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採用は、求人票を書く前にかなり決まっている。

なぜなら、求人票に書かれる言葉は、採用依頼の時点で決まっているからである。

現場から「人が足りない」と言われる。
「いい人を採りたい」と言われる。
「経験者がほしい」と言われる。
「なるべく早く」と言われる。

この時、人事がすぐ求人票を書き始めると、採用は少し危うくなる。

人が足りないのは事実かもしれない。
しかし、足りないのは人数なのか。
役割なのか。
経験なのか。
判断力なのか。
育成時間なのか。
管理職の余力なのか。

そこを分けないまま採用を始めると、
採用活動は「現場の困りごとを求人票に翻訳する作業」になってしまう。

採用依頼ミーティングは、現場を詰めるための場ではない。

採用すべき理由を、仕事、配置、育成、評価、定着に接続し直す場である。

勘違いしやすいところとして、あくまでも
採用は、経営管理の入り口だということ。
現場の困りごとを解決することが目的ではない。

採用担当者は、単に数字を追うのではなく
人事管理の一端を担っているということを
よく理解し、誇りを持って取り組んでほしい。


まず、何が起きているのか

採用がうまくいかない会社では、求人票の前にズレていることが多い。

たとえば、現場は「即戦力がほしい」と言う。
しかし、実際に聞いてみると、欲しいのは即戦力ではなく、教育に手がかからない人だったりする。

現場は「コミュニケーション力が高い人」と言う。
しかし、具体的には、顧客折衝ができる人なのか、社内調整ができる人なのか、報連相が早い人なのか、クレームを受け止められる人なのかが分かれていない。

現場は「若くて伸びる人」と言う。
しかし、伸ばすための仕事、フィードバック、受け入れ担当、評価基準が決まっていない。

この状態で採用を始めると、候補者を見る目が揃わない。
面接官ごとに評価が変わる。
求人票は抽象的になる。

入社後に「思っていた人と違う」が起きる。

採用実務の最初の仕事は、候補者を探すことではない。

現場が欲しいと言っている人材像を、実際の仕事に戻すことである。


このテーマで見るべき構造

採用依頼ミーティングで見るべき構造は三つある。

一つ目は、採用理由である。
なぜ採用するのか。
欠員補充なのか、増員なのか、管理職負荷の軽減なのか、新しい仕事への対応なのか。

ここが曖昧だと、採用の優先順位が決まらない。

欠員補充なら、前任者の仕事をそのまま引き継ぐのか、役割を組み替えるのかを見なければならない。
増員なら、何の業務量が増えているのかを見なければならない。
新規事業なら、既存組織にない経験や判断が何かを見なければならない。

二つ目は、入社後の仕事である。
職種名ではなく、実際に任せる仕事を見る。

営業。
人事。
経理。
エンジニア。
事務。

この言葉だけでは採用要件にならない。

誰に対して、何を行い、どの成果物を出し、どの関係者と調整し、どの判断を任せるのか。
ここまで落とす必要がある。

三つ目は、受け入れ条件である。
採用できたとして、その人を育て、活かし、評価できる状態があるかを見る。

受け入れ担当はいるか。
最初の30日で任せる仕事は決まっているか。
質問できる相手はいるか。
評価する観点は決まっているか。
既存メンバーとの役割の重なりは整理されているか。

