闇 457(平成最後の横浜と川越編)
闇 457(平成最後の横浜と川越編)

2026/01/17 sta
前回の章
二千十九年四月十一日、木曜日先負。
メラニンスポンジの傷から約三日経ち、傷が治りかけてきたのを自覚した。
あと二、三日で治りそうかもしれない。
二千十九年四月十二日、金曜日仏滅。
恐怖の白いスポンジ事件から四日目。
どんなもんだ、この傷の治り具合の早さ!
二千十九年四月十三日、土曜日大安。
恐怖の白いスポンジ事件から五日目。
ほとんど傷も目立たない状態に。

あと一日二日で完治しそう。
トレーニング室掃除して、またトレーニングでも開始するかな。
二十七、二十八日と久しぶりに連休が取れそうだ。
ゲンのいい横浜で過ごそうかな。
二千十九年四月十四日、日曜日赤口。
早番では三和が、オカマの木下と合わなかったようでラッキーハウスを辞めた。
しかしタイミング良く橋本が以前から声を掛けていた内藤ノブが、新人として店に入ってくる。
明るく愛想がいいタイプなので、人間関係的に上手くやっていけそうだ。
山ゴネスこと山下哲也も随分仕事に慣れたので、日曜日を基本的に休む事にした。
最近川越の昔からの知り合いと会っていなかったので、久しぶりに町内を歩き、化粧品加賀屋のおばさん、隣りのスガ人形の栄治さんと世間話をする。
レストランシブヤで食事を取ったあと、和菓子の伊勢屋へ寄り、始さんや弘惠さんと会話をしていると、栄治さんの兄の昭雄さんが入ってきた。
「お久しぶりですね、昭雄さん。あれ、どうしたんですか? スーツなんてパリッと着こなして」
「智ちゃん、久しぶり。今度さ、市議会議員へこの度立候補する事になってね。よろしく頼むよ」
須賀昭雄さんは俺より四つ上の先輩。
昔からの知り合いがこうして政治に関わるなんて、中野英幸さん以来だ。
以前はシンガポールでプロカメラマンをして個展を開いていたが、昭雄さんが政治家か……。
俺は彼を応援すべくフェイスブックへ早速投稿した。
先輩の須賀あきおさんが立候補します
昔からの仲で、人柄は私が保証できる人です

みなさんも応援お願いします!
明るく人柄のいい昭雄さんの事だ。
市議ぐらいなら受かるだろうと思った。
年を取ると周りの状況が少しずつ変わっていく。
川越に帰ってきて約二年半の間だけでも、色々な事があった。
大きな出来事でいえば、斉藤弘一の死去。
そしてお袋の死亡。
さらに最近では税理士の大野さんの死。
身を切られるような悲しみもあれば、ああ亡くなったのかという感覚の思いもある。
どんな状況であれ、時間だけは常に平等に過ぎてしまう。
俺はといえば何の進歩もない。
飲み屋の女に騙され大金を使い、競馬やパチンコで無駄銭を失っては愚痴をこぼすだけの日々。
ゆっくり熱いお湯に浸かりながら頭を空っぽにする。
髭を剃るのに鏡を見て、メラニンスポンジで擦った傷がほとんど治り掛けている事に気付く。
俺は風呂から出ると写真を撮り、フェイスブックへアップした。
恐怖の白いスポンジ事件から六日目
まだ擦り傷は分かるけど、ほとんど治りかけてる。

