【ベトナム・タイ訪問記5日目①】最後の朝餐と記憶の欠片 – ホーチミン最終日、別れの儀式
1.はじめに
旅立ちの朝は、いつも独特の感傷と期待が入り混じった空気が漂う。数日間過ごした街の風景が、もうすぐ過去のものになるという一抹の寂しさ。そして、これから訪れる新しい土地への高揚感。ホーチミンでの最終日である5日目の朝は、まさにそんな感情の交差点から始まった。
この街で過ごした時間は、あまりにも濃密だった。バイクの洪水、歴史の傷跡、未来を映す摩天楼、そして人々の笑顔。それら全てを心に刻み、次の目的地へと向かうために、私は2つ残したことがあった。
ベトナムの代表的なフード。バインミーを食べていないこと。
そして、街中で出くわした「プロパガンダアート」。これが、この国の独特なアイテムだと理解し、そのショップに行こうと思っていたこと。
限られた時間で、GoogleMAPを駆使して、計画を立てた。
さあ、荷物をまとめ、チェックアウトを済ませる前後の短い時間で、ホーチミンとの最後の対話を始めよう。これは、旅立ちの前の、慌ただしくも愛おしい数時間の記録である。
2.タイムライン
2.1.ホーチミン最後の朝餐、バインミーを求めて <06:38~07:19>
ホテルの豪華なビュッフェも魅力的だったが、私の心は決まっていた。この旅の締めくくりに、どうしても食べておきたいものがあったのだ。そう、バインミーだ。私は早朝、Grabに飛び乗り、地元で評判の店「BÁNH MÌ 362」へと向かった。これは、同期のT君が教えてくれた店だ。

店内は、白いタイルと温かみのある木材で統一された、清潔でモダンな空間だった。壁にはモノクロの写真が飾られ、この店の歴史とこだわりを感じさせる。早朝にもかかわらず、テイクアウトを待つ地元の人々で活気に満ちていた。

木製のトレイに乗せられて運ばれてきたのは、紙袋から少し顔をのぞかせた、焼きたてのバインミー。さくさくの香ばしいフランスパンにかぶりつくと、中からジューシーな肉が一体となって口いっぱいに広がる。
だいぶうまい。
これこそがホーチミンの味なのか。
私は、昨日治療した歯を気にしながら、食した。
2.2.記憶の欠片を探しに、そして空港へ <08:26~09:32>
バインミーで心も体も満たされ、私は一度ホテルへ戻った。実は、ホテルの食事もおいしかったので、最後の朝食も食べてしまう。
良いホテルだった。
荷物を最終的にパッキングし、チェックアウトを済ませる。しかし、空港へ向かう前に、もう一つだけ立ち寄りたい場所があった。
再びGrabに乗り、向かったのは、雑多な雑居ビルにひっそりと佇むプロパガンダ・ポスターの専門店だ。

店の壁は、ベトナム戦争時代のものから現代の文化的なものまで、色鮮やかなポスターで埋め尽くされていた。力強いスローガン、独特の色彩と構図。それは単なる印刷物ではなく、この国の歴史とイデオロギーを雄弁に物語るアートだった。私はその中から、この旅の記憶を象徴する3枚を選び出した。これが、私が持ち帰る最後の「記憶の欠片」だ。
名残惜しさを感じながらも、いよいよ空港へと向かう。最後のGrabの車内から見るホーチミンの街並みは、数日前とは少し違って見えた。そして、タンソンニャット国際空港の喧騒の中に身を置く。


出発ロビーは、旅立つ人々と見送る人々の熱気でごった返していた。
2.3.出国の儀式と、次なる空へ <10:37~12:33>
空港での最後の手続きは、免税品のVAT(付加価値税)還付だ。昨日、高島屋で大きな買い物をした私は、その恩恵を受ける権利があった。

「QUẦY HOÀN THUẾ / TAX REFUND COUNTER」のサインを見つけ、手続きを行う。
隣の外国人は、なんだか怪訝そうな顔をしている。そう彼女は、VATの買い物の現物を持っていなかったのだ。VATを戻してもらえず、残念そうな顔をしていた。
いや、昨日の高島屋でのCHATGPTとのやり取りが無かったら、私もそうだったかもしれない。なんとも頼もしいAIツアーコンダクターなのか。
そう思いながら、パスポートと書類を提示し、無事に還付金を受け取る。手にしたわずかな米ドルは、この旅の最後のささやかなボーナスだ。

すべての手続きを終え、私は搭乗ゲートへと向かった。窓の外には、これから私をバンコクへと運んでくれるベトナム航空の機体が待っていた。

白い機体に描かれた金色の蓮のロゴと、加盟する「SKYTEAM」の文字が誇らしげだ。タラップを上がり、自分の席に着く。やがて飛行機は滑走路を離れ、眼下にはホーチミンの街並みが小さくなっていく。

機内で提供された食事のアルミ蓋にも、ベトナム航空の蓮のロゴが刻まれている。さようなら、ホーチミン。ありがとう、ベトナム。私は、この国で得た多くの感動と記憶を胸に、次なる目的地、タイ・バンコクの空へと向かった。
3.旅のまとめ
ホーチミンでの最終日の午前は、単なる移動の時間ではなかった。それは、この街への別れを惜しみ、その神髄を最後の最後まで味わい尽くすための、私なりの「儀式」に満ちた時間だった。街角のバインミーに凝縮された日常の味、プロパガンダ・ポスターに込められた歴史の記憶。それらを手に入れることで、私のベトナムでの体験は、より深く、確かなものになった。
空港での慌ただしい手続きさえも、旅の終わりを彩る重要なプロセスだ。VAT還付という小さな成功体験は、旅の満足感を少しだけ高めてくれる。そして、飛行機の窓から遠ざかる街を眺めるとき、旅人は初めて、自分が訪れた場所の全体像を心の中に描くことができるのかもしれない。ホーチミンは、私に多くの問いと感動を与えてくれた。その答えを探す旅は、まだ始まったばかりだ。
4.補足
GPSデータ(時刻は現地時間)
2025-08-16 06:38:13 | 10.783944, 106.697044 | Bánh Mì 362
2025-08-16 08:54:20 | 10.769161, 106.694381 | プロパガンダ・ポスター店
2025-08-16 09:32:46 | 10.815883, 106.664694 | タンソンニャット国際空港
2025-08-16 10:37:58 | 10.816406, 106.662203 | タンソンニャット国際空港(免税手続きエリア)
ホテル情報: Silverland May Hotelをチェックアウト。
Grab利用情報: Googleタイムラインに基づき、早朝から空港へ向かうまで複数回の利用が記録されている。
航空券情報: ベトナム航空 VN605便にて、11:35にホーチミン(SGN)を出発。
歩数情報: 8月16日(土)の一日の合計歩数は7,491歩。移動が中心だったため、歩数は少なめ。
つづき
