伊丹市昆虫館ー企画展 伊丹の自然 水生生物編
1.初めに
おはようございます。こんにちは。こんばんは。IWAOです。伊丹昆虫館で開催されていた企画展について紹介します。今回は、伊丹市に生息する「水生生物」をテーマにした展示が行われていました。伊丹の水辺にはどのような生物が生息しているのか、そこから伊丹の自然は、どのような環境なのか?それを見ることが何かを紹介していきます。
*この企画展示は、1/19までの開催です。この記事を読んで気になった方がいらっしゃったら、是非、足をは運んでほしいです。この企画展示だけでなく、本展示も一緒に見てください。
*過去に行った伊丹昆虫館そのものの記事も書いています。こちらも是非、ご覧ください。
2.構成・伊丹の水辺とは?
過去に伊丹昆虫館では、哺乳類・鳥類、そして、昆虫をテーマにした伊丹市の自然の企画展を行っていました。そこでの展示は、基本標本と解説パネルが中心となって展示されていました。今回の水生生物の展示は、標本だけでなく、実際に「伊丹市の河川や池で採取された」生体が展示されていました。水生生物の展示スペースで見てみれば、ほぼ全てが実際の生体という点で、これまでの展示とは違う構成になっていたと思います。
*過去の伊丹市昆虫館の伊丹の自然についてはこちらをご覧ください。
まず、伊丹市の水辺の環境はどのようなものになっているでしょうか?伊丹市は、平野に位置していますが、海に近いわけでもなく山により過ぎているわけでもない場所にあります。つまり、海と山の中間的な場所にあるということです。伊丹市は、西側を猪名川が、東側を武庫川に挟まれたところに位置しており、その2つに川に別の小さな川が流れこんでいます。また、伊丹には、大型の池も多くあります。当然、昆虫館が位置している昆陽池もその代表ですが、瑞ヶ池、緑ヶ池、西池、黒池などがあります。池のほとんどが、「灌漑用」であるものが多いです。昆陽池に関しては、奈良の大仏で有名な行基がその造作に関わっており、歴史も古いです。昆陽池の存在から感じたことですが、伊丹市の池は、以外にも歴史の古いものが多いのではないか?と感じています。

大阪にある狭山池も行基によって造設された。
奈良時代から昭和までの塀の断面になり、現在も狭山池は現役である。

3.魚類
まず、展示スペースに入って目を引くのは、水槽に展示されている魚たちです。大型水槽に展示されている魚の多くは、カワムツ、オイカワ、モツゴ、タモロコ、カマツカ、コイ、フナなどとどこの河川や池でも見ることのできる「普通種」と言われる魚たちです。つまり、別に珍しいものでもなく、キレイなものでもない魚の展示が多かったということです。しかし、彼らの展示が期待外れで、ガッカリしたということを意味するものではありません。私は、彼らを見た時に、伊丹の水辺の環境がどういうものか?をすぐに感じることができました。


水槽内に目を引いたのが、タモロコとモツゴで、非常に多かったなと感じています。彼らは、池やあまり流れの激しくないたまり場や用水路に生息しています。また、川の生き物と思われるカワムツやオイカワも数多くおり、水がキレイな場所にいるイメージが強いものの、山奥の河川の源流のような場所でないと見れない生物ではない上、希少な生物ではありません。つまり、人家の近くにある河川でも見ることのできる魚たちであるということです。伊丹という場所が、山や海の中間的な場所に位置していることから、見られる魚の多くが、中流~下流域のもの、流れの緩やかなものに傾いていたのではないかと感じます。まして、ため池が多い地域でもあるため、それも見られる魚が、中流~下流のものになりやすくしているのではないかと感じました。

