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復職直後の社員は、回復しているのに揺れている。うつ病からの職場復帰で見落とされやすい「感情の再接続期」。

「もう復職したんだから、大丈夫なんだよね」

職場は、ついそう思ってしまう。

主治医から復職可能の診断が出た。
本人も戻りたいと言っている。
人事面談も終わった。
勤務時間や業務量の調整も決めた。

だから、あとは少しずつ慣れていけばいい。

もちろん、その理解は大きく間違ってはいない。

でも、復職直後の本人の内側では、職場から見えにくいことが起きている。

安堵している。
焦っている。
申し訳なさを抱えている。
前のように働けない自分に落ち込んでいる。
周囲の配慮に感謝しながら、その配慮に傷ついてもいる。
少し元気になった瞬間に、遅れを取り戻そうとしてしまう。
そして、思ったより働けない自分にまた落ち込む。

この揺れを、単に「まだ不安定」と見ると、復職支援は粗くなる。

私はこれを、感情の再接続期と呼びたい。

復職とは、会社に戻ることだけではない。

仕事をする自分。
周囲から見られる自分。
以前のように働けない自分。
これから回復していく自分。

それらを、本人がもう一度つなぎ直していく時期である。

だから復職直後には、感情が揺れる。

それは必ずしも悪化のサインではない。

ただし、放っておいてよいサインでもない。



復職は「出社できるようになった日」では終わらない

厚生労働省の職場復帰支援の考え方では、メンタルヘルス不調による休業からの復帰は、休業中のケア、主治医による職場復帰可能の判断、職場復帰の可否判断と支援プラン作成、最終的な復帰決定、復帰後フォローアップという流れで整理されている。

