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【創作大賞2025応募作品・恋愛小説部門】「僕は君に恋してる ~舞×ユージン編~」第十三話 応援歌づくり

15.<ユージン>

 単独ライブの準備の傍ら、圭二郎さんへの応援歌作りに励んでいると、舞さんからこんなメールが届いた。

 ライブのチケットをもう一枚、確保してもらえると嬉しい。


 詳細を聞いてみたら、当日は圭二郎さんと一緒にライブ会場に足を運ぶことになったのだと言う。

(もしかして、オレが会えない間に圭二郎さんが接近したのか……?)

 一緒に暮らす約束をした舞さんが、進んで圭二郎さんに会うのは考えにくい。いや、直接会ったのではなく、メールなどでやりとりしているだけかもしれないが、いずれにしても二人がコミュニケーションを取り合っているのは間違いなさそうだ。

 ライブで応援歌を披露する予定はなかった。しかし、どうやら舞さんに積極アピールしているらしい圭二郎さんには、対面で聴かせるより、ライブ会場の雰囲氣に乗じて聴かせた方が効果的に思えた。

 その話を仲間にすると、歌詞を担当してくれているセナと麗華さんが答える。
「もし舞さんが困ってるってことなら、歌詞を見せてあげる。ね、レイさま?」

「そうね。もうちょっと練ろうかと思ったけれど、一度ユージンに見てもらおうかしら。歌詞を読んで曲をイメージできなければ、その時は練り直すわ」

「是非見せて欲しいですね」

「分かったわ」
 麗華さんから歌詞を書いた紙を見せてもらう。

「すっげえな……」
 かなり情熱的な内容に驚いた。あの手紙からここまでイメージを膨らませられるとは。

「言っとくけど、あたしとレイさまの共作だからね?」
 セナが自分もがっつり関わっていることをアピールした。

「分かってるって……。オレだったらこんなふうには書けない。やっぱり、女の子の氣持ちは女の子にしか分からないんだな。うん、すごくいいと思う」

「でしょう!」

「……最初はオレが弾き語りしようと思ってたけど、この歌詞だとやっぱりセナか、麗華さんに歌ってもらった方が雰囲氣出るな……」

 この歌詞の一人称は「あたし」になっている。そりゃあオレが歌ったっていいんだけど、彼に直接聴かせるなら断然、女性ボーカルがいい。

「ユージンならそう言うと思ってた。あたしはセナを推すわ。やっぱり同じ年頃の女の子が歌った方が想いも伝わると思うの」

「オレもそう思います。……セナは、どう?」

「もちろん、いいわよ。お兄ちゃんの恋愛が成就するように、心を込めて歌うわ」

「ああ、頼むよ」


◇◇◇


 数日後。作曲する時間をもらったオレは、舞さんの写真を目の前に置き、歌詞と睨めっこを始めた。

 歌詞には少し失恋要素が入っており、悲しい雰囲氣も漂っている。だが、ここは敢えて舞さんのイメージを崩さないよう、明るい曲調で爽やかに仕上げるのが良さそうだ。

 スタジオでエレキをかき鳴らしていると、ドアがノックされた。返事をすると入ってきたのは拓海さんだった。

 ――どう? うまくいってる?――
 拓海さんが手話で言った。

「なんとなくのイメージは出来てるんですが、爽やかさを出すのが難しいなって。ほら、これまで三きょうだいでやってたブラックボックスでは、ポップでテクノっぽい曲が多かったでしょう?」

 ――なるほどな……。ほんなら、俺のアコギ、貸してやるよ。こいつを相棒にして作曲すると、なぜか爽やかさ全快の曲が出来る。試してみてくれ。――

 拓海さんは手話を使ってそう言うと、スタジオの隅にあった一本のアコギを持ってきてオレに渡した。

 ――これは、俺がユージンくらいの頃から使ってる思い出深いアコギなんだ。初期のサザンクロスの頃。麗華と一緒に、爽やかな曲調を売りにしていた頃の相棒でな……。――

「そうなんですね……。でも、そんな思い出深いアコギをオレが使っちゃって大丈夫なんですか?」

 ――いいってことよ。だってユージンは彼女のために……。いや、彼女の幼なじみのために一曲作ろうって頑張ってんだろ? そんな健氣な姿を見ちゃったら誰だって応援したくなるよ。――

