episode:053(Iyu side)✴︎すれ違うことすら愛しくて
✴︎
この物語は、フィクションです。
不完全で矛盾だらけな毎日を、
愛とユーモアでそっと抱きしめながら
誰かの “わかる” に寄り添えたら嬉しいです。
作品のあらすじとプロローグはこちら
____Iyu side story*____
✴︎
年度末に差し掛かり、
何かと気忙しくなってきた。
かのんは
将来の就労を見据えた実習の打ち合わせ。
りおんは
進学準備と、病院の切り替えの引き継ぎ。
その合間に、
みのんの習い事、自分の仕事、炊事洗濯。
目はかろうじて回ってないけど、
右往左往しまくっていた。
✴︎
その日、総合病院での
りおんの最後の受診だった。
病院の近くには、
壮ちゃんが昔住んでいた社宅がある。
私が3年通いつめた、あの社宅
よく行ったスーパーも、ご飯屋さんも、
当時と変わらずあるけれど、
社宅はもう閉鎖されているらしい。
受診で通い始めの頃は、
息子とご飯屋さんに行っては
〝あの味、あのボリューム”を懐かしがった。
でも、〝今”は。。
ぎゅっと胸が締めつけられそうで、
しばらく行けてない。
その日も
友達と別の場所でランチの約束をしていた。
✴︎
「今日で息子の受診、今の病院はラストなんだ」
送っても困らせるだけのラインだと
わかっていても、また送ってしまう。
それでも、
いつも律儀に返事をくれる壮ちゃん。
「お疲れ様!」
今日も、それだけ。
それでも、
あなたが生きてるだけで、いい。
そう納得しようとしながら、
病院に向かう途中のことだった。
対向車線に、壮ちゃんの車が見えた。
間違いない。あの色、あのナンバー。
遠ざかっていく車に、思い切り振り返って、
危うく車線を跨ぎそうになる。
平日の昼下がりに、すれ違っただけ。
たった2秒の出来事に動悸が止まらない。
これでもかってくらい、恋してる。
そう思い知らされて、自分でも嫌になる。
「今、すれ違ったよ。出勤中だった?」
「全然気づかなかった。
今日は出張だったんだ」
「受診終わりで、友達待ってる。
カフェのカップが桜だったよ。
一緒に行きたいな」
普段、知らぬ間に押さえていた言葉が、
溢れ出して止まらない。
触れられる距離で、
美味しいコーヒーを囲みたかった。
「いいね!俺も行きたい」
「会いたいよう」
たまらずに、また
困らせることを言ってしまう。
たった2秒の残像に、
ここまで心奪われるなんて。
「おれも。
会いたいけど、
もう少し我慢してね」
〝もう少し”って、どれくらい?
〝我慢”してたら、
「お花見、行こうか」って言ってくれるのかな。
✴︎
「おれも」って伝えてくれて。
「会いたい」って言ってくれて。
たしかに、ちゃんと想い合ってたのに。
私は、我慢しきれなかった。
ほんの、もう少しだけ、我慢してたら——
ふたりは、違う未来にたどり着けたのかな。
「いつか」を信じて、
ワクワクしながら待てたのなら
私はもっと強く、優しくなれたのかな。
たった2秒のすれ違いに心が震えて、
“好き”があふれすぎて、
我慢なんて、できなかったよ。
✴︎
受診前に偶然すれ違ったあと、
私は、壮ちゃんに会えるかもしれない日があることを知っていた。
息子の進学先となる学校の招集日。
壮ちゃんが勤めている、あの高校。
もしかしたら、
またどこかで会えるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に、私はその日を迎えた。
でも、説明会では会えなかった。
その数日後、
個別で息子の病状説明の時間を取ってもらい、再び学校へ。
その日は、事前に「行くよ」と壮ちゃんにも伝えてあった。
そして____廊下の向こう
隣の隣の教室の前に立っている
壮ちゃんを見つけた。
気づかれないように…なんて無理だった。
心臓の音が聞こえるんじゃないかってくらい、全身が騒ぎ出す。
毛穴が全部、開いたんじゃないかと思った。
教室のガラス越しに少しだけ見えた
壮ちゃんの横顔。
その姿を胸に抱えて、
帰りの車の中でLINEを送った。
「今日は〝推し”に会えたから、幸せ」
すぐに返ってきたのは——
「うん?来てたの?」
……え?
「この日に行くって、言ってたでしょ?」
「……あー、そうだった。忙しくて抜けてた」
その瞬間、
“会いたかったのは私だけなんだ”って、
どうしようもなく拗ねてしまった。
会えただけで、嬉しかった。
姿を見られただけで、
今日という一日が光った。
でも、忘れられてたっていう事実が、
一瞬で私を、
真っ暗な感情の渦に巻き込んでしまう。
ほんと、執拗なまでに、好きなんだ。
そんな人に出会えたことが
きっと幸せと呼べる奇跡なんだと
思う日もある。
だけど私は____
〝壮ちゃんの全てが欲しい”と
そう願わずには
いられなくなってきていた。
✴︎
💌このお話は ”壮視点” episode:054とリンクしている
”いゆ視点”のお話です
”壮視点”のepisodeも併せてお楽しみください♡
✴︎
不器用でワガママで
感情に振り回されっぱなしの私
I.Y.U.(アイ・アンド・ユー)──
私と、あなた。
愛と選択の物語。
── Written by I.Y.U.
✴︎
読んでくれて、ありがとう
もしどこかに共鳴するものがあったら、
“スキ”や“コメント”、“サポート”という形で
あなたの気持ちを届けてもらえたら嬉しいです
いいなと思ったら応援しよう!
読んでくれて、ありがとう。もしどこかに共鳴するものがあったら、
“スキ”や“コメント”、“サポート”という形で
あなたの気持ちを届けてもらえたら嬉しいです。
