第10回30代で身につける『事業の構造を見る目』
表面だけを追いかけてしまう罠
数字は“点”ではなく“流れ”で見る。それが承継者の武器になる。
「売上を伸ばすには営業を強化すればいい」
「利益を増やすにはコスト削減が一番だ」
こうした言葉は、経営会議でも現場でもよく聞かれるものです。確かに一見すると正論に見えます。しかし、実際にその通りに動いてもうまくいかないことが多いのではないでしょうか。
なぜなら、表面的な数字や現象だけを追いかけているからです。
承継直後の30代経営者は、とにかく結果を出したいという焦りから、売上・利益といった短期的な指標に目を奪われがちです。けれども本当に必要なのは、数字の裏にある「事業の構造」を見抜く力。これがなければ、根本的な打ち手を誤り、会社を消耗戦に追い込んでしまいます。
構造を見抜くスキルの基本
「事業の構造を見る目」とは、シンプルに言えば売上や利益を生み出している仕組みを分解して捉える力です。
代表的なフレーム
1. 売上の構造
売上 = 客数 × 客単価 × 購買頻度
→ どの要素が伸び、どの要素が下がっているかを見る。また、更に分解して日々の行動まで落とし込めるとなお良い。
利益の構造
利益 = 売上 – 変動費 – 固定費
→ どこでコストが膨らみ、どこにレバレッジを効かせられるかを探す。特に、創業者は「固定費を持つと大変だからできるだけ変動費化」を経験を持って実感していることが多いですが、承継者は見栄えを気にするなどして「固定費が肥大化しやすい」傾向にあると見受けられます。市場の構造
最大で取れる市場規模(TAM) → 自社が獲得できる可能性のある市場規模(SAM) → 現実にアプローチできると考えられる市場規模(SOM)
→ どのポジションで戦うかを冷静に判断する。
これらはMBAや経営書でよく紹介される「型」ですが、大事なのは数字を“点”でなく“構造”として理解することです。
構造を見る目が育つ背景
なぜ承継者に「構造を見る目」が求められるのか。それは、会社が必ずしも「論理的な意思決定」で動いていないからです。
先代は、経験と勘と度胸で経営をしてきました。ビジネスモデルとして確立し、数十年存続し続けているということはその感覚が正しかったということです。成功してきた時代にはそれで十分でした。しかし現在は、外部環境が変化し続けています。人口減少、デジタル化、消費者価値観の多様化──。
こうした変化に対して「勘や経験や度胸」だけで対応するのは難しい。かといって「理論」だけでも従業員は動きません。そこで必要なのが、現場の声を数字に落とし込み、その裏の構造を見抜く力なのです。
構造を見抜けると、現場で起きている現象を整理し、「なぜそうなっているのか」を語れるようになり、効果的なPDCAを回せるようになります。それが承継者のリーダーシップにつながるのです。
葛藤シーン①:営業数字の見誤り
ある承継者は、売上が落ちてきた原因を「営業マンの頑張り不足」と考えました。そこで営業強化キャンペーンを打ち、従業員にノルマを課し、発破を毎日かけました。
一時的に数字は伸びましたが、すぐに頭打ち。結局、現場に疲弊感だけが残りました。
よくよく分析してみると、原因は「リピート客の減少」でした。つまり、営業マンの努力不足ではなく、既存顧客の離脱が本質だったのです。
この承継者は、「売上=客数×客単価×購買頻度」という基本構造に立ち返り、既存顧客向けのサービス改善に舵を切ることで立て直しました。
売上至上主義になるともう一つ副作用があります。それは、売上から変動費を引いた限界利益が減少し、限界利益率が下がってしまうという現象です。つまり、できる営業マンほど「値下げして個数を捌くことを行って売上を立てる」ことをする傾向なため、結果「売上が上がったけど、利益率や手元現金が減少してしまって、より資金繰りが大変になった」ということが起きてしまうのです。
葛藤シーン②:利益のからくり