「ありがとうございます」

 ――いいなぁ、若いって。俺ももう一度、初心に返って麗華のために一曲作ってみようかな?――

「いいじゃないですか。作りましょうよ」

 ――ユージンがそのギターで、最高の一曲を作り終えたらな……。――
 頑張れよ。拓海さんは微笑み、オレの肩を叩いて出て行った。

「……よぉし! 頑張るぞっ!」
 にわかにやる氣が湧いてきたオレは、その勢いのまま曲作りに没頭した。


◇◇◇


 何日も、何度も、試行錯誤を繰り返しながらようやく完成形に仕上げた。出来上がった曲を早く聞いて欲しくて、夜更けにもかかわらず、自室から舞さんに電話を掛ける。

 電話はすぐに繋がった。しかし周囲の音から、一人きりの部屋にいるわけではないのが分かった。

「あれ? 舞さん誰かと一緒?」

『あー……。実はライブまでの間、一時的にまたお兄ちゃんたちの家で厄介になることにしたの……』

「え、どうして? 何かあったんですか?」

『うん、まぁ、ちょっとね……』
 訳を言わないのが氣になった。

「分かった、圭二郎さんとの間に何かあったんでしょう? だからオレに言いにくいんじゃない?」

『……それもあるけど、別の理由』
 はぐらかした舞さんは、逆にオレに問う。
『それより、何か用があって電話をくれたんじゃないの?』

「あぁ、そうそう。例の曲が完成したんだ。だから一度、聴いて欲しくて」

『え、それって応援歌、だよね? 完成したの?! 聴きたい!』
 落ち込んでいる様子だったのが一転、明るい声に変わった。それを聴いてこちらの氣持ちも少し落ち着く。

「オーケー。……今、歌おうと思うんだけど、聴ける環境かな?」

『ええ、大丈夫』
 彼女が聴く体制に入ったのを確認し、スマホをスタンドに置いた。拓海さんから借り受けたアコギを手に、つま弾きながら歌い始める。


誰にも言えず 涙したあの日
支えてくれる人さえいない
孤独だけが友達だったんだね……

頑張るほどに空回り
うまくいかない……
自分のせいだと 何度も叫んだけれど
報われない世界でキミは

悔やんでみても
出ることない答えを抱えながら
生きてきたんだね……
ここにあるのは、確かに歩んできた軌跡

泣きじゃくったって
強くなくたって
見てる、誰よりキミのことを
ありのままでいいんだよ
逃げたくなったら逃げていいんだ
最後は戻っておいでよ、ここに
忘れないで、待ってる人がいるから……


 歌詞の内容的に、舞さんが圭二郎さんを想いながら歌うのがベストだけど、今日はオレの声で届ける。そして当日は、歌のうまいセナが舞さんに代わって圭二郎さんのために歌う……。



 最後まで歌い終え、再びスマホを手に取る。
「ど、どうでしたか?」

『…………』
 問いかけても返事がなかった。

「あの、舞さん……?」

『ご、ごめん。すごく心に響いたもので……。言葉も出ないくらい、素敵だった……』
 鼻をすするような音が聞こえ、泣いていたのが分かった。
『それで、この曲のタイトルは……?』

「キミに送るメッセージ」

『あぁ……。ごめん、また涙が……』
 ティッシュペーパーを取る音と、鼻をかむ音が連続して聞こえた。

「そんなに良かった? この歌詞は、麗華さんとセナが共同で作ってくれたんだ。……ホントは本番で歌う予定、なかったんだけど、圭二郎さんと来るんならラストにでもねじ込もうかって話になってて。その時はセナが魂を込めて歌うと言ってるよ」

『ごめんね。応援歌に加えて、チケットまでせがんで。何を言っても効果がないっぽいんで、こうなったらもうライブに連れて行くしかないって思って……』

 そう言った後で舞さんが静かに言う。

『……キミに送るメッセージ。圭二郎のために書いてくれた歌詞なんだろうけど、今のわたしにもすごく刺さったわ。本当は言うつもりなかったんだけど、実はね……』

 前置きをした舞さんは、一つため息をついた。
『……今の喫茶店の仕事、やめなきゃいけないかもしれないの。元々働いてた従妹の育休が終わった辺りから、少しずつ仕事を減らして欲しいと言われて……。結構楽しく働いてきたから、突然そう言われたのがショックでね……』

