神戸の神さんめぐり vol.3|うおざきはちまんさんと、蔵開きの浜福鶴と、灘の酒の話。
📍 神戸市東灘区魚崎 / 阪神魚崎駅から徒歩5〜8分圏内

はじめに
魚崎郷、と書いてうおざきごうと読む。灘五郷のひとつで、神戸・灘の日本酒文化を支えてきた酒蔵の町だ。
地元民として正直に言うと、ここは「日本酒好きにとっての聖地」だと思っている。大手から地酒蔵まで、徒歩圏内に蔵が集まっていて、梅田から電車で30分かからない。なのに観光地っぽい騒がしさがない。酒蔵の白壁と、どこからともなく漂う仕込みの香りが、この町の空気をつくっている。
今回は蔵開きのタイミングで浜福鶴を訪れた。せっかくなので魚崎八幡宮と櫻正宗もまとめてご紹介する。
01|阪神魚崎駅を降りたら、まず深呼吸する

青空の下、阪神魚崎駅の改札を出る。ここから今日の酒蔵巡りが始まる。
駅周辺は住宅街と工場とが混在した、飾らない東灘の町並みだ。観光地ではない。でもそれがいい。地元の人が普通に暮らしている場所を歩きながら、この町の底に流れる酒文化を感じていく——そういう一日にしたかった。
酒蔵まで歩いて5〜8分。まず手を合わせるべき神社に向かう。
02|魚崎八幡宮へ。酒樽と神功皇后の町の氏神さん

国道から一本入ると、鮮やかな朱色の大鳥居が見えてくる。大きな松と楠に囲まれた、魚崎の氏神・魚崎八幡宮だ。
もともとこの地は「五百崎(いおざき)」と呼ばれていた。神功皇后が三韓征伐の際、この浦に五百艘の船を集めて準備したという故事がその名の由来で、豊漁を願って「さかな」と同じ読みの「魚崎」に改めたと伝えられる。

拝殿の前には「御神燈」と書かれた提灯が下がり、両脇に狛犬が構える。そして目を引くのが、拝殿を囲むように並ぶ奉納酒樽だ。「浜福鶴」「剣菱」「櫻正宗」——灘の老舗蔵元の名が刻まれた樽がずらりと並んでいる。酒蔵の町の氏神さんらしい風景で、ここが灘五郷の真ん中にあると実感する瞬間だ。

境内には大きな松が枝を広げていて、その迫力に思わず足が止まる。本殿裏には「神依りの松」の切り株もある。神功皇后が凱旋の帰途、船がここで進めなくなり、浜の大松に船を繋いで神占を行ったという伝説の松だ。今は切り株になっているが、屋根をかけて大切に保存されている。
参拝を済ませて、さあ酒蔵へ。
⛩ 魚崎八幡宮 基本情報
住所|神戸市東灘区魚崎南町3-19-18
最寄駅|阪神本線「魚崎駅」から徒歩約8分
最寄バス|市バス「魚崎八幡宮前」下車すぐ
駐車場|あり(無料)
御祭神
八幡大神(やはたのおおかみ)
天照皇大神(あまてらすすめおおかみ)
春日大神(かすがのおおかみ)
八衢比古神(やちまたひこのかみ)
八衢比売神(やちまたひめのかみ)
久那戸大神(くなとのおおかみ)
03|まずは櫻正宗記念館「櫻宴」へ

木造の重厚な門をくぐると、「インターナショナルSAKEチャレンジ 最優秀賞受賞」の大きなバナーが迎えてくれた。創醸は寛永2年(1625年)、約400年の歴史を持つ「正宗」名の発祥蔵、櫻正宗記念館「櫻宴」だ。

中に入ると、吹き抜けの開放的な空間に大きな酒樽のオブジェが目に飛び込んでくる。「櫻正宗」の文字が入った巨大な木桶が2階吹き抜けに設置されていて、迫力がある。1階はショップとカフェ、2階は酒造りの歴史を語る展示スペースとレストランという構成だ。見学は無料でできる。
昼間から蔵元の日本酒をちびちびやる。これが蔵巡りの醍醐味というものだ。
ここでしか手に入らない搾りたての生原酒やにごり酒もショップで販売していて、お土産にもよろこばれる一本が見つかるはずだ。
📍 櫻正宗記念館「櫻宴」基本情報
住所|神戸市東灘区魚崎南町4丁目(酒蔵通り沿い)
最寄駅|阪神「魚崎駅」から徒歩約5分
開館時間|10:00〜22:00(ショップ・カフェは19:00まで)
定休日|火曜日(祝日の場合は営業)
見学料|無料
駐車場|あり(25台)
04|本日のメイン。浜福鶴吟醸工房、蔵開きの日

