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優秀な人を集めても、チームが機能しない理由

チームには、なぜか自然に役割が生まれる。

誰かが前に出る。

誰かが場を整える。

誰かが細部を詰める。

誰かが反対意見を言う。

誰かが空気を明るくする。

誰かが黙ってついていく。

そして、誰かがずっと不満を言っている。

不思議なのは、こうした役割が、正式な職務分掌とは別に発生することだ。

役職ではない。

肩書でもない。

人事制度上の役割でもない。

それでも、チームの中ではたしかに「この人はいつもこういう動きをする」という配置ができていく。

だから、チームがうまくいかない時、私たちはすぐに人を見てしまう。

あの人はリーダーシップが弱い。

あの人は協調性がない。

あの人は主体性がない。

あの人は批判ばかりする。

あの人は受け身だ。

でも、本当に見るべきものは、人の性格ではないのかもしれない。

チームの中で、どんな役割行動が発生し、どの役割が足りず、どの役割が一人に集中し、どの役割が影のように残っているのか。

そこを見た方が、チームはずっと立体的に見える。

私はこれを、チーム役割の生態系と呼びたい。

チームは、人の集合ではない。

役割行動が発生し、偏り、補い合い、ときに固定化し、ときに影を落とす生態系である。



チーム役割は、性格ではなく行動である

チーム役割を考える時、最初に外したい誤解がある。

それは、役割を「その人の性格」として見てしまうことだ。

この人はリーダータイプ。

この人はサポートタイプ。

この人は批判タイプ。

この人はフォロワータイプ。

こうした見方はわかりやすい。

しかし、わかりやすいぶん危ない。

なぜなら、役割を性格にしてしまうと、チームの構造が見えなくなるからだ。

ある人がいつも批判しているのは、その人が批判的な性格だからとは限らない。

誰も検証しないチームだから、その人が批判者になっているのかもしれない。

ある人がいつも調整しているのは、その人が世話好きだからとは限らない。

誰も間をつながないチームだから、その人が調整役を引き受け続けているのかもしれない。

ある人がいつも黙っているのは、その人が主体性に欠けるからとは限らない。

発言の余白がないチームだから、沈黙の役割に押し込まれているのかもしれない。

役割は、人の中に固定されているものではない。

チームの中で、状況に応じて生まれる行動である。

ここを間違えると、チーム開発はすぐ人格評価になる。

しかし、役割を行動として見ると、問いが変わる。

「誰が悪いのか」ではなく、

「このチームでは、どの役割行動が過剰なのか」

「どの役割行動が不足しているのか」

「誰が同じ役割を背負い続けているのか」

と見られるようになる。


3つの軸で見ると、チームは急に見えやすくなる

Driskellらの論文 Team Roles: A Review and Integration は、チーム役割研究に出てきた多数の役割を整理し、背後にある三つの行動次元を示している。

