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【創作大賞2025応募作品・恋愛小説部門】「僕は君に恋してる ~舞×ユージン編~」第五話 大切な人のために

6.<ユージン>

 仕事を終えた舞さんが自室で電話に出ることを想定してかけたつもりが、現実はそう甘くなかった。しかも、一緒にいた悠斗さんに電話を交代され、自宅まで来いと言われる始末。悠斗さんとは何度か会っていて住所も把握しているが、舞さんに会うためとは言え、氣が重かった。

 それだけではない。話を聞いた仲間までもが「会ってこい」とオレの背中を押したのだ。

「向かう先は一緒じゃないですか……」
 思わず麗華さんに愚痴をこぼす。彼女らの家は、悠斗さん宅から歩いて行ける距離にある。

「なあに言ってんの。ユージンがデートするって話なら、あたしたちもこのまま街に繰り出して遊んでいくわよ。ねぇ、拓海? ともくん?」

 呼ばれた二人は嬉しそうにうなずき、拓海さんは麗華さんの、智さんは妹のセナの隣に立ってそれぞれの肩を抱いた。

「四人はいいけど、それじゃあリオンが……」
 一応、弟を氣遣ってみる。しかし案の定、「あぁ、おれは大丈夫」と返される。

「兄ちゃんもセナもデートでいないなら、部屋に戻って一人、作曲でもしてるよ。二人がいるとやっぱり集中できないからさ」

「あ! リオンはリオンでさくらさんのためにまた曲を書き下ろしてるんでしょ! お兄ちゃんといい、リオンといい、分かりやすいんだから」

「…………!! さくら、、、のためじゃないってば!」
 セナに揶揄われ慌てて否定するも、双子の姉の鋭い突っ込みに対応しきれなかったようだ。ボロが出て麗華さんをはじめ、みんなに笑われる。

「リオンもなんだかんだで、さくらちゃんとうまくやってるんだ? 彼女の伯母としては喜ばしい限りね」

「勝手に喜ばないでよ。おれとさくら……さんはあくまでも友達!」

「分かった、分かった。そんなに怒らないでよ……。はーい。それじゃあ、話がまとまったところで今日はお開きにしましょう。みんな、お疲れ様! ユージン、頑張ってねぇ」

 ニコニコ顔の仲間に見送られ、会社のあるビルを出たオレは一人、駅に向かって歩き出す。



 電車に乗り、舞さんにおおよその到着時間をメールで伝えた。さっきまでは仲間の対応にイライラしていたが、一人で電車に揺られるうちに落ち着いてくる。

(まぁいいや……。舞さんには会える……。)

 悠斗さんの台詞じゃないけど、好きな人のためならどんな状況でも会いに行く覚悟はある。今日はその覚悟がいる日。そう割り切ることにする。



 悠斗さん宅には九時半過ぎに着いた。事前に連絡を入れておいたからだろう、玄関前には家主がいてオレを見つけるなり手をあげた。

「よぉ。お疲れさん」

「夜分にお邪魔してすみません……」

「呼んだのはこっちだよ。中に入りな。舞が待ってるぜ」

「はい。失礼します……」

 昔ながらの引き戸の玄関。しかし室内は改装されていて今風いまふうだった。舞さんの靴が揃えてあるのを確認し、部屋に入る。

「あっ……」
 居間で控えていた舞さんと目が合った瞬間、彼女の顔が真っ赤に染まった。それを見た悠斗さんが揶揄う。

「相変わらず分かりやすいな、舞は。はぁ、若いっていいなぁ……。それじゃあおれは自分の部屋にいてるから、帰るときに声かけて。さっき話したとおり、途中まで送ってやるから」

 言うが早いか、悠斗さんはすぐにいなくなり、オレたちは静まりかえった居間で二人きりになった。

「ええと……。とりあえず、座ろっか。どこでも好きなとこ、座って」

 舞さんはオロオロしながら、いくつかある座布団を指さした。オレは手前の座布団に腰を下ろす。

「……となり、座って欲しいな」
 手招きすると舞さんは一層顔を赤くした。

「と、隣?!」

「そんなに緊張しなくても……。ギターレッスンの時はもっと距離が近いじゃないですか」

「そ、そうだっけ……?」

「そうですよ」

「じゃあ、座るね……」
 舞さんはオレの顔をじっと見ながら座布団に正座した。あんまりにも真っ正面から見つめてくるのでこっちも恥ずかしくなる。

「……会いたかったです。本当に」
 恥ずかしさを誤魔化すように言い、少しだけ、にじり寄る。堅く握られたその手を取ると、彼女は小さく笑った。

「……さっきの歌、最高のサプライズだった。あんなに素敵なプレゼントをもらったのは初めてよ。自分一人のために歌ってもらって、すごく特別な氣持ちになった。本当にありがとう」