こちらは、我が家の飼育個体



*過去に土岐川観察館へ行きました。土岐川は、岐阜県の中でも山の方に位置しているため、見れる魚は、流れの強い所に生息するものが多かったなと感じます。飼育員さんからは、モツゴやタモロコのような池に生息する魚はあまり見られないと教えてもらいました。こちらも伊丹の自然との比較でご覧ください。
魚は、普通種ばかりだったなで終わるものではありません。展示されていた中で、まず注目したのが、「チュウガタスジシマドジョウ」になります。伊丹にもドジョウは生息しており、それは普通種としてのドジョウだけでなく、シマドジョウ類も含み、他のものだと伊丹市に生息するドジョウは、オオシマドジョウがあげられます。ドジョウは、基本、日本国内に生息していますが、地域ごとで生息する種・個体群で違いがあります。それは、一般的な「ドジョウ」においても同じです。特に、「種」レベルでの違いが見られるのは、シマドジョウやスジシマドジョウと言われるものになります。スジシマドジョウは、西日本でのみ見られるシマドジョウになり、地域単位で幅広く生息するもの(*トウカイコガタ)から水系単位(*タンゴスジシマ)などと種ごとで生息する幅に違いがあります。チュウガタスジシマドジョウは、スジシマドジョウ類の中で1番生息範囲が広いものとなり、東は京都から西は福岡までです。スジシマドジョウの中では、大きさも中型のものになり、頭から尾鰭までに黒い筋が通っているのが、特徴です。特に、繁殖期のオスは、黒い筋が目立つようになります。スジシマドジョウは、種によっては、黒い斑点があり、それが他のシマドジョウとの区別を難しくします。ただ、チュウガタの場合は、スジが出やすい方のドジョウではないかと思います。

スジシマと言われるように一本の筋が通る

私の1番お気に入りのドジョウ

意外に激レア種
*ドジョウについて知りたい方は、こちらを是非ご覧ください。
注目すべき魚は、ドジョウだけでなく、ムギツクやコウライニゴイがあげられます。ムギツクは、体に一本の黒い筋が通り、尾鰭や背鰭の先端がオレンジ色になるのが、特徴です。彼らの注目すべき特徴は、「托卵」です。この托卵は、コイ科で彼らのみが持つ唯一の生態です。自分たちで水草へ産卵を行いますが、ドンコやオヤニラミのような自分たちで卵を保護するような魚がいる場合、彼らへと托卵を行い、自分たちの卵を守ってもらいます。伊丹では、ドンコが生息しているので、彼らに托卵を行います。ムギツク自体、キレイで目立つ生き物ではありませんが、「托卵」を知っているとどの生き物へ行うのかという生物同士の関係性について考える起点になる生き物になると思います。


また、コウライニゴイも展示されており、コイっぽいようでコイではないのがニゴイです。コイと言われますが、分類学的にはカマツカの仲間です。しかし、そのニゴイは、コウライニゴイやズナガニゴイへと別れます。ここで展示されていたコウライニゴイは、ニゴイに似ていますが、下の唇が厚い点や鰓耙数が多いことが違いで挙げられます。ただただコイに似ているからニゴイなんだと思っていると意外にそれが違うものだったりします。つまり、生物は、さらに細かく別れるということが分かります。


我が家の飼育個体
4.甲殻類
伊丹に生息するカニやエビについても生体で展示・解説されていました。外来種であるアメリカザリガニ、川や池ならどこでも見られるスジエビやヌマエビ、多くの人が知っているテナガエビ、サワガニ、モクズガニなど、見ることのできる甲殻類は多かったと思います。ただし、学芸員から教えてもらったことで、非常に面白く伊丹の自然を一番反映したものがいるなと感じたものがいました。それは、「モクズガニ」であり、伊丹ではサワガニよりもモクズガニの方が、多くいるということです。モクズガニは、いたるところで見ることができるのに対し、サワガニはもとから少なく、伊丹では生息に適した環境があまりないのではないか?とも教えてもらいました。


実際に昆陽池で採取されたもの
この指摘は、昆陽池を歩き、どのような池なのか?を考えれば、納得できる所でもあります。昆陽池へ流れ込む小川は、流れがあまり早くなく、水が溜まっているような場所が少なくありません。それ故、池を含めた底がほぼ泥質で落ち葉も多く溜まったままになっています。また、モクズガニは、川底の石の下、護岸の隙間に隠れ、藻類などの植物質のものから小動物、腐食質のものまで何でも幅広く食べます。一方のサワガニは、名前の「サワ」があるように水の流れがあり、キレイな清流に生息していますが、昆陽池にはそのような環境はあまり見当たりません。池ということもあり、サワガニが生息するには環境があまり適していないことから、モクズガニの方が多く生息しているのではないかと思いました。キレイな水が流れているのではなく、池のようなたまり場、流れがあまり激しくない環境が多いことが、モクズガニが多くいることから表れているのではないでしょうか。それは、魚だけでなく、モクズガニも合わせて見えてくることになると思います。
また、テナガエビも伊丹に生息しています。彼らの一部には、モクズガニと共通することがあり、それは、「海と川を往復する」ということです。モクズガニとテナガエビの存在が、伊丹と海を結び付けていること言え、自然環境が広く繋がっていることが分かります。




