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#45 カスハラ義務化2026年10月、企業が講ずべき措置を社労士が解説

カスハラ(カスタマーハラスメント)対策は、2026年10月1日から全事業主の義務になります。
何を、いつまでに、どこまでやればいいのか。厚生労働省の指針をもとに、人事・総務の実務担当者が今から着手すべき手順を整理しました。

結論:2026年10月1日から義務化。中小企業の猶予期間はありません

まず結論からお伝えします。

改正労働施策総合推進法(正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)が2025年6月4日に成立し、同月11日に公布されました。この改正でカスハラ対策が事業主の雇用管理上の措置義務として位置づけられ、施行日は2026年10月1日です。

ここが重要なのですが、パワハラ防止法(2020年施行)のときにあった「中小企業は2年間努力義務」という猶予措置が、今回は設けられていません
労働者を1人でも雇っていれば、企業規模を問わず10月1日から義務がかかります。BtoBの取引先担当者からの言動も対象ですし、店舗を持たない業種でも無関係ではありません。

そして2026年2月26日、厚生労働省から「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)が告示されました。これで、企業が具体的に何をすべきかがはっきりしました。

残り期間は約2か月。正直、ゼロから完璧な体制をつくるには短いです。ただ、優先順位をつければ十分に間に合います。

そもそも何が「カスハラ」に当たるのか

改正法33条は、カスハラを次のように定義しています。

職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、当該労働者の就業環境が害されること。

指針は「社会通念上許容される範囲を超えたもの」を、大きく2つの軸で説明しています。

軸1:言動の内容が許容範囲を超えるもの

・そもそも要求に理由がない、または商品・サービスと全く関係のない要求(性的な要求、プライバシーに関わる要求など)
・契約等で想定しているサービスを著しく超える要求 ・対応が著しく困難、または不可能な要求(契約金額の著しい減額要求など)
・商品・サービスと無関係な不当な損害賠償要求

軸2:手段や態様が許容範囲を超えるもの

・身体的な攻撃(殴る、蹴る、物を投げつける、つばを吐きかける)
・精神的な攻撃(人格否定、土下座の強要、SNSへの投稿をほのめかす脅し、盗撮・無断撮影、性的指向やジェンダーアイデンティティの暴露)
・威圧的な言動(大声で威圧する、反社会的な言動)
・継続的、執拗な言動(同じ質問の繰り返し、揚げ足取り、同内容メールの連続送信)
・拘束的な言動(長時間の居座り、長時間の電話拘束)

実務上おさえておきたいのは3点です。

ひとつは、これらが限定列挙ではないこと。ここに載っていないから大丈夫、とはなりません。

ふたつめは、SNSなどインターネット上の言動も含まれること。対面の窓口だけを想定した対応マニュアルでは足りません。

みっつめは、正当な申入れはカスハラではないとはっきり書かれていること。ここを混同すると、現場が正当なクレームまで拒絶しかねません。
2022年の厚労省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」にあった「商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合」という例が今回の指針の典型例から外れているのも、正当な申入れとの線引きが容易でないためと考えられます。この点は社内研修で丁寧に説明したいところです。

企業が講ずべき措置は「4本柱+併せて講ずべき措置」

指針が「講じなければならない」としている措置は、次の4つに整理できます。パワハラ防止指針とよく似た構造ですが、4つめはカスハラ固有のものです。

1. 方針の明確化と周知・啓発

カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、周知すること。あわせて、カスハラの内容と対処方法を定め、労働者に周知することが求められます。対応例として、トップメッセージの発信、対応規程やマニュアルの作成、研修の実施が挙げられています。

対処方法の中身としては、
・管理監督者へ直ちに報告して指示を仰ぐ
・可能な限り1人で対応させない
・やり取りを録音・録画する(個人情報保護法等の遵守が前提)
・説明を尽くしてなお要求が続く場合は退店を求めたり電話を切る
・犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する
といった具体例が示されています。

2. 相談・苦情に応じる体制の整備

相談窓口を定めて周知し、担当者が内容や状況に応じて適切に対応できるようにすること。ここでのポイントは、指針が「カスハラ該当性の判断が微妙な場合も含めて、広く対応をすること」と明記している点です。「これはカスハラではないので相談対象外」という運用は認められません。外部機関への委託も対応例として認められています。

