レシート山羊の退治(後編)|掌編小説集「ゆうぐれドキ」
前編はこちらから。
スーパーのアルバイトである僕は、レシートを食らい、店を荒らす厄介な山羊を退治すべく、閉店後のスーパーに身を潜め、猟銃を構えていた。そこへレシート山羊がやってくる。
* * *
僕はレシート山羊に向かって発砲した。山羊は跳躍し、後ろのセルフレジが火花をあげる。
山羊はレシートの束を咥えたまま、悠々と天井スレスレまで飛び上がった。体の表面にはびっしりとレシートの文字や記号が並び、ほとんど影のようだ。よほどたらふく食い込んだに違いない。
「まずいな」と、僕は自分を落ち着かせるために意識的に呟く。
山羊は入り口へと駆け出した。このままでは逃げられる。
「小村さん、入り口を閉めに行ってください!」
「わ……わかりましたっ」と、小村さんは駆け出す。
しかし、小村さんの膝は笑っていて、うまく走れない。このままでは山羊の方が早く外へ出てしまう。
僕はサービスカウンターの下に隠しておいたゴミ袋を取り出す。中にはその日に排出されたレシートがギッチリと詰まっている。
ゴミ袋を取り出した瞬間、山羊の目が輝いたのを僕は見逃さなかった。
僕はゴミ袋を野菜売り場の宙に放り投げ、弾丸で貫いた。レシートが花火のように飛び散る。
山羊は体を翻し、レシートの花火へと飛び跳ねた。僕はクレー射撃のように、山羊めがけて引き金を引いた。
「やめてくれぇ、殺さないでくれぇ」
スーパーの事務室で、レシート山羊は喘ぎながら言う。彼は縄で縛られて床に転がっている。銃弾に貫かれた傷跡からは、粉々になったレシートがさらさらとこぼれ出る。
小村さんが本部に確保の旨を連絡している間、僕を見下ろしながら少し話をした。
「どうしてうちのスーパーに何度も来るんだ」
「だってよぉ、今どきどこも電子レシートになっちまってよ。腹減ってんだぁ」
「それにしても、ゴミ捨て場に行けば、レシートなんていくらでも食えるだろう」
「ジャーナル解きたてホヤホヤのレシートしか食べたくないんだよぉ」
山羊は目から黒いインクを垂らしてほろほろ泣いた。僕はなんだか気の毒になってきた。しかし、彼にしてあげられることは何か一つでもあるだろうか。
「それにオイラ、寂しいんだ。寂しいんだよぉ」
僕は彼のバナナのような二本の角の間に手のひらを添え、そっと撫でてやった。毛並みはざらついていて、新聞紙のような質感だった。手のひらはインクで真っ黒になった。
撫でている間、山羊はじっと目を瞑っていた。瞼で潰れた涙がこぼれて、彼の鼻のあたりに染みた。
後日、僕はレシート山羊退治の腕が評価されて、本部から候補生として招待されることになった。受けるか悩んだが、あのレシート山羊の孤独に歩み寄るきっかけになるかもしれないと思い、説明会だけでも行ってみることに決めた。
〈了〉
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