ここで大切なのは、復職が「出社できるかどうか」だけで判断されていないことだ。

主治医が復職可能と判断しても、それがそのまま、職場で求められる業務遂行能力まで回復しているという意味になるとは限らない。

実際には、本人の状態、業務内容、勤務時間、通勤負荷、職場環境、上司や同僚との関係、産業医や人事の見立てを合わせて確認する必要がある。

つまり、復職は点ではない。

復職は、段階である。

戻る前から始まり、戻った後もしばらく続く。

この理解がないと、職場は復職初日をゴールにしてしまう。

しかし、本人にとっては、復職初日こそが新しい緊張の始まりになる。

「ちゃんと戻れた」と安心する一方で、

「また迷惑をかけたらどうしよう」
「前みたいに働けないと思われたくない」
「配慮されすぎるのもつらい」
「でも、本当はまだ自信がない」

という感情が同時に動く。

復職後の支援で見るべきなのは、勤務できているかだけではない。

本人が、仕事と自分をもう一度つなぎ直せているかである。


復職後の感情サイクル


うつ病から職場復帰した社員の感情は、一直線には回復しない。

もちろん個人差は大きい。

すべての人が同じ順番で経験するわけではないし、医学的な診断を職場が決めるべきでもない。

ただ、実務で見ておきたい典型的な揺れはある。

一つ目は、安堵である。

戻れた。
席があった。
声をかけてもらえた。
受け入れてもらえた。

復職直後には、こうした安堵がある。

この時期の本人は、職場から見ると落ち着いて見えることがある。

しかし、安堵は必ずしも安定と同じではない。

久しぶりの出社、通勤、人との会話、メール、会議、ちょっとした雑談。その一つひとつが、本人にはかなりの刺激になっていることがある。

二つ目は、焦りである。

復職後しばらくすると、多くの人は「早く元に戻らなければ」と思いやすい。

休んでいた分を取り戻したい。
迷惑をかけた分、役に立ちたい。
以前の評価を失いたくない。
弱い人だと思われたくない。

この焦りは、前向きな意欲に見えることがある。

本人も「大丈夫です」「できます」と言う。

しかし、焦りに押された頑張りは、回復のペースを超えやすい。

残業を増やす。
休憩を減らす。
相談せずに抱える。
配慮を早く外そうとする。

職場から見ると頼もしく見えるが、実は再び消耗をためている場合がある。

三つ目は、罪悪感である。

自分が休んだことで、誰かに負担がかかった。
チームに迷惑をかけた。
上司に調整させた。
同僚が自分の仕事を引き受けてくれた。

その記憶は、本人の中に残る。

周囲が「気にしなくていいよ」と言っても、本人が気にしなくなるとは限らない。

罪悪感が強いと、人は必要な配慮を申し出にくくなる。

「また迷惑をかけるのではないか」と思うからだ。

この状態で、上司が「何かあったら言ってね」とだけ伝えても、本人は言えないことがある。

言える状態をつくるには、聞き方とタイミングがいる。

四つ目は、怒りである。

ここが、職場で特に見落とされやすい。

復職者が怒りっぽく見える。
周囲の言葉に過敏に反応する。
配慮されているのに不満そうに見える。
少しの変更に強く反発する。

すると職場は戸惑う。

「せっかく配慮しているのに」
「まだ無理だったのでは」
「本人の受け止め方が難しい」

そう感じることもある。

ただ、復職後の怒りは、単なるわがままとは限らない。

怒りの奥には、別の感情が隠れていることがある。

焦り。
不安。
恥ずかしさ。
自尊心の揺らぎ。
置いていかれる怖さ。
自分だけが特別扱いされる苦しさ。
以前の自分を失ったような感覚。

人は、自分が弱っていることをそのまま言えない時、怒りの形で自分を守ることがある。

だから、怒りが出た時に必要なのは、怒りを正当化することではない。

怒りの裏にある不安や焦りを、業務上の調整に変換することである。

五つ目は、落ち込みである。

復職してしばらくすると、本人は現実にぶつかる。

思ったより疲れる。
集中力が戻らない。
人の会話についていけない。
以前なら簡単だった仕事に時間がかかる。
一日働いただけで、翌日に強い疲労が残る。

ここで本人は、「やっぱり自分は戻れていない」と感じやすい。

この落ち込みは、復職失敗の証拠ではない。

むしろ、回復途中の現実を知る過程でもある。

ただし、この時期に職場が「もう戻ったのだから」と通常モードに急ぐと、本人は言えなくなる。

言えなくなると、調整できない。

調整できないと、再び崩れやすくなる。

六つ目は、再接続である。

少しずつ、自分のペースが見えてくる。

どの仕事なら今できるのか。
どの時間帯に疲れやすいのか。
どの会議は負荷が高いのか。
どの人とのやり取りで緊張するのか。
どの休憩の取り方なら回復しやすいのか。

こうした情報が集まってくると、本人も職場も、復職後の働き方を現実的に組み立てられるようになる。

ここで初めて、復職は「戻る」から「続ける」に変わる。


周囲の配慮で大事なのは、やさしさよりも予測可能性である

復職者への対応というと、周囲は「どう声をかければいいのか」「どこまで配慮すればいいのか」と悩む。

もちろん、やさしさは大切だ。

しかし、復職直後に本当に効くのは、やさしさだけではない。

予測可能性である。

今日は何をすればよいのか。
どこまでやれば十分なのか。
困った時は誰に言えばよいのか。
どの負荷は避けるのか。
いつ見直すのか。
配慮はいつまで続くのか。
何ができたら次の段階に進むのか。