3. 事後の迅速かつ適切な対応

事実関係の迅速・正確な確認、被害者への配慮措置、再発防止措置の3点セットです。被害者への配慮としては、管理監督者が代わって対応する、担当者を変更する、被害者と行為者を引き離す(配置転換を含む)、産業保健スタッフによるメンタルヘルス相談につなぐ、といった例が挙げられています。再発防止は、カスハラの事実が確認できなかった場合にも必要に応じて講ずることとされています。

4. 抑止のための措置(カスハラ固有)

これがパワハラ防止指針にはない柱です。過度な要求を繰り返すなど特に悪質な事案への対処方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、その対処を実行できる体制を整える必要があります。警告文の発出、法令の制限内での商品販売・サービス提供の拒否、店舗への出入り禁止、民事保全法に基づく仮処分の申立てなどが例示されています。

併せて講ずべき措置

上記1〜4を講じる際には、相談者等のプライバシー保護(性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報を含む)と、相談等を理由とする不利益取扱いの禁止を定めて周知することが必要です。後者は法33条2項に明記された義務でもあります。就業規則等に規定するのが対応例として示されています。

10月までの準備ロードマップ

残り2か月で全部は難しいので、優先順位をつけます。実務担当者としては、この順番をおすすめします。

ステップ1(8月中):方針の決定と就業規則等の整備

トップメッセージとしての基本方針を1枚にまとめ、就業規則またはハラスメント防止規程に「カスハラ」と「相談等を理由とする不利益取扱いの禁止」を追記します。就業規則を変更したら、労働者代表の意見書を添えて所轄労働基準監督署への届出が必要です(労働基準法89条・90条)。ここは時間がかかるので最優先で。

ステップ2(9月上旬):相談窓口とマニュアルの整備

既存のパワハラ・セクハラ相談窓口にカスハラを追加するのが、いちばん現実的です。窓口をゼロからつくる必要はありません。あわせて、現場対応マニュアル(誰に報告し、どの段階で管理監督者が交代し、どこから警察・弁護士に相談するか)と、悪質事案への対処方針を文書化します。

ステップ3(9月下旬):周知と研修

社内掲示・社内報・イントラで方針を周知し、少なくとも管理監督者向けには研修を実施します。全社員一斉が難しければ、まず窓口担当者と管理職から。研修記録は残しておいてください。行政から報告を求められた際の証跡になります。

なお、罰則についてよく質問を受けますが、措置義務違反そのものに刑事罰はありません。ただし厚生労働大臣(実務上は都道府県労働局長)による報告徴求、助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名の公表があり得ます。報告をしなかった場合や虚偽の報告をした場合には過料の定めもあります。金銭的な罰以上に、公表による採用・取引への影響のほうが実質的なダメージは大きいでしょう。

ちなみに、2026年10月1日には求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止に関する指針も同時に施行されます。採用面接の場面も対象になりますので、こちらもあわせて確認しておくと安心です。

まとめ:完璧を目指さず、まず「形」をつくる

10月1日までに、方針・規程・窓口・マニュアル・研修という「形」だけは揃えておく。運用の精度は、施行後に事例を積み上げながら上げていけばいいと思います。指針自体も、労働者や労働組合の参画を得て運用状況を把握し必要な見直しをすることを望ましい取組として挙げていますから、最初から完成形である必要はありません。

個人的には、この改正でいちばん意味があるのは「会社が従業員を守る」と明文で宣言することだと思っています。現場の従業員が理不尽な要求に一人で耐える構図を、会社の方針で断ち切る。制度を整える作業の先にそういう目的があることは、担当者として忘れずにいたいところです。

準備が遅れていても、今から動けば間に合います。まずは方針を1枚書くところからで大丈夫です。





※本記事は社会保険労務士の視点から一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的判断を示すものではありません。具体的なケースについては、社労士や弁護士等の専門家にご相談ください。
※記事中の法令・制度情報は2026年7月時点の情報に基づいています。内容には十分注意しておりますが、正確性を保証するものではありません。最新の情報は厚生労働省のウェブサイト等でご確認ください。

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