 それでね……。と舞さんは続ける。

「歌が終わってからセナちゃん、言ってたでしょう? 『アタシたちにも二人の恋を応援させて』って。それを聞いて、あぁ、誰かに応援されるってこんなにも誇らしくて勇氣をもらえるものなんだなぁって思ったんだよね。だからやっぱり、ユージンさんが提案してくれた、圭二郎のための応援歌は絶対に作りたい、聞かせたい。あいつには、わたしじゃなくてもっと別の場所を、高みを目指して欲しいから」

 ある程度予想はしていたが、ライバルの名が彼女の口から飛び出したことに少なからずショックを受けた。思わず握っていた手の力が緩む。

「……ごめんなさい。せっかく会いに来てくれたのに圭二郎の話題を出して」
 オレの氣持ちを察したのか、今度は舞さんがオレの手をぎゅっと握った。

「……仕方ないです。あの人は舞さんの幼なじみだし、応援歌を作りたいって言ったのはオレの方なので。……もしかして今日ここに来ていたのはあの人のことで?」

「ええ……。悠斗さんならいいアドバイスをくれるんじゃないかと思って。でも、最後にはわたしの氣持ちを最優先しろって言われちゃった。その結果が、これ……」

 舞さんはオレを見てはにかんだ。

「だけど、ここにいるタイミングで電話をくれて良かった。もし一人でいるときだったら……。あるいは目の前でさっきの歌を聞いてたらわたし、ユージンさんのあまりの格好良さに年甲斐もなく大はしゃぎしてたと思うわ」

 べた褒めされて嬉しくなったので、意地悪なことを言ってみる。
「じゃあ、今から歌いましょうか?」

「ん? わたしは、恥をさらさずに済んで良かったって話を……」

「いいじゃないですか。見せてくださいよ、舞さんがオレの歌聴いてクラクラする姿、見てみたいです」

「もうっ! お姉さんを揶揄うんじゃないの!!」
 真っ赤な顔でプーッと頬を膨らませる姿は、お姉さんと言うより妹みたいだった。

「あぁ、もう……! かわいすぎっしょ……!」
 とうとう我慢できなくなって、人のうちだと言うことも忘れて思い切りハグした。急だったせいか、舞さんが戸惑いの声を上げる。

「ちょ……!? ユ、ユージンさんっ……!?」

「……大好きっす。だから、このままでいさせて」
 耳元でささやくと、舞さんはうっとりするように息を吐き、自身の腕をオレの背に回してくれた。

「……もう一度、好きって言ってくれたら嬉しい」

「もちろん。何度でも」
 そんな恍惚こうこつとした声で言われたら、こっちだって脳みそがシビれそうだ。

「……♪マジで夢中なんだよ、僕の、僕の愛するMy Dear」
 さっき電話越しに披露した歌のサビの一部を歌うと、舞さんはまたしても甘いため息を吐いた。

「ユージンさん、いい声してるんだからサザン×BBでも歌えばいいのに……。そしたらわたし、もっと好きになっちゃうんだけどな」

「そう言ってくれるのは嬉しいですけど、歌はやっぱり麗華さんとセナ、それから智さんの三人ですよ。オレなんて全然足下にも及びません。オレが歌うのは、愛する人に想いを伝えるときだけです」

「…………!! それはそれで、わたしとしては嬉しいかも! やっぱユージンさん、最高!」
 彼女はオレの背に回した腕に力を込めた。その腕を解き、正面から彼女を見つめる。