一つ目は、Dominance である。

場を動かす力である。

主導する。

方向を示す。

影響を与える。

決める。

議論を前に押し出す。

この力が弱いと、チームは漂う。

一方で強すぎると、他の人の余白を奪う。

二つ目は、Sociability である。

人と人をつなぐ力である。

緊張をやわらげる。

対立をなめらかにする。

孤立した人を拾う。

話しやすい空気をつくる。

この力が弱いと、チームは冷える。

一方で強すぎると、踏み込むべき対立まで避ける。

三つ目は、Task Orientation である。

課題に向かう力である。

論点を整理する。

手順を詰める。

成果物に落とす。

期限を守る。

問題を解く。

この力が弱いと、話しているのに進まない。

一方で強すぎると、人の感情や関係が置き去りになる。

この三つの軸で見ると、チームの状態を一言で片づけなくて済む。

「主体性がない」ではなく、Dominanceが弱いのかもしれない。

「仲が悪い」ではなく、Sociabilityが不足しているのかもしれない。

「成果が出ない」ではなく、Task Orientationが足りないのかもしれない。

あるいは、どれかが強すぎて、別の軸を押しつぶしているのかもしれない。


13の役割は、チームの地図になる

この論文の面白いところは、154種類に及ぶチーム役割の記述を整理し、13の役割クラスターとして捉え直した点にある。

13という数は少なくない。

でも、チームを見る地図としてはちょうどよい。

人を分類するためではない。

チームの中でどんな行動が起きているかを観察するためである。

まず、前に進める役割がある。

チームリーダーは、方向を示し、チームを組織化する。

タスクモチベーターは、動き出す力をつくる。

コーディネーターは、人や活動をつなぎ、連携を促す。

チームワークサポーターは、計画を支え、チームの成功を下から支える。

評価者は、事実や数字を見て、判断の質を上げる。

問題解決者は、情報を集め、アイデアを出し、詰まったところをほどく。

タスク完遂者は、細部や手順を守り、最後までやり切る。

次に、人と関係を保つ役割がある。

ソーシャルは、場の調和を保ち、対立を和らげ、精神的な支えになる。

フォロワーは、聞き役となり、協力し、チームの動きを支える。

そして、影の役割もある。

権力志向は、場を支配しようとする。

批判者は、あら探しや反対として現れることがある。

アテンション・シーカーは、責任よりも注目を求める。

ネガティブは、不満や無気力としてチームの士気を下げる。

ここで大事なのは、最後の四つを単に「悪い人」と見ないことだ。

たしかに、これらはチームを傷つけることがある。

しかし、影の役割は、チームが見落としているものを知らせている場合もある。

権力志向が出る時、正式な意思決定が曖昧なのかもしれない。

批判者が出る時、検証されていないリスクが残っているのかもしれない。

注目を求める行動が出る時、承認や貢献の回路が偏っているのかもしれない。

ネガティブな声が出る時、言語化されない疲労や諦めがたまっているのかもしれない。

影の役割を正当化する必要はない。

ただし、影をなかったことにすると、チームの現実も見えなくなる。


「良い役割」だけでチームはできていない

チームビルディングでは、どうしても明るい役割が好まれる。

リーダー。

サポーター。

ムードメーカー。

問題解決者。

完遂者。

たしかに、これらはわかりやすく価値がある。

しかし、チームの現実はそれだけではない。

人は疲れる。

不満を持つ。

承認を求める。

権力を欲しがる。

正しさで相手を刺す。

黙って抵抗する。

だから、チームを本当に見るなら、光の役割だけでは足りない。

影の役割も見る必要がある。

むしろ、影の役割をどう扱っているかに、そのチームの成熟度が出る。

批判者を黙らせるだけのチームは、リスクを見失う。

ネガティブを排除するだけのチームは、疲労のサインを見落とす。

注目を求める人を笑うだけのチームは、承認の偏りを見ない。

権力志向の人を個人の問題にするだけのチームは、権限設計の曖昧さを見ない。

もちろん、破壊的な言動を放置してよいわけではない。

人格攻撃、威圧、ハラスメント、責任回避は線を引く必要がある。

ただ、線を引いたうえで、その行動がなぜ発生しているのかを見る。

ここに、チーム開発の入口がある。


役割の偏りは、静かにチームを壊す

チームの不調は、大きな事件として起きるとは限らない。

多くの場合、役割の偏りとして静かに進む。

リーダー役が一人に集中する。

その人がいないと決まらない。

調整役が一人に集中する。

その人がいないと関係が荒れる。

完遂役が一人に集中する。

その人がいないと最後の品質が落ちる。

批判役が一人に固定される。

その人はいつも空気を悪くする人として扱われる。

フォロワー役が固定される。

その人は意見を持たない人として扱われる。

こうして、役割は少しずつ人に貼りつく。

最初はチームに必要だった行動が、いつの間にかその人のラベルになる。

そしてラベルになった瞬間、役割は柔軟性を失う。

いつも決める人は、迷えなくなる。

いつも支える人は、助けを求めにくくなる。

いつも批判する人は、賛成しにくくなる。

いつも黙る人は、最初に発言しにくくなる。

チームが硬くなるとは、役割が固定されることでもある。

だから、チーム開発で見るべきなのは、誰が何タイプかではない。

その人が、別の役割を試せる余白があるかである。


