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【創作大賞2025応募作品・恋愛小説部門】「僕は君に恋してる ~舞×ユージン編~」第十一話 愛する人のために

12.<ユージン>

 舞さんからの、愛情たっぷりの「ラブレター」を受け取ったオレはずいぶん自信がついた。もう、圭二郎さんには嫉妬しない。舞さんの心はしっかりとオレに向いていると分かったから。

 それが理由か分からないが、新ドラマーに父であるジャッキーを迎える件についても迷いがなくなった。ジャッキー自身も一時的な加入だと断言しているし、あの人のドラムテクニックはオレも認めるところ。大舞台にも慣れているから、仮にアクシデントが発生しても動じることはないだろう。

 七人体制でやることが決まってからは社長もご機嫌。目星をつけていた多目的ホールも正式に抑えることができ、一氣に単独ライブに向けての準備がスタートする。



 ライブで演奏する曲の楽譜をジャッキーに渡した拓海さんが手話を使って伝える。それをともさんが通訳する。
「新曲含む、全二十曲を三ヶ月弱でたたき込んで欲しい。できる? ……ってリーダーが言ってるけど、どう?」

「ったりめえよ。それが出来ねえようじゃ、単発の仕事は勤まらねえ。とはいえ、雰囲氣は掴みたいからな。持ち曲は一通り聞かせてもらいてえな」

「そう来ると思って、今日は事務所内の音楽スタジオに来てもらったというわけさ」
 智さんがみんなを促し、演奏の準備をする。みんながステージに立ち、その正面にジャッキーがあぐらを掻いて座る。そして目を閉じた。

「早く音を聞かせてくれ。あんたたちの魂の波動を俺の耳に、身体に届けてくれ」

「そう焦るな。……みんな、準備はいいか? それじゃ、行くぜ!」
 智さんの合図で演奏がスタートした。

 サザンクロスの曲の中でもっとも人氣のある「羅針盤コンパス」をはじめ、サザン×BB結成後に作った「透明な季節」など、約二十曲を披露する。ジャッキーは曲が変わるたびに声を発し、満足そうに身体を揺らしている。

 すべての曲を聴き終えたとき、彼は楽譜を持って立ち上がり、ドラムの椅子に腰掛けた。そして今聞いたばかりの「羅針盤コンパス」を演奏し始めた。

 ジャッキーは一番を演奏し終えたところでオレたちに目配せをした。一緒に弾け、そして歌え。訴えかけられたオレたちは、ジャッキーのドラム演奏に合わせて二番から「羅針盤コンパス」を弾き始める。

 初めて七人で奏でた「羅針盤コンパス」は、想像以上に心地よかった。ドラム演奏が、まるでこれまでもずっと一緒にやってきたかのようにオレらの音と馴染み、共同創造されているのが分かった。これならいけると全員が確信した瞬間だった。

「ジャッキー! あたしは感動しているわ」
 曲が終わった直後に麗華さんが歓喜の声を上げた。
「リズム感の良さ、そしてあたしたちの演奏を邪魔しない絶妙なバランスは見事というしかないわ。このままずっと、うちにいて欲しいくらい!」

「そいつは有り難い言葉だな。だけど、俺は古巣が氣にいってるんでね。なんとかあいつらには曲げたへそを元に戻してもらって、もう一度一緒にやらせてもらうつもりだよ」
 ジャッキーは照れながらも「永住」を否定した。

 ――居心地の良さは大事だよな。――
 拓海さんの手話を智さんが通訳すると、ジャッキーはいつになくさみしそうに目を伏せた。

「……仲間にはいつも、お前は個性がないって言われんだけどさ。個性的なだけがミュージシャンじゃねえだろう? って話だよ。一緒にいたい仲間がいる。惚れ込んだ音楽をひたすらに演奏する。そういうのが趣味のミュージシャンだっていていいじゃねえか。まぁ、あんたらにはわかんないだろうけど」

「あら。あたしは分かるわよ? メジャー時代は、サポートミュージシャンとしてずっとあたしを支えてくれた人が何人もいた。彼らもジャッキーと同じことを言っていたわ。自分は音をコピーすることしか出来ないけど、そこに幸せを見いだしてるんだって」