別の会社では、承継者が「コスト削減だ!」と意気込んで、細かな経費を削り始めました。コピー用紙の節約、残業代の抑制、昼休みの消灯──。
しかしいくら削っても利益は改善しません。なぜか。実は主力商品の原価率が高騰しており、そこを放置していたからです。つまり、簡単に対応できるが金額の小さい固定費をいくら削減しても、変動費である原価率が大きく上がってしまっているために限界利益率が減少してしまい「儲けが出にくい状況」になってしまっていた訳です。
「利益 = 売上 – 変動費 – 固定費」という構造を意識していれば、最大の原因が変動費にあるとすぐに気づけたはずでした。
承継者はここで初めて「数字を構造で見る」重要性を痛感しました。
実戦ワーク:事業構造を可視化する三つの方法
では、どうすれば「構造を見る目」を養えるのでしょうか。
① 三層分析シートを作る
売上分解(客数・単価・頻度など細かく因数分解していく)
利益分解(売上 – 変動費 – 固定費)
市場ポジション(TAM・SAM・SOM)
この3枚を毎月つけるだけで、事業の流れが見えるようになります。
② 数字と現場を行き来する
数字だけでは現場の実感が見えません。現場の声だけでは全体像が掴めません。
「数字 → 現場 → 数字」と往復することで構造が立体化されます。これができている企業の幹部会議では、「会議に先立って数字は共有して、全員見た状態で参加」し、議論は「この数字の裏にある現場について情報を吸い上げて、次のToDoを決めて行動する」ことが中心の議題となります。
③ 仮説と検証を繰り返す
「売上が落ちたのは顧客離れでは?」と仮説を立て、データで検証する。
正解を一発で当てるのではなく、構造を意識した小さな実験を積み重ねることが成長につながります。それを定例の幹部会や部署ごとの会議で共有し、横展開していくのです。
葛藤シーン③:先代との衝突
「そんなこと分析をしても現場は変わらん!」
ある企業では承継者が構造分析の結果を報告したとき、先代はそう一蹴しました。
「俺は勘でここまでやってきた。数字に頼るのは弱い経営者だ!!」
しかし、承継者は怯まずにこう答えました。
「勘と経験はこれからも大切にしたい。でも、僕の役割は“これから先”を見据えることです」
その瞬間、社内の若手幹部が頷きました。
構造を語れる承継者は、周囲に「未来を任せられる人だ」と印象づけるのです。
皆さんへの問いかけ
あなたの会社では、売上や利益を「数字の点」で見ていませんか?
客数、単価、頻度のどこが伸び悩んでいますか?
利益を削っている最大の要因は何ですか?
市場の中で、自社はどの位置にいますか?
「構造で見る」視点を持てば、迷ったときにも判断基準がぶれません。
まとめ
承継後の30代経営者にとって最大の武器は、表面的な勘や数字ではなく、事業の構造を見る目です。
これを持つことで、
売上不振の原因を正しく見抜ける
利益改善のレバーを掴める
市場の中での自社の立ち位置を理解できる
そして何より、構造を語れることがリーダーシップの源泉となります。
「構造を制する者が、承継を制する」──。
数字を語る承継者は、文化を変える存在になり得ます。
ぜひコメントで、自社の売上構造や利益構造をどう捉えているかシェアしてみてください。
次回は、この構造の理解がさらに発展し、新規事業が生み出す『新しい会社文化』のデザインについて掘り下げていきます。
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※本記事で紹介している事例は、実際の支援経験をもとに構成した架空のケースです。実在の企業・人物とは関係ありません。
熊谷 篤(くまがい あつし)
実戦経営アドバイザー/中小企業診断士
年間400件以上の経営相談を行い、承継後3年以内の承継者・創業者・新規事業責任者の伴走支援に特化。
VCでのIPO支援や、年商100億円規模企業の改善支援など、多様な現場で成果を創出。
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