今回の件で学んだのは、整髪塗料が肌について取れなくなっても、メラニンスポンジを使えば傷はつくけど、約一週間くらいで傷は治るという事実。
みなさんも参考にしてみてください。
四十七歳にして、まだまだ細胞が活発なせいか傷の治りが早いものだ。
月末に横浜へ行く予定を立てているので、大人しく部屋で過ごす。
フレンチワイズへ行き、またそのあとはキコーナでシンフォギア。
俺の中で勝利の方程式は出来上がっている。
インターネットを見ながら暇潰しをしていると、韓国との『徴用工問題』がとにかく目に付く話題だった。
テレビや新聞をまるで見ない俺にとっては、ネットニュースぐらいからしか学ぶものがない。
様々な記事に目を通しながら感じた事。
それは日本という国に対し、失礼な態度を取る韓国という国に憤りを感じていた。
こんな俺でも愛国心はあったのか?
もちろんあるさ。
だっておじいちゃんやおばあちゃんの孫だから。
初期横浜時代も、慰安婦問題で安倍総理が十億円を韓国に払ったとかネットに書いてあったよな?
暇だったのもあり、俺は感情的なままフェイスブックへ投稿した。
本当に馬鹿でイライラする国だな。
関わらないよう早く制裁加えて断交したほうがいい。
もうすぐ令和になるのだから、こういう癌細胞みたいな国は切り落としたほうがいい。
この投稿に対し、いいねはついたものの、コメントはゼロ。
まあ裏稼業で働く俺の考えなど、誰一人賞賛はできないという事か。
二千十九年四月十五日、月曜日先勝。
恐怖の白いスポンジ事件からちょうど一週間経つ。
もうほとんど傷も目立たなくなった。
ラッキーハウスへ来る客も、誰一人俺の顔の傷を気にする人間はいない。
また変わらない日常がこうして始まる。
二千十九年四月二十二日、月曜友引。
特に問題もなく仕事を終え、地味に過ごすだけの連続。
自身の生活に変化はないが、昨日の川越の市議会議員選挙で先輩の須賀昭夫さんの当選が決まった。
昔からの知り合いが、こうして報われた事に対し素直に嬉しく思う。
大きな変化はないが、本来これは俺自身が望んでいた事である。
もう地獄のような日々を味わうのだけは、本当にごめんだ。
仕事があり、当たり前のように給料をもらう。
好きな事をしながら毎日を過ごせる幸せ。
一見何の成長も無いように見えるが、かつて味わった事のないような屈辱や、努力が他人のせいで水の泡になる、また休みも見えず延々と身体の限界まで働き、金を貸せば裏切られるような生活よりはマシだ。
ましてや二俣川の旭総建工業の時を思えば、ある程度の理不尽など可愛いものである。
もうあの時のような惨めな思いだけは、絶対にしたくない。
それには自分の中である程度の現状をチェックする必要性があった。
現状に屈辱感を覚えていないか?
金銭で自身が削られるような損をする事はないか?
肉体的疲弊を感じる事はないか?
働いた分の給料はちゃんと出ているか?
当たり前の事だらけでも、俺は二度目の横浜時代にこれらをすべて食らい、命を投げ出し掛けたのだ。
馬鹿げた事に見えても、俺にとっては大事な事項である。
出勤時間になり、本川越駅へ向かう。
改札の向こうで妙に人だかりが見えた。
「また人身かよ……」
駅の告知を見てうんざりする。
事故だったら責めないが、もし飛び込み自殺だったら言う事は同じだ。
駅構内の写真を撮ると、俺はまずラッキーハウスへ連絡をして電車が動かないので遅れる可能性がある事を伝える。
そしてそのあとフェイスブックへ投稿した。
須賀あきおさん、当選おめでとうございます!
目出度いのに、狭山市駅で飛び込んで人身事故起こした馬鹿へ。

死ぬのはいいけど、せめて迷惑掛けないように死ね。
毎度この人身事故に思う事だが、目の前には数えきれないほどの人間が足止めを喰らい迷惑を被っている。
自殺したいと行動するのは自由だが、本当に人知れず山奥で死んでほしい。
二千十九年四月二十三日、火曜日先負。
番頭香川体制にの迫害。
人身事故により電車の遅延だが、それでも一時間につき千円の引かれ。
本来の遅刻なら十五分千円のところを遅延だから一時間千円にしているという意味不明な説明。
まあこれも裏稼業特有。
このような場所で働いている自分がいけないのである。
帰り道、山下が一杯行きましょうと飲みに誘ってくるが、どうせ俺の奢りが目当てなのは明白。
俺は見ておきたい酒があると、花道通りにあるリカーショップ『信濃屋』へ入り、山ゴネスの追撃を躱す。
自然と足は、スコッチウイスキーのシングルモルトの棚へ向かう。

数々のスタンダードなグレンリベット。
信濃屋で売られているグレンリベット十二年は二千九百八十円で、三千円をギリギリ切る値段。
十八年が六千二百五十円に対し、十五年が五千四百九十円もするのはフレンチオークの直輸入だからだろう。
ファウンダーズリザーヴは三千百三十円。
すべて税別価格であるものの、比較的リーズナブルな値段。
見ていると全種類欲しくなってしまう。