これが曖昧だと、本人は自分で空気を読み続けることになる。

「本当はもっと働くべきなのでは」
「この配慮はいつまで許されるのか」
「周囲はどう思っているのか」
「断ったら、また評価が下がるのでは」

この空気読みは、かなり消耗する。

だから、配慮は「なんとなく軽くする」よりも、具体化した方がよい。

たとえば、復職後1か月は残業を行わない。

最初の2週間は会議参加を必要最小限にする。

判断の重い業務は、上司と確認してから担当する。

相談先は直属上司と人事のどちらかに限定する。

週1回、短い面談で負荷を確認する。

1か月後に、本人、上司、人事、必要に応じて産業保健スタッフで見直す。

こうした具体化は、本人を甘やかすためではない。

本人が余計な不安を抱えず、回復と業務に集中できるようにするためである。


やってはいけない対応

復職支援で注意したいのは、善意が逆効果になることだ。

一つ目は、いきなり戦力として期待しすぎることである。

「戻ってきてくれて助かった」
「これで少し任せられる」
「無理しない範囲でお願い」

こうした言葉は、一見あたたかい。

しかし、本人には「早く役に立たなければ」という圧力として届くことがある。

復職直後は、期待を伝えるより、今の役割と負荷を明確にする方がよい。

二つ目は、腫れ物扱いすることである。

何も任せない。
声をかけない。
重要な情報から外す。
本人の前だけ妙に静かにする。

これも配慮に見えて、本人には孤立として届くことがある。

大事なのは、仕事から切り離すことではない。

今できる仕事に、安全に接続することである。

三つ目は、病名や事情を広く共有することである。

「みんなで支えよう」と思って、病名や詳しい経緯を職場に共有してしまう。

これは本人の安心を壊すことがある。

職場に共有すべきなのは、原則として業務上必要な配慮や連絡事項である。

健康情報は、誰が、何の目的で、どこまで扱うのかを明確にし、必要最小限にする必要がある。

四つ目は、本人の“大丈夫です”をそのまま信じすぎることである。

復職直後の本人は、大丈夫と言いたい。

迷惑をかけたくない。
弱く見られたくない。
早く元に戻りたい。

だからこそ、上司や人事は「大丈夫か」だけで聞かない方がよい。

「今週、疲労が残った日はありましたか」
「会議の後、どのくらい回復に時間がかかりましたか」
「今の業務量を10とすると、体感では何くらいですか」
「来週も同じペースで続けられそうですか」