「それで落ち込んで、お兄さんの家に?」

『まぁ、そんな感じ。……ほら、わたしって賑やかな環境で育ってきてるから、大人数の中にいる方が落ち着くのよ』

「その感覚はオレも分かります」

『でも、今の歌詞。辛いときは逃げてもいいんだってところを聴いたらすごく楽になった。今のわたしにとって、この家がその逃げ場所。受け容れてくれる彼らの厚意に改めて感謝しようって思えたわ。この電話を終えたら早速お礼を言うつもり』

「そう……。舞さんの役に立てたなら嬉しいよ。だけど、仕事のことはキツいね……。落ち込んでたなら、もうちょっと早くオレに言ってくれりゃあ良かったのに」

『うーん……。でも、これはわたしの問題だから……。自分で答えを見つけたいの……。この家なら……彼らなら、わたしが考える時間を与えてくれる。でも必要があれば寄り添ってもくれる。特に悠斗さんはわたしのことを本当によく見ていてくれるのよ……』

 彼女が悠斗さんに絶大なる信頼を寄せているのが伝わってきた。彼ならば納得。オレが嫉妬する隙もないくらい、あの人は人間が出来ている。

「悠斗さんは頼りになるもんね。オレも悠斗さんを見習って、次に何か困ったことがあった時には頼ってもらえるように人間力を磨いとこうっと」

『へぇ、ユージンは頼られたいんだ?』

「当たり前じゃん! だって……だって付き合ってるんだよ?」
 ちょっとムキになったのがバレてしまったのか、舞さんは笑った。

『うふふ……。じゃあ、一緒に暮らし始めたらとことん頼っちゃおうかな。わたしは妹だから、頼れるお兄ちゃんがいたらずっと頼っちゃうと思うけど?』

「どんどん頼ってよ! オレ、舞さんよりは年下だけど、きょうだいの中では一番上だからさ。頼られるのは好きだよ」

『頼もしい! ライブも、そのあとのことも楽しみだなぁ』

「うん。オレも楽しみ」

『……あー、そろそろ寝る支度をしないと。悠斗さんに怒られちゃう』
 電話の向こう側は見えないが、そわそわしている雰囲氣から近くに悠斗さんがいるんだろうと想像する。

「ごめんね、電話をするのがいつも遅い時間になっちゃって」

『ううん。わたしは構わないわ。歌を聴かせてくれてありがとう。また聞けるのを楽しみにしてるわ。……おやすみなさい』

「こっちも、声が聞けて良かった。それじゃ、おやすみ……」



「……舞さんに歌を披露するなら、あたしが歌ったのに」
 電話を終えるのを待っていたかのようにセナが部屋に入ってきて言った。

「今日はオレが歌いたかったんだからいいだろ?」

「まぁ、いっか。舞さん、喜んでくれた?」

「ああ。自分にも刺さる、いい歌詞だったって。だから、このままで大丈夫。リオンには電子鍵盤キーボードでのアレンジを頼んでおこう。……って、リオンは?」

「あの子なら今、さくらさんのところに行ってる。お兄ちゃんと一緒で、完成した曲をすぐに聴いてもらいたいんだって。まぁ、リオンの方は生演奏じゃなくて録音したピアノ曲だけど。相変わらず歌は専門外と思ってるのか、歌詞はつけてなかったみたいね」

「そっか……。なんだかんだで、あいつもうまくいってんだな」
 不器用ながらも、オレたちはそれぞれのやり方で自分の想いを伝えてる。歌おうが、歌うまいが、手紙だろうが、対面だろうが。

「ねえ、君に送るメッセージ。あたしも歌いたいから楽譜をちょうだい。お兄ちゃんの演奏に合わせて歌うよ」
 セナがそう言いながらこちらに手を伸ばした。

「もう遅いから一回だけな。でも、圭二郎さんに届くように、本番さながらで頼むぜ?」

「了解!」
 セナは笑顔で楽譜を受け取った。




16.<舞>

 圭二郎がわたしの元に訪ねてきた日。一緒に食事をして安心したのか、その後彼はすんなり実家に帰っていった。ところが、わたしの居所が分かったからか、はたまた口説き落としてやろうと思ってのことか、彼は翌日も訪ねてきた。今度はわたしが仕事から帰ってくるのを待つかのように、部屋のドアの真ん前でしゃがみ込んでいたのだった。