さらに上の段にはより高級なグレンリベット・シングルカスクの値段がいまいち見えない『2018 48624』と、『2019 96411』が四万三千円で置いてある。
『2019 96411』のシングルカスク。
シングルカスクとは、一つの樽のみから瓶詰めした希少価値の高いウイスキーの意味合い。
そして度数は五十五・四度と通常のウイスキーが四十度に対し、加水調整せず、樽からそのまま瓶詰めカスクストレングス。
正に日本のモルトファンの為に厳選した特別な一樽のシングルモルトだ。
日本限定で今年の四月八日から四百七十本を発売されたばかり。
これは一樽分から取れる本数である。
シェリー樽で二十一年以上熟成した希少な味わいが特徴。
でも四万三千円もするのか……。
『2018 48624』の値段も店員に聞いてみたいが、手の届かない値段で恥を掻くぐらいなら知らない方が賢明だろう。
分かるのは二千十八年に日本限定発売され、確か度数は六十度を超えていたと記憶している。
どちらにせよ今の俺の身分では分相応な酒な事は確かだ。
ギャンブルで無駄遣いしていなければ、手が届く酒だったのになあ……。
未練がましい俺は、棚に並べられたシングルカスクを携帯電話で撮影した。
できればこれらの酒をコレクションできるぐらい余裕ある生活をしたいものである。
何せ十二年に関してだけで言えば、俺がこれまでの日本人の中で一番この酒を飲んできた自負があるからだ。
そういえば俺が歌舞伎町へ来たての二十代半ばの頃、この店はリシャールヘネシーを二十万円で提示してあった。
当時はそんな金とてもじゃないが手を出せない。
しかしあれから二十年以上の月日が流れた俺は、未だ手の届かない酒。
つまり俺は二十年以上経ってもまったく成長の無い人生を送ってきた訳である。
あの頃は川越のスナックで気取りながら、ヘネシーVSOPを飲んでいた。
本当に酒を愛するなら、そんな店で倍以上の値段を出して飲んだりしない。
何故なら自分で買えば、同じ値段で二本以上手に入るのだから。
わざわざ女のいる飲み屋へ行き、高い金を払う行為。
これは真のグレンリベット好きとは言えない。
棚の上にある箱入り娘のシングルカスクに嘲笑われているように見えた。
まるで愛しい恋人との別れを惜しむよう、俺は静かに信濃屋を立ち去った。
ふん、格好つけるな。
愛しい恋人でなく、遠目から眺めるだけの高嶺の花だろ。
だから小説を何年も書けないのだ、俺は……。
二千十九年四月二十六日、金曜日赤口。
今日仕事を出れば二週間ぶりの休み。
あと一日頑張るとするか。
「岩上さーん、どうです、帰りに一杯行きましょうよ」
山ゴネスが恒例の如く酒の誘い。
前に一度付き合うと、さり気なく奢らされた。
二十年近く昔から、この男はこの辺が絶妙に上手いのだ。
「いい、俺は用事あるから」
「えー、岩上さん冷たいすよー」
「飲みたいなら自分一人で行け」
「金遣い過ぎちゃって今余裕ないんすよー」
ほれ、見た事か。
俺にタカる気満々だった訳である。
今は亡き斉藤弘一は、俺と山下が同じ職場になった事には微笑んでいると思う。
しかしタカり思想の山下をこうして跳ねのける俺を見て、腹を抱えながら笑っているはずだ。
帰り道山下とは逆方向へ向かった。
西武新宿駅北口から入ればいいだけ。
大久保病院斜め向かいにあるホテルキャビンが見えてきた。
この流れなら、しっかり朝食を取り夜の仕事に備えますか。
始めにホテル内の受付で千百円の食券を購入。
中に入り券を提示してから好きな席へ座る。