「あー、そのユージンさんっての、なんか引っかかるんっすよね……。オレのことはどうか『ユージン』って呼んでください。恋仲になったんだし」

「分かった。それじゃあユージンも、わたしに敬語使うのはやめてよね? なんか、距離を感じちゃうから」

「じゃあ、敬語はやめる。でも、名前の方は『舞さん』って呼ばせて欲しいな。お姉さんに恋してる感があって、好きなんだ」

「もう……。『好きなんだ』って言われたら、ぜひそう呼んでください! としか言えないじゃない! 人を乗せるのが上手なんだからー」

 舞さんはさっきから嬉しそうに身体を揺らしている。その様子もまた可愛らしくてニヤニヤしていたら、とうとう顔を覆われてしまった。

「じっと見ないでよー、恥ずかしいじゃん……」

「えー? 可愛い顔をもっと見せてよ」

「嫌だよぉ」

「キスしたいって言ってもダメ……?」

「え……?」
 顔を覆う指の隙間から目が覗いた。戸惑う彼女の手をそっと除けて優しく頬に口づけをする。

「舞さんを見てたらまた曲を作りたくなってきた。そのくらい、可愛い」

「褒めすぎだよ。でも、嬉しい。ありがとう。……また、会えるよね?」

「もちろん。呼ばれればいつだって飛んでくる。地球の裏側からでも」

「ふふっ……。社交辞令も上手ね」

「社交辞令なんかじゃ……」
 言いかけて、やめる。さすがに地球の裏側にいたらすぐに飛んでくることは出来ないし、実際、今はアルバム作りや次のライブに向けての準備でかなり忙しい。舞さんが「社交辞令」と言ったのは、こうしたオレの状況を知ってのことだろう。

「……正直に言うよ。仕事が立て込んでて、次に会う日を約束することが難しい状況なんだ。もしかすると結構先になっちゃうかも。だけど、声だけなら電話で聞かせてあげられるし、今日みたいにまた歌ってあげることも出来る。しばらくはそんな感じで、会いたい氣持ちを我慢してもらうことになると思う……」

「……今や、人氣者だもんね。サザン×BBは。ユージンのファンも多いだろうに、恋仲になれたわたしは本当に幸せ者。これ以上、贅沢を言ったら罰が当たっちゃう。ちょっと会えないくらい、我慢する。って言うか、電話で声が聞けるだけでも充分すぎるくらいよ。……そんな中、会いに来てくれてありがとう。応援歌を作るって言ってくれたことも……。改めてお礼を言うわ」

 ぺこりと頭を下げた舞さんに、こちらからも依頼をする。

「ああ、そうだ。会えない間に……って言うのも変だけど、圭二郎さんへの思いというか、応援のメッセージというか、そういうのを書いてもらえると嬉しいな。そうしたらそれに曲をつけるから」

「応援のメッセージ……」

 舞さんは何かを考えているようだったが、「分かった。書けたら連絡するね」と言って立ち上がった。

「……結構いい時間になっちゃった。このうちの就寝時間、早いんだよね。悠斗さんに送ってもらうなら、そろそろ帰らなきゃ」

 言われて部屋の時計を見ると、いつの間にか十時を回っていた。

「こんな遅くまでお邪魔しちゃった上に送ってもらうなんて申し訳ないな……」

 ここまでの道順は分かるし、まだ終電には早いから正直、悠斗さんに送ってもらう必要性を感じてはいない。なのでその旨を伝えておいとましようと、舞さんと一緒に彼の部屋に向かう。

「まだ、起きてますか?」
 舞さんが自室にいる悠斗さんに声をかけると、少し間をおいてから戸が開いた。

「おう……。その様子を見る限り、仲良く過ごせたみたいだな」

(…………!!)
 部屋から出てきた悠斗さんはなぜか、上半身裸だった。しかし舞さんは驚くふうもなく話を続ける。

「おかげさまで……。もしかして、ストレッチ中でしたか?」

「ああ……。この時間になると眠くってなぁ。眠氣覚ましに身体を動かしてたんだ。……なんだよユージン、その目は。今おれのこと、変なやつって思ってるだろ? 正直に言ってみ?」

 一瞬、思っていたことが口から漏れたのかと思ったが、いやいや……。誰だって、室内とは言え真冬にこんな格好でいる人を見たら「変なやつ」だと思うだろう。そして、そう問いかけてくると言うことは、本人にも自覚がある証拠。ここは言われたとおり、思ったことをそのまま伝えよう……。

