なまこをはじめて食べたヒトは勇気がいっただろうな
はじめに
まかないつきの下宿でははじめて口にする食べものがいくつかあった。はじめての冬をむかえて、下宿のいつもの食卓にはなにかの小皿がついていた。
ここでのくらしは、もうすこし北のわたしの実家とは食材が異なる。うちでは出ない食べ物をいくつかはじめてチャレンジすることがけっこうあった。そんなひとつに出会った経験を。
きょうはそんな話。
まかない
わたしの学生生活は、まかないつきの下宿ではじまった。長男のはじめてのひとりぐらしということで親が知り合いのつてを頼りに選んだ。それで大家さんが朝晩2食を一手に作っていた。それから6年ほどお世話になった。
ここでは食事の準備ができると呼ばれて食卓を店子たちで囲んで「正座」して食べる。大学で実験が夜まで伸びるときは、いったん下宿にもどり食事を済ませて実験室へ引き返す。
大家さんはようやく準備を終えて、たばこをふかしつつ横目でテレビを見つつわたしたちの食事のようすを見ていた。どこかで聞いた「お残しは許しませんよ。」の声が聞こえてきそうな状況。基本的に静かに黙々と箸を運んだ。
息子たち
そんな大家さんのモットーは「息子たち」をまかないで腹いっぱいにすること。店子のわたしたちをいつも「息子たち」とわが子を見るように接していただけた。つねにごはんはどんぶりで山盛り、おかずと汁物でつねに2~3品で、こちらも基本的に山盛り。どれもおいしくひと目で手をかけていただいているとわかるほど。
4年生の頃だったか。わたしの同級生の友人のひとりはアパート暮らし。ちょくちょく訪れていたので大家さんとも顔見知り。そこで夕食がカレーの日はあらかじめ朝食のときに、わたしの耳もとで大家さんが「きょうはカレーだからいつもの彼を連れてきていいよ。」とささやいた。
すかさず夕食時にはそんな彼が申し訳なさそうに訪れ、カレーをほおばった。彼はいつも食べっぷりが良かったので、ことのほかモットーを忠実に実践してくれる彼のようすに大家さんは喜んでくれた。彼とは大学院までいっしょで、以前に記事に登場した個性派。
今の時季は
ちょうどいまごろのおかずは筍。筍づくしの日や週間は覚悟が必要だった。筍ごはんに、筍入りの味噌汁。スライスして酢味噌で食べることも。下宿で必要だろうと各所から集まるらしい。それを次から次へと料理していく。
筍を中心とした山盛りの煮物に、筍の天ぷらなどなど。たしか煮物にはサンショの葉が添えられていた。数日間ほど筍料理が山盛りで出た。筍は量がかさむ。日ごろから胃腸が弱く少食ぎみのわたしは、最初のうちはようやく完食しつつ、パンパンの腹をかかえて這うように2階の部屋へ階段をよじ登っていたぐらい。
そんなわたしを心配して、よくみずから採集されたキランソウを煎じて飲むようにすすめていただけた。苦い煎じ薬だった。
海藻?
そんななか、ある日の夕食で見慣れぬものが出た。海藻かな、褐色のようでところどころ青っぽく、もう一方は白い。スライスのようだが、ところどころにぼつぼつと突起があるような⋯。あきらかに生の海産物のようだが初めて見るのでわたしは尋ねた。帰ってきた答えはなまこ。
へえ~これがなまこか~とたいていはじめての食物は息を止めてそのまま丸のみしがちなわたしはそのときもそのとおりにした。何とも形容しがたいがあきらかにこれまで食べた海産物の要素をもち、多少カリコリしている。そのまま飲み込むのに支障ないほどに包丁を入れてくださっている。まあなんとかなるかと思った。おそらくのどごしを楽しむタイプの食物かもしれない。
おわりに
年に1度か2度あるかないかのなまこの登場だった。それにしてもはじめて食べたヒトは勇気があったな。この生き物を食べようと思うなんて⋯。納豆以上にトライしようと思った状況はどんなだったのだろうと想像した。
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