朝から千円以上の朝食の金額は世間的に見れば高価であるものの、あのまま山ゴネスと飲みに行っていたらこの値段の十倍行く可能性だってあるのだ。
さて元を取る為に、たっぷりと栄養を補給する事にしよう。
俺はブッフェテーブルへ向かい、好きな料理を皿に盛りつけ出した。
たくさん寝て英気を養い、いざ再び歌舞伎町へ今週最後のお勤め。
忙しない店内をさばきつつ、時間の経過を忘れる。
二千十九年四月二十七日、土曜日先勝。
夜中の二時過ぎに高山が来店。
山下と顔を見合わせ落胆した。
またこれで朝方までズルズル居座られるのだ。
客が引いていく時間帯になり、残ったのは案の定高山と小久保。
二人とも大の話好きだが、あくまでもお互い人見知りし他状態で、それぞれ従業員に話し掛けてくるから始末におえない。
俺は高山に捕まり、橋本は小久保。
山下がキャッシャーをやりながら店は回る。
「赤崎君、セクシィって分かる?」
セクシィ…、以前山下や大山のいたサン系列最後の生き残り店。
今ではゲーム屋としてでなく、インカジも導入し訳分からない状態になっていると聞く。
しかもそこの名義を貼っているのが廣木。
ワールドワン時代、最後に入ってきた従業員だった。
クビにした山下の代わりに新人の西森、そして廣木が店に入ってきた。
西森は明るくとっつきやすい性格。
廣木は俺と同じ年でとても無口だが、ゴルゴ十三をこよなく愛し、その話になると無性にお喋りになる変な男だ。
当時皮肉な事に、山下をクビにしたあと入ってきた廣木。
その山下がラッキーハウスへ来てから俺は廣木があそこの名義人だという情報を知る。
あの根暗の男が今やセクシィの名義社長。
本当に裏稼業というものは、運やタイミング一つでいくらでも立ち位置が変わってしまうものだ。
「知ってますよ、廣木が名義をやっている店ですよね?」
俺の言葉に高山が真顔になる。
「ねえ、赤崎君…、何で君が廣木君の事を呼び捨てで偉そうに言ってんの?」
昔の上下関係など知らない高山が突っ込むのも無理はない。
あれは俺が三十代前半の頃なので、十五年ほど前の事なのだ。
「随分前になりますが、自分が店長をしていたゲーム屋に新人で当時廣木が入って来たんですよ。それで知っている程度です」
「ほんとにー? 君が?」
まるで人を値踏みするように小馬鹿な言い方をしてくる高山。
何一つやましい嘘などついていないのに、本当にウザい客だ。
高山は携帯電話を取り出し、目の前で話し出す。
「あ、廣木君? あのさー…、ラッキーハウスってゲーム屋あるじゃない。うん、そーそー…。赤崎って従業員って知ってる? 君の事昔世話した事あるとか偉そうに言ってんだけどさー。え、知らない? ちょっと待ってね……」
高山は俺を睨みつけてくる。
俺の話した事がデマだと思っているのだろう。
だいたい赤崎なんて偽名を言ったところで、廣木が分かるはずもない。
「高山さん…、岩上と伝えてくれれば多分分かると思いますよ……」
「岩上? ちょっと待って…、あ、廣木君待たせちゃってごめんね。赤崎でなく岩上だってさ。うん、そうそう…。ガタイは大きいよ。え? 大先輩? そうなんだ…、昔本当にお世話になった? あ、そう……。忙しいところごめんね、今度また顔を出しに行くよ」
あれだけ失礼な真似をしながら高山は電話を切ると、ゲームへ集中したふりをして、俺のほうを一切振り向かない。
本当に性格の歪んだ男だ。
「今度赤崎君、一緒にセクシィに行こうよ」
次は昔の上司である俺を連れてマウントを取りたいのか、この馬鹿は?
仮に俺が行ったとして、廣木にしてみれば会いたくない存在なはず。
自分がペーペーだった頃の店長が、今の自分に会いに来るのである。
それに俺も十数年ぶりに会うのに格好つける必要性があるので、最低十万ぐらいの金を持って勝負ぐらいしないと小馬鹿にされるだろう。
つまり高山の提案は、誰一人得をしない。
唯一この馬鹿の自尊心だけを満足させるだけというどうしょうもない構造になるだけ。
「うーん…、向こうはあまり会いたくないと思いますよ。自分も十円レートの店で勝負するほど余裕なんてありませんし」
「金なら僕が出すから行こうよ」
「高山さん…、申し訳ないですが、他の店へ嫌がらせをしに行くのを協力はできません」
「ふーん…、何が嫌がらせなのか僕には理解できないけどね。赤崎君って少し神経質なんじゃないの?」
「そうかもしれません。気に障ったら申し訳ありませんでした」
朝方になるとまたパンを俺に買ってこいと命令をする高山。
山下が気を利かせて行こうとすると「僕はね、赤崎君にお願いしたんだよ」と卑しい笑みを浮かべた。
「いいよ、山下…。ご指名は俺なんだから、ひとっ走り行ってくるよ」
こんな事でしかマウントを取れない哀れな男。
若い頃のイケイケ時代の俺と会っていなくて命拾いしたなと、精々心の中で毒づくのが今の自分の立ち位置である。
もうあと数時間で連休に入るのだ。
あと少しだけの辛抱。
鬱積は横浜でその分楽しめばいい。
二週間ぶりの休みだというのに、朝からパチンコで大負けしてしまった。
何故俺は新宿の腐ったパチンコ屋などへ入ってしまったのか?
これもあの高山のせいだ。
素直に横浜向かえば良かったよー……。
前回同様二匹目のドジョウを探しに横浜キコーナへ向かう。
到着してまず肉を食べる事にした。
イライラには肉しかない。
ステーキを食べたらパチンコを勝てた。
まだトータルでは負けてるけど、気分的にはいいリフレッシュになれる。
予約時間までダラダラ打って時間を潰す。
さて、これからいよいよフレンチワイズ。
今日は自分一人であの料理をゆっくり堪能するのだ。
「今日は一人だけですみません」
「いえいえ、ようこそいらっしゃいませ」
「お勧めの赤ワインのボトルをチョイスお願いします。良かったら三人で一緒に飲みませんか?」
加藤シェフ厳選赤ワインのボトルを開け、グラスへテイスティングする。
この口の中でグチャグチャするのは毎度恥ずかしいが、これも一つの通過儀礼。