(店ならまだしも、部屋に直接くるのは勘弁して欲しいな……。)

「話すことなんてないわ。今日はもう帰って」
 うんざりしながら言った。

「連れねえなぁ。俺たち、幼なじみだろう? 昨日みたいに食事くらい一緒にしたっていいじゃん」

「だけど、恋人じゃないんだし、毎日会う必要はないでしょう?」

「俺が会いたいんだ」

「…………」
 本当は突っぱねたかった。でも、今部屋のドアを開けたら強引に押し入ってきそうな氣がした。それだけは絶対に阻止しなければ。

「……分かった。じゃあ、ご飯に行こう。ただし、食事が終わったら昨日のようにおとなしく家に帰りなさい」

「オーケー。それでいいよ」
 微笑んだ顔はまるで子供のようだった。


◇◇◇


 さすがに氣が滅入ったわたしは翌日、店主の理人さんに相談をした。
「なんかそわそわしてると思ったらそういうこと……。ったくあいつ、おれがしごいてやってもまだ懲りねえのか……」

 理人さんは憤った。

「オッケー。そんじゃあ、今日はおれがマイマイを部屋まで送る。で、圭二郎が訪ねてきたらぶん殴ってやる」

「あ、いや……。殴らなくてもいいんですが……」

「その位の氣持ちで話すってことだよ。……まさか、部屋にあげてないよな?」

「もちろんですよ。ドアを開けたら居座られそうな氣がして。これが毎日続くことを考えたら部屋に帰る氣も失せてしまいます……」

「……分かってねえな、あいつは」
 そう言った理人さんの顔は、「鬼」と呼ばれた頃の永江さんを彷彿とさせた。



 少し早めに仕事を切り上げ、約束通り理人さんとともに自室に戻った。簡単なもてなしをしていると、一度だけ力強くインターフォンが鳴らされた。

「多分、圭二郎です」

「よし。おれが出てやる」
 理人さんは立ち上がり、のぞき穴から外を確認すると勢いよくドアを開けた。そして圭二郎の胸ぐらを掴んで自身へ引きつけた。

「毎晩毎晩……。いい度胸じゃねえか。もういっぺん、おれのしごきを受けたいようだな!」

「ま、マスターがなぜここに……?」

「そりゃあ、おれはマイマイの上司だからな。身内が困ってると聞けば助けるのが筋ってもんだろ?」

「…………」

「あんた、居場所がねえんだろ。だから毎晩、ここに訪ねてくるんだろ。違うか?」

「…………」
 圭二郎は答えなかった。が、無言でいること自体が「そうだ」と言っているようなものだった。

「マイマイには恋人がいる。これ以上、つきまとうのは止せ」

「でも、舞に見捨てられたら本当に……」

「馬鹿が! そういうときはワライバに来い。おれを頼れ! あんた一人の面倒くらい、おれが見てやるよ」

「え……」
 圭二郎も、端で聞いているわたしも驚きの声を発した。
「それはどういう……?」

「どうもこうもない。おれが、寝るところくらい提供してやるって言ってんだよ!」

「理人さん……」
 思わず呟くと、彼は一瞬だけ笑顔に戻り、わたしに微笑んだ。

「……この前は善人になりきれなかったからさ。その代わりだよ」
 この前というのは、店で預かった圭二郎があまりにも情けないので、部活動のごとく野球の指導をした日のことを言っているのだろう。彼は続ける。

「……って言っても、寝床を用意してやるだけだぜ。それ以外はおれ流、、、でやらせてもらう」

「おれ流……とは?」

「明日になれば分かる」
 理人さんはそう言って、ようやく圭二郎の胸ぐらから手を離した。そして、わたしが出したお茶を飲むことなく、圭二郎と共に自宅へ帰っていった。


◇◇◇


 次の日。いつも通り出勤すると、なぜか圭二郎も店にいた。驚いていると、理人さんから理由が告げられる。

「家に監禁しとくのもなんだしな。しばらくの間、こいつにも働いてもらうことにしたよ。ただで寝泊まりさせてやるんだから当然、こっちで働いた分の給料は出さない。そういう条件でやってもらう」