チーム診断は、性格診断ではなく役割診断にする

この13の役割は、性格診断として使うと危ない。

「あなたは批判者です」

「あなたはネガティブです」

「あなたはフォロワーです」

こう言われれば、人は防衛的になる。

ラベルは、便利だが人を閉じ込める。

だから、使い方を変える。

人に貼るのではなく、チームに置く。

このチームでは、いまどの役割が出ているか。

どの役割が足りないか。

どの役割が過剰か。

どの役割が一人に集中しているか。

どの役割が嫌われ、どの役割が過剰に称賛されているか。

この問いで使う。

たとえば、会議を振り返る。

今日の会議では、誰が方向を示したか。

誰が論点を評価したか。

誰が完遂に向けて具体化したか。

誰が関係をつないだか。

誰が反対意見を出したか。

誰が黙っていたか。

誰が過剰に注目を集めたか。

誰の不満が、単なる文句として処理されたか。

こう見ると、会議は発言量ではなく、役割行動の分布として見えてくる。

これができると、チームの振り返りはかなり具体的になる。


人事・管理職が見落としやすい役割

人事や管理職が見落としやすいのは、見えにくい貢献である。

目立つ人は評価されやすい。

方向を示す人。

成果を出す人。

発言が多い人。

問題を解く人。

こうした役割は見えやすい。

一方で、チームを支えているが見えにくい役割がある。

話しにくい人の表情に気づく人。

対立の言葉をやわらげる人。

会議後に抜け漏れを拾う人。

誰もやりたがらない調整をする人。

反対意見を言うことで、失敗を未然に防ぐ人。

このような役割は、成果物として残りにくい。

だから、評価されにくい。

しかし、この見えにくい役割がなくなると、チームは一気に荒れる。

ここに、人事制度やマネジメントの難しさがある。

個人の成果だけを見ると、チームの役割行動が見えない。

行動評価を入れても、目立つ行動だけを見ると、支える役割が消える。

本当に見るべきなのは、成果を出した人だけではない。

成果が出るように、どの役割行動が場に供給されていたかである。


明日から見る問い

チームがうまくいかない時、すぐに「意識」の話にしない。

まず、役割行動を見る。

このチームでは、誰が場を動かしているか。

誰が人と人をつないでいるか。

誰が課題を完遂に向けて運んでいるか。

誰が事実や数字で評価しているか。

誰が問題解決のアイデアを出しているか。

誰が細部を最後まで拾っているか。

誰が聞き役になっているか。

誰が批判役を担っているか。

誰が不満や無気力を表しているか。

誰が注目を求めているか。

誰の役割が一人に集中しているか。

誰の貢献が見えないまま使われているか。

このチームで足りない役割は何か。

このチームで過剰になっている役割は何か。

このチームで、別の役割を試せる余白はあるか。

この問いを持つだけで、チームの見え方は変わる。

チーム不全は、個人の欠陥ではなく、役割行動の配置不全として見えてくる。


チーム役割の結論

優秀な人を集めても、チームが機能しないことがある。

それは、人が足りないからではないかもしれない。

役割が足りないのかもしれない。

あるいは、役割が偏っているのかもしれない。

あるいは、役割が固定されすぎているのかもしれない。

チームには、光の役割がある。

方向を示す。

支える。

解く。

完遂する。

つなぐ。

チームには、影の役割もある。

支配する。

批判する。

注目を求める。

不満を表す。

そのどちらも含めて、チームである。

大切なのは、影を放置することではない。

影を人格として切り捨てず、役割行動として読み解くことだ。

誰が悪いのかではなく、何がこのチームで発生しているのか。

どの役割が必要で、どの役割が過剰で、どの役割が見えなくなっているのか。

そう見ると、チームは少しだけ扱えるものになる。

チームとは、人の集まりではない。

役割行動の生態系である。

そしてチーム開発とは、その生態系に、必要な役割が循環する余白をつくることなのだと思う。


根拠・確認メモ

この原稿は、Tripp Driskell、James E. Driskell、C. Shawn Burke、Eduardo Salasによる論文 Team Roles: A Review and Integration と、紀藤康行氏による紹介記事「『チームの役割』を統合したら13の役割になりました ーライス大学らの研究ー」を参考に、HR実務・チーム開発向けに再構成した。

原著論文は、Small Group Research 48巻4号、482-511頁に掲載され、2017年6月14日にオンライン公開、2017年8月号に掲載された。DOIは 10.1177/1046496417711529。

原著論文では、過去研究で示されてきた154種類のチーム役割を整理し、チーム役割行動の基礎にある三つの次元として、Dominance、Sociability、Task Orientationを提示している。また、13の主要なチーム役割クラスターを識別している。

紀藤氏の記事では、13の役割をポジティブ・タスク遂行、社会・対人関係、ネガティブ・阻害要因に分け、チーム診断や人材配置、ネガティブ役割のマネジメント、クロストレーニングへの応用可能性が紹介されている。

本文では、これらをもとに、チームを「性格タイプの集合」ではなく「役割行動の生態系」として見る実務視点へ展開した。

出典:


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