白壁に黒々と「浜福鶴」の文字。軒下には杉玉がぶら下がっている。この杉玉、新酒が出来た知らせとして酒蔵に飾られるもので、青いうちが新酒、茶色く枯れてくると熟成が進んだ証だ。この日のものはしっかり茶色く枯れていた。
浜福鶴は200年以上続く地酒蔵だ。大手が林立する灘にあって「規模に左右されない、愛される味一筋」という姿勢を守り続けている。特定名称酒のみを造り、四季醸造設備で年間を通じてフレッシュな酒を届けている。
そしてこの日は蔵開きだった。
蔵開きの賑わい

蔵の前の広場には大きな酒樽のオブジェが設置されていて、日本酒片手に人々が集まっていた。桜がちょうど咲いていて、青空とのコントラストが最高だった。蔵開きと花見が同時にできる贅沢な春の一日だ。

蔵の煙突に「浜福鶴」の文字、背後にはステンレスのタンクが並ぶ。ここが現役の酒蔵だと一目でわかる風景の中、屋台が並んで人が行き交う。練天ぷら、焼き鳥、かにの甲羅焼き——神戸の地元グルメが一堂に会していた。
蔵開き限定酒の販売、飲み比べ試飲、酒造唄の実演、落語会と、内容がとにかく充実していた。3,000円以上の購入で抽選会にも参加できる。2026年は吟醸工房の開館30周年という節目の年でもあって、記念酒も用意されていた。
試飲した酒はどれも旨かった。甘ったるさがなく、すっきりとキレる辛口だ。灘の酒らしい、飲み飽きしない一杯だった。

📍 浜福鶴吟醸工房 基本情報
住所|神戸市東灘区魚崎南町4-4-6
最寄駅|阪神「魚崎駅」から徒歩約7分 / 六甲ライナー「南魚崎駅」から徒歩約7分
開館時間|10:00〜17:00
定休日|月曜日(祝祭日は営業)
入館料|無料
駐車場|なし(公共交通機関を利用)
公式サイト|hamafukutsuru.co.jp

05|住吉川を歩いて、〆のラーメンへ

酒蔵からの道中、住吉川の遊歩道を歩いた。六甲ライナーが頭上を走り、川沿いに緑が芽吹いている。遠くには六甲の山並みと高層マンション。この「山と川と街が同時に見える」景色が神戸らしくて好きだ。春の昼間、ほどよくほろ酔いで歩くのにちょうどいい道だった。
06|〆は「しぇからしか」東灘店で博多ラーメン

国道2号線沿いに黄色いド派手な看板が見えてくる。「とんこつラーメン しぇからしか」だ。
酒蔵で試飲して、振る舞い酒をいただいて、屋台で食べて——そのあとになぜラーメンが食べたくなるのか自分でもよくわからないけど、なる。これはもう本能だ。

着丼。豚骨スープに細麺、ネギたっぷり、海苔一枚。シンプルの極地だ。
本格的な豚骨スープ。
日本酒で温まった胃袋に沁みる。
🍜 しぇからしか 東灘店 基本情報
住所|神戸市東灘区甲南町5-2-12 ベルベデール甲南1F
最寄駅|JR神戸線「住吉駅」から徒歩約7〜8分
営業時間|月〜土 11:00〜翌3:00 / 日 12:00〜22:00
定休日|年中無休
公式サイト|shekarashika.com
おわりに
魚崎郷は、神社と酒蔵が同じ町の中に当たり前に共存している、神戸らしい場所だ。
氏神さんに手を合わせて、400年の老舗を覗いて、蔵開きで振る舞い酒をいただいて、もろみの香りに包まれて、住吉川を歩いて、〆にラーメンを食べる。一日でこれだけのことができる。
日本酒が好きな人も、神社が好きな人も、ただ街を歩くのが好きな人も——魚崎郷はどこかで刺さるはずだ。