「まさにそれ、だな! さすがは姉さん。元メジャーの人間は違うぜ」
 意気投合した二人は笑顔で握手を交わした。

「ユージンも姉さんを見習って、素直に俺の実力を認めたらどうだ?」
 自信をつけたらしいジャッキーが急にデカい態度を取り始めたので、カチンとくる。

「……実力は認めてるよ、最初から。認められないのはそうやって悪態をつくところだ。次に余計なことを言ったら、仲間がなんと言おうともオレが追い出してやる!」

「ははーん……。さては、俺が姉さんと仲良くなっちまったもんで妬いてるんだな? 氣をつけてくださいよ、姉さん。若い男に引っかかっちゃいけませんぜ?」

「ご心配なく。ユージンにはちゃーんと素敵な彼女がいますから。そうよね?」

「麗華さん……!」

 急に彼女がいることをバラされて動揺するも、麗華さんは「隠すことなんてないじゃないの」と言って取り合ってくれない。それどころか、あたしに振られたことを話した方が良かった? と耳打ちされる始末。首を横に振り、全力で否定する。

「ほう、彼女がいる? そりゃあ是非とも見てみたいもんだな。今度のライブには当然招待するんだろう? その時にでも会わせてくれよ」

 ニヤつくジャッキーの顔を見れば、加入した目的の一つがオレらきょうだいの交友関係を暴くことにあるのは容易に想像がついた。なんで今ここでそういう話をしなきゃいけないのか……。そう思う一方で、単独ライブ終了後に舞さんと同棲の約束を交わしている今のオレは無敵も同然。こうなったら、包み隠さず明かしてしまおうと決める。

「会わせてくれと言うなら会わせてやろうじゃないか。言っとくけど、マジで可愛い子だから」

 ヒュー!
 言っちゃったぜ!
 わぉっ!

 みんなが一斉に囃し立て、ジャッキーも面白いことになったとばかりに、にやりと笑う。

「ずいぶんと自信がおありだな。その様子を見る限り、既に彼女へのラブソングも用意してるんだろう? せっかくだ、今ここで聞かせてくれねえか? ユージンの熱い想いが聞きたい」

「は? なんでジャッキーに歌って聞かせなきゃなんないんだよ? ラブソングは彼女のために歌うもんだろ」

「そりゃあごもっともな意見だが、ホンモノのミュージシャンなら、相手が誰であれ自分の世界を表現できるもんじゃねえのか? それが出来ねえってんなら俺とおんなじ。これからは空っぽのミュージシャンとでも名乗るんだな」

「…………!!」

 挑発されてカッとなる。辛うじて掴みかかるのを堪えたものの、反論する言葉は思いつかない。しかし黙って聞き流すことも出来ない。

「……なら、歌ってやるよ。オレがどれだけ彼女を想っているか、とくと聞くがいい」

 一人で弾き語りしようと、エレキをアコギに持ち替えようとしたが、すかさずセナとリオンがそばに寄ってくる。

「手伝うよ、お兄ちゃん!」

「兄ちゃんの想いが本物だってことを知らしめてやろうぜ!」

「ありがとう。セナ、リオン。歌うのはもちろん……」

『僕は君に恋してる!』
 双子の声が重なる。オレは力強く頷いた。



13.<舞>

 一緒に暮らそうと提案された時には我が耳を疑った。こんなにも早くユージンとの距離を縮められるなんて思ってもみなかったからだ。しかし、彼の立場になって考えてみれば、彼女を冬の野外で何時間も待たせるくらいならいっそ、帰宅すれば会える環境を作ろうと思うのはごく自然なことなのかもしれない。

 もしラブレターを書くことにこだわっていたら、こうはなっていなかっただろう。わたしはラブレターが書きたかったのではない。ユージンに、自分がどれほど想っているかを伝えたかった。だから直接会おうと思ったのだ。
 
 今回の恋愛では悠斗さんに言われたこと――自分の氣持ちに蓋をするな――が活きている。時々、常識的な思考が働いて「自分は何をやっているんだろう」と思うこともあるが、たとえうまくいかなかくても、動かずに悶々するよりはずっとマシ。いまではそう思えるようになった。

(わたしも変わったなぁ……。)

