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アンラーニングとは?「新しい自分」になれない脳の不器用で不思議な仕組み

ふとした瞬間に、自分の指が「自分のものではない」ように感じることがあります。

例えば、新しいキーボード。

頭では「切り替えボタンはここだ」と理解しているのに、左手の小指だけが、かつての定位置を何度も何度も空振りし続けて。

思い通りにいかない自分の体に、かすかな苛立ちと、どこか不思議な愛しさを感じるあの瞬間。

私たちの体の中では今、一体どんな「過去の遺産」がブレーキをかけているんでしょうか。


もうすぐ 4月 ですね。

玄関の靴箱が少しだけ軽くなったような、でも新しい環境を想像すると胃のあたりが少しだけ重くなるような。

そんな、年度末特有の 宙ぶらりんな空気 の中に身を置いていると、この「空振りし続ける指先」の不器用さが、なんだか今の自分の心境そのもののように思えてくるんです。

今日は、新しいことを学ぶよりも、ずっと難しい「忘れる」という作業について、少しだけ考えてみようと思います。


習得するより、忘れるほうが難しい。

新生活が始まるとき、私たちはつい「何を学ぶか」「何を身につけるか」ばかりを考えてしまいます。

新しいスキルの習得、新しい人の名前の暗記。

でも、本当に心や体を疲れさせているのは、むしろその逆の 「忘れる」という作業 なのかもしれません。

以前の職場で染み付いたルーティンや、かつての「求められていた自分」。

それらを「もう使わなくていいですよ」と自分に言い聞かせても、体はなかなか納得してくれません。

専門用語では、これを 「アンラーニング(学習棄却)」 と呼ぶそうです。

大層な名前がついていますが、言ってみれば「学びほぐし」。

一度カチカチに固まった脳の糸を、一本ずつ丁寧に解いていくような、そんな気が遠くなるような作業です。


脳内には「消しゴム」がついていない。

驚いたのは、私たちの脳には 「データの削除」という機能がない という事実です。

調べてみたら、脳は一度覚えたことを消去するのではなく、新しい経路を作って古い経路を「一生懸命に隠す(抑制する)」ことで対応しているのだとか。

つまり、脳内では「古い道路」を壊して更地にするのではなく、その横に新しい道路を作って、古い方には 通行止めの看板 を立て続けている状態なんです。

疲れているときや焦っているとき、ふと「古い道」に迷い込んでしまうのは、脳の工事がまだ完了していないから。

そう思うと、何度もキー入力を間違える自分の小指も、不器用なりに 必死で新旧の道を整理している んだな、と許せる気がしてきました。


ヨーダの助言と、逆向き自転車

あの『スター・ウォーズ』のヨーダも、かつて愛弟子のルークにこう言いました。

「学んだことを忘れなければならない」と。

ジェダイの修行も、まずは 「自分の中の当たり前」を捨てること から始まったようです。

また、少し前にSNSなどで話題になった「逆向き自転車」 という実験があります。

ハンドルを右に切ると左に曲がる仕様の自転車なのですが、これが驚くほど乗れません。

「右=左」という単純な理解さえあれば乗れそうなものですが、脳に刻まれた「右=右」の記憶が強固すぎて、わずか数メートルで 体の制御が滑り出してしまう んです。

でも、数ヶ月練習し続けると、ある瞬間にポロッと乗れるようになる。

その瞬間、脳内では古い道路の通行止めが完璧に行われ、新しい道路が開通したことになります。


栞を挟む夜

新しい環境に飛び込むとき、私たちは無理に「昨日までの自分」を消し去る必要はないのかもしれません。

それはデータの削除ではなく、読み終えた章に そっと栞を挟んで、別の本を開く ようなもの。

栞さえ挟んでおけば、いつかまたその物語が必要になったとき、脳はきっと古い道を案内してくれます。

間もなく新年度。

馴染まない新しい革靴や、昨日とは違う朝のルーティンに、私たちの脳はまた 盛大な空振り を見せてくれることでしょう。

でも、その空振りは、あなたが新しい道路を舗装しようとしている 誠実な証拠 です。

それは、うまくいっていない証拠ではなく、新しい道をつくっている途中だということ。

そう思えたら、その空振りも、少しだけやさしく見える気がします。


▼もう少し「ふしぎ」を眺めたい方へ

「今の自分を変える」のが難しいように、私たちは「今の契約を変える」ことも異常にめんどくさがる生き物です。気がつけば数ヶ月放置している謎のサブスク、ありませんか。

せっかく新しい自分になるために立てた目標も、いざ達成した次の日には「で、これからどう生きていけばいいんだっけ?」と急に途方に暮れるのもまた、面白い心のバグです。

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