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【創作大賞2025応募作品・恋愛小説部門】「僕は君に恋してる ~舞×ユージン編~」第八話 圭二郎への手紙

9.<舞>

 その晩、兄から電話をもらった。それだけでも驚くべきことなのに、話を聞いて一層驚愕きょうがくした。なんと、現在進行形で圭二郎と夕食を共にしているというのだ。

「どうしてそんなことになっちゃったの……?」

『実はさぁ……』
 兄は少し愚痴っぽく経緯を話す。

『あいつがいきなり幼稚園にやってきたんだよ。本当はうちに直接来たかったらしいんだけど、住所がわかんないからって理由で俺を訪ねてきやがった。だけど、話を聞いてみたら相当病んでるってことが分かって、仕方なく面倒を見てやろうと、まずは晩飯に誘ったってわけよ』

「圭二郎らしいなぁ……。で、どうしてそれをわたしに教えようと? わたしにも同席しろって話?」

『逆、逆。絶対に来るなよって言おうと思って。万が一、この前みたいにお前がふらりと訪ねてきたタイミングで鉢合わせたら厄介じゃないか。お前はお前のやり方で圭二郎の心を治そうとしてるんだろ? だったら、時が来るまで会わない方がいい』

 それは奇しくも今日、圭二郎が店にやってきたとき、控え室から飛び出そうとしたわたしに対して店主の一人、隼人はやとさんが放った言葉と相似していた。みんな、わたしに良くしてくれる。それはすごく嬉しい。だけど、圭二郎のことを思うと守りに入ってばかりもいられない。

「……お兄ちゃんの配慮は有り難いんだけど、もし圭二郎が負のオーラを放ちすぎて困ってるってことなら遠慮なく言ってよね? わたし、いくらでも顔を出すから」

 今の兄の話を聞く限り、おそらく圭二郎は店を出てすぐ幼稚園に足を向けている。店では素直に話を聞いていたように思われた圭二郎だが、実はものすごく傷ついてしまったために兄や悠斗さんを頼ろうとしたのではないか……。そんなふうに思って発言したが、どうやら取り越し苦労だったようだ。

『実は、コータローさんにも来てもらってるんだ。あの人がいい重しになってるから、今のところは問題ないよ』

 そのとき電話の向こうから圭二郎らしき声が聞こえた。誰と電話をしているのかと言っているようだった。

『……おっと、圭二郎がお呼びだ。とにかく、そういうことだから当面はこっちに任せとけ。じゃあな』
 電話は一方的に切れた。

「ふぅ……。お兄ちゃんたちが面倒を見てくれてるんだったら、もう大丈夫かな」

 そう思えるのは何を隠そう、わたし自身が兄や悠斗さんと一緒に暮らす中で変わることが出来たから。わずかだったが、電話の向こうから聞こえた圭二郎の声は穏やかそうだった。彼の心は既に良い方に変化し始めているのかもしれない。

 ホッと一息吐いたところで一件のメールを受信した。ユージンからだった。


“今夜はどうしても外せない会議があるので電話はまた今度ね。ごめん🙏”


「また今度、か……」
 圭二郎は兄の家族と、ユージンは仲間と一緒にいるというのに、わたしだけがひとりぼっち。急にさみしくなる。

「……ダメダメ。こんなことで塞ぎ込んでちゃ。わたしにはやることがあるでしょう? こんな日こそ、宿題をすすめておかないと!」

 宿題というのは言うまでもなく、圭二郎の応援歌のためのメッセージ文を作ることだ。今日まで何度かペンを手に取ってはメッセージを書き綴ろうと試みたが、結局思うように言葉が出てこず、保留にしていた。しかし、嫌だ嫌だと言っていた兄がついに圭二郎のために動き出したからには、わたしもいよいよ本腰を入れねばなるまい。

