閉ざしているために故郷を求めているのにますます故郷から遠ざかってしまうという悪循環に陥っているように見えます。ただ、彼女の主観では、「意味なんて、何もないわ」と人生に絶望していて諦めているため、これが合理的な選択なのでしょう。(彼女が帰りたくても帰れない原因には、彼女が優秀な魔法使いであることがあるためです)

このように、ミリアルデは人生の挫折を既に経験している「大人」です。
それに対して、当時のフリーレンはまだ「魔法が大好きな女の子」で、幸せな子供時代を過ごしています。
フリーレンとミリアルデとでは、人生で積み上げてきた経験がまったくちがいますから、当然、二人はわかり合えません。
※ミリアルデは室生犀星の「小景異情」だとコメントで教えて頂きましたが、まさにそういう普遍的で複雑な故郷を想う気持ちが表現されていると思います。(Tacozohmaさんありがとうございました)
再会までの二人
玉座のバザルトによってエルフの里は滅ぼされてしまい、二人はお互いの消息を知らないまま離れ離れになってしまいます。そこから二人が再会するまで約600年です。(1,000年前〜400年前)
フリーレンの600年
その間にフリーレンにあった出来事は、フランメとの出会いと別れ(第3巻22話)

そして、七崩賢・マハトとの戦いと敗北です。(第9巻86話、第11巻98話)

つまり、この間にフリーレンが経験したのは大きな喪失と挫折です。
フランメからは「この子はいつか魔王を倒すよ」と言われていたのに(第5巻43話)、南の勇者やヒンメル達と会った頃は、フリーレンは魔王討伐をほとんど諦めていました。(第7巻63話「南の勇者」)

フランメとの幸せな日々の記憶も喪失と挫折で上書きされてしまっています。フランメと別れてからのフリーレンの人生について、ヒンメルは「きっと辛く苦しい道のりだったんだろうね」と想像しています。(第9巻81話)

マハト戦の後からヒンメル達と出会うまでのフリーレンは何か目的意識を持って活動していたという感じはなくて、人里離れた森の中で隠遁生活を送っていたように思われます。フリーレン自身は「だらだら生きていただけ」と説明しています。(第3巻22話、24話)


ミリアルデの600年
ミリアルデの方はと言えば、おそらくエルフの里から逃げ出して、人里離れた修道院に匿ってもらい、そのまま住み着いたのでしょう。

このストーリーは完全に私の想像なのですが、「修道院」というのは女神の石碑編でのハイターの説明を前提にしていて(第12巻112話)、約300年前の武道僧のクラフトとの出会いから聖杖法院へという繋がりを意識しています。(第3巻24話、第14巻128話)



※作中ではモンク=武道僧ですが、モンク(monk)とは一般には修道僧を意味します。
※「聖杖」という言葉は大魔法使いの地位を証する「聖杖の証」でも使われています。大魔法使いは神話の時代から存在しますから(ゼーリエは「神話の時代の大魔法使い」と自称しています。第10巻93話)、「聖杖」は女神様と関連する言葉だと推測しています。聖杖法院トップのショートカットのエルフの女性(おそらくはミリアルデ)がお祈りのポーズをとっていることも、その根拠です。

わかり合えた二人
最後に、400年前のミリアルデとフリーレンの再会についてです。ここまでの推測を前提にした私の想像になります。
まずは当然ですが、お互いに「生きていたのか!」という驚きと喜びがあったと思います。
そして、次に来るのは、お互いの事をなぜかわかり合えてしまう不思議な感覚ではないでしょうか。双方の事情を知る立場からすれば不思議でもなんでもないのですが、当事者二人の立場に立てば、もう亡くなったものだと思っていた相手と600年の時間を隔てて再会するとお互いのことがわかるようになっていたという奇妙な感覚だったと思います。
この間、特にフリーレンの方に大きな変化があったわけですから、エルフの里で暮らしていた頃とは、お互いがずいぶんちがって見えたと思うのです。
ミリアルデとしてはエルフの里では「フリーレンに話したところでどうせわかってはもらえない」という諦めがあって多くを語ろうとしませんでした。しかし、再会の際にはその印象はかなり変わっていて、「フリーレンになら話しても良いかもしれない」と思えたでしょう。
フリーレンとしてもエルフの里ではミリアルデの話が「全然」想像できなかったし「なんの話」かもわからなかったために、いささか心無い突き放したような反応しか返せませんでした。しかし、再会の際にはミリアルデの話を聞いて「そうだね」と受容できるようになっていたのではないか。
そんな気がします。
まとめ
1,000年前、エルフの里でのフリーレンは「この里で一番強いのは私だ」と考えている魔法が大好きな「女の子」です。ですから、ミリアルデ(大人)の絶望や諦念など微塵もわかりません。ミリアルデとしても、そんなフリーレンに理解してもらえるとは期待していませんし、「私の話」をしたいとも思わなかったでしょう。

けれども、400年前、ミリアルデと再開した時のフリーレンは既に喪失や挫折を経験して「大人」になっています。だから、ミリアルデのことがわかります。ミリアルデとしてもエルフの里では「女の子」だったフリーレンが「大人」になっていることに気付きます。だから、ミリアルデは「私の話」をフリーレンに語ることができます。

そういう関係性の変化があったのではないかという想像です。
ちなみに、300年前にミリアルデとクラフト出会っているとすれば、クラフトからの影響を受けて今度はミリアルデの方に精神的な面での変化があったでしょう。それが、ミリアルデの聖杖法院でのキャリアに繋がっていると思います。
このクラフトの影響力が、「皇帝酒」のエピソードで見せていた酒浸りでアンニュイなイメージのミリアルデと、聖杖法院トップとしてのシュッとしたイメージのミリアルデのギャップを生んでいる、という推測でもあります。
おわりに(悲しみを教えて)
小学校の同級生に、いっつも忘れ物をする奴がいました。
私は内心「なんなんだこいつは?」って思って、イラッとしていました。自分よりも「劣っている」と判断した相手に対して苛立ちを感じているのです。(恥ずかしいことですが、私は今でもこの感情を抱くことがあります)
でも、大人になってからわかりました。私が忘れ物をしなかったのは親が持たせてくれていたからだと。そして、子供に忘れ物をさせないことがどんなに大変なことか!
あの子の親はきっと大変だったのだろうと思います。だって今の私が大変ですから。申し訳なかったなあと思います。
「どうしていつも忘れ物するの?」とか、「いつも(お酒を飲んで)何もしないでぼーっとしているね」「魔法の勉強してみたら?」(『前奏2』)と言えるということは、ある意味では幸せなことであり、別の意味では知らないということでもある。あるいは残酷なことである。そんなことを思いました。
本稿の「皇帝酒」深読みは、ミリアルデとフリーレンの再会が喪失と挫折(悲しみ)を知った二人の慰めになっていたら良いなぁ、という想像です。
二人がわかり合えたのは、二人が世界観(「世界とはこういうものである」というものの見方)を共有できたからです。
なぜ世界観を共有できたかといえば、フリーレンが「悲しみ」を知ったからです。
だから、『葬送のフリーレン』の世界には「悲しみ」が通底していると思います。この現実と同じく。
そのことに私はリアリティを感じます。
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