レシート山羊の退治(前編)|掌編小説集「ゆうぐれドキ」
レシートに噛みちぎった跡が。ついに来たな、レシート山羊め。
スーパーのバイト中、不要レシートをかき集めていたら、たくさんのレシートが虫食いのようになっているのを発見した。まごうことなき、レシート山羊の仕業。
彼らは人知れずいろんなお店へとやってきて、レシートを食い荒らす。特にたくさんのレシートが出るスーパーは彼らにとって恰好の餌場だ。
彼らはすばしっこく、用心深く、五感に優れている。だから、閉店間際の従業員やお客さんの少ない時間帯だと、ほとんど誰にも気づかれずにレシートを貪り、去っていく。
僕は二年ほどスーパーでバイトをしているけど、レシート山羊の姿を見たのは片手で数えられるくらいだ。
彼らはほっそりと痩せていて、体の表面には今までに食べたレシートに印刷されていた文字や記号がびっしりと浮き出ている。まるで全身タトゥーだ。遠目から見るとしまうまのようにも見える。
彼らの存在はお店からあまり歓迎されていない。まず第一に、とても臭い。彼らは常にカビ混じりのきついインク臭を放っている。
それに抜け毛が酷く、レシートの食べ方も汚い。ところかまわず糞をする。彼らが去った後のレジ周りはまるで竜巻が直撃した後の納屋だ。
よって、生鮮食品を扱うスーパーにとっては致命的な害獣である。
そしてレシート山羊退治は、フロントサービス従業員の重要な業務の一つである。
ここ数年、レシート山羊退治を主導していたアルバイトの地行さんが就職で辞めてしまったので、後釜として僕に白羽の矢が立った。一応、僕よりアルバイト歴の長い小村さんという30歳ぐらいの女性がいるのだが、気が弱く、退治に向かないということで僕になったらしい。
先日、品川にある本社でレシート山羊退治の研修を受けた。ついに初実践である。
夜11時過ぎ、閉店後。あえて入り口扉を開け、照明を落とさず、営業中の体裁を装う。
僕と小村さんはセルフレジの不要レシート入れをレシートで満杯にし、サービスカウンターに潜み、猟銃を構える。
それは本物の猟銃である。本社の研修では入念な射撃訓練を行い、狩猟免許も取得した。
店内は静まり返り、冷蔵棚の低い呻き声のような音だけがずっと響いている。まだ春先だというのに、じっと暑い。
小村さんは表情を引き攣らせ、肩を小刻みに揺らしている。顔もやや青ざめている。僕もつられて、体に緊張が走る。
ガサガサ……。レシート同士が擦れる音。ついにやつが来た!
〈後編へ続く〉
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※2026/4/21(火)公開予定です。今しばらくお待ちください。
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