採用は、入社前だけの仕事ではない。

採用時点で決めなかったことは、入社後に管理職と本人へ渡される。


人事管理上、何に影響するか

採用依頼ミーティングを丁寧に行う意味は、採用成功率を上げることだけではない。

入社後の人事管理にも影響する。

配置への影響。
採用時点で任せる仕事が曖昧だと、配属後に「とりあえず空いている仕事」を渡しやすくなる。

すると、本人は何を期待されているのか分からない。
現場も、何を任せるべきか分からない。
結果として、期待値がずれたまま試用期間や初回評価を迎える。

採用依頼の段階で、最初に任せる仕事、半年後に任せたい仕事、任せない仕事を分けておくと、配置の初速が変わる。

育成への影響。
「経験者だから大丈夫」という採用ほど、育成が抜けやすい。

経験者であっても、会社の商材、顧客、会議体、意思決定の癖、評価基準は初めてである。

採用時に「どこまで自走を期待するか」「どこは教える必要があるか」を分けておかないと、現場は教えない。
本人は聞きづらい。
人事は気づいた時には遅い。

採用依頼ミーティングでは、育成不要な人を探すのではなく、育成すべき場所を先に決める。

評価・定着への影響。
採用時の期待が曖昧だと、評価も曖昧になる。

入社後に「期待していたほどではない」と言われても、何を期待していたのかが言語化されていなければ、本人には伝わらない。

定着にも影響する。

候補者は、入社前に聞いた話をもとに会社を選ぶ。
入社後にその話と現実がずれると、能力以前に信頼が傷つく。

採用は、入社後の評価と定着に対する最初の説明責任でもある。


実務では、どこに現れるか

採用依頼ミーティングは、30分から45分でよい。

参加者は、採用担当、人事、依頼部門の管理職、可能であれば実際に一緒に働くメンバーの代表である。

目的は、完璧な人材像を作ることではない。
求人票、面接、選考判断、入社後受け入れの前提を揃えることだ。

聞くべき質問は、次の10個でよい。

採用依頼ミーティングで聞く10の質問。

  1. なぜ今、採用が必要なのか。

  2. 採用しない場合、何が起きるのか。

  3. 入社後30日で、何をしていてほしいのか。

  4. 入社後90日で、何ができていれば成功か。

  5. 必須条件と歓迎条件を分けると、何が残るか。

  6. 経験で見るものと、入社後に育てるものは何か。

  7. 面接では、何を見ないことにするか。

  8. 候補者に、どんな現実を先に伝えるか。

  9. 誰が受け入れ担当になるのか。

  10. 入社後30日で、採用をどう振り返るか。

この10個を先に置くだけで、採用依頼はかなり整理される。

欲しい人材像を聞く前に、採用する理由、任せる仕事、見ない条件、受け入れ体制を確認する。

それだけで、採用は「いい人探し」から「仕事と人を接続する実務」に変わる。

一つ目。なぜ今、採用が必要なのか。
欠員、増員、新規業務、管理職負荷、将来育成のどれなのかを確認する。

ここで「忙しいから」だけで止めない。
いつから忙しいのか。
何の仕事が増えているのか。
一時的なのか、継続的なのかを聞く。

二つ目。採用しない場合、何が起きるのか。
残業が増えるのか。
顧客対応が遅れるのか。
既存社員が辞めそうなのか。
管理職が現場作業を抱えているのか。
新規施策が止まるのか。

採用しない時の困りごとが言えない採用は、優先順位が低い可能性がある。

三つ目。入社後30日で、何をしていてほしいのか。
最初の30日は、期待値を合わせる期間である。

資料を読むだけなのか。
同行するのか。
顧客を持つのか。
業務フローを覚えるのか。
既存メンバーから引き継ぐのか。

30日の仕事が言えない場合、受け入れ準備ができていない。

四つ目。入社後90日で、何ができていれば成功か。
試用期間や初回評価に近い問いである。

独り立ちしていることなのか。
一部業務を任せられることなのか。
関係者と連携できていることなのか。
成果数字を出していることなのか。

ここが曖昧だと、採用後に「期待と違う」が起きる。

五つ目。必須条件と歓迎条件を分けると、何が残るか。
採用要件は増えやすい。

業界経験。
職種経験。
資格。
年齢感。
コミュニケーション力。
主体性。
ストレス耐性。
マネジメント経験。

全部を必須にすると、候補者はほとんど残らない。

必須条件は、入社直後から必要なものに絞る。
歓迎条件は、あれば立ち上がりが早くなるものとして分ける。

六つ目。経験で見るものと、入社後に育てるものは何か。
採用で全てを見ようとしない。

経験として見たいもの。
適性として見たいもの。
入社後に教えればよいもの。
会社側が環境を整えるべきもの。

この区分をしないと、現場は万能な候補者を求める。

七つ目。面接では、何を見ないことにするか。
これはかなり大事である。

明るさを見ない。
話のうまさだけで判断しない。
前職の会社名に引っ張られない。
年齢だけで伸びしろを判断しない。
雑談の相性を評価に入れない。

面接で見るものを決めるだけでは足りない。
見ないものも決める。

八つ目。候補者に、どんな現実を先に伝えるか。
採用広報は、会社をよく見せるだけではない。

繁忙期。
顧客対応の難しさ。
未整備な業務。
成長途上の制度。
上司の関与度。
入社後に求められる自走範囲。

候補者にとって判断材料になる現実は、早めに伝えた方がよい。

良いことだけ伝えて承諾を取ると、入社後に失望が返ってくる。

九つ目。誰が受け入れ担当になるのか。
採用後の責任者を決める。

上司だけでなく、日常の質問相手、業務を教える人、評価する人を分けておく。

受け入れ担当が曖昧な採用は、入社後に本人が空中に浮く。

十個目。入社後30日で、採用をどう振り返るか。
採用は入社で終わらない。

30日後に、本人、上司、人事で確認する。

聞くことは難しくない。

聞いていた仕事と実際の仕事にずれはあるか。
困っていることは何か。
質問できる相手はいるか。
最初の期待は現実的だったか。
採用時にもっと伝えるべきだったことは何か。

