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闇 618(二度ある事は三度ある編)

闇 618(二度ある事は三度ある編)

2026/07/19 sun
※1971年から書き始めて、とうとうこのシーンを書けるのだなという喜び。博多の部屋から見える景色がカンカン照りの昼間から、執筆に没頭して気付けばすっかり夜になっていた。でもこれはとても幸せな事である。
前回の章


二千二十三年八月十九日、土曜日友引。

すっかり体調の元通りになった俺。
今日は昼の十一時まで残業し、帰り道歌舞伎町の中華そばえっちゃんへ寄ってみる。

俺が二十代後半の頃は、この二、三軒先に街中華『山東』があった。
ゲーム屋『ワールドワン』時代の話。
いつだか火事を起こして全焼し、この街からひっそり消えた中華。

2023/08/19 歌舞伎町 中華そばえっちゃん

今はああした店がどんどん無くなり、ラーメン専門店ばかり増えていく。
券売機を見ると、一番安い中華そばで九百五十円。
物価はどんどん上昇している。

2023/08/19 歌舞伎町 中華そばえっちゃん

ここ最近の値上げラッシュで、この店もネットで調べた金額より百円値上げしていた。

2023/08/19 歌舞伎町 中華そばえっちゃん

中華そばの大盛りを食べ、ちょっとあっさりし過ぎだなという物足りなさを感じながら、すべて平らげる。

2023/08/19 歌舞伎町 中華そばえっちゃん

さて、明日は去年ズバリ取れたレースの札幌記念。

2023/08/19 JRA 2022年の札幌記念結果

今年もジャックドールが出るし、ここはズバリ当てたいものだ。
去年の予想を思い出す。

神様はどこかで見ていてくれるはず。
俺は細かく作った札幌記念の分析データを元に、4番ジャックドール軸に馬券を買う。
相手は3番のパンサラッサに、もう一頭9番ウインマリリン
このウインマリリンは、俺の幼馴染であるトンカツひろむの長男である乗松一久こと一ちゃん所有の馬である。
今や世界を飛び回る一ちゃんとは、シンクロニシティとも呼べる奇妙な再会を何度かしていた。
もの凄い偶然の一致。
一度目は俺が初期横浜時代で、一ちゃんはジンバブエで仕事。
二度目は俺が新宿で、一ちゃんはあの頃ブータン。
この二人が地元川越へ何の打ち合わせもなく帰り、偶然道端で遭遇した。
そんな一ちゃんとの妙な再会を思い出す。
そしてウインマリリンの今回の番号は9番。
俺の生まれ月でもある。
ジャックドールを一着固定で、この二頭を軸に他のパターンでいこう。
つまりこれが一位に来なかったらほぼ終わり

あれ?
でも去年ウインマリリンって、確かこのレースコケなかったか?

今回幼馴染の一ちゃんの馬、ウインマリリンもまた出る。
一応海外GⅠ馬だもんな。
これ、案外イージーに取れるんじゃないの?


二千二十三年八月二十日、日曜日先負。

直美との待ち合わせは夕方五時。
横浜まで一時間あれば余裕で間に合うので、河本マンションにいながら札幌記念のレース結果を見た。

ジャックドールの馬鹿、ウインマリリンの馬鹿……。

よりによって二頭ともコケやがった。
本当に俺は博打の才能が無さ過ぎる。

時間になり出掛けて横浜到着

2023/08/20 横浜みなとみらい 桜木町駅

さて、競馬で負った深い傷を癒そう。

2023/08/20 横浜みなとみらい 桜木町駅

まだ直美は来ていないので、桜木町駅の近くにあるバーガーキングへ行きハンバーガーを二つ食べる。
これから中華料理なのに、食べ過ぎか?

彼女から横浜に到着したと連絡があり、みなとみらい駅に来たようだ。
何でも川越から一本で来れるらしい。

『電車降りました! みなとみらい駅の何処の出口出たらいいのでしょうか? 直美』

『みなとみらい駅ですよね? どっち口降りたか教えてもらえます? タクシーで迎えに行きます。 岩上智一郎』

『既に迷子になってます。出口見つけたら連絡しますー。 直美』

『とりあえずみなとみらい駅向かいます。 岩上智一郎』

えーと、タクシー並んでいて全然捕まらないぞ?