状態ではなく、具体的な負荷を聞く。

これだけで、本人は話しやすくなる。

五つ目は、配慮を固定化することである。

配慮は、最初に決めて終わりではない。

回復の状態も、仕事の負荷も、職場の状況も変わる。

だから、配慮には見直し時期が必要である。

配慮を外すためではない。

本人と職場の現実に合わせて、働き方を調整し続けるためである。


怒りが出た時、職場は何を見るべきか

復職後の怒りは、扱いが難しい。

周囲にも感情がある。

配慮しているのに強く言われると、上司や同僚も傷つく。

そのため、怒りが出た時は、まず境界線を引く必要がある。

攻撃的な言動やハラスメント的な言動まで容認する必要はない。

ただし、境界線を引くことと、本人を切り捨てることは違う。

見るべきなのは、怒りの下にある実務上の未調整である。

本人は、何に追い詰められているのか。

どの業務が重すぎるのか。

どのコミュニケーションが曖昧なのか。

どの配慮が、本人の自尊心を傷つけているのか。

どの期待が、暗黙の圧力になっているのか。

どの情報共有が、本人の安心を損ねているのか。

怒りを人格の問題にしてしまうと、職場は何も調整できない。

怒りを調整課題として見ると、次に確認すべきことが見えてくる。

「何に困っていますか」だけではなく、

「今の業務量で、どこが一番負荷になっていますか」

「こちらの配慮で、逆にやりづらくなっていることはありますか」

「周囲に知られたくないこと、共有してよいことを整理しましょう」

「次の1週間だけ、何を減らすと続けやすくなりますか」

こう聞くと、怒りは少しずつ言葉になる。

言葉になれば、調整できる。


人事と上司が分けて持つべき役割

復職支援では、上司が全部抱え込むと危ない。

本人の状態を気にする。
業務を調整する。
チームに説明する。
成果も見なければならない。
周囲の不満にも対応する。

これを上司だけで担うと、支援する側も疲弊する。

役割を分けた方がよい。

上司は、日々の業務負荷と職場での変化を見る。

人事は、制度、勤務条件、情報管理、記録、関係者調整を見る。

産業医や産業保健スタッフは、就業上の措置について専門的な意見を出す。

主治医は、治療上の見立てを持つ。

本人は、自分の状態、困りごと、できること、できないことを伝える。

この役割分担が曖昧だと、本人から見ると「誰に何を言えばよいのか」がわからなくなる。

支援者が多いほど、本人は安心するとは限らない。

支援者が多いほど、情報の流れが複雑になり、不安が増えることもある。

だから、復職支援では、支援者を増やす前に、窓口を決める。

誰に相談するのか。
誰が判断するのか。
誰が記録するのか。
誰にどこまで共有するのか。
いつ見直すのか。

ここが決まっているだけで、本人も上司もかなり楽になる。


明日確認したいこと

復職支援で明日から確認したいのは、難しい理論ではない。

復職後の働き方が、本人の感情の揺れを前提に設計されているかである。

復職初日をゴールにしていないか。

主治医の復職可能判断だけで、通常業務に戻していないか。

産業医や産業保健スタッフの意見を確認できる体制があるか。

復職後の業務量、勤務時間、残業、会議参加、判断負荷を具体的に決めているか。

配慮の期間と見直し時期を決めているか。

本人の健康情報を、必要最小限の範囲で扱っているか。

上司が一人で抱え込まないよう、人事や産業保健スタッフとの連携があるか。

本人に「大丈夫か」ではなく、「どの負荷が残っているか」を聞けているか。

焦りや怒りを、単なる性格や態度の問題として処理していないか。

同僚への説明が、本人の同意と業務上必要な範囲に収まっているか。

周囲の負担や不公平感も、人事が拾えているか。

復職支援は、本人だけの支援ではない。

本人、上司、同僚、人事、産業保健を含む、職場全体の調整である。


最後に

うつ病から職場復帰した社員は、回復している。

しかし、回復しているからこそ、揺れる。

戻れた安堵がある。
早く取り戻したい焦りがある。
迷惑をかけた罪悪感がある。
配慮されることへの複雑さがある。
以前の自分との差に落ち込むことがある。
そして、その苦しさが怒りとして出ることもある。

この感情を、職場がすべて受け止める必要はない。

けれど、見なかったことにしてはいけない。

復職支援とは、本人を特別扱いすることではない。

本人がもう一度、仕事と自分を安全につなぎ直せるようにすることである。

職場が見るべきなのは、「もう治ったか」ではない。

「続けられる形に、仕事を組み直せているか」である。

復職は、戻ることでは終わらない。

戻った後に、揺れながら続けられる形を一緒につくること。

そこまで含めて、職場復帰支援なのだと思う。


実務上の注意

この原稿は、人事・労務・管理職向けに、職場復帰支援の見方を整理したものです。医学的判断や個別事案の法的判断を代替するものではありません。

うつ病やその他のメンタルヘルス不調からの復職判断、就業上の措置、配慮内容は、本人の同意、主治医の意見、産業医等の専門的意見、就業規則、職場の業務内容を踏まえて個別に確認する必要があります。

攻撃的な言動、ハラスメント、業務遂行上の重大な問題がある場合は、本人の健康状態への配慮と、職場秩序・周囲の安全への対応を分けて検討することが重要です。

根拠・確認メモ

厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、職場復帰を、病気休業開始・休業中のケア、主治医による職場復帰可能の判断、職場復帰の可否判断と支援プラン作成、最終的な復帰決定、職場復帰後のフォローアップという流れで整理している。

同手引きでは、職場復帰支援プログラムや関連規程を整備し、休業から通常業務への復帰までの流れを明確にすること、主治医判断だけでなく業務遂行能力や勤務制度等を踏まえて復帰可否を検討すること、復帰後もフォローアップを行うことが重要とされている。

こころの耳の職場復帰支援関連コンテンツでも、主治医と産業医の意見をもとに、管理監督者、人事労務担当者、産業保健スタッフなどが職場環境、作業内容、作業時間、健康面のケアを総合的に支援する考え方が示されている。

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