「働いてもらうって……。圭二郎に接客が出来るんでしょうか……」

「ああ、大丈夫。こいつにはまず、掃除とか片付けとかから始めてもらって、人の役に立つとはどういうことか、を徹底的にたたき込む。接客までいければ御の字。とにかく、世の中のこと何も分かってねえからな。おれたちが誇りを持って働いてる姿をまずは見せてやろうと思ってさ」

「なるほど」

「だから、マイマイは普段通りに仕事してくれりゃあいいよ」

「わかりました」

「ああ、それと一つ提案なんだけど、おれが預かったとは言え、こいつはいつ何時、部屋を抜け出すか分からない。念のため、マイマイの方もしばらくは一人暮らしの部屋じゃなくて兄貴の家とかを頼るのはどうかと思って」

「俺は抜け出したりはしませんよ」
 圭二郎はしれっと答えた。

「その台詞、全く信用できねえんだよなぁ。男は有言実行! それをあっさり破ればどんどん人が離れていく。もしおれが見限ったらどうなるか、教えてやってもいいけど?」

「…………」
 さすがの圭二郎も、これが本当に最後の温情だと分かっているのだろう。反論することはなかった。



 お世辞にも圭二郎は仕事が出来るとは言えなかった。集中力もなかった。それを見るたび、理人さんが厳しく指導する。

「マイマイの仕事ぶりをよく見て学べ!」

 その言葉に身が引き締まる思いだったが、半年近くにわたってほぼ毎日、出来ないなりに店に立ち、なんとか人並みの接客能力を身につけたつもりである。いつだったか圭二郎には、舞も俺と一緒で野球しか出来ないだろう? と言われたけれど今日は、野球以外の事も出来るのだというところを見せる絶好の機会。そう思って普段以上に仕事に励む。

 理人さんが逐次「メモをとれ」と指示し、圭二郎はその通りにペンを走らせる。最初こそ面倒くさそうにしていたが、そのうちに何かを感じ取ったのか、一日が終わる頃にはその表情も真剣なものに変わっていた。


◇◇◇


 そんな日が何日か続いたあるお昼時、永江さんがふらりと店にやってきた。圭二郎は彼を見るなり隠れようとしたが、理人さんに首根っこを掴まれてしまい、対面させられることとなった。

 少し前、圭二郎は親切にしてくれた永江さんを裏切るような行動を取り、以降見限られている。そんな二人が相見あいまみえたらどうなるか……。氣になって固唾を呑む。

「……大津クンがうまくやっているようだな。この様子なら心配なさそうだ」

 しかし、懸念していたような反応は見られず、永江さんはいつものとおりお氣に入りの席に座って定食を注文した。

(どうなってるの……?)

 混乱しつつも定食を用意し、席に運ぶ。と、永江さんは「ありがとう」と言ってにこやかに笑った。

「……その顔を見る限り、まだ機嫌を損ねているんじゃないかと心配しているね?」

「ええ、まぁ……」
 遠慮がちに答えると、永江さんは声量を絞って言う。

「安心したまえ。彼に冷たく当たったのは演技だよ。彼と、親である本郷クンたちを成長させるためのね。もっとも、大津クンには尻拭いをさせることになってしまったが、これもまた宿命というやつだろう。圭二郎が真に心を取り戻すためには舞さんと再会する必要があったし、大津クンや僕が冷徹になる必要があった。そう考えて欲しい」

「そう、ですか……」
 そこまで考えての行動だったとは。さすがは永江さんである。

「なんか、すみません……。圭二郎のことでいろいろ動いてくださって」

「君が謝ることはないし、僕だって礼を言われるほどのことはしていないよ。僕はただ、圭二郎なら今の球界を変えられると信じ、復活の手助けをしているだけだ。舞さんだって心の底ではそれを願っているんだろう?」

「そうですね。実は……」
 ユージン経由で圭二郎の応援歌を作成してもらっていることを、本人に聞こえないようこっそり伝える。話を聞いた永江さんは大いに喜んだ。

「それは素晴らしい。機会があれば僕も聞いてみたいものだ」

「タイミングが合えば、是非一緒に聞きましょう」

「うん、楽しみだ」
 永江さんは満面の笑みを浮かべて頷き、圭二郎に視線を送ったのだった。 


続きは第十四話へ

※見出し画像は、生成AIで作成したものを加工して使用しています。


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