2023/08/20 横浜みなとみらい 直美の送ってきた写真

『クイーンズスクエア横浜ってとこに出ました! 直美』

『了解です。 岩上智一郎』

しかもタクシー自体中々来ない。

『このままインターコンチネンタルに向かいましょうか? 直美』

『あ、そしたらタクシーで一度桜木町駅までこれます? こっちタクシー捕まらないんです。 岩上智一郎』

『捕まえてみます! 桜木町駅のどのあたり? 直美』

『ほんと駅です 東口南改札です。あ、それか俺はこのままホテルまで歩いて行きましょうか。 岩上智一郎』

これじゃ直接インターコンチへ向かった方が早そうだ。

『はい! こっちもタクシー見当たらないので、直接歩いていきますね。 直美』

2023/08/20 横浜 みなとみらい

『了解です。 岩上智一郎』

桜木町駅からしかインターコンチへ行った事のない俺は、みなとみらい自体は詳しい訳ではなく、結局ホテル入口で待ち合わせる事にした。
実際歩くとそこそこ距離あるんだよな……。

『着きましたー。 直美』

ヤバい、これじゃ俺の方が田舎者みたいじゃないか。
早足で向かい、道路を渡ればあと少しでホテルというところまで来て写真を撮って送る。
皮肉な事に、ホテル近くでようやくタクシーが捕まりそうって、もう遅いよ。

2023/08/20 横浜 みなとみらい

『俺はあとちょっとです。 岩上智一郎』

かなり急ぎ足で向かい、汗だくになってホテルへ到着。
一緒にエレベーターに乗って最上階の中華カリュウへ行く。

受付で名前を伝え、直美をエスコートしながら窓際の席へ。
カリュウのスタッフから、総支配人の大貫と支配人の森田よりシャンパーニュの用意がしてあると言われ、礼を言う。

「智一郎さん、顔利くんですねー」
「まあ以前横浜に数年いた事ありますからね。乾杯しましょう」

三十一階からの眺めは相変わらずいい。

2023/08/20 インターコンチネンタルホテル横浜 31Fカリュウ

今回はコース料理でなく、彼女の食べたいものを注文。
俺は先ほどのバーガーキングがまだ胃袋へ残っていて、そこまで食べられなかった。
明らかにワッパー二つのセットは食べ過ぎだ。

夕暮れ時なので、明るい時間から雰囲気のある夜に切り替わる瞬間。

2023/08/20 インターコンチネンタルホテル横浜 31Fカリュウ

川越で店を持つ直美は多忙な存在である。
元から早めに帰るのは承知していたので、今回は焦らず紳士的な対応に終始するよう心掛けた。

夜まで夜景を見ながら満喫し、俺はみなとみらい駅まで送り届ける。
ここに来るのは初めてだったので、インターコンチからこんなに近いのかと内心驚く。

「あれ、智一郎さん、一緒に川越に行くんじゃないんですか?」
「直美さん迷子になるといけないから、送り届けただけですよ」

「優しいんですね」
「一応ジェントルマンですから」

「このあとどうされるんですか?」
「横浜は数年いた土地です。よく行ったバーなどへ、顔を出してきますよ」

彼女を見送ると、俺はまず石川雅之へ電話をしたが出なかったので、とりあえず楽まで向かう。
一旦横浜駅まで戻り、地下鉄ブルーラインで伊勢佐木長者町駅へ。

真金町にある店に到着してから楽ではなく、ラクダのコブに変わったんだと気付き、マスターと最近の近況を話しながら酒を飲む。

直美と早めに別れたので、まだまだ時間はある。
俺は日頃ガタの来た身体を癒しにタイ式マッサージへ行った。

施術を受けている内に猛烈な睡魔が襲い、深い眠りに入る。


二千二十三年八月二十一日、月曜日仏滅。

起きると辺りは真っ暗。
一瞬ここはどこだと思ったが、すぐに把握する。

どうやらマッサージを受けている内に、終電を逃すまで寝てしまったようだ。
こうなったら朝まで飲んで始発で帰ろう。

伊勢佐木モールを横切り、七年ぶりのバー、二階にあるセックルへ顔を出す。

2023/08/21 横浜市中区 BARセックル

久しぶりのグレンリベットを嗜む。
セックルのマスターに「覚えてますか?」と声を掛けると、しばらく考えてから「あ、小説家の岩上さんじゃないですか!」と笑顔で答える。
小説家か……。