5.爬虫類・両生類
カメやカエルなども生体で展示されており、カメは、外来種であるアカミミガメやクサガメ、そして、在来種であるニホンイシガメやスッポンなどと特別な手続きをしなければ飼育できないものを除けば、伊丹で見ることのできるカメすべてが実際に捕まえられ、「生体」で見ることができるという豪華な展示になっていました。


*ニホンイシガメについて詳しいことは、こちらで沢山書いているので、こちらを是非、読んでください。
ただ、私が、非常に興味をひかれた展示は、両生類になり、ナゴヤダルマガエル、アマガエル、イモリで非常に面白いことが分かりました。
ダルマガエルに非常に似たカエルとしてトノサマガエルも生息しているものの私はダルマガエルに注目しました。彼らは、水田やため池のような二次的環境に生息していますが、水田は、乾田化や住居・再開発により生息環境が大幅に減少しています。そのため、伊丹市では消滅していたとまで思われていたのですが、近年、再発見されたからです。見なくなった生き物が、しばらくして再発見される例は、このダルマガエルだけではありません。いなくなったからと希望は捨てたくないです。しかし、ダルマガエルと違い、伊丹に生息しているイモリも数が少なくなっており、予断を許さない状況になっています。

アマガエルは、緑色の小柄で壁に張り付いていることのあるもので、一般的にカエルというイメージを持たれるカエルになると思われます。ただ、伊丹にいるアマガエルは、実は、特殊な事情を抱えたアマガエルになります。まず、日本にいるアマガエルは、遺伝的に異なる2集団に分けられます。東に「ヒガシニホンアマガエル」、西に「ニホンアマガエル」と分けられ、その境界が近畿地方となり、伊丹市もその境界線となります。つまり、両者が見られる場所であり、もしかしたら、「自然下」で交雑している個体を見ることができるかもしれないということです。

地域的にもヒガシニホンアマガエルと思われる
両生類で注目してほしいのは、「地域性」です。日本に同じ名前のカエルやサンショウウオはいますが地域レベルで見た場合、彼らが遺伝子レベルで同じといえるものははまずないでしょう。まして、日本する両生類の8割が日本の固有種、つまり、日本にしか生息していない生き物であり、貴重な生き物が多いということです。まして、日本だけでなくその地域独自に進化した生き物であるということです。ニホンアマガエルが近年2種に分かれただけでなく、ダルマガエルも元は、1種と認識されていました。さらに、イモリもその例外ではありません。日本に生息するイモリは、6つのグループに分かれるとされており、その地域内でも同じとは限りません。特に、お腹の赤色で地域差が現れると言われています。
両生類を見ることで日本独自で、そしてその地域固有の生き物がいるということが分かります。伊丹の両生類から、その「地域性」を読み取ることができるのではないでしょうか。


ガサで捕まえた個体

地域ごとで違いがあるものの個体差もある。
6.水生昆虫
ここは昆虫館です。つまり、水辺に生息する昆虫も展示が行われています。水生昆虫の代表格であるタガメやゲンゴロウは伊丹に生息していないものの生体が展示されていました。しかし、ここの展示で工夫されて面白いなと感じたのが、「アメンボ」です。アメンボは、水面を浮いている虫ですが、「どのように浮いているのか?」を分かりやすく展示していました。アメンボは、水と混ざり合わない油を足から出すことによって浮いています。ただ、足から油を出しているだけでなく、足先からはえている毛、毛と毛の間にある空気の層、毛や爪の表面構造の働き…などと複合的な要素が重なって細い足で水面を浮くことがきています。


絵が下手くそですいません…
先ほどの解説のようにアメンボがどのように浮いているのかが分かりやすく解説されていたのですが、水槽に生きたアメンボを入れているのではなく、横から下からも見れるアクリル水槽を設置し、アメンボの浮いている所を分かりやすく見せていました。特に、水面が凹んで浮いているのが、よく分かるようになっていました。



