真田純子『風景をつくるごはん:都市と農村の真に幸せな関係とは』(2023 農文協)
書名「風景をつくるごはん」には、本書の「目的」「手段」「対象」が入っているそうです。
当初、書名からは何を言おうとしているのかピンと来ませんでした。
著者は徳島県とイタリアでの農村生活を体験をきっかけに、日本農業の「近代化」過程で生じた矛盾を整理し、農業経験も踏まえ、都市住民(消費者)も巻き込んだ「あるべき農業、農村のかたち」を提示しています。
良好な農村環境、農村社会を象徴するものとしての「風景」、消費者の意志や選択次第でそれが変化するということを表わす「つくる」という能動的な動詞、そして消費者が選ぶ対象となる野菜などの食品である「ごはん」から成っている。(27ページ)
そして、「風景」を
「農村空間を構成する環境、社会、経済という要素を統合的に捉えたもの」(53ページ)
と定義しています。
都市と農村の良好な関係とは?
都会と農村の関係は、長い時間をかけてつくられてきた。その関係の下地には、農業や地方創生の制度、流通の形態などがあり、それらが暮らし方や活動を規定し、人びとの価値観をつくっている。それらの総体を本書では『社会のシステム』と呼びたい。
この『社会のシステム』は社会のベースにドンとあり、あらゆる『当たり前』をつくっている。都市と農村の『選ぶー選ばれる』という関係は、当たり前、仕方ない、そういうものだ、と受け入れるべきものとは思えない。
50年後、あるいは100年後に都市と農村が良好な関係であるために、そこに向かって社会のシステムを変えていきたい。
著者が指摘しているように、農産物の大規模長距離流通システムによる都市と農村の関係では、「消費者の欲望を満たすために、農業がしにくくなっている部分がある」と思います。
システムの弊害として、生産地と消費地の距離が伸び輸送にコストの増加、農産物の規格化による手間と出荷できないB品の産出、季節性を外した(旬以外の時季に)栽培によるリスク、資材の増加などが挙げられます。
EUと日本の農業政策
著書のEUの農業政策からは、環境破壊から保全への政策、規模や立地による農業格差の是正などへの変遷が参考になりました。
農業生産に加え、農村に対する振興政策も環境、社会、経済の循環に配慮し、「風景」を価値にしている点です。
農業者の努力や善意によって良いものを「流通させる」のではなく、流通や加工、食品基準なども含めたフードシステム全体で、環境に負荷をかけないものを消費しやすい社会を目指しているようです。
日本の農業振興を目指した「6次産業化」「農泊」などの政策と、見た目は同じようでも出口が異なります。
単に商品が売れればよい、観光客が泊まりに来ればよいのではなく、農村の活性化につながり良い経済循環が生まれることが大切だと思います。
地域を良くする「ブランド化」とは
売れる産品をつくったとしても、地域社会や地域の環境が疲弊するようでは、本当の意味で地域活性化にはつながりません。
地域を良くする「ブランド化」には
①地域に良い影響を与える作物、農法を進めること
②その価値を発信すること
③その価値を理解してくれる人を増やすこと
の3つのステップを必要としています。
理解してくれる人とは、地域や環境や社会を第一に考え、それをつくり、そうした観点から「良い」といえるものを理解できる消費者のことです。
有機農産物の地域認証においても、売れるための認証ではなく、地域の農業や環境との結びつきを考慮したしくみが必要と思います。
三澤勝衛の「風土産業」という視点も、参考にすべきです。
大分県臼杵市の地域認証「ほんまもん農産物」も参考になります。
持続可能な「社会システム」に変えるための行動
農業の「近代化」「効率化」により栽培法(品目、品種、肥料、防除、機械、燃料など)が画一化され、地域の環境から切り離されたことで、農業の持続可能性や農村の「風景」は大きく変わりました。
そのための小さな行動として、本書では下記のことをあげています。
環境に即した農業:土地の条件に合わせた作物をつくること
社会システムの変革:環境に即した農業でつくったものが売れる社会をつくること。人びとの価値観の変革に働きかけること
農業活動と環境的機能を結びつける:消費のベクトルを「個人の効用」から「環境のため、社会のため」に変えるために、環境的機能と農業活動の関係を見えやすくすること。環境に即した農業がもつ価値が何なのかが見えるようにすること。農産物の価値を正しく伝えること
行動の積み重ねで社会全体の価値観を変える:環境に即した農産物を学校給食などの公共調達に採用し、地域経済のなかで回すこと
本書は、農家の高齢化と減少で「耕作放棄地」が増加し、疲弊していく日本の農村はどうあればよいのか、持続可能な「社会システム」に転換していくために国民全体(特に、消費のみの都市住民)で考える参考になると思います。
目指すは「人間と自然との調和のとれた関係」です。
参考文献
中村桂子(2003)「自然」について考えたこと. Webマガジンen.