 それもこれも、悠斗さんのお陰である。ユージンと同棲の約束もしたことだし、顔見せがてら報告をしておこうと、久しぶりに鈴宮家を訪問する。皆、仕事を終えた時間ということもあり、家族総出で出迎えられる。

「こんばんは。先日は圭二郎がお世話になりました」
 面倒は見たくないと言っていた兄が自宅に招いてまで世話をしたというので、まずはそのお礼を言う。
「ありがとね、お兄ちゃん。圭二郎、覆面をやめれるくらいには快復したっぽいよ」

「あー、それはどうだろう? やめたって言うより、出来ないんじゃねえかな? 実はこれ、忘れていったんだ」

 玄関先に置かれた紙袋には、圭二郎の帽子とマフラーが入っていた。

「忘れていったって……。あれから何日も経っているよね? 取りに来ないの?」

「今のところは連絡もない。まぁ、舞の言うとおり、もう覆面はいいやってなったから取りに来ないだけかもしれない。俺と話しているときも、そういうのどうでも良くなったって言ってたし」

「なら、わたしが届けるよ。時々お店に来る永江さんに渡すことも出来るし」

「余計なことはするな」
 二人で話しているところへ悠斗さんが加わる。

「渡してしまえばまた覆面したくなるかもしれない。それに、舞が渡しに行ったら圭二郎が勘違いをする恐れもある。あいつのことはおれたちに任せて、舞は自分の恋愛に集中するんだな」

「あ、自分の恋愛と言えば……」
 ここへ来た目的を思い出したので、居間に足を向けながら言う。
「悠斗さんのアドバイスのお陰でわたしたち、近々一緒に暮らすことになりそうです。ユージンって忙しいでしょう? だから、共同生活をしながらお互いのことを知っていこうって話になって」

「へぇ! もうそこまで話が進んだのか。舞、やるじゃん」

「あ、でもこの話はまだお父さんには言わないでください。言えば絶対に、早すぎる! って文句を言ってくると思うので」

「確かにニイニイなら言いそうだなぁ……。ま、万が一そんなふうに言ってきたときはおれがひとこと言ってやるよ。ユージンほどの男はそうそういない、ってな」

「よろしくお願いします」

 頭を下げると、兄が疑問を投げかける。
「そういえばこの前、舞の恋人をバイクに乗せてやったんだよな? 男は乗せないって公言してる悠斗が。そんなにいい男なの?」

「ああ。翼も今度話してみ? 圭二郎よりよっぽどしっかりしてる」

「悠斗がそう言うんじゃ、期待できるな。次に会う時にはしっかり話させてもらおう」

「ねえねえ、舞ちゃん、晩ご飯食べていくでしょ? 今すぐ準備するから、待っててね」
 台所からめぐちゃんの声がした。

「いつもありがとう。じゃあ、その間に子供たちの面倒を……」
 見ておく、と言いかけたところでインターフォンが鳴る。

「あ、わたしが出るよ」
 立っていたついでに玄関に舞い戻り、返事をしながら引き戸をがらりと開ける。が、戸の前に立っていた人物と目が合い、青ざめる。

(圭二郎……!!)
 インターフォンの室内モニターを見ずに応対したことを後悔した。

 向こうも驚いた様子で目を見開いている。
「来てたのか……」

「……何しに来たのよ?」

「忘れ物を取りに」

「ああ……」
 事前に話を聞いていたので、玄関先に置いてあった紙袋を手渡す。
「キャップとマフラーはこれよ。用が済んだなら帰って」

「舞に会っちゃったら、すぐに帰るわけにもいかないな……。ちょっと話せる?」

「嫌よ」

「どうして? 俺のこと、今度こそ嫌いになったの?」

「…………」

「話したいんだ。どうしても」
 わたしをまっすぐに見つめる圭二郎は、少し前とは違い自信を感じさせる目だった。

 迷っていると家主である悠斗さんがふらりと現れる。そして圭二郎を見るなり「よりによって舞がいるときに……」とため息をついた。

 悠斗さんの考えでは、圭二郎にはなるべく会わせないようにしたいとの思いがあったんだろう。しかし、向こうからやってきたのではどうしようもない。

「圭二郎が話したいというので少しだけ……。構いませんか?」

 恐る恐る尋ねると、悠斗さんは圭二郎の顔をじっと見つめた。圭二郎が目を背けないのを確認すると「余計なことをしたらすぐにつまみ出すからな」と言いつつも、許可してくれた。