ギンヤンマのヤゴが生体で展示されており、伊丹ではトンボが多くいることを思い出しました。種数が多いからいい自然であるとはならないのですが、トンボ、特に、ヤゴが多く棲息する環境ということは、伊丹や昆陽池は多様な環境があるということをある意味反映していると言えます。


7.鳥類・哺乳類
水生生物だけでなく、鳥類や哺乳類も展示されていました。そのほとんどが、剥製標本やパネルでの解説が中心となります。特に、鳥類は実際の自然下での行動が撮影されたものがあり、生命力を感じるものが多かったです。それらを是非、見てほしいです。


昆陽池では、生き物が数多く生息しています。過去に来館した時、冬の時期の場合、ヌートリアが冬眠しないで活動していた姿を見ました。また、冬になると大陸から冬鳥が昆陽池へやってきます。この時期にしか見れないため、カモ類を見に行くなら、今が絶好のチャンスです。場合によっては、コウノトリが見られるかもしれません。
また、昆陽池で生き物を観察していた時、ヒドリガモとアメリカヒドロガモの交雑個体と思われるもの、カワウとカラスが餌を取り合う喧嘩を繰り広げたりなどのような光景を見ることができました。やはり、生物を観察することは面白いなと思いました。季節で見える生き物が変わるので、その楽しみもあると思います。



冬になると大陸から日本へやってくる

彼らも渡りをするものがいる


カワウの後ろにある魚の取り合いをしていた
カラスの勝ち
8.まとめ
以上が伊丹の自然、水生生物編の内容となります。伊丹の水生生物にはどのような生き物がいるのかがよく分かる展示になっていました。私が最も印象に残ったのが、意外にもモクズガニです。私の中でカニと言ったらサワガニで1番見るカニでもあったため、そのイメージと全く真反対の内容だったからです。ただ、伊丹の自然とモクズガニの生態がうまく合致したからこそ、モクズガニが多く生息していることの表れになると思います。また、魚から伊丹の環境が見えました。どこにでもいる普通種だから伊丹の水辺の自然がしょぼいという意味にはなりません。目立った魚が、伊丹がどのような河川環境にあるのか、それを見せてくれると感じましたし、彼らを見ないと分からないことでもあると思います。今回の展示で、綺麗で派手な生き物はいなかったと思います。しかし、伊丹に生息する水辺の生き物から、伊丹の水辺環境は、中流から下流域に位置し、あまり流れの激しくない環境となり、そこに生息する生き物が主流になることを学べる展示になっていました。目立つ生き物を見るのではなく、普段見ることのできる生き物を見て調べることで、「どのような環境か?」を知ることの大切さを学ぶことができると思います。地域の自然を知ることのできるいい展示でした。
以上になります。ここまで読んでくださりありがとうございます。次回もお楽しみに
9.おまけー伊丹市昆虫館の働きとは
今年、伊丹市昆虫館が、「日本博物館協会賞」を受賞しました。これは、「博物館の振興に大きく貢献し、他の博物館の範となる顕著な成果を挙げていると認められる施設」に受賞されるものです。伊丹市昆虫館が過去に行った展示が個性あるもの、学びの場を提供してきたことが評価されました。何度か伊丹市昆虫館へ行っていますが、企画展示は個性が強くてテーマも広いため、いつも面白いと思います。今回の企画展示もその一つだと思います。博物館とは、どのような施設でしょうか?普段見れないものを見るための非日常を楽しむために来館する人が多いと思います。それが悪いと言いたいわけではないですが、珍獣やお宝の展覧会ではなく、その展示から学べることは多く、研究施設であることは忘れてはいけません。伊丹昆虫館では、マルバネクワガタ、フチトリゲンゴロウ、オガサワラハンミョウなどと伊丹には生息していないもののとある地域にしか生息していない絶滅の危機にある昆虫の保全活動(*域外保全)も行い、彼らに関する展示も行われています。普段見ることのできない生き物を楽しんで見ることに加え、どのような研究がされているのか、今、生き物や自然環境がどうなっているのかなどを学ぶために博物館があることも念頭に入れなくてはいけないいと思います。

国内のマルバネクワガタの多くが域外保全されている