最近ちょこっと執筆してみたものの、十二年半も書いていない。
まるで気持ちの乗らない文章。
あれにどう魂を乗せるというのだろうか。

まだ時期ではなかった?
いや、そもそも文章を書く能力自体、時間の経過と共に削り取られてしまったように思えた。

「マスター、ジントニックにリベットをお代わり下さい。あとマスターも一杯どうぞ」
「ありがとうございます。では私はオールドクロウを頂きます」

七年ぶりになるが、本当に来たかったお店の一つ。
飲食店には最大の妨害となったコロナ渦でも、こうして無事生き残ってくれた事にまず感謝する。

ただ残念な事に、昔のようにピザなどのフードはもう扱わなくなったようだ。
これも時代の流れなのかと納得するしかない。

セックルへ初めて来たのは、横浜の高橋満治と十数軒梯子をした時。

二軒目は川を渡った先にあるバー。
「ここのコールドチキンが最高なんですよ」
高橋は絶賛していたが、正直そこまでかと思う。
ただ場の空気を読んで合わせておく。
「岩上さん、次行きますよ」
「え、もうですか?」
高橋満治の飲み方は少々異質だった。
始めのぽあろだけゆっくりしていたが、次に行く店はだいたい一、二杯飲むと会計し、また別の店へ向かうのだ。
この辺ではかなり顔が広いようで、各店で様々な人たちが「先生」と高橋を慕う。
五軒六軒と河岸を変える内に、取り巻きのような人間が徐々に増えていく。
切符のいい高橋は付いてくる人たちの分までまとめて会計をする。
たかが一、二杯だがそれを五人六人分となると、そこそこいい金額になってしまう。
こっちまでご馳走になりっ放しも嫌なので、俺も次の店は全額払うが、高橋以外の人間たちの分まで金を出すのは複雑な心境だった。

あの時は慌ただし過ぎて、写真も何も撮れていない。

ただ十数軒行った中で、このセックルは王道的なバーだと感じ、初見からお気に入りの店だった。

他に客もいなかったので、色々と話は尽きず酒がどんどん進む。

「岩上さん、本当お酒お強いですよね。ボトル一本半以上、空けてますよ」
「昔は三本は適量だったんですけどね。随分弱くなりましたよ」

セブンスターに火をつけながら、そう嘯く。

バーでそれだけ飲めば、当然金額もそこそこいってしまう。
俺は二万数千円の金を払い、外へ出ると少し空が明るくなっていた。

財布の中を確認しながら、崎陽軒のシウマイでもお土産に持っていこうと思ったが、こんな朝四時台に開いている訳がない。
まだ二十万円以上財布に入っている。
風俗嬢でも呼んで…、いやいやもう今は無理だろ……。

もう少し飲んで時間を潰せば良かったと思いながら、フラフラと伊勢佐木モールを歩き、関内駅へ向かう。

久しぶりに飲み過ぎた。
結構酔いが回っている。

始発も少し待つようだし、どこかホテルへ入ろうか?
いや、それだとすぐチェックアウトになるから勿体ないよな。

じゃあ漫画喫茶にでも入るか。
もう少し頑張れば駅だ。

俺は関内駅へ着くと、電車が来るまでベンチへ腰掛けた。
半分寝ていたのかよく分からない状態のまま、電車へ乗り込んだ。

そこからは熟睡状態。
ふと目を覚ますと、何故か川口駅にいた……。

え、何で?
俺は一体何の電車へ乗ったんだ?

気怠い身体を動かし、乗り換え少しでも新宿へ近付こうと向かう。
しかし再び睡魔が訪れ、何故か東京駅にいた。

ヤバいな、俺。
こんな事なら横浜でちゃんと寝てから帰れば良かった。

山手線で素直に新宿まで帰ろう。

2023/08/21 どこかの電車 東京駅

確か東京駅って、色々な駅弁が売っているらしいんだよね。
せっかくだから駅弁でも買おうかと財布を取り出す。

「え……」

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