【創作大賞2025応募作品・恋愛小説部門】「僕は君に恋してる ~舞×ユージン編~」第六話 支えてくれる人
7.<舞>
素敵な夜だった。こんなにも早く距離を縮められるなんて夢みたい。頬に触れた、彼の唇の柔らかさを思い出すたび幸福感に包まれた。そしてなかなか寝付けなかった。
◇◇◇
翌日からの仕事には身が入らなかった。店内でかかるサザン×BBの曲を聴けばどうしても彼を思い出してしまうからだ。理人さんには「そんなマイマイを愛でるのもアリかな」と揶揄われたが、反論の言葉も思いつかなかった。
(あぁ……。お互いに想い合ってるのに会えないこの感じ……。ホントに辛い……。)
三十を過ぎたっていうのに、まるで初めて恋した中学生みたいなことを思っている自分が恥ずかしい。だけど、悠斗さんは自分の氣持ちを大事にしろと言っていたし、蓋をしたところできっとあふれ出てしまうだろうから、ここは悠斗さんの言葉の通り、会えない時間の苦しみと向き合い、仕事が終わったらこの想いを彼にちゃんと伝えようと思う。
*
しかし、電話をかけてもそれはそれで切ない氣持ちになった。終えなければいけないと分かっているのに、なかなか切れない。「バイバイ……」「それじゃあまた……」「明日もかけるね」などと似たような言葉を繰り返しては向こうから切ってくれるのを待つが、相手も同じことを思っているのか、オウム返しされるばかり。直接会って話しているときはこんなに後ろ髪を引かれることはないのに、電話だと普段と違う自分が顔を覗かせる……。わたしって、こんなにウエットな女だったかな。電話はあまり得意じゃない。
◇◇◇
そんなある日の昼下がり。恋煩っているわたしを訪ねてきた客がいた。ちょうど昼休憩のため店の奥に下がった直後のこと。お弁当に箸をつけたところだったから、お店のことは理人さんに任せようと耳だけそちらに傾けていると、どうやら来客の一人は圭二郎だと言うことが分かった。
昼食を取ることより彼らの会話が氣になってしまい、つい聞き耳を立てる。そのうちに、永江さんが長く活躍できたのはファンに支えられてきたからだ、と言う理人さんの言葉が聞こえ、いても立ってもいられなくなった。
(圭二郎にだってファンはいる。そう、ここに……! 応援歌だって作るんだから……!)
お弁当もそこそこに、箸を置いて店の方に足を向けようとした。が、その瞬間に肩を掴まれる。
「出て行かない方がいい。それがお互いのためだよ」
わたしを引き留めたのは理人さんの双子の兄、隼人さんだった。顔は理人さんと瓜二つなのに考え方や行動は正反対、という人だ。
「理人の氣持ちも察してやって欲しい。あいつは、舞さんを守ろうとしてる。双子のぼくには手に取るように分かる」
隼人さんはわたしが飛び出していかないよう、正面に回った。
「幼なじみを応援したいという、舞さんの思いも分かるよ。でもね、男ってのは甘やかしたらダメになっちゃう生き物なんだよ。だからここは、心を鬼にして我慢しよう。そうでなくても舞さんが好きなのはあの人じゃなくてユージンさんなんでしょう? 氣持ちをごちゃ混ぜにしちゃいけないよ」
「隼人さん……」
「……なんてね。ろくすっぽ恋愛したことがないぼくが言っても説得力はないけれど」
彼は肩をすくめ、店の方に身体を向けた。
「……どうやら話は終わったようだ」
同じ方に目をやると理人さんがこちらにやってくるところだった。彼はわたしと目が合うなりため息を吐いた。
「……話、聞いてたよね? マイマイがこっちにいて良かったよ。直接顔を合わせてたらまた面倒くさいことになってたはずだもん」
「隼人さんが止めてくれたんです……。それがお互いのためだからって……」
「あー……。さすがは兄貴。こういう時は機転が利くな。サンキュ」
「氣にするな」
「ところで……」
面倒くさいと言われたやつの話はおしまいにすべきと分かっているが、ちょうどいい機会なので「あのこと」を打ち明ける。
「さっき、永江さんが長く活躍できたのはファンに支えられてきたからだ、って話してましたよね? 実はめぐちゃんの提案で、圭二郎のファンクラブを作るのはどうかってことになりまして……。もし良かったら、ファンクラブ作りのノウハウを教えてもらえないでしょうか?」
「へぇ。めぐっちがそんなことを……。いいじゃん、絶対やるべきだよ。なんならおれが全面的に協力してもいい。やろう」
理人さんは腕まくりをしてやる氣をアピールした。
「永江センパイのファンクラブを作ろうって言ったときのことを思い出すよ。なんだかんだ言って、第一線で活躍してる人は憧れられる存在。なのに当人はそのことに氣付いてないんだよなぁ。自分がどれだけ見る人に影響を与えてるかが分かってない。そういう意味で、ファンクラブってのは自分の応援団がどれだけいるかを可視化できるからいい。ファンクラブを作ってやれば、圭二郎くんにも自分の価値が分かるだろう」
「……理人さんって、実は圭二郎のファンだったりします?」
あまりにも熱を入れて語るのでつい、そんなことを思ってしまったが、答えはどうやら違うようだ。
「前にも言ったっしょ? あの人は昔のおれに似てるって。……おれにもさ、自分が生きてる意味とか、価値とか、そういうのが分からなくなった時期があるんだよ。野球を辞めちまおうとも思ってた。でも、出来なかった。やっぱりおれは野球が好きで、それが無いと生きていけないと再認識できたのは……野上センパイの言葉があったから」
理人さんは少し恥ずかしそうに鼻の下をこすった。
「あの人……あぁ、マイマイのお父さんのことだけど、前にも言ったかな? 野上センパイは口の悪い後輩のおれを頼ってくれた唯一の人。お陰で自信を取り戻せたし、野球も続けようと思い直すことができたんだ。だからって訳じゃないけど、圭二郎くんも踏ん張るためのきっかけがあれば持ち直せるんじゃないかな? そしてそれはファンクラブだとおれは思う」
「つまり、誰しもが支えを必要としているってこと。それがあるから頑張れるってことさ」
隼人さんが補足をする。
「その当時のぼくと理人なんて、互いのことを『消えて欲しい』と思ってたんだぜ? なのに今じゃ、かけがえのないパートナーだ。信じられないだろう? でも、そういうものさ。もし一人だったら今頃何をしているか分かったもんじゃない。ぼくらは支え合っている。互いに尊敬もしている。だからここで喫茶店を続けられるんだよ」
二人の話を聞いて思う。わたし自身も両親の応援のお陰でここまで自分の好きなことを――少し前までは野球を――続けることができた、と。普段は意識しないけど、立ち止まって人生を振り返れば必ず誰かが自分を支えてくれていたことに氣付くものだ。それに感謝できたとき人は成長する。
「自分にはファンがたくさんいると知ったら、圭二郎は心を取り戻せるのかな……」
「大丈夫。信じようぜ」
理人さんの言葉は力強かった。
続きは第七話へ
※見出し画像は、生成AIで作成したものを加工して使用しています。
いいなと思ったら応援しよう!
芸術家が集う癒やしの場「ワライバ」を提供するのが夢。共感者を大募集中💖記事を読んでピンときたらお声がけを💕一緒に愛と調和の世界を物語りましょう💖