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episode:054(So side)✴︎本当は、見つけてたくせに。


✴︎
この物語は、フィクションです。
不完全で矛盾だらけな毎日を、
愛とユーモアでそっと抱きしめながら
誰かの “わかる” に寄り添えたら嬉しいです。


作品のあらすじとプロローグはこちら


____So side story*____

✴︎
年度末でバタバタしていた。
出張に報告書、次年度の準備。
家に帰っても、仕事の続きが頭から離れない。

その日は、車で移動中だった。
信号が青に変わる寸前、
すれ違いざまに、視界の端に映った車。


「……え?」

思わず首が少しだけ傾いた。
反射的に、視線が追う。

あのナンバー、あの窓のステッカー。
間違いない。
____いゆさんの車だ。

ハンドルを握る手に、力が入った。
喉の奥が、きゅっと詰まる。

……見つけてしまった。

目の前の道は、まっすぐに走っていて。
彼女の車が、遠ざかっていく。

「やば……」

思わず、呟いた。
アクセルを踏みながら、
心だけがブレーキをかけていた。


✴︎
LINEが届いたのは、それから間もなく。

「今、すれ違ったよ。出勤中だった?」

やっぱり——
見つけてたのは、あっちもだった。

心のどこかで
「気づかれてなきゃいい」って思ってたくせに、
本当は、こんなふうに
声をかけてほしかったのかもしれない。

指が止まった。

なんて返せばいい?
「俺も見たよ」って?
「嬉しかった」って?
「会いたかった」って?

そんなこと、言えるわけないだろ。

…いや、言いたかった。
でも、
言ったらきっと、止まらなくなる。

結局、選んだのは
「全然気づかなかった。
今日は出張だったんだ」
という、
情けない嘘だった。

✴︎

彼女からの返信が、追い打ちをかける。

「受診終わりで、友達待ってる。
カフェのカップが桜だったよ。
一緒に行きたいな」

____どうしてそんなに
いつもまっすぐに
俺を見つめてくるんだろう。


その言葉一つで、
春の匂いと、彼女の笑顔が一気に浮かんでくる。

このまま、
「今から向かうよ」って
送ってしまいたくなる自分がいる。

でも、それをしたら
俺たちは、きっともう戻れない。

だから、

「いいね!俺も行きたい」

っていう、
保留のラブレターみたいな言葉を選んだ。

✴︎

そしたら、彼女から来た。

「会いたいよう」

うん。
そうだよな。
俺もだよ。
俺だって、ずっと____

「おれも。
会いたいけど、
もう少し我慢してね」

愛しくて、それでも、
今、会いに行けない理由を
「我慢」という言葉で誤魔化した。


ほんの2秒のすれ違いだった。
でも、
その2秒が、俺のすべてを暴いた。

気づいてた。
見てた。
想ってた。

だけど、言えなかった。
ただ、それだけだ。


✴︎

その後、彼女は来てくれた。

ちゃんと「行くよ」と言ってくれてたのに、
俺は、また大事なことを忘れていた。

彼女からのLINE。

「今日は“推し”に会えたから、幸せ」

その言葉を見たとき、
胸の奥で、何かが崩れた。
そんなLINEをもらって、正直、焦った。

……やってしまった。
なんで、ちゃんと覚えてなかったんだろう。
なんで、顔を見るくらいの時間すら
作れなかったんだろう。


——“会えた”って、思ってくれてたんだ。
——それなのに、俺は……

「うん?来てたの?」

……バカか、俺は。
そんなこと、言うなよ。
気づけよ。覚えておけよ。

「この日に行くって、言ってたでしょ?」

「……あー、そうだった。忙しくて抜けてた」

それが限界だった。
本当は、忘れてたわけじゃない。
ただ、
心が追いついてなかっただけなんだ。

後悔は、いつも「あとから」やってくる。

✴︎
いゆさんからのLINEが
届かなくなった今もなお

彼女のLINEを見返しながら、
会いたかった気持ちを、
「我慢」という名前の袋に詰め込んで、
見えない場所へ押し込んでいく。

____何度も、何度も。


自分が守ってる「日常」ってなんだろう。
誠実であるって、何に対して?
彼女を想ってる気持ちは、嘘じゃなかった。

でも、
その気持ちの熱量を、
俺はいつも少しずつ、
間違った場所に使ってしまう。

✴︎
ほんのもう少しだけ、我慢してくれたら——
そんな甘えた言葉を口にしたのは、
俺のほうだった。

いゆさんの言葉を見たら
もう十分すぎるほど
我慢させてるって、わかるはずなのに。
我慢することが愛だと、
どこかで思い込んでた。

でも、
彼女の愛を
俺の「我慢」の言葉が
引きちぎってしまったのかもしれない。

✴︎
それでも____たった2秒で
すべての感情を
一瞬で思い出させてくれるような
大きな大きな存在が、
この世界のどこかで
笑って生きてることが、
今の俺の、唯一の救いだなんて
聞いて呆れるよな。

今でもまだどこかで、探してる。


今でも、まだ。
「またすれ違ったね」って
通知がなるのを、待ってる。

✴︎
💌このお話は ”いゆ視点” episode:053とリンクしている 
”壮視点”のお話です
”いゆ視点”のepisodeも併せてお楽しみください♡


✴︎
不器用でワガママで
感情に振り回されっぱなしの私
I.Y.U.(アイ・アンド・ユー)──

私と、あなた。

愛と選択の物語。

── Written by I.Y.U.

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