「よし……!」
 こうなったら、ユージンに会えない寂しさを糧に圭二郎へのメッセージを完成させよう。こういうのは勢いが大事だ。

 引き出しから紙とペンを取り出し、テーブルの上に置く。以前はここから一文字も書けなかったので、今日は幼少期に圭二郎と撮った写真アルバムを引っ張り出してみる。

「わぁ……。懐かしいなぁ……」

 そこには幼い頃のわたしたちがいた。カメラを向けているのはおそらく父。みな、満面の笑みで写っている。ページを繰るにつれ集合写真は減り、最終的にはわたしの撮った圭二郎の写真が目立つようになった。

 わたしより背が高くなったころから、友情は恋心へと変わっていった。その頃にはもう一緒に野球をすることもなくなっていたが、連絡は密に取り合っていたし、甲子園に出場した際は現地にも駆けつけた。ちょうど見に行った日に豪快なホームランを放ち、「舞のために打ったんだぜ」と試合後にメールを送ってきたのは今でも忘れない。

 圭二郎はわたしのことが好きなのかな、なんて思ったこともあった。だけど、高校入学の頃には既にメディアから注目されていた彼。いつだってカメラが向けられ、テレビや雑誌に取り上げられるたび黄色い声援が飛び交っていた。そこにわたしの入る隙などあろうはずもなく、氣付けば彼は球界入り。周囲の期待通りの成績を収めていくことになる……。

 だんだん遠い存在になっていくのを寂しく感じていた。メール連絡だけは続けていたけど、忙しいのか、返事は基本的に一言、二言。それでも連絡があるだけマシだと思って、試合で成績を残した日には賞賛の言葉を贈り続けた。

 圭二郎の婚約発表を知ったのは、そんなやりとりが日常となったある日のこと。本人から聞かされるならまだしも、テレビニュースで知ったわたしのショックは計り知れなかった。当時は、圭二郎も悩みに悩んでそのような決断に至ったことなど知るよしもなく、ただひたすらにあいつを恨んだものだ。今となっては自分の小ささを恥じるばかり。事情を知ったからには少しでも力になってあげたい。幼なじみのわたしに出来るのは、彼への応援メッセージを綴ること。最終的にはそれが歌詞となり、曲となり、サザン×BBの誰かの歌声に乗せて圭二郎の耳に届くことになる。

 ようやく、思いが言葉になりそう。ペンを握り、紙に綴る。


圭二郎へ

 あんなにたくさんメールを交換していたのに、氣持ちに氣付いてあげられなくてごめんね。もしかしたら、苦しみを誰にも言えずに涙した日もあったのかな……。そばで支えてあげられなくてごめん。友達が「孤独」だけなんて、辛かったよね……。

 陰ながら応援してるつもりだった。でも、足りなかったみたい。圭二郎のこと、見てるつもりだったのに、思いは届いてなかったみたい。ずっとずっと応援していたのに。幼なじみ、失格かな。

 今は練習にも出してもらえず、しんどいと思う。だけど、ここまで頑張ってきたよ、圭二郎は。だから名誉ある賞も取れたんだと思う。努力無しに出来ることじゃないよ。大丈夫、自信を持って! 圭二郎の実力があれば必ず復活できる。わたしは信じてる!

 ……信じてるけど、ごめん。圭二郎の「好き」って氣持ちには応えられない。でも、頼ってくれたことは素直に嬉しかった。いつだって、わたしは圭二郎の味方。だから心が折れそうなときはすぐに戻っておいでね。ずっとずっと、待ってるから……。


 これだけの文章を書くのに何時間もかかった。氣付けば日付が変わりそうになっている。そろそろ寝る支度をしよう……。

 風呂と歯磨きを終えたわたしは、ベッドに入る前にメッセージを読み返した。なんだかラブレターみたいで恥ずかしい……。でも、歌詞にするならこのくらいは書かないといけない氣がした。それに、直してしまったら最初に出てきた素直な思いが失われてしまう畏れもあった。

(遅い時間だけど、氣が変わらないうちにユージンに送ってしまおう……。)

 今のわたしには、これ以上のメッセージはきっと書けない。彼ならきっと、これを元に素敵な歌詞を書いてくれるはず。そう期待して、紙に綴ったメッセージの写真を送信した。


続きは第九話へ

※見出し画像は、生成AIで作成したものを加工して使用しています。

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