「すみません……。正直言って、ドン引きしました……」

「うん。素直でよろしい」
 悠斗さんは満足そうに頷いた。

「舞。ユージンは誠実な男のようだ。こういう男はそうそう見つからない。大事にしろよ。ちなみに、平氣で嘘を吐くような男はダメだ。あとで必ず痛い目を見ることになる」

「……はい」

「まさか、悠斗さん。オレを試すためにわざとそんな格好を……?」

「さあて、どうかな……」
 悠斗さんは笑いながら服を着た。

「よし、それじゃあ行くか。まずは舞を部屋まで歩いて送ってって、その足でユージンを乗せてくよ。どこまで送ればいい?」

「あー……。オレは大丈夫っすよ。一人で帰れます」

「まぁ、遠慮するなって。話したいことがあるんだ、付き合えよ」

「え?」

「ほら、行くぞ」
 悠斗さんはオレの肩をポンッと叩き、にやりと笑った。



 舞さんの部屋は鈴宮家からほんの数分歩いたところにあった。

「それじゃあ、また……」
 部屋に向かうわずかな間に何度も振り返る彼女を見て、こっちも幾度となく駆け寄りたい衝動に駆られる。しかし、大人のオレの頭はどうしても明日のことを考えてしまう。ずっと一緒にいたい氣持ちをぐっと堪え、見送る。

「乗れ。落ちない程度に掴まっとけよ」
 舞さんが部屋に入るのを見届けると、悠斗さんはすぐにバイクに乗るよう指示し、大きな排氣音を鳴らしながら走り出した。



 走り出してしばらくした頃、悠斗さんの声がヘルメットに装着されたスピーカーから聞こえてくる。

『……舞のこと、よろしく頼む』
 いきなり重い頼み事をされ、ドキリとする。

「……さっきもそうでしたが、まるで父親みたいなことを言うんですね。舞さんは血縁者じゃないんでしょう?」

『血の繋がりはないよ。おれはただ、あいつの幸せを願ってるだけ。そしてユージンならきっと舞を笑顔にしてやれると信じてる。だからこうして頼んでるんだ』

「オレ……ですか?」

 悠斗さんは一呼吸おいてから話を続ける。
『……舞はさ、ユージンからギターを習うようになってから本当によく笑うようになったんだよ。それを見て家族で話してたんだ。ユージンが舞の恋人になってくれたらいいのにって……。だから、その通りになって今は本当に嬉しい。心から喜んでるんだよ、おれは』

「そうだったんですか……」

『こんなこと、舞の父親には言えないけどさ、舞に必要なのは野球じゃなくて音楽だと思ってる。別に、今からミュージシャン目指せって意味じゃなくて、舞の人生のスパイス的な意味で』

「舞さんに限らず、音楽は誰の人生にも必要不可欠なものです。悠斗さんや……圭二郎さんにも」

 そう……。音楽は人の心を癒やすために存在していると言っても過言ではない。オレだって音楽には何度も救われてきた。

『そういえば、圭二郎さんの応援歌を作るって聞いたんだけど?』
 彼の名を出しただけで悠斗さんにはオレの意図したことが伝わったようだ。だったら話は早い。

「ええ……。舞さんが彼のことを氣にしてるようなので……」

『愛する女のためなら、恋敵の応援歌をも作る、と……。なかなか出来ることじゃないぜ? そこがユージンのすごいとこ。舞が惚れるのもうなずけるよ』

「いえ……。ミュージシャンとして当然のことをしようとしているだけです」

『……実はおれもちょっぴり圭二郎さんと関わっててな。だから、あの人の心が回復するのは見届けなきゃいけないんだ。協力できることがあったらなんでも言ってくれ。可能な限り力になる。……一緒にあの人を救おう』

「はい」

『お前みたいのが、……だったらなぁ……』
 悠斗さんの声ははっきり聞こえなかった。

「え? 今、なんて……?」

『何でもない、氣にするな……』
 悠斗さんは咳払いをし、信号が青になったと同時に思い切りエンジンを吹かして夜の道をかっ飛ばした。まるで恥ずかしさを誤魔化すかのように。


続きは第六話へ

※見出し画像は、生成AIで作成したものを加工して使用しています。


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