 話す、と言ってもここは人のうち。しかも大家族が住んでいるので室内に二人きりで話せる場所などない。仕方なく庭先で話すことにする。

「……話って、何よ?」

「……俺さ、自分がどうしてプロ野球選手やってんのか、分からなかったんだ。周りに流されてここまでやってきたって意識が強くて。だから、舞への告白を渋っていたし、婚約を破棄したことで自宅待機になってもそこまで危機感はなく、いざとなれば簡単に辞めることだって出来ると思ってた。でも、マスターにしごかれてからいろいろ考えて、ようやく答えが出た」

 一週間ほど前。心が不安定になっている圭二郎を数時間だけ預かって欲しいと頼まれたワライバの店主マスター・理人さんは、圭二郎のあまりのふがいなさにしびれを切らし、店の近くの公園で部活動さながらの指導をしたと聞いた。

 圭二郎は続ける。

「俺は、親や周りの超一流選手と自分とを比べては、自分にゃ能力がないと勝手に落ち込んでいた。そればかりか、どうせ俺なんて……と卑屈になって野球を辞めようとすらしていた。要は、逃げてたんだ。腐りきった体制の野球界を悪者にすることによって、自分の弱さを正当化しようとしていたんだ。

 でも、マスターがそれじゃあダメだと教えてくれた。自分の中にある『鬼』と向き合えと言って、俺の目の前に、姿見の鏡ごとく立ち塞がってくれた。その鏡に映っている自分を見て、やっと分かった。

 俺は、怖かったんだ。自分が先頭に立ってこれまでの伝統を壊していくことが。みんな、このままじゃダメだと思ってるなら誰かやってくれよ、と……。でも、その氣持ちを押さえ込めば押さえ込むほど、内側でどんどん腐っていくのが分かった。自分が病んでいくのが分かった。

 マスターは、俺の内側の『鬼』が暴れたがっているのを見抜き、刺激してくれた。お陰で今はずいぶんとやる氣が湧いてきてる。……今日は忘れ物を取りに来たというていでここを訪れたけど、本当はこの話をしようと思ってきたんだ。翼や鈴宮さんにもずいぶん世話になったから、礼を言おうと思ってね」

「じゃあ、球界に残ると決めたのね……?」

「どうやら俺は……こう言っちゃあなんだけど、思っているよりずっと力があるし、努力してきたし、頑張ってきたらしい。それを見て評価してくれてる人もたくさんいると知った今、応援してくれるファンのためにも俺が前に出る必要があるんじゃないか……。今はそういう氣持ちになってる」

「そうよ! わたしだって圭二郎のファン。もっともっと頑張って欲しいと思ってるわ!」

「そう言ってくれて嬉しいよ。……こんな俺の隣に舞がいてくれたらもっと頑張れると思うんだけど、どうかな。氣持ちはまだ、変わらない……?」

 圭二郎はすっと前へ歩み出ると、わたしの両肩を掴み顔を寄せた。慌てて横を向く。

「……わたしを球界に巻き込みたくないから告白しなかったんじゃないの? 球界に残ると決めたなら尚更、圭二郎の思いは受け容れられないわ」

「既存の野球界には巻き込みたくなかった。けど、俺が新しい風を吹かせた野球界なら話は別だ。舞が再び野球をやりたくなるような球界にしたっていい。……舞、俺の思いを受け取ってくれないか」

「…………」
 圭二郎が再び顔を寄せてきた。唇が頬に触れるかもしれないと目を固く閉じたとき、急に氣配が遠のいた。

「余計なことはするな、と言ったはずだ」
 悠斗さんの声が聞こえ、目を開ける。彼が圭二郎の首根っこを掴んで引き離してくれたのだった。

 助けを求めるように悠斗さんの背後に回る。
「舞は部屋に戻ってろ」

「でも……」

「安心しろ。こいつはおれが責任を持って孝太郎さんに引き渡す」

「……分かりました。お願いします」
 圭二郎の視線を感じつつも、後のことは悠斗さんに任せようと決め、その場を後にした。


続きは第十二話へ

※見出し画像は、生成AIで作成したものを加工して使用しています。


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