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【創作大賞2025応募作品・恋愛小説部門】「僕は君に恋してる ~舞×ユージン編~」第九話 嫉妬

10.<ユージン>

 智さんとの飲みを終え、ちょうど帰宅の途についたところでメールを受信した。舞さんからだった。幸いなことに、セナもリオンもまだ帰っていない。リビングのソファに深く凭れ、メールを開封する。

「これって……」
 送られてきたのは一枚の写真。手紙を映したものだったが、問題はその中身だ。

圭二郎へ

 あんなにたくさんメールを交換していたのに、氣持ちに氣付いてあげられなくてごめんね。もしかしたら、苦しみを誰にも言えずに涙した日もあったのかな……。そばで支えてあげられなくてごめん。友達が「孤独」だけなんて、辛かったよね……。

 陰ながら応援してるつもりだった。でも、足りなかったみたい。圭二郎のこと、見てるつもりだったのに、思いは届いてなかったみたい。ずっとずっと応援していたのに。幼なじみ、失格かな。

 今は練習にも出してもらえず、しんどいと思う。だけど、ここまで頑張ってきたよ、圭二郎は。だから名誉ある賞も取れたんだと思う。努力無しに出来ることじゃないよ。大丈夫、自信を持って! 圭二郎の実力があれば必ず復活できる。わたしは信じてる!

 ……信じてるけど、ごめん。圭二郎の「好き」って氣持ちには応えられない。でも、頼ってくれたことは素直に嬉しかった。いつだって、わたしは圭二郎の味方。だから心が折れそうなときはすぐに戻っておいでね。ずっとずっと、待ってるから……。


「どう見てもラブレターだろ、圭二郎さん宛の」

 手紙には、幼なじみへの深い情が込められていた。写真に添えて、例の応援歌の参考にして欲しいと一言あったが、思いは複雑だ。圭二郎さんとオレとでは、付き合いの長さが段違い。文面から、彼女の目がずっと彼を追っていたのが容易に想像できた。

「これを、歌詞にしろって言うのか……」
 こんな時間に見るんじゃなかった。スマホの画面を伏せるようにしてローテーブルに置き、浴室に向かう。

(シャワーを浴びてモヤモヤを流してしまおう……。)

 しかし、さっぱりしたのは身体だけで、さっき見た「ラブレター」が頭の中から離れることはなかった。そこへ双子が帰ってくる。

「ただいまー。結局四人で飲んで来ちゃったー。……って、お兄ちゃん。なんか、不機嫌そうだね。まだお父さんのことでイライラしてるの?」
 酒が入って陽氣になっているらしい妹が言った。

「いいや、そっちじゃない」

 言おうかどうか迷ったが、圭二郎さんの応援歌を作りたいという話は仲間にもしているので、どのみちこの「ラブレター」はみんなにも見せることになる。このまま一人で抱え込んでも眠れそうにないし、この際、打ち明けてしまおう。

「……これだよ。今し方、舞さんから送られてきた圭二郎さんの応援歌用の参考資料だ」

 セナとリオンは顔を寄せてスマホの画面とにらめっこをする。
「これのどこがイラつくっての? 純粋に、圭二郎って人を応援するメッセージに見えるけど?」

 リオンは首をかしげた。

「あたしはお兄ちゃんの氣持ちも分かるな。自分のいないところで、自分以外の人に心を砕く恋人の姿を想像するだけで苦しくなっちゃう」

「それ!」
 オレの氣持ちをずばり言語化してくれたセナに強く同意する。
「もちろん、こういう形で歌詞になりそうなメッセージを作ってほしいと伝えたのはオレだよ。だけど……」

「いざ、受け取ってみたら嫉妬心が湧いて来たってか? 案外、肝っ玉が小せえなぁ、兄ちゃんは」

 酔いどれのリオンに突っ込まれてさらにイライラが募る。

「恋愛に興味の薄いお前にはわかんないだろうよ」

「そうだよ。何しろお兄ちゃんは舞さんと付き合い始めたばかり。つまりは今が一番ラブラブしたいときなんだよ?」

「いやいや、それはセナだけだろ。今の兄ちゃんは酔ってるから愚痴っぽくなってるだけに見える。普段の兄ちゃんだったらこういう時、行動に移してると思うんだよな」

「え?」

「部屋でじっとしてるから悶々するんだ。言いたいことがあるなら、歌ったり、会いに行ったりすればいい。まぁ、さすがに今日はもう電車も終わっちゃってるから夜が明けてからにした方がいいと思うけど」
 酔っ払ってるとは思えないほど的を射た発言。思わず感心してしまった。