この振り返りが、次の採用の精度を上げる。


採用依頼ミーティングの進め方

実務では、次の順番で進めるとよい。

最初の5分で、採用依頼の背景を聞く。
なぜ今なのか。
何が起きているのか。
採用しないと何が困るのか。

ここでは、いきなり条件を聞かない。
まず困りごとの構造を見る。

次の10分で、任せる仕事を具体化する。
職種名ではなく、入社後30日、90日、半年で任せる仕事を聞く。

誰と働くのか。
何を引き継ぐのか。
何を一人で判断するのか。
どの成果物を出すのか。

次の10分で、要件を削る。
必須条件、歓迎条件、入社後に育てる条件に分ける。

ここで大事なのは、条件を増やすことではない。
減らすことである。

必須条件が多いほど、採用は難しくなる。
しかも、要件が多いほど、面接官は結局印象で判断しやすくなる。

次の10分で、選考で見るものを決める。
面接で確認することを3つに絞る。

過去の経験。
仕事の進め方。
困った時の相談行動。
顧客や関係者との向き合い方。
学習の仕方。

全部は見ない。

選考で見るものを絞るから、面接メモが揃う。

最後の5分で、入社後の受け入れを決める。
誰が初日に対応するか。
誰が業務を教えるか。
誰が30日後に振り返るか。
最初に任せる仕事は何か。

ここまで決めて、ようやく求人票に進める。


人事がその場で止めるべき言葉

採用依頼ミーティングでは、止めた方がよい言葉がある。

「いい人がほしい」
「コミュニケーション力がある人」
「自走できる人」
「若くて伸びる人」
「即戦力」
「地頭がいい人」
「うちに合う人」

これらの言葉が悪いわけではない。

ただし、そのまま求人票や面接評価に使うには粗すぎる。

たとえば「自走できる人」と言われたら、こう聞く。

何を一人で決められる必要がありますか。
どこまでは相談してほしいですか。
どの情報があれば動けますか。
今いるメンバーが自走できないと感じる場面はどこですか。

「コミュニケーション力」と言われたら、こう聞く。

顧客との会話ですか。
社内調整ですか。
上司への報告ですか。
部下への説明ですか。
トラブル時の相談ですか。

「即戦力」と言われたら、こう聞く。

初月から成果数字が必要ですか。
業務フローの理解が早ければよいですか。
顧客対応を任せたいのですか。
社内調整を任せたいのですか。
教育期間をどこまで短くしたいのですか。

抽象語を責める必要はない。

抽象語を、仕事の場面へ戻す。

それが採用担当の腕である。


研究・事例からどう読めるか

採用実務では、選考の妥当性や構造化面接の重要性がよく語られる。

構造化面接は、候補者へ同じような質問を行い、同じ基準で評価する考え方である。
これは面接の公平性や判断精度を高めるうえで有効な考え方だ。

ただし、面接だけを構造化しても足りない。

その前に、何を評価すべきかが曖昧なら、構造化された質問も曖昧になる。

採用要件が曖昧なまま面接官研修をしても、面接官は「感じのよさ」「話しやすさ」「前職の印象」に戻りやすい。

だから、採用実務では、面接の前に採用依頼を構造化する必要がある。

また、厚生労働省の公正な採用選考の考え方では、応募者の適性・能力に基づいて採用選考を行うことが重視されている。
これは、本人の責任ではない事項や本来自由であるべき事項を判断材料にしない、という観点を含む。

採用依頼ミーティングでも同じである。

「うちに合う」「雰囲気が合う」「なんとなく不安」という言葉を、そのまま選考基準にしてはいけない。

仕事に必要な適性・能力として説明できるか。
入社後の業務、評価、育成に接続しているか。
候補者にも説明できる基準か。

ここを確認することが、公正な採用実務にもつながる。


自社で問うべきこと

  • 採用依頼を受けた時、人事はすぐ求人票作成に入っていないか。

  • 現場が欲しいと言う人材像は、実際の仕事に分解されているか。

  • 必須条件と歓迎条件は分かれているか。

  • 面接で見るものと、見ないものは決まっているか。

  • 候補者に伝えるべき現実を、入社前に伝えているか。

  • 入社後30日で、採用の答え合わせをしているか。

  • 採用の失敗を、候補者の能力だけでなく、要件、選考、受け入れの問題として見ているか。

採用活動は、会社が候補者を選ぶ場である。

同時に、会社が自分たちの仕事を説明できるかを試される場でもある。


明日から見る場所

まず、直近の採用依頼を一件だけ選ぶ。

そして、求人票を見る前に、採用依頼のメモを見る。

そこに次のことが書かれているかを確認する。

なぜ今採用するのか。
入社後30日で何をしていてほしいのか。
90日で何ができていればよいのか。
必須条件は何か。
歓迎条件は何か。
面接で何を見ないことにするか。
入社後、誰が受け入れるのか。

もし書かれていなければ、次の採用依頼ミーティングから変えればよい。

いきなり採用プロセス全体を変えなくてよい。

まずは、求人票を書く前に30分だけ止まる。

その30分が、入社後の30日を守る。


確認した資料と留意点

採用依頼、採用要件、選考、入社後受け入れをつなぐ観点は、採用研究シリーズ内の問いリスト、実務事例・失敗パターン、既存記事「採用は求人票から始めるな。まず採用要件シートを作れ。」をもとに整理した。

公正な採用選考については、厚生労働省が示す基本的な考え方を参照した。
実際の採用では、職業安定法、個人情報保護、労働条件明示、公正採用選考、適性検査やAI利用時の説明可能性など、個別の確認が必要になる。

本稿は法的判断ではなく、採用実務を整えるための確認観点である。


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