シェフの奥さんも含め三人で乾杯すると、一皿目の料理が出てくる。

毎度ながら素晴らしいオードブル。
食前の一口おつまみをアミューズと呼ぶらしい。
二皿目は真鯛の炙りとキャビアのカルパッチョ。

誰か女性を連れてくれば良かったなと後悔するも、考えてみれば二倍の料金が掛かるだけなのだ。
それでいてホテルまで行けないケースも多い。
それならここは一人で過ごし、あとで風俗嬢でも呼んだほうがリーズナブルな人生設計である。
時代はもうすぐ令和。
俺も少しずつこのようなモデルチェンジをこれでもしているのだ。
三皿目、緑色のスープが置かれる。
中々珍しい色合いだ。

「加藤さん、これは?」
「グリンピースのポタージュになります」
「へー…、あ、とても美味しいです!」
コクのある優しい味わい。
スープ一口で、ここまで人間は幸せを感じられるのかと勉強になった。
四皿目、さわらのムニエル。

一つ一つをここまで感謝を覚えながら食べるのは、俺にとってこの店しかない。
横浜に対しいいイメージを未だ抱くのも、この店の存在は大きかった。
五皿目、メインディッシュ。

「本日は和牛の香草パン粉焼きになります」
「毎回毎回いつもの事ながら、常に驚かされてしまいます……」
最高の料理には最大限の礼節を。
この店は自身の礼節を整え、過去の尊厳を取り戻す儀式でもある。
六皿目、苺とチョコレートケーキ。

普段ケーキなど食べない俺が、黙って頂く唯一のお店ワイズ。
うん、たまには一人でこんな風に過ごす夜も悪くない。
最後に赤ワインを飲み、会計を済ませる。
夜風に吹かれながら大岡川を渡った。
小気味いい浜風が頬を優しく撫でる。
前回と同じパターンで再度キコーナへ入るも、いいところ無しで負けた。
次は一気にグレードが落ちるが俺にとって大切な激安居酒屋『楽』。
マスターへ一杯二百五十円の酒を何度も振る舞いながら、馬鹿話をした。
「あれからクマさんは来てないんですか?」
「さすがにあそこまでやられてしまうと、もううちでは無理ですよね……」
「あれからチェーンソー持った男はもう来ないんですか?」
「さすがにあんなのはあれ一度だけですよ」
いい感じで酔った俺は、また近くのラブホテルへチェックインして風俗嬢を呼ぶ。
満足するまで性行為に励んだあと、ジャグジーへ入ってからベッドへ横たわる。
明日は天皇賞・春か……。
去年当てたゲンのいいレース。
そういえばあのホットドッグ屋のバーで、占い師と知り合いになっていたよな。
今度占ってもらうとするか。
そんな事を考えている内に、深い眠りについた。
二千十九年四月二十八日、日曜日友引。
爽快な目覚め。
素敵な横浜での朝を迎える。
再びジャグジーへ入ってから、ホテルを出た。
必然的に競馬を買うので日ノ出町駅方面へ向かう。
さて、今回は何を食べるか。
一人なので定番のミツワグリルへ入る。
これまた定番のB定食を注文。

ミニハンバーグにチキンフライ、付け合わせにハムとミックスベジタブル、ナポリタンにキャベツの千切りがつき、ライスと味噌汁で五百八十円は、こんなに良心的でいいのかと毎度ながら感謝を覚えてしまう。
さて…、次は本番の天皇賞・春。
俺はエクセル伊勢佐木へ向かい馬券を買った。
ついでに自撮りをしてフェイスブックへ載せる。

そのまま道路を渡り、目の前の野毛に入った。
何だか今日は妙に人の出が多い。
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