 リオンの言うとおり、オレは舞さんから受け取ったメールを拡大解釈して勝手に不満を溜め込んでいる。ラブレターにも思えるこの文章に込められた想いがどれほどのものなのか。それを確かめることが出来ないからモヤモヤしているのだとすれば、直接会って解消するのが一番だ。しかし……。

「……行動に移したいのはやまやまだよ。だけど、仕事が立て込んでるのも事実だ。それが分かっているから舞さんもこうして手紙を写真に撮って送ってくれたんじゃないか」

「真面目ねえ、お兄ちゃんは」
 セナがくすくすと笑った。
「仕事熱心は結構だけど、プライベートを犠牲にするのは良くないと思うな。さっきレイさまもこう言ってたわ。『ユージンは真面目だから、あたしたちが氣を回してあげないとね』って」

「それはどういう……?」

「ほら、やっぱり兄ちゃんは分かってないよ!」
 リオンまでもが笑いながら指摘する。
「会えない会えない、って言うけど、それは兄ちゃんが会いに行かないことを選択してるからだよ。どんなに仕事が忙しくたって、会おうと思ったらいつでも会えるはず。兄ちゃんは仕事を盾に取ってるだけだ」

「盾に取ってなんかない。オレはただ、遅くに会いに行ったら迷惑になると思って……」

「その発想がダメだって言ってんだよ。なんで会いに行ったら迷惑だと思うの? 向こうだって会いたいと思ってるかもしれないのに? 兄ちゃんが相手の心を読んでそう言ってるなら話は別だけど」

 それを聞いて、先日悠斗さんに言われたことを思いだした。好きな女のためなら夜中だって会いに来れるだろう? と彼は言った。あの台詞にはおそらく、自分なら会いたいときに会いに行く、と言う意味が込められていた。そこに、会いに行ったら相手が迷惑に感じるかもしれない、などという遠慮の氣持ちは一切感じられなかった。自分を犠牲にしない。そんな彼の生き方が異質に思えたが、舞さんの心を癒やしたのは紛れもなく悠斗さんだ。ならばオレも、彼の生き方を模すべきなのだろう。

「確かにオレは、彼女の本音を聞いたわけでもないのに、常識に照らして勝手に仕事を理由にしては会えない口実にしていたよ。……はぁ。常識ってなんなんだろうな。なんだか、どうやって生きてったらいいか分からなくなっちゃったよ……」

『好きな人のために生きたらいいじゃん』
 双子が声を揃えて言った。二人は顔を見合わせて笑った。

「……少なくともアタシはそうやって生きようと思ってる。兄さまがアタシを子供のように思っていたとしても、アタシは兄さまを全力で愛するつもり」

 セナの言葉には寂しさが混ざっていたが、決して弱々しくはなかった。うんと年上の智さんを愛すると決めたセナの覚悟を感じた。リオンが頷く。

「おれだったら、好きな音楽のために生きるね。曲作りがノッてるときは寝る時間さえ惜しいもん。恋愛のことはよく分からないけど多分、そういうことだろう? だから兄ちゃんも、相手のことを氣にしすぎないで自分の感じたままに動けばいいと思うよ。仕事なんて、どうにかなる、なる!」

「そうだよな……」
 双子がこの場にいてくれて良かった、と思った。大人なんだし、それぞれで部屋を借りて暮らせばいいものを、オレたちは敢えて三人で暮らすことを選んでいる。それは単に家賃の問題ではなく、三人でいることによって、何かに行き詰まったとき今のように解決することが可能だからだ。もしオレが一人で暮らしていたなら、今頃はきっとふて腐れていたに違いない。

「ありがとう。なんか、すっきりしたよ。オレ、一晩寝て朝になったら舞さんに会いに行ってくるわ。あっちが仕事だって構わない。氣が済むまで話してくる」

「そうしな、そうしな」
 リオンとセナはオレの決断を聞いて何度も頷いた。

「レイさまたちには、お兄ちゃんは恋の病でお休みだって伝えとく。病氣なら休む口実になるもんね?」

「……それ、一般的には病氣として扱っていいものじゃないと思うけど、まぁ、それで頼むよ。舞さんとの話が済んだら合流する。応援歌の歌詞と曲作りの話を進めたいから」

「……やっぱり兄ちゃん、真面目ー」
 オレはまたしてもリオンたちに笑われたのだった。


◇◇◇


 夜が明けて、遅めの朝食を摂ったオレはさっそく舞さんの職場である喫茶「ワライバ」に向かった。入店するなり声を発したのは店主の理人さんだ。

「おおっ? 朝一番の来客がマイマイの恋人とは! いいよ、まだ他のお客は来てないから、おしゃべりしてな」

 そう言って舞さんに目配せをした。舞さんは少し躊躇いながらこちらにやってくる。

「昨日は遅くまでお仕事だったんでしょう? なのにこんなに早くからお店に来てくれるなんて、いったいどうしたの……?」

「夜中にあんなメールを見ちゃったら会いに来るって。圭二郎さんに嫉妬しちゃって、ちっとも眠れなかったんだから」

「え! 寝てないの?! そんなに過激な内容だったかな……」
 慌てるようにしてポケットからスマホを取り出そうとするので、思わず笑う。

「嘘、嘘。あぁ、舞さんはほんっと、素直だなぁ。ちゃんと寝たから大丈夫。でも、あの手紙の内容に嫉妬したのはホント。今日はそのことで話を聞こうと思って訪ねてきたんだ」

 ただ会いたいから会いに来た、と言えばいいものを、舞さんと違ってオレはどうも素直じゃないらしい。こんなことを言ったら舞さんを困らせるだけだと分かっているのに。案の定、彼女の表情は硬い。

「……立ち話もなんだから、ここに座ろうか。今、お水を入れるね」
 緊張の面持ちでカウンター席に通された。お冷やが提供されると、舞さんも隣に腰掛けた。

「……えっと、手紙の内容について聞きたいってことだったけど、どの辺が引っかかったんだろう?」
 問いかけた舞さんの顔に笑みはなかった。ここへ来たらあの手紙の感想を伝えようと思っていたのに、いざ彼女を前にしたら上手く言葉が見つからない。しかし黙っているわけにもいかないので、ゆっくりと言葉を選びながら話す。

「……本当に好きだったんだね、圭二郎さんのこと。あの手紙を読んで強く感じたよ。舞さんは昔を思い出しながら彼を応援するつもりで書いたのかもしれない。でもオレにはあの文章がラブレターのように思えた。……本当はまだ彼に未練があるんじゃないかなって、そんなことさえ思った」

 視線を手元のグラスに落とす。

「未練なんてないよ……!」
 舞さんは慌てて否定した。

「だけど、弱ってる男があんな言葉を掛けられたらやっぱり惚れちゃうよ。……まさか本人に渡したりしてないよね?」

「渡すわけ、ないじゃん! って言うかユージンは、わたしがそういう女だと思ってるの?」

 失望のまなざしがオレを射貫いた。一度首を横に振ってから誤解のないよう、再び言葉を選びながら告げる。

「……あの手紙に書いてあったっしょ。『心が折れそうなときはすぐに戻っておいで。ずっと待ってるから』って。あれを見て、ああ、やっぱり圭二郎さんは舞さんにとって大切な人なんだって。そう思ったら落ち着かなくて、それで……。ゴメン、こんなことを言いたかったんじゃないのに……」

 湧いてくる思いを言葉にしようとするときは大抵うまく言えない。こんな自分が嫌になる。

「……あぁ、もう! やっぱり歌う!」

 リオンが言っていたように、想いを伝えるならこっちの方がオレらしい。ギターケースからギターを取りだしたオレは、すぐさま肩からかけて「シェイク!」のイントロを弾き始め、歌う。



金平糖さとうみたいな 星くず集めて
海に投げたら きらきらきらり
お散歩してる クジラの親子が what a suprise!!
しおが虹になった

あなたに会いたい 今すぐに
はずむ心 おさえきれない
飛んでいくわ 流れ星に乗って

シェイク! シェイク!
恋するアタシは 一つになりたい あなたと
mix the world!
空も海も 見えるもの全部 
あなただったらいいのに!

##

綿菓子みたいな雲をあつめて 
ヒモを付けたら ふわふわふわり
デートしている カモメのカップル it‘s so cute!
並んで飛んでった

あなたは会いたい? 今すぐに?
胸の中に 飛び込んだなら 
受け止めてよね? 愛しているのなら

シェイク! シェイク!
恋するアタシは 一つになりたい あなたと
around the world!
宇宙までも 見えるもの全部
すべて、あたしだけのもの

『シェイク 全部混ざり合って 
空のかなたまで飛んでいって
すべて破壊しちゃって
だけど、なんもかんも
なくなった世界ここ
オレら、生きてけんの?
「ねぇ、答えてよ……」』

シェイク! シェイク!
恋するアタシは 一つになりたい あなたと
over the world!
あなたがいれば 他はいらないんだ
だからアタシだけを見ていて!


 歌い終わって息が整わない状態のまま、両手で顔を隠している舞さんに向かって言う。

「この歌の主人公は女の子だけど、言いたいことは一緒。舞さんには『オレだけを見ていて』ほしい。それが言いたかったんだ……。子供じみてるよね。だけど、嘘は吐きたくなかった。我慢もしたくなかった。だからオレは自分の思いを歌に乗せた。舞さんに受け止めて欲しくて……」

 迷惑だったよね、と言おうとして飲み込む。そう思うならはじめからここに来るべきじゃない。でもオレはここへ来て歌まで歌った。なのに「迷惑をかけた」なんて言ったんじゃ、もう何がしたいのか分からないじゃないか。

「……ありがとう、想いを歌に込めてくれて」
 舞さんはようやく声を発した。その顔は相変わらず真っ赤だが、目はまっすぐにオレを見ている。

「すごく嬉しかったから、こういうのはどうかな。圭二郎に書いたみたいに、ユージンにも手紙を書くって言うのは? うーん……。考えただけで恥ずかしいけど、ユージンへの想いが圭二郎への想いとどのくらい違うのか、知りたいんでしょう? だったら、頑張って書いてみる」

「え、オレにも……? それっていわゆる、ラブレター……だよね?」
 真っ赤な顔で頷かれ、こちらも赤面する。それを見た大津さんは吹き出しそうなのを堪えるかのように口元を押さえ、店の奥に引っ込んだ。

「もらえるならメチャクチャ嬉しいな……。それを聞けただけでも訪ねてきた甲斐があったってもんだよ」

 大津さんが戻ってこないのと、ほかの客が来店しそうにないのを確認し、こっそりハグをする。

「ありがとう、舞さん。オレ、我が儘言っちゃってるよね? ごめん……」

「ううん。謝るのはこっち。変な誤解をさせちゃってごめんね。なるべく早く書いて送るわ」

(オレが謝ったら、舞さんも謙遜して謝っちゃったじゃないか……。オレの馬鹿野郎!)
 自分を叱咤する。謝るんじゃなくて、もっとこう、二人のためになる台詞が言えないものだろうか……。

「ねぇ……。書けたら直接渡してくれる? 舞さんがオレのことを想ってくれてるなら会いに来て欲しい……。どうかな……?」

 ダメ元で聞いてみた。彼女は驚いた様子だったが、「そうだよね。ユージンだってこうして会いに来てくれたんだもんね」と言って、手紙を直接オレの元に届けると約束してくれた。

 二人だけの約束を交わし終えたタイミングで店のドアが押し開けられ、客が入ってきた。

「い、いらっしゃいませ。空いている席にどうぞ! ……ごめん、ユージン。仕事に戻らなきゃ……」

 舞さんは現実に戻り、接客にあたった。

「オレも仕事に向かうよ。話せて良かった。それじゃ、また……」
 別れを告げたオレは、ギターを背負って店を後にした。


続きは第十話へ

※見出し画像は、生成AIで作成したものを加工して使用しています。


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